令和6年度版

 

序論 健康保険法の目的、体系、沿革等

§1 公的医療保険制度

健康保険法は、いわゆる被用者医療保険制度であり、一般の被用者(事業所に使用される労働者)(及びその被扶養者)を対象とした公的な医療保険制度を定める法律です。

 

まず、公的な医療保険制度の全体構造を見てみます。次の図をベースに説明していきます。

 

 

一 公的な医療保険制度の概観

公的な医療保険制度は、大別しますと、国民健康保険被用者医療保険(中心が健康保険です)及び後期高齢者医療制度の3種類からなります。

 

 

(一)国民健康保険

 

国民健康保険は、被用者医療保険に加入していない者を対象とする公的医療保険制度です。

自営業者、農業者、無職者等を対象とするものであり、保険者は、都道府県及び当該都道府県内の市町村(特別区を含みます)並びに国民健康保険組合です。

 

国民健康保険法は、昭和13年に制定・施行され(【昭和13.4.1法律第60号】)、同法は昭和33年に全面改正され(【昭和33.12.27法律第92号】)、昭和36年4月に国民が何らかの公的医療保険制度の対象となるという国民皆保険の制度が実現されました。

 

国民健康保険の保険者は、以前は、市町村及び国民健康保険組合でしたが、平成30年4月1日施行の改正により、市町村が行う国民健康保険について、都道府県を単位として、都道府県及び市町村(「都道府県等」)がともに保険者となることに改められました。

「都道府県等が行う国民健康保険」です(以下、「都道府県等国保」ということがあります)。国民健康保険のより安定的な財政運営、効率的な実施等を考慮した改正です。

 

この「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者は、原則として、都道府県の区域内に住所を有する者であって、適用除外者(例えば、健康保険等の被用者医療保険の加入者、次に見ます国民健康保険組合の被保険者、後期高齢者医療の被保険者など)以外のものです。

 

他方、国民健康保険組合が行う国民健康保険(「組合国保」ということがあります)の被保険者は、国民健康保険組合の組合員及び組合員の世帯に属する者であって、適用除外者以外のものです。

国民健康保険組合の組合員は、同種の事業又は業務に従事する者当該組合の地区内に住所を有するものです。

 

保険給付の内容は、基本的には、健康保険と同様です(異なる点に注意して学習することとなります)。

 

以上の国民健康保険についての詳細は、社会一般で学習します(社会一般のこちら以下)。

 

 

(二)被用者医療保険

 

被用者医療保険(以下、単に「被用者保険」ということがあります)は、事業所(事業主)に使用される労働者(及びその被扶養者)を対象とした公的な医療保険制度です。

 

被用者保険は、健康保険共済保険に大別できます。

一般の被用者対象とする医療保険制度が健康保険であり、公務員等対象とする医療保険制度が共済保険です。

健康保険の概略については、後述します(共済保険については、試験の対象外ですので、基本的に省略します)。

 

 

(三)後期高齢者医療制度

 

公的医療保険制度として、さらに、75歳以上の者原則)を対象とする後期高齢者医療制度があります。

後期高齢者医療制度は、「高齢者の医療の確保に関する法律」(【昭和57.8.17法律第80号】。以下、「高齢者医療確保法」といいます)に基づく制度です。

同制度は、平成18年に「老人保健法」が全面改正された「高齢者医療確保法」のもとで平成20年4月1日から実施されています。 

 

以前は、75歳以上の者についても、国民健康保険や健康保険等に加入したまま老人保健法に基づく老人保健制度の下で医療制度が運営されていました(その医療費を賄うため、各医療保険者が老人保健制度に拠出金を拠出していました)。

しかし、現役世代と高齢者世代との費用負担の関係の明確化や運営主体の責任の明瞭化等の要請から、75歳以上の者を対象とする独立の医療保険制度として後期高齢者医療制度が創設されたものです。 

従って、国民健康保険健康保険等の被保険者等は、原則として、75歳に達しますとそれらの制度の被保険者の資格は喪失し、後期高齢者医療制度の対象(被保険者)となります。

 

ちなみに、後期高齢者医療の被保険者とは、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当する者です(適用除外者は除きます)。

 

