【令和6年度版】
第5節 労働契約の消滅(終了)
まず、労働契約の消滅(終了)の体系図を掲載しておきます。
以下、上記図の 1 の「労働契約の終了事由(終了原因)」から見ていきます。
なお、用語の問題について触れておきます。
「退職」について、日常用語としては、使用者の意思による労働契約の終了である「解雇」は含まないことが多いです。
しかし、労基法では、基本的に、労働契約が終了するすべての場合を指して「退職」と表現しています。
例えば、第22条第1項の退職時等の証明における「退職」、第89条第3号(労基法のパスワード)の就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」、第15条第1項の労働条件の明示に関する施行規則第5条第1項第4号の「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」などです。
当サイトでは、労働契約が終了するすべての場合をまとめて、文字通り、「労働契約の終了」と表現することが多いです。
第1款 労働契約の終了事由
労働契約の終了事由(終了原因)については、前掲(こちら)の体系図の 1 のように多様なものがあります。
労働契約の終了事由を大別しますと、「当事者の意思に基づく労働契約の終了」の場合と「当事者の意思に基づかない労働契約の終了」の場合があります。
前者の「当事者の意思に基づく労働契約の終了」の場合は、「当事者の一方的意思に基づく終了」と「当事者の合意に基づく終了」に分かれます。
「当事者の一方的意思に基づく終了」のうち、使用者によるものが「解雇」です。
また、「当事者の意思に基づかない労働契約の終了」として、例えば、「有期労働契約における期間の満了」があります。
以下、前掲の体系図の順に検討します。
第1項 当事者の意思に基づく労働契約の終了
当事者の意思に基づく労働契約の終了として、当事者の一方的意思に基づく終了と当事者の合意に基づく終了(合意解約)があります。
前者から見ます。
§1 当事者の一方的意思に基づく労働契約の終了
〔Ⅰ〕解雇 = 使用者の一方的意思に基づく労働契約の終了
一 意義
◆解雇とは、使用者が一方的に労働契約を解約する意思表示のことです。
従って、例えば、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)において、期間が満了したことによる労働契約の終了は、解雇にはあたりません(期間の満了により自動的に契約が終了するのであり、使用者による解約の意思表示により契約が終了するものでないからです)。
また、労使間の合意による解約(合意解約)は、使用者が一方的に解約をするものではないため、解雇にあたりません。
要するに、「使用者が一方的に労働契約を解約すること」が解雇です。
二 解雇の要件
まず、解雇の(適法性・有効性の)要件について、一般的に見ておきます。
解雇の要件として、使用者が解雇権を有することと解雇権の行使が適法であることが必要と解されます。(川口美貴先生の「労働法」第5版553頁以下(初版514頁以下)参考)
前者の使用者が解雇権を有するかどうか(解雇権の発生の根拠)については、「期間の定めのない労働契約(雇用契約)」の場合は、各当事者は、いつでも解約の申入れができますので(民法第627条第1項)、使用者は、解雇権を有することになります。
対して、「期間の定めのある労働契約」の場合は、使用者は、「やむを得ない事由」がなければ、期間満了前に解雇することができないため(労働契約法第17条第1項。なお、民法第628条参考)、「やむを得ない事由」が存在する場合に、使用者は解雇権を有することになります(詳しくは、すぐ後で見ます)。
このように使用者が解雇権を有する場合であっても、解雇権の行使が濫用でない(解雇権濫用法理。労働契約法第16条)など、解雇権の行使は適法になされる必要があります。
なお、「期間の定めのある労働契約」の場合は、上記の通り、使用者は、「やむを得ない事由」が存在する場合に解雇権を有しますが、この「やむを得ない事由」の存否の判断と「解雇権濫用法理」の適用(解雇権の行使が濫用かどうか)の判断は、実際は重なることになります。
ただし、「期間の定めのある労働契約」における「やむを得ない事由」は、解雇権の発生要件であり、労働契約法第17条第1項の定め方からも、使用者が証明責任を負うのに対して、「解雇権濫用法理(解雇権の行使の濫用でないこと)」は、解雇権が発生している場合の解雇権の効力発生阻止要件であり、基本的には、労働者が証明責任を負うことになります。
また、「期間の定めのある労働契約」における「やむを得ない事由」とは、「期間の定めのない労働契約」において適用される解雇権濫用法理の要件(解雇権の行使が認められる合理性・相当性の存在(労働契約法第16条))よりも限定されたより重大な事由であることが要求されるといえます(期間の定めのある労働契約の場合は、期間を定めた当事者の意思からは、期間満了前の中途解約が認められるのはまさに例外の場合であるはずだからです)。
(水町「詳解労働法」第2版382頁及び396頁(初版373頁及び387頁)も、以上のような要旨の記載のあと、「期間の定めのある労働契約」における「やむを得ない事由」とは、解雇の客観的に合理的で社会的に相当な理由に加えて、期間満了を待たずに直ちに雇用を終了せざるを得ない特段の重大な事由が存在することが必要であるとしています(例:労働者が就労不能となった、労働者に重大な非違行為があった、会社が深刻な経営難に陥り整理解雇に相当する諸措置がとられたなど)。)
※ 参考までに、「詳説 労働契約法」第2版161頁を引用しておきます。
「労働契約法には、期間の定めのある労働契約のもとでの解雇に関する17条1項が置かれているため、本条〔=労働契約法第16条の解雇権濫用法理〕は、基本的には、期間の定めのない労働契約における解雇権濫用の規制を定めた規定として位置づけられる。すなわち、期間の定めのある労働契約については、『やむを得ない事由』という要件が満たされた場合にのみ解雇権が発生するため、その要件該当性が主として問題となるのに対し、期間の定めのない労働契約の場合は、民法627条により当然に、すなわち、労働契約の締結自体により発生するので、本条〔=労働契約法第16条の解雇権濫用法理〕による濫用規制が主として問題になるのである(ただし、期間の定めのある労働契約について、『やむを得ない事由』が存在するために解雇権が発生するものの、その行使が濫用となる場合もありえないではない)。」
◯過去問:
・【労働一般 平成28年問1エ】
設問:
使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないが、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解される。
解答:
上記の本文記載(こちら)のような意味で、本問は正しいと解されます。
なお、本問中の「解雇権濫用法理における『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合』以外の場合」とあるのは、分かりにくいですが、解雇権濫用法理を定めた労働契約法第16条において「解雇が正当なものとして認められる場合(解雇権濫用法理に該当しない場合)」と置き換えるとわかりやすくなります。
具体的にいかなる場合に解雇権の行使が適法といえるのかについては、のちに解雇権濫用法理の個所で、若干の典型例を見ます(整理解雇等。こちら以下)。
以下では、解雇権の行使の適法性に関連し、解雇に関する制限・規制を見ていきます。
その前に、無期労働契約と有期労働契約における解雇について、再度比較しておきます。
三 無期労働契約と有期労働契約における解雇の比較
再述となりますが、無期労働契約と有期労働契約における解雇を比較しておきます(詳しくは、こちら以下で触れました)。
(一)期間の定めのない労働契約
まず、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)における解雇の場合です。
