令和6年度版

 

§2 目的

◆健康保険法は、労働者又はその被扶養者労働者災害補償保険法業務災害労災保険法第7条第1項第1号以外疾病負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定福祉の向上に寄与することを目的とします(第1条)。

 

この第1条は、後述のように、平成25年に改正されています(平成25年10月1日施行)。

 

※ 選択式対策として、次の赤字部分を覚えて下さい。

 

 

【条文】

第1条(目的)

この法律は、労働者又はその被扶養者業務災害労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第7条第1項第1号〔=労災保険法第7条第1項第1号〕に規定する業務災害をいう。)以外疾病負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定福祉の向上に寄与することを目的とする。

 

【過去問 労働一般 令和3年問9B(こちら)】 

 

 

以下、この目的条文を分析します。「主体」、「客体(保険事故等)」及び「保険給付」の視点で見ていきます。

 

 

 

〔1〕主体

〈1〉被保険者等

健康保険の対象者は、労働者(事業所に使用される者)及びその被扶養者です。 

  

一 被保険者

労働者のうち、健康保険の対象となる被保険者は、原則として、適用事業所に使用される者であって、適用除外者以外のものです(当サイトでは、「当然被保険者」といいます)。

正確には、健康保険の被保険者は、次の4種類となります。

 

 

 

以下、被保険者について、やや詳しく見ます。

 

 

 

(一)当然被保険者

 

当然被保険者は、適用事業所に使用される者であって、適用除外者以外のものです(第3条第1項柱書(健保法のパスワード))。

 

適用除外者は、例えば、臨時に使用される者であって日々雇い入れられるものなどであり、厚生年金保険法で学習しました適用除外者と共通するものが多いです。

 

なお、厚生年金保険法の当然被保険者と異なり、健康保険法の被保険者については、直接的には年齢要件(70歳未満であることなど)はありません。

ただし、前ページで見ましたように、75歳以上の者は原則として後期高齢者医療の被保険者となり、健康保険の適用除外者に該当することとなるため(第3条第1項第7号)、健康保険法の被保険者は一般的には75歳未満であることとなります。

 

適用事業所については、船舶含まれないことを除き、基本的に、厚生年金保険の適用事業所と同様です。

 

 

(二)任意継続被保険者

 

任意継続被保険者は、資格喪失後任意加入被保険者です。

具体的には、適用事業所に使用されなくなったため、又は適用除外者に該当したため、当然被保険者の資格を喪失した者であって、資格喪失日の前日まで継続して2月以上当然被保険者であったものが、保険者に申し出て、当該保険者の被保険者の資格を継続した者のことです(第3条第4項)。

(後に「被保険者」の個所において、要件等はゴロ合わせで覚えますので、ここでは読み流して下さい。)

 

当然被保険者の資格を喪失した者は、本来、国民健康保険に加入するのですが、保険料が高額化すること等を考慮して、一定の場合に、なお従前(資格喪失時)の保険者の下で健康保険の被保険者の資格を任意継続することを認めたものです。 

 

 

(三)特例退職被保険者

 

特例退職被保険者の制度は、特定健康保険組合その組合員である被保険者の資格を喪失した者(退職者)を対象として引き続き保険者として健康保険の適用を行うものです。

対象者として、旧国民健康保険法退職者医療制度における退職被保険者の要件に該当する者であることが必要です。

 

即ち、特例退職被保険者とは、特定健康保険組合(厚生労働省令で定める要件に該当するものとして厚生労働大臣の認可を受けた健康保険組合)の組合員である被保険者資格を喪失した場合あって、旧国民健康保険退職者医療制度退職被保険者の要件に該当する者のうち当該特定健康保険組合の規約で定めるものが、当該特定健康保険組合申し出て、引き続き当該特定健康保険組合の被保険者の資格を継続するものです(法附則第3条)。

 

旧国民健康保険の退職者医療制度とは、市町村が行う国民健康保険(=市町村国保。現在の都道府県等が行う国民健康保険に相当するものでした)の被保険者のうち、被用者年金制度の老齢退職年金給付の受給権者であって、その被保険者期間が20年(原則)以上であるか、又は40歳以後の被保険者期間が10年以上であるもの(退職被保険者)について、国民健康保険の被保険者として国民健康保険から保険給付を支給することとした上で、費用の一部は被用者年金制度の保険者に負担させる(退職者給付拠出金を拠出させる)ことによって、国民健康保険に高齢退職者が集中してその財政の安定が損なわれることを防止し、医療保険制度間の費用負担の公平を確保しようとする制度です。