(ア)後期高齢者医療広域連合(後期高齢者医療の事務を処理するため、都道府県の区域ごとに当該区域内のすべての市町村が加入する広域連合です)の区域内住所を有する75歳以上の者

 

(イ)後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する65歳以上75歳未満の者であって、政令で定める程度の障害状態にある旨の当該広域連合の認定を受けたもの

 

 

 

二 健康保険

(一)概観

 

健康保険は、一般の被用者(事業所に使用される労働者)(及びその被扶養者)を対象とする公的な被用者医療保険です。

即ち、健康保険は、労働者又はその被扶養者労働者災害補償保険法業務災害以外疾病負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行うものです(第1条)。

(詳細は、次のページの「目的」の個所で説明します。)

 

保険者は、2種類あり、全国健康保険協会(以下、単に「協会」ということがあります)及び健康保険組合(以下、単に「組合」ということがあります)です。

 

全国健康保険協会は、健康保険組合の組合員でない被保険者の保険を管掌します(全国健康保険協会が管掌する健康保険を、「全国健康保険協会管掌健康保険」といいます。略して「協会管掌健保」(協会管掌健康保険)ということがあります。通称、「協会けんぽ」です)。

 

他方、健康保険組合は、健康保険組合の組合員である被保険者の保険を管掌します(健康保険組合が管掌する健康保険を、「組合管掌健康保険」といいます。略して「組合管掌健保」ということがあります)。

健康保険組合は、適用事業所の事業主が設立する法人であり、適用事業所の事業主、その適用事業所に使用される被保険者及び任意継続被保険者をもって組織されるものです(健康保険組合が特定健康保険組合であるときは、当該健康保険組合を組織する任意継続被験者には、特例退職被保険者が含まれます)。

 

 

 

(二)沿革

 

健康保険法は、大正11年(1922年)に制定され(【大正11.4.22法律第70号】)、昭和2年1月1日(保険給付及び費用の負担に関する規定以外は、大正15年7月1日)から施行されました(大正12年に関東大震災が発生したため、施行が遅れました)。

 

【過去問 平成21年問1A(制定と同時に施行との出題。こちら)】/

【選択式 社会一般 平成28年度 B=「大正11年」(こちら)】

 

日本の社会保険制度の中で最も古い制度であり、医療保険制度の基本をなすものと位置づけられています(後掲の第2条参考)。

【過去問 前掲の平成21年問1A(こちら)】

 

※ ちなみに、日本の社会保険制度の中で、健康保険法に次いで2番目に古い制度が国民健康保険法です(昭和13年制定)。その後、船員保険法(昭和14年制定)、労働者年金保険法昭和16年制定。厚生年金保険法の前身)と続きます。

 

 

以上の年号をゴロ合わせにより覚えておきます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「健康でいいにゃーごほごほ悲惨さんざんだ。」

(風邪をひき、咳がゴホゴオ出て悲惨な状態のため、健康な人をうらやんでいます。)

 

→「健康(=「健康」保険)で、いい(=大正「11」年制定)、にゃー(=昭和「2」年施行)。

ごほ(=「国保(こくほ)」(国民健康保険))ごほ、悲惨(=昭和「13」年制定)、さんざん(=昭和「33」年に国民健康保険法の全面改正)だ。」

 

 

 

◯過去問: 

 

・【選択式 社会一般 平成28年度】

設問:

1 世界初の社会保険は、  で誕生した。当時の  では、資本主義経済の発達に伴って深刻化した労働問題や労働運動に対処するため、明治16年に医療保険に相当する疾病保険法、翌年には労災保険に相当する災害保険法を公布した。

一方日本では、政府は、労使関係の対立緩和、社会不安の沈静化を図る観点から、  に倣い労働者を対象とする疾病保険制度の検討を開始し、  に「健康保険法」を制定した。

 

選択肢(本問に関連するもののみ):

⑥アメリカ ⑦イギリス ⑨昭和13年 ⑩昭和16年 ⑪大正11年 ⑫大正15年 ⑮ドイツ ⑱フランス

 

 

解答:

 

A=⑮「ドイツ」

 

B=⑪「大正11年」 

 

 

次のページでは、健康保険法(以下、「健保法」ということがあります)の目的や体系等を整理します。