民法上は、期間の定めのない労働契約(雇用契約)においては、各当事者は、いつでも解約の申入れをでき(=解約の自由。2週間の予告期間をおくことは必要です)(民法第627条第1項)、この各当事者の解約の自由を使用者側から見た場合が「解雇の自由」であり、労働者側から見た場合が「辞職(任意退職)の自由」となります。
しかし、使用者に解雇の自由を認めては、労働者の生活の安定が著しく害されますから、労基法等は、この使用者の解雇の自由を制限しています。詳しくは、すぐ後でまとめます。
対して、期間の定めのない労働契約における労働者からの辞職(任意退職)の自由については、労基法等においても、特には制限されていません。
(二)期間の定めのある労働契約
次に、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合においても、解雇は問題となりますが、期間の定めのない労働契約における解雇とは、少し事情が異なります。
即ち、期間の定めのある労働契約(雇用契約)の場合は、やむを得ない事由がない限り、期間満了前は解約できないのが原則であり(また、当該事由の発生につき帰責事由があるときは、損害賠償責任を負います)(民法第628条)、そして、労働契約法第17条第1項において、使用者について、この中途解約の原則禁止が強行規定化されています。
従って、有期労働契約においては、(民法上の)期間の定めのない労働契約(雇用契約)におけるように使用者の解雇の自由は問題とならず、解雇は本来制限されていることになります。
これは、当事者が期間を定めている以上、期間満了までは契約は終了しないというのが当事者の意思なのであり、中途解約は、この当事者意思に反し、契約は守られるべきという信義則にも反するからとできます。
以上の通り、有期労働契約の場合は、解雇権の行使は本来制限されていますが、やむを得ない事由があるときは解雇が可能であり(その他に、使用者が破産した場合(民法第631条)等においても、有期労働契約における解雇は問題となります)、やはり、解雇の適法性が問題となることがあります。
四 解雇に関する制限・規制の概要
ここで、解雇に関する制限・規制についての概要をまとめておきます。
これらの解雇に関する制限・規制は、前述の「解雇の要件」の解雇権の行使の適法性の問題(こちら)とできます。
大別しますと、(A)実体的制限と(B)手続的制限があります。
○ 解雇に関する制限・規制:
(A)実体的制限
◆解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされます。
◆業務災害や産前産後による休業に係る解雇制限期間です。 即ち、使用者は、労働者が業務上の傷病による療養のため休業する期間及びその後30日間、並びに産前産後の休業期間及びその後30日間は、原則として、解雇できません。 再就職が困難なような期間における解雇を制限することにより、労働者の生活の安定を図る趣旨です。
3 その他の実体的制限
◆一定の理由による解雇その他の不利益取扱い等が禁止される場合があります(こちら以下)。大別して、次の(1)と(2)の2パターンがあります。
(1)差別的取扱いの禁止のパターン
例:国籍等を理由とした解雇等の労働条件の差別的取扱いの禁止(均等待遇。第3条)。 (なお、「差別的取扱いの禁止」の法理自体を「均等待遇」と表現することが多いです。)
(2)不利益取扱いの禁止のパターン
例:労働者が使用者の法令違反を申告したことを理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止(第104条第2項)。
※ 上記(1)差別的取扱いの禁止は、同一に取り扱うことが要請される場合です(有利に取り扱うことも禁止されるのが基本です)。 他方、(2)不利益取扱いの禁止は、不利益に取り扱うことが禁止される場合であり、有利に取り扱うことは許容されます。
(B)手続的制限
◆解雇をする場合は、原則として、30日前までの予告、又は30日分以上の平均賃金の支払が必要です(両者の併用も可)。 労働者に再就職等の準備(時間的、経済的余裕)を保障する趣旨です。
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以下、上記の各項目について詳しく学習していきます。
まず、労基法で規定されているものとして、上記の(A)「実体的制限」の2の「解雇制限の期間」を、次に(B)「手続的制限」の「解雇予告の制度」を見ていきます。その後に、1の「解雇権濫用法理」を見ます。
なお、上記(A)の3「不利益取扱い等の禁止」については、解雇の最後(こちら以下)に一覧表を掲載し、詳細は該当個所でその都度見ることにします。
(A)実体的制限
解雇権の行使に対する実体的制限として、まず、解雇制限の期間について見ます。
〔1〕解雇制限の期間(解雇時期の制限)(労基法第19条)
解雇制限の期間 = 業務災害又は産前産後による休業に係る解雇制限期間
◆使用者は、労働者が業務上の傷病による療養のため休業する期間及びその後30日間、並びに産前産後の休業期間及びその後30日間は、原則として、解雇できません(第19条)。
○趣旨
再就職が困難なような期間(労働能力の喪失期間及びその回復期間)における解雇を制限することにより、労働者の生活の安定を図る趣旨です。
なお、当サイトでは、この第19条について、「解雇制限の期間」と表現することが多いですが、一般には、単に「解雇制限」といわれることが多いです。次の第19条の見出しも「解雇制限」となっています。
次の条文は、熟読して下さい。
【条文】
第19条(解雇制限) 1.使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条(労基法のパスワード)〔=産前産後休業〕の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2.前項但書後段の場合〔=やむを得ない事由のため事業継続不可能の場合〕においては、その事由について行政官庁〔=所轄労働基準監督署長(施行規則第7条)〕の認定を受けなければならない。 |
【過去問 平成27年問3E(こちら)】
※ まず、必須知識を一気に覚えます。次の「※ 要点」の「原則」と「例外」をお読み頂き(前掲の条文も最終的には熟読して下さい)、これらを後述のゴロ合わせで確実に記憶して下さい。
解雇制限の期間の問題は、情報量が多く、読み進めていくうちに現在どこの部分を学習しているのか迷子になる危険性があります。そのようなとき、ここの必須知識の個所に立ち戻って羅針盤にして下さい。
※ 要点
一 原則
◆使用者は、次の(一)又は(二)の期間(解雇制限の期間)は、労働者を解雇することができないのが原則です(第19条第1項本文)。
(一)業務上傷病による療養休業の場合
・労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間。
(二)産前産後休業の場合
・産前産後の女性が第65条の規定(=産前産後休業)によって休業する期間及びその後30日間。
※ 解雇制限期間とは、労働能力を喪失している期間(=業務上傷病による療養休業期間又は産前産後休業期間)及び労働能力の回復に必要なその後の30日間、ということになります。
二 例外
◆解雇制限期間中であっても、次の(一)又は(二)の場合は、例外として、使用者は解雇することができます(第19条第1項ただし書、第2項)。
(一)打切補償を支払う場合
・上記一の(一)(こちら)の場合〔=業務上傷病療養休業の場合〕において、業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らないときに、使用者が打切補償(平均賃金の1,200日分。第81条)を支払う場合は、業務上傷病療養休業期間に係る解雇制限期間であっても、解雇することができます(第19条第1項ただし書)。
※ 行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定は、不要です(第19条第2項の反対解釈)。
(二)やむを得ない事由のため事業継続不可能の場合