 

他方、健康保険の特例退職被保険者の制度は、特定健康保険組合の組合員である被保険者が資格を喪失し、旧国民健康保険の退職被保険者の要件に該当する場合に、国民健康保険の被保険者とせずに、従来所属していた特定健康保険組合において被保険者の資格を存続させることにより、国民健康保険に高齢退職者が集中することを防止しようとする制度です(要するに、退職被保険者の要件に該当する者は、保険者に長期間保険料を納付していた者であり、その退職後も、国民健康保険ではなく、所属していた特定健康保険組合に健康保険として面倒をみさせるという趣旨です)。

 

国民健康保険の退職者医療制度は、平成20年4月1日以後は原則として廃止されましたが、平成26年度までの間は経過措置として存続していました(平成26年度までの間に退職した者が65歳に達するまでの間、存続します)。

しかし、令和6年4月1日施行の改正(【令和5.5.19法律第31号】。「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」第4条)によりこの経過措置も廃止されました。 

退職者医療制度は、対象者が激減し財政調整効果を実質喪失していたことから、事務コストの削減を図る観点から経過措置が廃止されたものです(詳細は、社会一般の国保法のこちら以下を参考です)。

 

他方、健康保険の特例退職被保険者の制度は廃止されていませんので、国民健康保険の退職者医療制度の廃止後も存続しています。

 

 

 

(四)日雇特例被保険者

 

日雇特例被保険者とは、適用事業所に使用される日雇労働者のことです(第3条第2項第8項)。

 

日雇労働者の場合、事業主や就労場所が日常的に変動すること、就労が非継続的であることといった特殊性があることから、一般の被保険者とは区別して、保険給付の支給要件や効果(給付の内容等)などが構成されています。

 

なお、「健康保険法」の場合は、「日雇特例被保険者」ですが、「雇用保険法」の場合は、「日雇労働被保険者」です。

雇用保険法の場合は、「雇用=労働」だから日雇「労働」被保険者であるとでも覚えます。

 

 

以上の4種類の被保険者をゴロ合わせにより覚えておきます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「盗賊から、退避する。」

(盗賊グループに加入していましたが、心を改め、脱退することにしました。)

 

→「盗(=「当」然被保険者)、賊(=任意継「続」被保険者)から、退(=特例「退」職被保険者)、避(「日」雇特例被保険者)する」

 

 

次に、健康保険の対象者の2番目として、被扶養者が問題となります。 

 

 

 

二 被扶養者

被扶養者とは、おおまかには被保険者が扶養する一定の親族のことです(配偶者のほか、子、孫、直系尊属、兄弟姉妹等です)。(第3条第7項

 

健康保険や共済保険(被用者医療保険)においては、国民健康保険と異なり、被扶養者の制度があります(例外として、国民健康保険の場合も、旧退職者医療制度においては退職被保険者の被扶養者の制度があり、この退職者医療制度は廃止後も経過措置が存続していましたが、前述の通り、令和6年4月1日施行の改正により当該経過措置も廃止されました)

 

被扶養者に保険事故が発生した場合であっても、被扶養者が保険料を負担することなく、その被保険者に係る医療保険により当該被扶養者が保護されるというのが被扶養者の制度です。

 

国民健康保険においては、被扶養者も被保険者となり、保険料を負担します(その場合の保険料額は保険者により異なりますが、例えば均等割の場合は、被扶養者の数に応じて保険料額が高くなります)。

対して、健康保険の場合は、被扶養者の有無により保険料額が異なることはありません。

 

なお、国民年金の場合も、被扶養者の制度として第3号被保険者の制度があります。

ただし、第3号被保険者は、第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)の配偶者であることが必要ですから、被扶養者のうち配偶者に限定されます。

 

【令和2年度試験 改正事項】

ところで、被扶養者の要件が、令和2年4月1日施行の改正により見直されました。

即ち、被扶養者について、①国内居住の要件(原則)が追加され、②厚生労働省令で定める適用除外者が規定されました。

①の「国内居住の要件(原則)」は、被扶養者について、(1)日本国内に住所を有する者、又は(2)外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者として厚生労働省令〔=施行規則第37条の2〕で定める者を被扶養者の要件とするものです(第3条第7項本文)。

 

この(2)については、留学生海外赴任被保険者の同行者(家族等)、観光等の一時的渡航者など、日本国内に生活の基礎があると認められる者が厚生労働省令(施行規則第37条の2)で定められています。

 

