【令和6年度版】
第2節 労働時間
序論 体系
まず、労働時間、休憩、休日に関する体系を掲載しておきます(すでに冒頭の「労基法の目的・体系」のページでご紹介しました)。
第1款 労働時間の原則
§1 法定労働時間
◆法定労働時間は、原則として、1週間について40時間、1日について8時間となります(第32条)。
法定労働時間とは、法律上認められる労働時間の最長限度のことをいいます。
所定労働時間とは、就業規則等で定める始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間のことをいいます。
即ち、就業規則等において労働者が労働契約上労働すべき時間として定められた時間のことです
なお、労働時間とは、休憩時間を除いた実労働時間のことをいいますが、詳しくは、次のページの〔2〕で学習します。
【条文】
第32条(労働時間) 1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。 |
○趣旨
法定労働時間(労働時間の最長限度)を定めることにより、長時間労働を制限して、労働者の心身の保護等を図ろうとした趣旨です。
第32条では、第1項において、週の法定労働時間(40時間)を定め、第2項において、1日の法定労働時間(8時間)を定めています。
これは、労働時間の規制について、1週間単位を基本として、1日の労働時間は1週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考えるというあり方です(昭和62年の労基法の改正前は、「労働時間は、1日について8時間、1週間について40時間を超えてはならない」と規定され、現在と逆の順番になっていました。ただし、この改正後の考え方が、改正前に比べて法的効果において実際上の違いをもたらすというわけではありません)。
※ なお、注意点は、第32条は、時間外労働(法定労働時間を超える労働のこと)を規制するものであり、同条における「1週間について40時間」や「1日について8時間」の中には、休日労働の時間は含まないということです(休日労働とは、法定休日(=第35条(労基法のパスワード)の週1回又は4週4回の休日)に労働させることですが、のちにこちら等において詳しく見ます)。
換言しますと、法定休日においては時間外労働は生じないと解されているということです。
即ち、法定休日における労働が8時間を超えても、時間外労働とはなりません(この場合は(深夜に至らない限りは)休日労働だけが発生するということです)。
例えば、36協定に関する第36条第1項では、「労働時間」の延長と「休日」に労働させることを分けていますから(また、同条第5項では、「1箇月について『労働時間』を延長して労働させ、及び『休日』において労働させることができる時間」としています)、条文上、「労働時間」と「休日」は区別されているのです(時間外労働と休日労働は区別されているということです)。
詳しくは、のちにこちら以下で見ます。
〔1〕1週間及び1日の意義
一 1週間
「1週間」とは、就業規則等において別段の定めのない限り、日曜から土曜までの暦週をいうとされます(【昭和63.1.1基発第1号】参考)。
【過去問 平成30年問1オ(こちら)】
二 1日
(一)「1日」とは、原則として、午前零時から午後12時までの暦日をいうとされます(1日について、労基法上、特別な定義規定がないことから、民法の一般原則に従うとされています。下記の民法第140条及び第141条参考)。
【参考条文 民法】
民法第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。 |
民法第141条(期間の満了) 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。 |
(二)ただし、継続勤務が2暦日にわたる場合は、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とするとされます(前掲の【昭和63.1.1基発第1号】参考)。
【過去問 令和元年問6A(こちら)】
以下、詳しく見ます。
1 例えば、16時間隔日勤務制(一般に、拘束時間が16時間あり、24時間(1日)前後の休日(休息)を置いてさらに同様の勤務をする制度のことをいいます。後掲の図を参照)において、労働時間が午前零時をはさんで前後8時間ずつある場合は、暦日を単位として考えれば1日8時間ずつの労働となってしまいますが、これでは長時間労働を制約しようとした第32条の法定労働時間の趣旨は実現できないことになります(連続16時間労働でも、時間外労働とならず、労基法による規制(罰則の適用、割増賃金の支払義務等)を受けないことになるからです。なお、時間外労働とは、法定労働時間を超える労働のことをいいます)。
そこで、本件では、前日から継続する16時間労働とみるべきであり、第32条第2項の1日8時間労働の制限に違反することになります(その他に、休憩の付与義務違反等の問題も生じることがあります)。
2 同様に、例えば、日勤の時間外労働が翌日に及んだ場合も、暦日の原則を適用して午前零時をもって分断しそれ以降の労働時間を翌日の労働と解すべきではなく、前日の労働時間の延長と解すべきとなります。