・天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、解雇制限期間であっても、解雇することができます(第19条第1項ただし書)。
※ この場合は、行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定が必要です(第19条第2項)。(一)の場合と異なりますので、要記憶です。
以上をゴロ合わせにより、一気に記憶します。
※【ゴロ合わせ】
・「業務上傷病療養休業さんと、産休さんは、解雇できないので、打つ手は量産、トンヅラだけで、やけになって」
(業務上傷病療養休業の人と産休の人は解雇できないので、使用者は、打つ手がなくやけになっているイメージです。「業務上傷病療養休業」というキーワードを一気に覚えて下さい。)
→「業務上・傷病・療養・休業(=「業務上」の「傷病」による「療養」のため「休業」する期間)、さん(=その後「3」0日間)と、
産・休(=「産」前産後「休」業期間)、さん(=その後「3」0日間)は、
解雇できないので(=「解雇制限」期間)、
打つ(=「打」切補償)手は、量・産(=「療」養開始後「3」年)、トン・ヅラ(=「1(トン)2(ズラ)」00日)だけで、や(=「や」むを得ない事由)け、になって(=「にんて」い)」
以上の必須知識をベースに、以下、改めて原則と例外について細部の知識について学習します。以下の知識も重要なものが多いです。
一 原則
(一)業務上傷病による療養休業に係る解雇制限期間
◆労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、使用者は、原則として、解雇することができません(第19条第1項本文)。
1 要件
◆労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間であること。
例えば、労働者が業務上の傷病により療養休業している期間中に、その非違行為(会社の物品の窃盗等)などが判明しても、当該療養休業期間中(及びその後30日間)は解雇することはできません。
この傷病療養休業期間は、労働者の再就職活動や就労が困難な時期ですから、この時期に解雇されると労働者の生活が著しく不安定になるためです(具体例は、後述します)。
以下、上記の「要件」に関する文言をひとつずつ見ていきます。かなり細かいですが、出題もあり、重要です。どの要件のどの文言を問題にしているのかに注意です。
(1)業務上
まず、「業務上」の負傷・疾病による療養休業であることが必要です。
従って、「業務外」のいわゆる私傷病(例えば、風邪をひいた場合、プライベートで買い物中に交通事故に遭い負傷した場合、通勤災害の場合などです)による休業期間については、解雇制限期間は適用されず、これら業務外の傷病による療養休業期間中の解雇は、制限されません。
即ち、解雇制限期間は、再就職が困難なような期間(労働能力の喪失期間及びその回復期間)における解雇を制限することにより、労働者の生活の安定を図る制度ですが、使用者の利益も考慮する必要があるため、傷病による療養休業期間における解雇の可否について、業務上か業務外かによって区別していることになります。
つまり、労働者の傷病による療養休業が業務外の事由による場合は、使用者の支配下・管理下において生じたものではありませんから、療養休業の原因に対して使用者の関与の程度が弱く、使用者に療養休業に伴うリスクを負担させるのは妥当でないという考え方となります。
「業務上」の判断は、労災保険法における業務上と同様に行われるものと解されています。具体的には労災保険法で学習します。
(2)療養のために休業すること
業務上の傷病により休業している場合であっても、その「療養のために休業する」必要性が認められなければ、解雇が制限される休業期間とはなりません(なぜなら、本規定の趣旨は、再就職が困難なような期間にある者の解雇を制限したものであり、療養のために休業する必要が認められない場合には、再就職活動等が困難とはいえず、要保護性が乏しいからです)。
具体的には、次のような点が問題となります。
(ア)療養
「療養」とは、傷病を治すことであり、治す(治ゆ=治癒)とは、療養の必要がなくなった状態(症状が固定化・安定して、治療の効果が期待できない場合も含みます)をいいます。
例えば、障害が残っても、その症状が固定化しますと、治ゆと判断されます。この「治ゆ」の考え方は、他の労働法や社会保険でも共通します。
そこで、治ゆ「後」は、「療養」にはあたらないと解されています。
従って、業務災害により障害が残っていても、症状が固定化しますと、治ゆしたものと取り扱われ、後述のように、その時点から30日間が解雇制限期間となります。
(症状が固定化した場合は、それ以上は再就職の困難さの改善の見込みが失われることとなり、再就職の可能性の回復を期待して療養期間中の解雇を制限していた趣旨が妥当しなくなることになります。)
例えば、業務上の骨折が外科的には治ゆと診断され、障害補償も行われた後、さらに外科後の処置として保健施設において理学的治療を受けている療養期間中は、療養のための休業期間ではないため、障害補償支給事由確定の日から30日以後は解雇できるとされます(【昭和25.4.21基収第1133号】参考)。
上記通達に登場する用語を解説しておきます。
「障害補償」とは、労基法上の使用者の災害補償の一つであり、業務上の傷病が治ゆしたが障害が残る場合に、障害程度に応じて補償を行うことが使用者に義務づけられるものです(こちらで学習しますが、リンク先は詳しく読まないで結構です。以下のこの用語解説の個所において同様です)。
もっとも、労基法の災害補償の事由について、労災保険法等に基づいて災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合は、使用者は、当該災害補償責任を免れます(第84条第1項)。
そして、労基法の災害補償の事由が発生した場合は、通常は、労災保険法により保険給付が行われますから、労基法の災害補償責任は基本的には問題となりません(こちらで学習します)。
なお、前掲の通達は、「障害補償」という部分をカットしても、基本的には、全体の要旨に違いは生じません。
「外科後処置」とは、労働能力の回復や醜(しゅう)状の軽減を目的として、傷病の治ゆ後に行われる処置です。
例えば、やけどによる顔面の醜状の軽減のための整形手術や義肢を装着するための断端部の再手術などです(労災保険法の療養(補償)等給付のこちら(労災保険法のパスワード)や社会復帰促進等事業のこちらで登場します)。
(イ)休業
「休業」していることが必要です。
従って、業務上の傷病により療養中であっても、休業しないで出勤している場合は、解雇制限の適用はありません(【昭和24.4.12基収第1234号】参考)。
【過去問 平成29年問3D(こちら)】/【令和元年問4C(こちら)】
なお、「休業」とは、原則として「全部休業」のこととされ、出勤しながら治療のために通院しているような「一部休業」は、本条の休業には含まれないとされます(そこで、出勤して一部でも就労した場合は、その日から30日経過後は、解雇できることとなります)。(厚労省コンメ令和3年版上巻288頁(平成22年版上巻279頁))
一部就労可能な状態となった場合には、再就職活動等も可能となるということを重視しているのかもしれません。
ただし、争いがあり、一部休業も含まれるという説も有力です(【大阪築港運輸事件=大阪地決平成2.8.31】。菅野「労働法」第12版778頁(第11版731頁))。
試験では、この一部休業の問題については、あまり深入りしなくてもよさそうです。
なお、一部休業(一部労働不能)の問題は、休業手当の他、労災保険法の休業(補償)等給付、健康保険法の傷病手当金でも論点となり、そちらは重要です(休業手当の個所(こちら)で言及します)。
〇過去問:
・【平成29年問3D】
設問:
使用者は、労働者が業務上の傷病により治療中であっても、休業しないで就労している場合は、労働基準法第19条による解雇制限を受けない。
解答:
正しいです(【昭和24.4.12基収第1234号】)。
業務上の傷病により療養中であっても、休業せずに就労している健康状態であるなら、当該療養期間中等に解雇をしても、再就職活動等に支障は生じないだろうということになります(ちなみに、当該労働者を解雇する正当な根拠が存在しなければ当該解雇は無効となるということは別問題です(労働契約法第16条))。
なお、1日でも休業したなら、その後30日間は解雇が制限されます(次の(3)でも触れます)。
(3)その後30日間
「その後30日間」とは、「療養のため休業する必要が認められなくなって出勤した日又は出勤し得る状態に回復した日から起算」されます。
なお、この30日間は、休業期間の長短にはかかわらないため(条文上、一律に30日間です)、たとえ傷病による休業期間が1日であっても、その後30日間は解雇が制限されます。
※【具体例】
例えば、4月10日に業務上の傷病による療養休業を開始し5月1日まで休業した労働者が、翌5月2日から職場に復帰したケースにおいて、この労働者が会社の金を横領していたことが4月15日に判明していた場合、いつから解雇(懲戒解雇)できるかを考えます。
業務上傷病による療養休業期間(本件では4月10日~5月1日まで)及びその後30日間は解雇できません。
たとえ、当該労働者が会社の金を横領していたことが判明しても、当該解雇制限期間中は解雇することはできません(後にこちらで詳しく見ます)。
本件の「その後30日間」とは、上述のように、基本的には、出勤日から起算して30日間です(出勤日も含めて算定します)。
そこで、5月2日から起算して丸々30日をあけることが必要ですから、5月31日(の24時)が満了日となり、5月31日までは解雇できません。
計算式としては、「5月2日 + 30日 ー 1日 = 5月31日」となります。
※ 期間計算:
ここで、本件の解雇制限期間における期間の計算の方法について説明します。
期間の計算方法については、労基法上特に規定がありませんから、民法の期間計算の方法によります(民法第138条)。
(ⅰ)起算点(起算日)
初日不算入が原則です(例外は、初日が午前零時から始まる場合です)(民法第140条)。
ただし、解雇制限期間の場合は、条文上、「休業する期間及びその後30日間」は解雇できないのであり、「その後30日間」については、休業終了後の出勤日(原則)から起算することは明らかといえますから、初日である出勤日(原則)を算入することになります(上記の民法第138条の「法令・・・に特別の定めがある場合」となります)。
そこで、前掲の具体例の場合は、出勤日である5月2日から起算します。
(ⅱ)満了点(満了日)
まず、30日という期間については、そのまま30日間を計算します。
なお、「週、月又は年によって期間を定めたとき」は、その期間は暦に従って計算します(民法第143条第1項)。
従って、休日等も含めて、カレンダーによる1週間、1箇月又は1年の計算となります。
次に、「日、週、月又は年によって期間を定めたとき」は、期間は、「その末日の終了をもって満了」しますが(民法第141条)、「週、月又は年によって期間を定めたとき」は、期間は、原則として、「起算日に応答する日の前日に満了」します(民法第143条第2項本文)。
本件では、日によって期間を定めた場合ですから、30日間を数えて、その期間の末日の終了(=24時)が満了点となります。
そこで、5月2日から丸々30日間を空けて、最後の日である5月31日(24時)が満了日(満了点)です。
計算方法は、上記の通り、起算日である5月2日から計算し、「5月2日 + 30日 ー 1日 = 5月31日」とすると簡単です(起算点から計算すること、及び「1日」をマイナスすることがポイントです。その他の色々な事例は、徴収法等で登場します)。
以下、念のため、期間計算に関する民法の条文を掲載しておきます(あくまでも参考です)。
【民法 第6章 期間の計算】
民法第138条(期間の計算の通則) 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。 |
民法第139条(期間の起算) 時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。 |
民法第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。 |
民法第141条(期間の満了) 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。 |
民法第142条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。 |
民法第143条(暦による期間の計算) 1.週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2.週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。 |
以上で、要件を終わります。続いて、効果です。
2 効果
◆上記の業務上傷病による療養休業期間中の労働者を、使用者は、原則として、解雇することができません(第19条第1項本文)。
(1)解雇できないこと
◆業務上傷病による療養休業期間中の労働者を、使用者は、原則として、解雇できず、本規定違反の解雇は、無効と解されます。
(ア)「解雇」してはならないについて
解雇(=使用者による一方的な労働契約の解約の意思表示)にあたらない場合は、解雇制限期間中であっても労働契約を終了させることができます。
例えば、有期労働契約の期間満了、合意解約、労働者の辞職(任意退職)などによる労働契約の終了は、解雇制限期間中であっても生じます。
次の通達があります。
・【昭和61.3.14基発第150号】
「一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後引続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに終了する。
したがって、業務上負傷し又は疾病にかかり療養のため休業する期間中の者の労働契約もその期間満了とともに労働契約は終了するものであって、法第19条第1項の適用はない。」
即ち、有期契約労働者が、業務上傷病にかかり、その療養のため休業する期間中に労働契約の期間が満了した場合は、この期間満了とともに労働契約は終了するのであり、本規定による解雇制限の適用はありません。
具体例で見てみます。
上記の図のケースでは、4月1日から6か月の有期労働契約で使用されている労働者が、6月1日から業務上傷病による療養のため休業しています。
そこで、療養のための休業期間中(及びその後30日間)は、解雇が制限されますが、本ケースでは、この休業期間中の9月30日に労働契約の期間が満了しますので、ここで労働契約は終了します。
これは「期間満了」による労働契約の終了であり(当事者があらかじめ合意していた通りの労働契約の終了です)、「解雇」による終了ではありませんから、9月30日の契約終了については解雇制限の問題は生じません(例えば、「当該休業期間中及びその後30日間」は労働契約が終了しないといったような取り扱いにはなりません)。
※ ただし、有期労働契約の期間満了による雇止めが制約されるケースがあることは、別の問題です。後述の期間満了の個所で、雇止め法理(こちら)として学習します。
※ なお、本件は、業務上災害であるため、使用者は災害補償責任(労基法第75条以下)を負いますが、この災害補償を受ける権利は、労働者の退職によっては変更されることはありませんので(第83条第1項。こちら)、使用者は労働者の退職後も災害補償責任を負います。
実際は、労災保険制度が適用されるのが一般ですので、前述の通り、労基法の災害補償責任は問題とならないことが多いですが(労災保険法により災害補償に相当する給付が行われるべき場合には、使用者は、労基法の災害補償責任は免責されます(労基法第84条第1項))、労災保険法の保険給付を受ける権利も、労働者の退職により変更されることはありませんので(労災保険法第12条の5第1項(労災保険法のパスワード)。こちら以下)、労働者の退職後も労災保険法に基づく給付はなされます。