また、前記②の「厚生労働省令で定める適用除外者」(健康保険法の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者)については、いわゆる「医療滞在ビザ」により国内に滞在する外国人や観光等(いわゆる「ロングステイビザ」)による短期滞在の外国人が規定されています(施行規則第37条の3)。

 

この被扶養者の改正に連動して、(既に学習しましたが)国民年金の第3号被保険者の要件(さらには、第1号被保険者の要件)も改められています(国内居住の任意加入被保険者についても、同様に改められました)。

 

以上の被扶養者に関する改正の詳細については、こちら以下で詳しく説明致します。

 

 

以上、主体について、被保険者及び被扶養者の概要でした。次に、主体について、保険者を見ます。

 

 

〈2〉保険者

前のページで見ましたが、健康保険の保険者は、全国健康保険協会及び健康保険組合です(第4条)。

 

全国健康保険協会は、健康保険組合の組合員でない被保険者の保険を管掌します(第5条第1項)。

健康保険組合は、その組合員である被保険者の保険を管掌します(第6条)。

 

ここではこの程度にして、次に客体の保険事故の問題を見ます。

 

 

 

〔2〕客体 ➡ 保険事故

健康保険法が対象とする保険事故は、労働者又はその被扶養者労働者災害補償保険法業務災害労災保険法第7条第1項第1号以外疾病負傷若しくは死亡又は出産です(第1条)。

 

なお、以下、「疾病、負傷又は死亡」を略して「傷病等」ということがあります。 

 

※ この「保険事故」の問題については、健康保険の制度全体に影響する問題があるため、以下、かなり詳しく見ておきます。

 

 

〈1〉業務災害以外の傷病等

一 業務災害

業務災害(「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」)(労災保険法第7条第1項第1号)については、労災保険法等により保護されるため、健康保険法の対象となりません(第1条参考)。

 

なお、沿革的には、健康保険法の制定当初は(労災保険制度が存在しなかったため)、業務災害についても健康保険法の対象とされていました。

しかし、昭和22年に労災保険法が制定されたことに伴い、健康保険法では業務災害は対象としないことに見直されました。

 

ただし、平成25年の改正により、健康保険法が対象とする保険事故は、労災保険法の業務災害以外の傷病等であると改められ、業務上の事由による災害であっても労災保険の保険給付が行われない場合には、原則として、健康保険法の対象となることに見直されました。

 

詳細は、すぐ後で見ます。

 

 

二 通勤災害又は複数業務要因災害

(一)通勤災害

 

通勤災害(「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」)(労災保険法第7条第1項第3号労災保険法のこちら以下(労災保険法のパスワード))は、「業務災害以外」の災害ですが、労災保険法等により保護されるため原則として、健康保険法の対象となりません※1

 

条文上は、第55条第1項において、「被保険者に係る療養の給付等の保険給付の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法等の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には行わない」旨が規定されています。

そこで、通勤災害について、労災保険法等により保険給付が行われない場合(例えば、労災保険における暫定任意適用事業であって任意加入していない事業所が、健康保険においては任意加入している場合において、当該事業所に使用される労働者が通勤災害を受けたケース)に限り、通勤災害についても健康保険の保険給付が行われます。

【過去問 平成26年問4B(こちら)】

 

 

※1 通勤災害が業務災害に該当しない理由:

 

労災保険法で学習しましたが、業務災害に該当するためには、「業務」(を行っている)といえること(業務遂行性。一般的に表現しますと、労働者が「事業主の支配下にある状態」のことです)、及び当該業務により傷病等が生じたこと(業務上の事由「による」こと。業務と傷病等との間に因果関係が存在すること=業務起因性)が必要と解されています。

 

この点、通勤は、労働者の労働の提供に必然的に随伴するものではありますが、事業主が直接的に関与している時間ではなく、労働者が業務に直接従事しているわけでもないですから、通勤途上は、一般的には、事業主の支配下にある状態とはいえず、業務遂行性が認められません。

従って、通勤災害は、業務災害には含まれません(元来は、労基法の災害補償責任において、通勤災害についてまで使用者の無過失責任を認めることは、使用者の負担が過大となりすぎることが考慮されたものです)。

ただ、上記のように、通勤が業務(労働)と密接な関連性を有していること、また、自動車の普及により通勤途上における災害が増加していたことなどを考慮して、昭和48年の労災保険法の改正により、通勤災害も労災保険の保護の対象に追加されました。

沿革的には、もともとは通勤災害も健康保険の対象とされていましたが、上記の労災保険法の改正による通勤災害制度の創設に伴い、健康保険法では、原則として、通勤災害を対象としないこととなりました。