3 また、連続3交代勤務制(8時間3交代勤務制)の場合、例えば、次の図のように7時~15時、15時~23時、23時~翌日7時のシフトにより交代制で勤務するケースも問題です。
この連続3交代勤務制の場合も、暦日を原則とします。
ただし、例外として、2暦日にわたる1勤務の場合(上記図の3番方のケース)は、暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、始業時刻の属する日の労働として当該日の1日の労働と取り扱われています(上記(こちら)の2のルールの適用です)。
即ち、前掲の図の場合、1番方と2番方は、2暦日にわたって労働していないため、当該労働日の午前零時から午後12時までが1日と取り扱われます。
対して、3番方については、2暦日にわたって労働しているため(23時から翌日7時までの労働)、始業時刻の属する日から継続して1日と取り扱います。
(【昭和42.12.27基収第5675号】/【平成11.3.31基発第168号】参考)
例えば、この3番方が休憩なしで午前8時まで残業をしたとしますと、前日の23時から9時間連続労働となるため時間外労働となります。
この場合、午前0時で分断して、前日の23時からの1時間の労働と翌日の0時から午前8時までの8時間労働に分けるのではありません。これでは、不当に時間外労働が生じなくなるのです。
○過去問:
・【平成30年問1オ】
設問:
労働基準法第32条第1項は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」と定めているが、ここにいう1週間は、例えば、日曜から土曜までと限定されたものでなく、何曜から始まる1週間とするかについては、就業規則等で別に定めることが認められている。
解答:
正しいです。
法定労働時間を定める第32条第1項の「1週間」とは、「就業規則等において別段の定めのない限り」、日曜から土曜までの暦週をいうとされます(【昭和63.1.1基発第1号】)。
従って、「何曜から始まる1週間とするかについては、就業規則等で別に定めることが認められている」ことになります。
・【令和元年問6A】
設問:
労働基準法第32条第2項にいう「1日」とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいい、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とする。
解答:
正しいです。
「1日」とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいいますが、継続勤務が2暦日にわたる場合には、暦日を異にする場合でも「2日」の2勤務とするのではなく、「1日」の1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とします(【昭和63.1.1基発第1号】)。
そう解さないと、時間外労働の規制の趣旨が実現できないからです。
本文は、こちら以下です。
【参考:罪数】
少し難しいのですが、法定労働時間に関係する罪数の問題について触れておきます。
法定労働時間を超えてなされた違法な時間外労働等が複数の労働者について複数の日数にわたって行われたときの罪数がどうなるかです(水町「詳解労働法」第2版675頁(初版657頁)参考)。
以下、太字部分を眺めて下さい(初学者の方は、カットして次のページにお進み下さい)。
1 複数の労働者を複数の日数にわたって時間外労働(深夜労働)させた場合
複数の労働者を複数の日数にわたって時間外労働(深夜労働)させた場合について、判例(【最決昭和34.7.2=藪清紡績事件】。原審の【大阪高判昭和33.12.2】の判断を是認)は、特段の事情のない限り、その使用日ごとに各労働者別に独立して罪が成立し、それらは併合罪の関係となるとします。
即ち、労働者数や日数を問わずに、全体として包括一罪となるのではありません。
原審は、規制の趣旨を考慮しています。
ちなみに、この事案は、正確には、複数の年少者及び「女子」に対する複数の日数にわたる「深夜労働」のケースです。
判決当時の第62条においては、18歳未満の者及び女子について、原則として深夜労働が禁止されていました。
現在(平成9年の改正により平成11年4月1日施行)は、女子に対する深夜労働の禁止は廃止され、こちら以下(労基法のパスワード)のように第61条において、年少者(18歳未満の者)のみが深夜労働禁止の対象とされています。
以下は、「深夜労働」を「時間外労働」のケースに置き換えて考えてみます。
いくつの罪(犯罪)が成立するのかの判断基準については、こちら以下で触れましたが、基本的には、1つの構成要件に該当すると評価すれば足りるのかどうかということになります(構成要件評価説)。
具体的には、侵害された法益(法によって保護すべき利益のことです)の数・種類、行為の数、行為者の意思、法定刑の違い等を考慮して総合的に判断することになると思われます。
この点、法定労働時間制(第32条)は、労働時間の最長限度を定めることにより、長時間労働を制限して、労働者の心身の保護等を図ろうとした趣旨です。