従って、当該業務上傷病について労災保険法の保険給付(もしくは労基法の災害補償)を受けられる場合は、労働者は退職後も保護はされます。
◯過去問:
・【平成15年問2B】
設問:
一定の期間を契約期間とする労働契約により雇入れられた労働者が、契約期間の途中で業務上負傷し、療養のため休業する場合には、使用者は、少なくとも当該休業期間中及びその後30日間は、当該労働契約を終了させることのないよう当該労働契約の契約期間を更新し、又は延長しなければならない。
解答:
誤りです。
解雇制限期間中であっても、有期労働契約の期間が満了すれば当該労働契約は終了します。従って、使用者は、当該労働契約の期間を更新したり延長する義務は負いません。
(イ)労働者の帰責事由に基づく解雇の場合
「解雇してはならない」の解雇とは、労働者に帰責事由がある場合の懲戒解雇も含みます。
そこで、例えば、労働者が会社の金員を横領したとしてその懲戒処分を検討している際中に、当人が業務上災害を受けて休業した場合は、解雇制限期間の適用があります。
なぜなら、再就職が困難なような期間における解雇を制限するという本規定の趣旨は、解雇の原因を問わずに妥当しますし、また、解雇予告制度を定める第20条が「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」を同制度の適用から除外しているのに対して、本件の解雇制限期間については、労働者に帰責事由がある場合に適用を除外するような規定は設けられていない(つまり、労働者の帰責事由の有無を問題としていない)からです。
(2)罰則
◆解雇制限期間中に解雇した使用者は、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(第119条第1号)。
以上で、業務上傷病療養休業に係る解雇制限期間の「原則」について終わります。
次に、産前産後休業期間に係る解雇制限期間の「原則」について見ます。
(二)産前産後休業に係る解雇制限期間
◆産前産後の女性が産前産後休業する期間及びその後30日間は、使用者は、原則として、解雇することができません(第19条第1項本文)。
1 要件
◆産前産後の女性が第65条の規定(=産前産後休業)によって休業する期間及びその後30日間であること。
(1)産前産後休業期間(第65条)
産前産後休業とは、妊娠・出産に係る女性労働者の母体・母性の保護のため、出産前後に休業を付与する制度です(第65条)。産前休業と産後休業に分かれます。
産前休業とは、出産予定日以前6週間(多胎妊娠(複数の胎児を妊娠している場合です)の場合は、14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した場合に、使用者は就業させてならないというものです(第65条第1項)。
即ち、産前休業は、任意的な休業です。
産後休業とは、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない(ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合は、医師が支障がないと認めた業務に就かせることはできる)というものです(同条第2項)。
即ち、産後休業は、産後6週間までは強制的休業ですが、その後8週までは任意的な休業です。
以上は、一気にゴロで記憶しましょう。
※【ゴロ合わせ】
・「産前は、依然、無理よ性は。産後もやだが、無警戒なせいで、医師が認めた」
(産前は、夫婦の営みは無理で、産後も嫌なのですが、医師が認めてくれました。あまり卑猥に考えず、すっきり考えて下さい(冷汗)。)
→「産前(=「産前」休業)は、依然(=出産予定日「以前」)、無(=「6」週間)・理よ(=「14」週間)、性(=「請」求した場合)は。
産後(=「産後」休業)も、や(=「8」週間)だが、
無・警戒(=「6」週間「経」過後)な、せい(=「請」求した場合)で、医師が認めた(=「医師が認めた」業務)」
【条文】
※ 産前産後休業は、次の第65条の第1項及び第2項で規定されています(第3項の軽易業務への転換請求については、後に「妊産婦等」の個所(こちら以下)で詳しく見ます)。
第65条(産前産後) 1.使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2.使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
3.使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。 |
※ 産前休業は、出産予定日を基準に算定します(条文上、「6週間以内に出産する予定の女性」となっていますし、出産日を基準としては、出産前の段階で、いつから休業できるかを決定できないことになるため、出産予定日を基準にせざるを得ないのです)。
出産日は、産前休業期間に含まれます(条文上、産後休業は、産「後」8週間であるためです)。従って、産後休業は、出産日の翌日から起算します。
なお、産前休業期間は出産予定日以前の6週間ですが、出産が出産予定日より遅れた場合は、出産予定日から出産日までの期間(Aとします。後掲のこちらの図を参考)は、産前休業期間に含まれます(このAの期間を休業と認めないとしては、出産直前の女性がかえって保護を受けないこととなり不合理であり、また、産後休業は、上記の通り、条文上、出産日翌日から起算されるため、本件の出産が遅れた期間(A)は産前休業期間にあたると解すべきことになります)。
※ 以上については、のちに「妊産婦等」で「産前産後休業」を学習する際に、再度、確認します。
(2)請求
産前休業については、労働者が請求した場合に使用者に休業の付与義務が生じます。
そこで、出産予定日より6週間(多胎妊娠の場合は14週間。以下同じ)前以内であっても、労働者が休業を請求しないで就労している場合は、解雇は制限されません。
【過去問 令和元年問4C(こちら)】/【令和5年問3C(こちら)】
産後休業についての「その後30日間」の起算日は、産後8週間経過した日、又は産後8週間以内であって、6週間経過後にその請求により就労させている労働者についてはその就労開始日、となります。【過去問 平成26年問2D(こちら)】
即ち、産後休業の場合、出産日後6週間は就労不可ですが、6週間を経過しますと、請求があり医師が認めた業務については就労が可能となり、この6週間経過後に就労している労働者については、当該就労期間は「休業する期間」にあたりませんから、産後休業に含まれず、従って、就労開始日から30日間を起算します。
2 効果
産前産後休業期間及びその後30日間は、使用者は、原則として、解雇することができません。
これに違反しますと、解雇は無効となること、罰則が適用されることについては、前述の業務上傷病療養休業の場合(こちら以下)と同様となります。
また、産前産後休業期間中に、有期労働契約の期間が満了した場合は、業務上傷病療養休業の場合(こちら以下)と同様に、解雇制限の問題は生じず、期間満了により労働契約は終了します。
◯過去問:
・【平成26年問2D】
設問:
労働基準法第19条第1項に定める産前産後の女性に関する解雇制限について、同条に定める除外事由が存在しない場合において、産後8週間を経過しても休業している女性の場合については、その8週間及びその後の30日間が解雇してはならない期間となる。
解答:
正しいです。
使用者は、産後8週間を「経過しない」女性を就業させてはならないのであり(第19条第1項本文)、産後8週間を「経過して」休業していても、当該8週間及びその後の30日間が解雇制限期間となります。
・【令和元年問4C】
設問:
使用者は、女性労働者が出産予定日より6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)前以内であっても、当該労働者が労働基準法第65条に基づく産前の体業を請求しないで就労している場合は、労働基準法第19条による解雇制限を受けない。