 

 

【参考条文】

 

※ 次の第55条の内容については、のちに「保険給付の通則」の個所(こちら以下)で詳しく見ます。

 

第55条(他の法令による保険給付との調整)

1.被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一疾病負傷又は死亡について労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和26年法律第191号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない

 

2.被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給は、同一の疾病又は負傷について、介護保険法の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。

 

3.被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、家族療養費、家族訪問看護療養費若しくは家族移送費の支給は、同一の疾病又は負傷について、他の法令の規定により国又は地方公共団体の負担で療養又は療養費の支給を受けたときは、その限度において、行わない。

   

 

 

(二)複数業務要因災害

 

複数業務要因災害(複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡。労災保険法第7条第1項第2号労災保険法のこちら以下)も、「業務災害以外」の災害ですが、労災保険法により保護されるため、原則として、健康保険法の対象となりません(第55条第1項)。

 

 

 

三 業務災害の取扱いの改正について

(一)以前の取扱い

 

以前は、改正前健康保険法第1条は後掲のように規定されており、健康保険法の対象とする保険事故は、労働者の「業務の事由」による傷病等又は出産及びその被扶養者の傷病等又は出産とされていました(業務上外に関係しない保険事由である「出産」については、以下、この三では言及しません)。

即ち、一般の被用者に係る公的医療保険制度の適用の判断基準(通勤災害を除きます)として、業務の事由による傷病等は労災保険法の対象とし、業務の事由による傷病等は健康保険法の対象としていました。つまり、業務上か業務外かが適用の判断基準でした。

 

【参考条文 改正前健康保険法】

改正前健康保険法第1条(目的)

この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

 

 

 

(二)改正

 

1 しかし、例えば、健康保険の被保険者が、副業で行った請負の業務で負傷した場合(【過去問 平成28年問5D(こちら)】)、シルバー人材センターの会員が請負契約により就業中に負傷した場合学生がインターンシップ期間中に負傷した場合など健康保険被保険者又はその被扶養者業務上の傷病等について、労災保険法からも健康保険法からも保険給付が行われない事態が生じていました。

 

即ち、例えば、健康保険の被保険者が副業で行った請負業務のケースは、実質的に請負関係であるときは、当該請負人は当該業務については「労働者」(使用従属関係・指揮命令関係にある者)にはあたりませんから、当該請負業務に係る事故について労災保険法適用されません(労災保険法は、「労働者」を適用対象としています(労災保険法のこちら以下)。なお、例えば、シルバー人材センターの会員等であっても、実質的に雇用関係にある者については、労働者にあたり、労災保険の保険給付の対象となります)。

また、健康保険法の適用対象は、従来、労働者(なお、健康保険法の労働者には代表取締役も含まれるなど、健康保険法の労働者の方が労基法等の労働者より広義です)の「業務外の事由による」傷病等であったため(前掲の改正前健康保険法第1条)(そして、健康保険法上、業務は「職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業」と広く解釈されています)、上記の副業で行った請負業務のケース等は、業務遂行中の負傷等ということとなり、業務上の傷病等であるとして、健康保険法も適用されませんでした(そして、健康保険法の被保険者である以上、国民健康保険法も適用されません)。

 

そこで、平成25年の改正(平成25年10月1日施行)により、健康保険法における業務上・外の区分を廃止し、上記の副業の請負の業務、シルバー人材センターの会員の業務など、健康保険の被保険者又はその被扶養者の業務上の傷病等であって労災保険の保険給付が受けられない場合には、健康保険の対象とすることとし、健康保険法第1条の目的条文の「業務外の事由」という文言を削り、既述の通り、健康保険法は、「労災保険法の業務災害以外の傷病等」を対象とすることに改められました。

 

 

2 上記の改正の内容をより詳しく見ます。

この平成25年の改正により、健康保険法の対象となる保険事故は次のようになりました。

 

◆「労働者又はその被扶養者業務災害労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産」(第1条)。

 

この労災保険法第7条第1項第1号に規定する「業務災害」とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」をいいます。

そして、この改正の趣旨は、健康保険の被保険者又はその被扶養者の業務災害について労災保険の保険給付が行われない場合に健康保険により保護することにあるため、上記の「労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害以外」の災害とは、「業務外の傷病等」及び業務上の傷病等のうち労災保険の保険給付が行われないもの」を意味するものと解されます。

次の図によりイメージして下さい。

 

※【参考】 

 