そうしますと、労働者の心身の保護という観点(法益)からは、労働者ごとに保護の必要がありますし、労働者ごとや労働日ごとに時間外労働時間数も異なる場合がありますから、複数の労働者や複数の労働日の全体について1罪が成立するのではなく、それぞれの使用日について労働者ごとに1罪が成立すると解すべきなのでしょう。
そして、これらの労働者ごとの時間外労働は、「法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合」(=観念的競合)とはいえませんから、結局、併合罪の関係にあると解されることとなります。
複数の労働者を複数の日数にわたって深夜労働させた場合も同様となります。
なお、賃金支払の5原則の事案ですが、【日本衡器工業事件=最決昭和34.3.26】では、複数の労働者に対する第24条第2項の賃金の一定期日払の原則の違反における罪数について、「その犯意が単一であると認め難いときは、支払を受け得なかった労働者各人毎に同条違反の犯意が形成されているものと認められる」旨の原審(【東京高判昭和33.7.17】)の判断を是認しています(この場合、複数の罪が成立し、これらは併合罪の関係となります)。
原審は、「第24条第2項違反は支払を受けなかった労働者各人について犯罪が成立するのでなく、多数労働者に対する集団的不払は単一の犯意に基く一個の違反に過ぎない」といった旨の労働者側の主張に対して、「労働基準法第24条第2項違反の犯罪は労働者に対する一定期日に於ける賃金の支払を確保する趣旨のもので、その犯意が単一であるとは認め難いときは、支払を受け得なかつた労働者各人毎に同条違反の犯意が形成されているものと認められ、単一犯意による一個の違反行為が存在するのみであるとすることはできない」と判示しています。
ここでは、賃金の一定期日払の原則違反について、労働者ごとに1罪が成立するものとはされていますが、犯意という主観的要素が考慮(重視)され、全体として1罪となる余地も認められています。
例えば、会社が倒産して、複数の労働者全体について賃金を支払えなくなったようなケースでは、第24条第2項違反の「犯意が単一である」として、複数の労働者全体について包括して1罪が成立し得ることが示唆されているようです。
前記の通り、罪数の決定において、行為者の意思を考慮することはできますが、どのような場合にどのような形で意思を考慮するのかについては、一般化しにくいです。
2 週40時間労働の規制違反と1日8時間労働の規制違反との関係
また、週40時間労働の規制(第32条第1項)違反と1日8時間労働の規制(同条第2項)違反がある場合の罪数も問題となります。
これらは、それぞれ別個の罪として成立するのか、それとも包括して1罪が成立するに過ぎないのかです。
この点、【X石油株式会社事件=最決平成22.12.20】は、36協定の定めに違反して、ある1週間において、労働者Aについて、週40時間労働の規制違反と1日8時間労働の規制違反をさせた事案において、それぞれ別個の罪として成立し、それらは併合罪の関係に当たるとしました。次の通りです。
「労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)とは規制の内容及び趣旨等を異にすることに照らすと、同条1項違反の罪が成立する場合においても、その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し、それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであって〔=これは観念的競合とならないということです〕、両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。」
ここでは、第32条の法定労働時間の規制の内容と趣旨等が考慮されています。
週40時間労働の規制(第32条第1項)と1日8時間労働の規制(同条第2項)が当然に重複するわけではありません(例えば、1日8時間労働を超えても、その週について40時間以内の労働に収まることがありますし、逆に、週40時間労働を超えても、その週について8時間以内の労働に収まっている日がありえます)。
そこで、第32条は、週単位と1日単位という異なった単位により労働時間を規制をしているのですから、両者の規制に違反した場合においても、両者をそれぞれ独立に評価する必要があるという考え方といえます。
原審(【大阪高判平成21.12.17】)の次の判示が参考になります。
「同条〔=第32条〕1項は、1週を通じた総労働時間を規制することで疲労の累積を少なくし、その回復等を図る趣旨、同条2項は、1日の労働時間を規制することで過度の疲労の防止等を図る趣旨と解され、それぞれ別個の意義を有すること、実際に、その規定ぶりに照らしても、同条1項による週単位の時間外労働の規制は、同条2項による日単位の時間外労働の総和を規制しているものではなく、ある週を構成する労働日の労働時間のすべてが同条2項に違反しない場合であっても、同条2項に違反する場合があること(例えば、月曜日から土曜日までの各労働時間がいずれも8時間の場合。なお、もとより、同条1項に違反しない場合であっても、その週を構成する労働日が同条2項に違反する場合があることは明らかである。)などに照らすと、同条1項違反の罪が成立する場合には法条競合により同条2項の罪が成立しないとするのは不合理である」
次ページでは、「労働時間」の問題に入ります。