解答:
正しいです(【昭和25.6.16基収第1526号】)。
休業せずに就労している健康状態なら、産前産後休業期間中等に解雇をしても、再就職活動等に支障は生じないだろうということです。
なお、産前休業(6週間(多胎妊娠の場合は、14週間)以内に出産する予定の女性の休業)の場合は、当該女性の請求が要件となります(第65条第1項)。
対して、産後休業(産後8週間を経過しない女性の休業)の場合は、産後6週間までは強制的休業ですが、産後6週間を経過した女性については、その請求及び医師が支障がないと認めた業務であることの要件を満たせば、労働することが可能です(第65条第2項)。
・【令和5年問3C】
設問:
6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き就業している場合は、労働基準法第19条の解雇制限期間にはならないが、その期間中は女性労働者を解雇することのないよう行政指導を行うこととされている。
解答:
正しいです。
産前産後休業に係る解雇制限は、産前産後の女性が第65条(労基法のパスワード)〔=産前産後休業〕の規定によって「休業する期間」及びその後30日間は解雇してはならないというルールですから、当該女性労働者が休業を請求せずに引き続き就業している場合は、産前産後休業に係る解雇制限期間とはなりません。
なお、この「6週間以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求せず引き続き就業している場合」において、当該就業している期間中は、当該女性労働者を解雇することのないよう行政指導するものとされます(【昭和25.6.16基収第1526号】)。
本問は、前掲の【令和元年問4C(こちら)】と類問ですが、行政指導の論点が追加されています。
行政指導の論点は細かいですが、産前の期間にある就業している女性労働者を解雇しないことはその保護から望ましいのですから、相手方の任意の協力によって行政目的を実現するものに過ぎない行政指導(行政手続法第32条第1項参考)の対象とされることは想像しやすいです。
以上で、解雇制限期間の「原則」の場合について終わります。続いて、「例外」の場合です。
二 例外 = 解雇制限の除外(解雇制限期間の解除)
◆解雇制限期間中であっても、(一)打切補償を支払う場合、又は(二)やむを得ない事由のため事業継続不可能の場合(後者の(二)の場合には、行政官庁〔=所轄労働基準監督署長〕の認定が必要です)には、例外として、使用者は解雇することができます(第19条第1項ただし書、第2項)。
【過去問 平成19年問4B(こちら)】
以下、この(一)及び(二)について、詳しく見ます。
(一)打切補償を支払う場合
◆「業務上傷病による療養のための休業」の場合において、業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らないときに、使用者が打切補償(平均賃金の1,200日分。第81条)を支払う場合には、使用者は解雇することができます(第19条第1項ただし書)。
行政官庁〔=所轄労働基準監督署長〕の認定は、不要です(第19条第2項の反対解釈)。
○趣旨
打切補償を支払った場合は当面の労働者の生活の安定も確保されること、また、労働者が長期間休業していることによる使用者の経営上の支障にも配慮する必要があることを考慮して、使用者が打切補償を支払った場合には、例外的に解雇制限期間中の解雇を認めたものと解されます。
1 打切補償
打切補償とは、次のような制度です(詳しくは、災害補償の個所(こちら)で学習します)。
労働者が業務上の災害を被った場合には、労働者の保護のため、使用者は、労基法上、災害補償責任を負うこととなっています(第75条以下)。
この労基法の災害補償責任は、無過失責任です。
使用者は、労働者を利用することによって、利益を受けていること(報償責任)や危険を作出・拡大していること(危険責任)を考慮して、労働者の保護を強化した趣旨です。
この災害補償責任のうち、「療養補償」(第75条)を受けている労働者が、療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合に、使用者は、平均賃金の1,200日分を支払ってその後の災害補償責任の免除を受けることができ、これを打切補償といいます(第81条)。
そして、第19条第1項ただし書は、療養開始後3年経過しても治ゆしない場合は、使用者は、打切補償を支払うことにより、その後の災害補償責任を免れると共に、解雇制限期間であっても解雇ができることとしたものです。
※ 以上の通り、打切補償は、労基法の「療養補償」を受ける労働者が、業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らない場合において、使用者が一定額を支払うことにより、労基法の災害補償責任を免れるという制度であり、使用者がこの打切補償を支払う場合は、解雇制限期間であっても解雇することができるということです。
この点で、労働者が労基法の「療養補償」を受けずに、労災保険法の「療養補償給付」を受けている場合において、当該業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らないときに、使用者が打切補償を支払うことにより解雇制限期間における解雇をすることができるのかが問題となりました。
【学校法人専修大学事件=最判平成27年6月8日】は、これを認め、解雇できると判断しました。
詳しくは、次のページで見ます。
2 打切補償の全額の支払
打切補償の支払による解雇が認められるためには、打切補償の全額が支払われたことが必要と解されています。
即ち、打切補償の支払を約束しただけの場合やその一部の支払をしただけの場合は、解雇することはできません(労働者の保護のためです)。
3 行政官庁の認定は不要
なお、打切補償の支払による解雇制限期間中の解雇が認められるためには、行政官庁の認定が不要なことには要注意です(もう一つの例外の「やむを得ない事由のため事業継続不可能」の場合は、認定が必要です)。
「やむを得ない事由のため事業継続不可能」の場合には、この「やむを得ない事由」等の判断は一義的には明らかではありませんから、労働者の保護の見地より、この要件に該当していることを確認するために行政官庁の認定を要求しています。
しかし、本件の打切補償の場合には、補償が支払われたかどうかは客観的に明確になりやすいものであるため、補償が支払われたことについて行政官庁に確認させるような手続の負担までは要求していないことになります。
4 傷病補償年金
なお、業務上の災害の場合、通常は、労基法上の災害補償制度に代わり労災保険法上の労災保険制度が適用されることとなります(労災保険制度は、労基法上の使用者の災害補償責任を実効化するために保険制度化したものですので、労基法上の災害補償責任が生じる場合は、原則として、労災保険制度による保護がなされます)。
そして、労災保険制度においても、打切補償に相当する制度が定められています。
即ち、業務上の傷病による療養開始後3年を経過した日以後に傷病補償年金を受けている場合は、労基法上の打切補償を支払ったものとみなされます(労災保険法第19条。労災保険法のこちら以下)。
そこで、この場合も、解雇制限期間であっても解雇できることになります。
傷病補償年金とは、「業務上の傷病」にある労働者が、当該傷病に係る療養開始後1年6か月経過した日以後において、当該傷病が治ゆしていず、かつ、一定の障害程度にある場合に、当該状態の継続中、支給される労災保険法上の保険給付です(労災保険法第12条の8第3項)。「業務災害に関する保険給付」の一つです。
なお、上記の「業務上の傷病」の部分が「通勤による傷病」に代わる場合は、「通勤災害に関する保険給付」としての「傷病年金」が支給されます(また、この「業務上の傷病」の部分が「複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由による傷病」に代わる場合は、「複数業務要因災害に関する保険給付」としての「複数事業労働者傷病年金」が支給されます。この「複数業務要因災害に関する保険給付」は、令和2年9月1日施行の労災保険法の改正により新設された保険給付です。