上記図の右側の(1)の「業務外の傷病等」とは、全く業務と関係のない傷病等(私傷病等)のほか、通勤災害や複数業務要因災害の場合です。

 

また、同図の(2)の「業務上の傷病等のうち、労災保険の保険給付が行われない場合」とは、具体的には、前述のように、健康保険の被保険者が、副業で行った請負の業務で負傷した場合、シルバー人材センターの会員が請負契約により就業中に負傷した場合、学生がインターンシップ期間中に負傷した場合などです。 

これらの作業等は、労災保険法の業務自体にはあたる場合といえ、従って、業務上の事由による災害として業務災害に含まれるともなります。

ただ、これらの者の当該業務については、前述のように労災保険法の労働者に該当しませんから、結局は、当該業務に係る災害について労災保険法の適用は行われない場合となります。

この平成25年の改正は、上述のように、業務上の傷病等について労災保険の保険給付が行われない場合に健康保険により保護することにより、広く国民に公的な医療を保障しようとするものですから、上記の「労災保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害以外」の災害とは、業務上の傷病等であっても労災保険の保険給付が行われないものは含むものと解されます。

従って、上記のように、業務上の傷病等であっても、労働者性が否定されるために労災保険の保険給付が行われないものも健康保険の対象となるものと解されます。

改正後の健保法第1条も、健康保険法は、「労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう)以外の」傷病等を対象とする旨を定めているところ、この労災保険法第7条第1項第1号の業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」のことですから、「労働者」に該当しない場合も、この労災保険法第7条第1項第1号の業務災害に形式的には該当しないこととなります。  

 

なお、本問は、「健康保険の被保険者」が、例えば、副業として行った請負業務に従事中に負傷した場合や「健康保険の被扶養者」がインターンシップに従事中に負傷したような場合の問題です。

請負人が請負業務に従事中に負傷した場合に広く健康保険法が適用される、というのではありません(この場合は、国民健康保険法が適用されます)。

本問は、健康保険法の被保険者又はその被扶養者について、労災保険法により保護されない場合においても健康保険法により保護されるという問題です。 

 

 

○過去問:

 

・【平成28年問5D】

設問:

被保険者が副業として行う請負業務中に負傷した場合等、労働者災害補償保険の給付を受けることのできない業務上の傷病等については、原則として健康保険の給付が行われる。

 

解答:

正しいです。

健康保険は、「労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産」を対象(保険事故)としています(第1条)。

これは、健康保険の被保険者又はその被扶養者の業務災害について、労災保険の保険給付が行われない場合に健康保険により保護する趣旨です。

従って、業務災害であっても、労災保険の保険給付が行われない場合には健康保険により保護されます。

 

この点、本問の「被保険者が副業として行う請負業務中に負傷した場合」は、実質的に請負関係であるときは、当該請負人は「労働者」(使用従属関係・指揮命令関係にある者)にはあたりませんから、労災保険法は適用されません(労災保険法は、「労働者」を適用対象としています。労災保険法第1条第7条第1項第1号参考)。

そこで、本問の「被保険者が副業として行う請負業務中に負傷した場合」は業務上の傷病等ではありますが、労災保険法が適用されないものとして、健康保険の給付が行われます。

 

 

・【令和元年問5A】

設問:

労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の任意適用事業所に使用される被保険者に係る通勤災害について、労災保険の保険関係の成立の日前に発生したものであるときは、健康保険により給付する。ただし、事業主の申請により、保険関係成立の日から労災保険の通勤災害の給付が行われる場合は、健康保険の給付は行われない。

 

解答:

正しいです。

健康保険は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労災保険の業務災害をいいます)以外の傷病等について適用されますから(第1条)、通勤災害についても、健康保険法の対象となります。

ただし、同一の傷病、死亡について、健康保険法による保険給付と労災保険法による保険給付等が競合する場合には、給付の過剰を防止するため、健康保険法による保険給付は行われません(第55条第1項)。(後にこちらで見ます。)

 

本問の場合は、労災保険の任意適用事業所に使用される被保険者に係る通勤災害について、労災保険の保険関係の成立の日前に発生したものであるときは、労災保険により保護されませんから、健康保険により給付が行われます。

他方、事業主の任意加入の申請により、保険関係成立の日から労災保険の通勤災害の給付が行われる場合は、健康保険の給付は行われないこととなります(第55条第1項)。

 

 

 

(三)法人の役員である被保険者又はその被扶養者に係る保険給付の特例

 

