【令和6年度版】
第1章 保険事故
一 保険事故
保険事故とは、保険給付の支給の要件となる事故のことです。
労災保険法の保険給付における保険事故は、次の図の通りです。
(一)業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付
【令和3年度試験 改正事項】
業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付の場合は、労働者の「負傷、疾病、障害又は死亡」が保険事故となります。
第7条第1項が、労災保険法の保険給付として、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付」、「複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号〔=業務災害〕に掲げるものを除く。以下同じ。)」、及び「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付」並びに二次健康診断等給付を挙げており、前3者からは労働者の「負傷、疾病、障害又は死亡」が保険事故として想定されていることがわかります。
なお、介護(補償)等給付については、「介護ないし要介護状態」が保険事故ともいえそうです(一般に、「介護に関する保険給付」ないし「要介護状態に関する保険給付」とされています)。
しかし、介護(補償)等給付は、広く介護一般(加齢等に起因するもの)を対象としているものではなく、業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害と関連して生じた介護であることが必要とされており(事業主の負担により被災労働者の介護一般の損害のてん補を図ることは妥当でないからです)、従って、支給対象者は障害(補償)等年金又は傷病(補償)等年金の受給権者に限定されています。
よって、介護(補償)等給付の保険事故も傷病や障害に求めることができることとなります。
(二)二次健康診断等給付
二次健康診断等給付に係る保険事故は、業務上の事由による脳血管疾患又は心臓疾患に係る異常の所見の診断です。
即ち、二次健康診断等給付は、業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生を予防するための保険給付であり(第26条)、予防給付であるという点で、発症後(事故後)の事後的な補償を図る業務災害又は通勤災害に関する保険給付と異なります。
なお、「業務上の事由」に関する予防給付であり、「通勤」に関する予防給付ではないことには注意です。
もっとも、二次健康診断等給付は、「業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査」(一次健康診断)において異常の所見があると診断されたことが支給要件であり、一次健康診断において異常の所見があれば、それ以上は業務との関連性が支給要件として問われることはありません。
二 保険事故の横断整理
ここで、各法における保険事故を比較しておきます。
(一)労災保険法
労災保険法における「業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害」に関する保険給付に係る保険事故は「負傷、疾病、障害又は死亡」ですが、念のため、次のゴロ合わせで覚えておきます。
※【ゴロ合わせ】
・「傷病、餓死」
→「傷、病(=疾「病」・負「傷」)、が(=障「害」)、し(=「死」亡)
(二)健康保険法等の医療保険法
健康保険法等の医療保険法における保険事故は、「疾病、負傷若しくは死亡又は出産」であり、次のゴロ合わせにより覚えておきます(労災保険法の業務災害・通勤災害に係る保険事故と比較しますと、「障害」が無くなり、「出産」が入ります)。
※【ゴロ合わせ】
・「傷病、資産」
→「傷病(=疾「病」・負「傷」)、し(=「死」亡)、さん(=出「産」)
(三)国民年金法、厚生年金保険法
公的年金保険における保険事故は、「老齢、障害又は死亡」であり、次のゴロ合わせにより覚えておきます。
※【ゴロ合わせ】
・「老害で、死亡する」
→「老(=「老」齢)、害(=障「害」)で、死亡(=「死亡」)する
三 保険事故と保険給付のまとめ
最後に、労災保険法の保険給付と保険事故について表で整理しておきます。
次のページからは、業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害の認定について見ます。