即ち、「複数業務要因災害に関する保険給付」とは、複数事業労働者(事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者等)の2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(これを「複数業務要因災害」といいます)に関する保険給付であり、2以上の事業の業務が要因となって初めて傷病等との因果関係が認められる場合(一つの事業の業務のみでは傷病等との因果関係が認められない場合。この場合は、「業務災害」には該当しません)について保険給付を支給しようとするものです)。
労災保険法の保険給付については、業務災害、通勤災害又は複数業務要因災害に応じて名称が区別されています。
業務災害の場合は、保険給付の名称に「補償」と入りますが、通勤災害の場合は、「補償」と入りません(業務災害の場合は、労基法の災害「補償」責任をベースにしたものであることから、保険給付の名称に「補償」が含まれます)。
複数業務要因災害の場合は、前述の「複数事業労働者傷病年金」の例のように、「複数事業労働者+通勤災害に関する保険給付の名称」というパターンになります(以上、詳しくは労災保険法のこちら以下で見ますが、さしあたりリンク先をご覧頂く必要はありません)。
本問では、業務上傷病が問題となる場合ですので、業務災害に係る傷病補償年金が問題となり、傷病年金等は問題となりません。
【労災保険法】
労災保険法第19条 業務上負傷し、又は疾病にかかつた労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなつた場合には、労働基準法第19条第1項の規定〔=解雇制限期間〕の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなつた日において、同法第81条の規定により打切補償を支払つたものとみなす。 |
以上の傷病補償年金等についての詳細は、労災保険法で学習しますので、ここではざっとで結構です。
次に例外の2番目です。
(二)やむを得ない事由のため事業継続不可能の場合
◆天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においても、解雇制限期間中の解雇が可能となります(第19条第1項ただし書)。
ただし、この場合は、当該事由について行政官庁〔=所轄労働基準監督署長〕の認定を受けることが必要です(第19条第2項)。
○趣旨
やむを得ない事由のため事業継続が不可能となった場合には、解雇を認めざるを得ないことから、解雇制限期間の例外を認めたものです。
ただし、労働者の保護も考慮する必要があるため(打切補償の場合に比べ、本件では、形式的には労働者側の事情が考慮されていません)、この「やむを得ない事由のため事業継続が不可能となった場合」の判断は、下記のように厳格に解されていますし、また、当該事由について行政官庁の認定が要求されています。
1「やむを得ない事由」
「やむを得ない事由」とは、「天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づき突発的な事由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともなしがたいような状況にある場合」をいうとされます(【昭和63.3.14基発第150号/婦発第47号】参考)。
つまり、かなり厳格に解されており、単なる経営不振による事業継続不能の場合などは、「やむを得ない事由」に該当しません。【過去問 令和5年問5E(こちら)】
具体的には、次の表のような例が挙げられています。 【過去問 平成30年問5C(こちら)】
2「事業継続が不可能となった場合」
「事業継続が不可能となった場合」とは、「事業の全部又は大部分の継続が不可能となった場合」をいいます。
例えば、次のようなケースは含まれません(前掲【昭和63.3.14基発第150号/婦発第47号】参考)。
・当該事業場の中心となる重要な建物、設備、機械等が焼失を免れ、多少の労働者を解雇すれば従来通り操業し得る場合。
・従来の事業は廃止するが、多少の労働者を解雇すればそのまま別個の事業に転換し得る場合の如く、事業がなおその主たる部分を保持して継続し得る場合。
・一時的に操業中止のやむなきに至ったが、事業の現況、資材、資金の見通し等から全労働者を解雇する必要に迫られず、近く再開復旧の見込みが明らかであるような場合。
3 行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定
○趣旨
「やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」については、この「やむを得ない事由」等の判断が一義的には明らかではないことから、使用者の恣意的判断による濫用を防止して労働者の保護を図る見地より、この要件に該当していることを確認するために、行政官庁(具体的には、所轄の労働基準監督署長です(施行規則第7条))の認定を受けることを要求しています(第19条第2項)。
認定とは、公の権威をもって特定の事実又は法律関係の存否又は真否を確認する行為をいいます。
【施行規則】
施行規則第7条 法第19条第2項の規定による認定〔=やむを得ない事由のため事業継続不可能な場合の解雇制限期間の適用除外に係る認定〕又は法第20条第1項但書前段〔=天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合の解雇予告制度の適用除外〕の場合に同条第3項の規定により準用する法第19条第2項の規定による認定は様式第2号により、法第20条第1項但書後段〔=労働者の帰責事由に基き解雇する場合の解雇予告制度の適用除外〕の場合に同条第3項の規定により準用する法第19条第2項の規定による認定は様式第3号により、所轄労働基準監督署長から受けなければならない。 |
※ 行政官庁の認定を受けていない解雇の効力:
「やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」において、使用者が行政官庁の認定を受けずに解雇をしたとき、かかる解雇が有効かは問題です。
この点は、認定事由(解雇制限の除外事由=やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となったこと)に該当する事実がない場合は、解雇は無効となりますが、認定事由に該当する事実がある場合は、罰則の適用は受けるにしても、解雇の効力には影響がなく、解雇は有効であると解されています(【昭和63.3.14基発第150号】)。
即ち、認定は、解雇の効力発生要件ではなく、単に行政官庁の確認行為であると解されています。
理由としては、条文上、認定が解雇の効力発生要件である旨の規定がなされているわけではないこと、また、客観的に認定事由に該当する事実が存在する場合には、認定を受けていない解雇を有効と取り扱っても、労働者に実質的な不利益は生じにくいといえること等が考えられます。
従って、認定を受けずに解雇の意思表示をした後に、認定を受けた場合は、当該解雇の効力は「解雇の意思表示をした日」に発生すると解されます(「認定を受けた日」に解雇の効力が発生するのではありません)。
以上で、解雇制限期間の本文について終了します。
この後、過去問と横断整理等を見ておきます。
○過去問:
・【平成19年問4B】
設問:
業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業している労働者については、使用者が、労働基準法第81条の規定によって打切補償を支払った場合(労働者災害補償保険法第19条の規定によって打切補償を支払ったものとみなされた場合を含む。)又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となりその事由について行政官庁の認定を受けた場合には、労働基準法第19条第1項の規定により解雇制限は適用されない。