◆ただし、法人の役員である被保険者又はその被扶養者法人の役員としての業務に起因する傷病等については、原則として(被保険者の数5人未満である適用事業所に使用される法人の役員であって、当該法人における一般の従業員が従事する業務と同一の業務に従事している者の役員としての業務に起因する傷病等は除きます)、健康保険保険給付行われません第53条の2)。

 

 

○趣旨

 

前述の通り、平成25年の改正により、健康保険は、労災保険法の業務災害以外の傷病等を対象とすることとされたため、これをそのまま適用しますと、従来、健康保険の対象とされていなかった法人の役員の業務に起因する傷病等についても健康保険の対象となることになります。

 

即ち、健康保険法の被保険者又はその被扶養者である法人の役員の業務に起因する傷病等については、業務上の事由による傷病等ですが、法人の役員は、労災保険法の労働者に該当せずに労災保険法が適用されないことがあります。

従って、当該傷病等については、業務上の傷病等のうち労災保険の保険給付が行われない場合(労災保険法の業務災害以外の傷病等)として、改正後は健康保険が適用されうることとなります。

 

しかし、法人の役員業務に起因する傷病等は、使用者側に起因するものであり、これを労使折半で保険料を負担している健康保険の対象とすること妥当でないとされます。

そこで、第53条の2が新設され、従来の取扱い通り、法人の役員の業務に起因する傷病等は健康保険の対象としないことが明文化されました(平成25年改正、平成25年10月1日施行)。

 

ただし、「被保険者数5人未満である適用事業所に使用される法人の代表者等であって、一般の従業員著しく異ならないような労務に従事している者」については、その役員としての業務に起因する傷病等についても、従来から、健康保険の対象とされており(もっとも、傷病手当金は支給されませんでした(報酬を受けることができる場合は、原則として傷病手当金は支給されないところ、代表者等は自ら報酬を決定すべき地位にあるため、通常、傷病等にあるときでも報酬を受けることができる立場にあるものと解されたからです))、改正後も引き続き健康保険の対象とすることとしています(ただし、傷病手当金支給されることとなりました)。

 

 

・【平成25.8.14厚生労働省保険局保険課事務連絡】(健康保険法の第1条(目的規定)等の改正に関するQ&Aについて)において、前述の第53条の2の原則の趣旨が次のように述べられています(要旨)。

 

「今回の改正においては、原則として労災保険からの給付が受けられない場合は健康保険の給付を受けられることとした。ただし、法人の役員の業務上の負傷については、使用者側の責めに帰すべきものであるため、労使折半の健康保険から保険給付を行うことは適当でないと考えられる。このため、被保険者等が法人の役員である場合に、その法人の役員としての業務に起因する負傷等については、原則として保険給付の対象外とすることとした。」

 

以下、条文に即して説明します。

 

 

1 原則

 

◆被保険者又はその被扶養者が法人の役員(※1)であるときは、当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務(※2)に起因する疾病、負傷又は死亡に関しては、原則として、保険給付行われません第53条の2)。

 

 

※1 法人の役員:

 

上記の「法人の役員」とは、「業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む」ものです(第53条の2かっこ書)。

(要するに、実質的に見て、法人の業務執行者及びこれに準ぜられるような者をいうこととなります。)

 

※2 法人の役員としての業務:

 

「法人の役員としての業務」とは、「法人の役員がその法人のために行う業務全般を指し、特段その業務範囲を限定的に解釈するものではない。」とされます(前掲【平成25.8.14厚生労働省保険局保険課事務連絡】)。

 

 

2 例外 = 小規模な法人の代表者等の場合

 

◆ただし、被保険者の数5人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務であって厚生労働省令で定めるもの〔=当該法人における従業員(上記※1に規定する法人の役員以外の者をいいます)が従事する業務と同一であると認められるもの(施行規則第52条の2)〕に起因する傷病等に関しては、健康保険の保険給付が行われます第53条の2かっこ書)。

 

即ち、被保険者数が5人未満である適用事業所に使用される法人の代表者等であって、当該法人における一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、当該業務に起因する傷病等についても、健康保険の対象となります。

 

【過去問 平成17年問7E(こちら)】/【平成23年問2B(こちら)】

 

この場合、従来は支給されなかった傷病手当金も含めて健康保険の保険給付が支給されます。

 

【過去問 平成19年問1A(こちら)】/【平成26年問2C(こちら)】/【令和4年問2A(こちら)】

 

 

○趣旨

 

被保険者数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員(代表者等)であって、当該法人における一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者について、当該業務に起因して傷病等が発生した場合には、法人の役員は、労災保険法の労働者には該当せずに労災保険法の保険給付は行われないことがあり、また、改正前の原則的な取扱いによれば、法人の業務上の事由による傷病等であるとして、健康保険法の保険給付も行われないこととなります。

しかし、かかる小規模事業所の代表者等については、当該事業所の従業員と異ならない業務に従事していることが多く、かかる者について被用者医療保険制度による保護がないとしては酷であることから、従来の改正前においても、本件については例外的に健康保険の対象とされていました。

改正後も、同様の取扱いをすることとしたものです(ただし、前述のように、改正前と異なり、傷病手当金の支給も行われることとなりました)。

 

なお、被保険者の数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員であっても、当該役員の業務が当該法人における従業員が従事する業務と同一であると認められない場合は、当該業務に起因する傷病等は健康保険の対象とはなりません(この場合、法人の役員は基本的に労災保険法上の労働者に該当しないため、労災保険の対象ともなりません)。

【過去問 平成30年問10A(こちら)】

即ち、法人の役員に特有の業務(例えば、役員として接待中の負傷等)に起因する傷病等については、健康保険の対象となりません。一般の従業員とのバランスも考慮する必要があること、また、小規模な事業所の役員については中小事業主として労災保険の特別加入も可能であることを考慮したものとなります。

 

・前掲の【平成25.8.14厚生労働省保険局保険課事務連絡】は、この例外の趣旨について、次のように述べます。

 

「平成15年7月1日以降、厚生労働省保険局通知(平成15年7月1日保発0701001号・庁発 0701001号等)において、『被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者』については、その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても、健康保険の保険給付の対象(傷病手当金を除く)としてきたところである。

今回の改正においても、その趣旨を踏まえ、被保険者が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員については、その事業の実態を踏まえ、傷病手当金を含めて健康保険の保険給付の対象としたものである。」

(なお、上記の平成25年の改正により、上記の平成15年の通知は廃止されました。)

 

 

※ 以上を整理しますと、次の通りです。

 

【条文】

 

※ 選択式対策として、赤字のキーワードに注意です。

 

第53条の2(法人の役員である被保険者又はその被扶養者に係る保険給付の特例)

被保険者又はその被扶養者法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この条において同じ。)であるときは、当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務被保険者の数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務であって厚生労働省令〔=施行規則第52条の2〕で定めるもの〔=当該法人における従業員(上記に規定する法人の役員以外の者をいいます)が従事する業務と同一であると認められるもの〕を除く。)に起因する疾病、負傷又は死亡に関して保険給付は、行わない。

 

 

【施行規則】

施行規則第52条の2(法第53条の2の厚生労働省令で定める業務)

法第53条の2の厚生労働省令で定める業務は、当該法人における従業員同条に規定する法人の役員以外の者をいう。)が従事する業務と同一であると認められるものとする。

 

 

 

次に、労災保険と健康保険の適用関係の問題の一つとして、手続面についても触れておきます。

 

 

 

四 業務上の傷病等として申請中の取扱い

(一)「被保険者またはその被扶養者において、業務災害・通勤災害と疑われる事例で健康保険の被保険者証を使用し、または現金給付の申請等が行われた場合、健康保険の保険者は、まずは労災保険への請求を促し、健康保険の給付を留保することができるか」について、前掲の【平成25.8.14厚生労働省保険局保険課事務連絡】は次のように回答しています。

 

・「労災保険法における業務災害については健康保険の給付の対象外であり、また、労災保険法における通勤災害については労災保険からの給付が優先されるため、まずは労災保険の請求を促し、健康保険の給付を留保することができる。」

【過去問 令和3年問9E(こちら)】

 

即ち、業務災害・通勤災害と疑われる事例においては、健康保険の保険者は、まずは労災保険への請求を促し健康保険の給付を留保することができるという結論です。 

この「業務災害・通勤災害と疑われる事例」とは、例えば、健康保険の被保険者(法人の役員

を除きます)が、仕事中・通勤中に負傷した事案などとされます。

 

なお、「健康保険の保険者においては、保険給付の時効期間(2年間)を考慮し、労災保険給付の請求が行われている場合であっても、健康保険給付の申請が可能であることを被保険者等に対して周知するなどの十分な配慮を行うこと。」とされています(【平成24.6.20事務連絡】も、「労災保険の認定が確定していないことを理由に、健康保険の保険給付の申請を受理しないことは認められない」とし、「労災保険給付の請求が行われている場合であっても、健康保険の被保険者は、健康保険の保険者に保険給付の申請を行うことが可能です。」としています)。

【過去問 令和4年問1A(こちら)】

 