解答:
正しいです(第19条第1項ただし書、第2項)。
なお、打切補償を支払う場合については、行政官庁の認定は不要であることに注意です。
ちなみに、本問のかっこ書の「労働者災害補償保険法第19条(労災保険法のパスワード)の規定によって打切補償を支払ったものとみなされた場合を含む」とあるのは、本文のこちらで掲載しましたように、業務上の傷病による療養開始後3年を経過した日以後に労災保険法の傷病補償年金を受けている場合は、労基法上の打切補償を支払ったものとみなされ、従って、解雇制限期間であっても解雇ができるというものです(労災保険法のこちら以下)。
・【平成21年問2C】
設問:
使用者は、産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合であっても、解雇してはならない。
解答:
誤りです。
産前産後の休業期間であっても、やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合は、解雇することができます(第19条第1項ただし書)。
なお、当該やむを得ない事由について、行政官庁〔=所轄労働基準監督署長〕の認定を受けることは必要です(第19条第2項)。
・【平成27年問3E】
設問:
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、労働基準法第81条の規定によって打切補償を支払う場合、又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となりその事由について行政官庁の認定を受けた場合を除き、労働者を解雇してはならない。
解答:
正しいです。第19条の通りです。
・【平成30年問5C】
設問:
使用者は、税金の滞納処分を受け事業廃上に至った場合には、「やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」として、労働基準法第65条の規定によって体業する産前産後の女性労働者であっても解雇することができる。
解答:
誤りです。
使用者は、産前産後の休業期間及びその後30日間は、解雇することができないのが原則ですが(解雇制限期間)、例外として、使用者が、打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合は、解雇することが認められます(第19条第1項)。
本問では、使用者が「税金の滞納処分を受け事業廃上に至った場合」が、この「やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に該当するかの問題です。
この点、「税金の滞納処分を受け事業廃上に至った場合」は、こちらの表の右欄の(2)のケースにあたるため、「やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」には該当しないと解されています(この「やむを得ない事由」は、不可抗力的なものに限定されています)。
よって、本問では、使用者は解雇することができません。
・【令和5年問5E】
設問:
従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がないために事業が金融難に陥った場合には、労働基準法第19条及び第20条にいう「やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に該当しない。
解答:
正しいです(【昭和63.3.14基発第150号】)。
第19条(解雇制限期間)及び第20条(解雇予告制度)について、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(所轄労働基準監督署長の認定を受けることが必要です)は、解雇制限期間又は解雇予告制度の適用が排除されます(両者における「天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合」は、同様に判断するものと解されています)。
そして、この「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」は、厳格に解されており、「天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づき突発的な事由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともなしがたいような状況にある場合」とされています(前掲通達)。
そこで、本問の「従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がないために事業が金融難に陥った場合」は、これに含まれません。こちらの表の右欄の(4)のケースです。
※【横断整理】
労基法上、「認定」が必要となる4ケースがあります:
〇 労基法上、認定が必要となる4つの場合:
(1)解雇制限期間の例外(第19条第2項)(これまで学習したものです。打切補償を支払う場合には、認定は不要であることに注意です。)
(2)解雇予告制度の例外(第20条第3項)(次の次のページ(こちら)で学習します。)
(3)年少者の帰郷旅費支給の例外(第64条ただし書)
年少者(満18歳に満たない者)が解雇日から14日以内に帰郷する場合には、使用者は必要な旅費を負担する義務を負いますが、年少者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者が当該事由について行政官庁の認定を受けた場合は例外的に免責されます。 こちら以下で学習します。
(4)休業補償及び障害補償の例外(第78条)
労働者が重大な過失によって業務上傷病にあり、かつ、使用者が当該過失について行政官庁の認定を受けた場合は、使用者は、休業補償又は障害補償を免責されます。 こちらで学習します。
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とりあえず、以上の4つをゴロ合わせで覚えておきます(まとめて覚える実用性があまりないのですが、参考までに)。
※【ゴロ合わせ】
・「寝てねーのは、解雇のせいよ。寝に帰る旧正月」
(寝てないのは解雇された心労のせいで、今度の旧正月には実家に寝に帰ります。)
→「寝て(=「にんて」い)ねーのは、解雇の、せい(=「解雇制」限期間)、よ(=「予」告)。
寝に、帰る(=「年」少者の「帰」郷旅費)、旧・正月(=「休」業補償、「障害」補償)」
※ 労働者派遣契約の解除:
最後に、労働者派遣の場合の問題について触れておきます。
派遣中の労働者(派遣労働者)と派遣元との間の「労働契約」と、当該派遣労働者を派遣している派遣元と派遣先との間の「労働者派遣契約」とは、別個のものです。
そこで、派遣先が労働者派遣契約を解除した場合であっても、当該労働者派遣契約は労働契約ではないため、当該労働者派遣契約の解除については、労働基準法の解雇に関する規定が適用されることはありません。
従って、派遣先が、派遣労働者の解雇制限期間中に労働者派遣契約を解除し、又は予告なしに即時に解除すること(これは次の次のページで学習します)は、労働基準法上の問題は生じませんが、派遣元の使用者が当該派遣労働者を解雇しようとする場合には、労働基準法が適用されますので、解雇制限期間中は解雇できず、また解雇予告等の手続も必要となります。
なお、労基法第19条(解雇制限期間)及び第20条(解雇予告の制度)における事業の継続が不可能であるかどうかの判断は、派遣元の事業について行われますので、仮に、派遣労働者が派遣されている派遣先の事業の継続が不可能となったとしても、「事業継続不可能」には該当しません(以上【昭和61.6.6基発第333号】参考)。
次のページでは、【学校法人専修大学事件=最高裁平成27年6月8日】を見ておきます。平成28年度の選択式試験に出題されました。