 

(二)なお、業務上の傷病として労働基準監督署長に認定を申請中の未決定期間は、一応業務上の取扱いをし、最終的に業務上の傷病でないと認定され、健康保険による業務外と認定された場合には、さかのぼって療養費、傷病手当金等の給付が行われる旨の通達があります(【昭和28.4.9保文発第2014号参考】(現行制度に合わせて一部表記を変えています。)

【過去問 平成21年問1B(こちら)】

 

平成29年度試験 改正事項

(三)ちなみに、すでに健康保険等の医療保険から保険給付が行われた後に、当該対象となった傷病等について労災保険の対象(業務災害又は通勤災害)であるとの認定(労災認定)がなされた場合は、以前は、当該被保険者等(被保険者及び被扶養者をいいます)は、医療保険からの給付額を医療保険の保険者(後期高齢者医療広域連合を含みます。以下、この(三)において同じです)に返還した上で、改めて労働基準監督署に労災保険給付の申請を行うことが原則とされていました。

 

しかし、平成29年2月の運用の改正により、かかる医療保険給付の返還における被保険者等の負担の軽減を図るため、返還に係る調整の手続が可能となりました。

即ち、当該被保険者等が、医療保険の保険者に返還を要する医療保険給付(療養の給付等、現物給付に限るとされます)の金額相当分の労災保険給付の受領について保険者に委任する旨を労働基準監督署に申し出ること等により、労働基準監督署が〔健康保険の〕保険者に返還を要する費用相当分を支払うことが認められました(【平成29.2.1保保発0210第1号】等、【平成29.2.1基補発0210第1号】)。

 

つまり、被保険者等が医療保険に返還を要する費用相当分について、労災保険から医療保険に支払うことにより、清算関係を簡易に処理できることとなりました。

 

 

 

〈2〉疾病、負傷若しくは死亡又は出産

健康保険の保険事故は、「疾病、負傷若しくは死亡又は出産」です(他の公的医療保険制度の保険事故も、基本的に同様です。後期高齢者医療の場合は、「疾病、負傷又は死亡」が保険事故であり(高齢者医療確保法第47条(社会一般のパスワード))、後期高齢者医療の被保険者の高齢者という性格から、「出産」は含まれていません)。

 

ゴロがなくても覚えられるでしょうが、念のため、ゴロも行きます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「傷病(で)死産

 

→「傷(=負「傷」)、病(=疾「病(ぺい → びょう)」(で)、死(=「死」亡)、産(=出「産」)」 

 

 

 

〈3〉生活の安定と福祉の向上

なお、第1条では、「国民の生活の安定福祉の向上に寄与することを目的とする」と規定されています。

この「国民の生活の安定と福祉の向上」が選択式の空欄とされた場合は、注意です。

 

一般に、社会保障制度の目的は、国民の「生活の安定」を確保することにあると解されますので(「白書対策講座」のこちら以下を参考です)、上記の「生活の安定」についても連想することはできるかとは思います。

ただ、例えば、上記の「国民の生活の安定と福祉の向上」が空欄とされた場合は、「生活の安定」だけなのか、それとも他のキーワードも入るのか等については、やはり覚えておかないと厳しいです。

 

この点、健保法の目的条文(第1条)と厚年法の目的条文(厚年法第1条)の末尾は同様になっており、「生活の安定と福祉の向上」と用いられていることを記憶します。

後者の「福祉の向上」については、労災保険法(同法第1条)や雇用保険法(同法第1条)では「福祉の増進」と用いられるなど、 微妙に異なります。

「向上」とは現状より上回るということであり、現状が既に高水準の場合においても、現状より更に上回れば「向上」となります。

他方、「増進」の場合は、上回る(よくなる)だけでなく、下回る(悪くなる)ケースも含む概念であるとはいえます(例えば、障害給付において、障害程度が増進したといったようなマイナスの用いられ方があります。ただし、労働法や社会保障の目的条文中の「増進」について、「悪くなる」という意味で用いることはないのでしょう)。

 

結局、暗記する他ないのですが、一応、社会保険においては、「福祉の向上」と用いられることが多く(例外は、高齢者医療確保法(同法第1条)や介護保険法(同法第1条)等における「福祉の増進」)、労働法においては、「福祉の増進」と用いられることが多い(例:労災保険法(同法第1条)、雇用保険法(同法第1条))という程度に押さえておきます。

 

 

以上、客体(保険事故)についての概観を終わります。概観以上に詳しい内容となりましたので、「保険給付」以下の概観は次のページで見ます。