【令和5年度版】
第2款 労働時間の例外
次に、法定労働時間制の例外として、変形労働時間制とみなし労働時間制について学習します。
第1項 変形労働時間制
総論
一 意義、趣旨
◆変形労働時間制とは、一定の単位期間(基準となる期間のことです。広義の変形期間ともいいます)中の週平均の(所定)労働時間が、週の法定労働時間を超えない範囲内において、特定の週又は日に法定労働時間を超えて労働させられる制度のことです。
換言しますと、単位期間中の法定労働時間の総枠の範囲内(※1)で、特定の週又は日に法定労働時間を超えて所定労働時間を設定できる制度です(つまり、法定労働時間の総枠の範囲内で、時間外労働を適法化させることになります)。
※ 以上のフレーズは、大まかに覚えて下さい。
変形労働時間制は、業務の繁閑等に対応して労働時間の効率的な配分を行うことにより、業務上の必要性を満たすと共に労働時間の短縮を図ることを目的としたものです。
二 種類
労基法上、4つの変形労働時間制が定められています。
〇 変形労働時間制の4つ:
A 1箇月単位の変形労働時間制(第32条の2(労基法のパスワード)。こちら以下)
|
この4つの変形労働時間制の大まかな特徴を説明します(以下、「変形労働時間制」のことを、単に「変形制」ということがあります)。
なお、上記の4つの変形制は、条文上は(上記の条番号からおわかりのように)、Cのフレックスタイム制の後にBの1年単位の変形制が規定されていますが、当サイトでは学習のしやすさを考慮して、両者の順番を逆にして説明していきます(なお、Aの「1箇月単位の変形労働時間制」の「1箇月」については、通常は、「1か月」等と表記しますが、当サイトではさしあたり条文通りに表記しておきます)。
上記4つの変形制は、いずれも単位期間中の週平均の労働時間が週の法定労働時間を超えない範囲内において、特定の週又は日に法定労働時間を超えて労働させられる制度という点で共通します。
換言しますと、労働時間の規制の対象の原則である「1週間及び1日」(第32条)を「単位期間」に拡大する制度ということになります(法定労働時間の枠を柔軟化するものともいえます)。
ただ、この4つのうち、「C フレックスタイム制」と「D 1週間単位の変形制」は、異質性があります。
まず、「A 1箇月単位の変形制」と「B 1年単位の変形制」は、オーソドックスな変形制といえます。
両者は、基本的には、単位期間が1箇月以内の期間か(=1箇月単位の変形制)、それとも1箇月を超え1年以内の期間か(=1年単位の変形制)という点で異なります。
そして、どちらも、予め単位期間中の各日・各週の労働時間を特定することが原則として必要です(労働者に不測の労働の負担が生じることを防止して、生活設計を可能にさせるためです)。
なお、1年単位の変形制の場合は、単位期間が長期であるため、過重労働が長期間集中するおそれがあることを考慮して、採用できる要件が厳格化されています。
対して、「C フレックスタイム制」は、労働者が始業及び終業の時刻を決定できる制度(即ち、労働者が1日の労働時間を決定できるもの)であるという点で、他の3つの変形制と大きく異なります(そこで、フレックスタイム制を除くその他の3つを「変形労働時間制」ということが多いです。ただ、当サイトでは、4つすべてを「変形労働時間制」と表現しておきます)。
つまり、他の変形制(1箇月単位、1年単位の変形制)のように、予め各日・各週の労働時間を特定することは要求されません(労働者が自ら1日の所定労働時間を決定できる以上、労働者の生活設計は保障されているからです)。
なお、フレックスタイム制では、単位期間(最長3箇月の期間)内に一定時間(総労働時間)労働することは必要です。
他方、「D 1週間単位の変形制」は、単位期間が1週間の変形制ですが、予め各日の労働時間を特定しておく必要がない(各週の開始までに各日の労働時間を通知すれば足りる)点で、1箇月単位や1年単位の変形制と異なります(そこで、一般に、「非定型的」変形労働時間制といわれます)。
1週間単位の変形制も、労働者の生活設計を困難にさせる面があるため、採用するための要件が厳格化されています(常時30人未満の労働者を使用する小売業、旅館、料理店及び飲食店であること等の要件が必要です)。
※1 法定労働時間の総枠:
変形労働時間制は、単位期間(以下、「変形期間」といいます)中の法定労働時間の総枠の範囲内で、時間外労働を適法化させるものですが、この「法定労働時間の総枠」とは次の意味です。
即ち、法定労働時間は1週(7日)で40時間(特例事業の場合は44時間)であり、この法定労働時間が、変形期間(例えば1箇月で30日の場合)では何時間にあたるのかを換算し(この換算された法定労働時間が、「法定労働時間の総枠」です)、変形期間中の所定労働時間の合計がこの換算された法定労働時間(=法定労働時間の総枠)の範囲内にあるならば、たとえ週や日の法定労働時間を超えて所定労働時間が定められていても(1週当たりの平均の所定労働時間は週の法定労働時間を超えていないため)、許容されることになります。
例えば、1箇月単位の変形制の場合、法定労働時間の総枠は、次の計算式となります。
この計算式の右端枠内の分数の個所が、当該変形期間が何週間にあたるか(=当該変形期間の週数)の部分です。それを1週の法定労働時間である40時間(又は44時間)に乗ずることにより、当該変形期間における法定労働時間に換算した時間(=法定労働時間の総枠)が計算されるということです。
例えば、1箇月単位の変形制の場合に1箇月が30日の月については、
法定労働時間の総枠は、40時間 × 30/7として、171.4時間となります。
そこで、この時間の範囲内で、労使協定等により予め各日・各週の労働時間を特定して定めておけば、その特定された日や週の所定労働時間が法定労働時間を超えていても、時間外労働にはならないということです(換言しますと、この「30日で171.4時間」という総枠の範囲内で所定労働時間を定めるということは、1週間当たりの平均の所定労働時間は週の法定労働時間(40時間)を超えていないということなのです)。
※ なお、4つの変形制のまとめの図は、こちらに掲載しています。本文を読み終えてから知識を再整理するのにご利用下さい。
〇 データ
変形労働時間制に関するデータです(【令和5年 就労条件総合調査】)。
※ 以下のデータは、令和5年10月31日に公表された最新のデータ(令和6年度試験の直近のデータ)です。
詳しくは、「令和6年度版 白書対策講座」でご紹介します(こちら以下)。
1 種類別採用企業割合
(1)変形労働時間制を採用している企業割合 = 59.3%(令和4年調査では64.0%、令和3年及び2年調査では59.6%、平成31年調査では62.6、平成30年調査では60.2%、平成29年調査では57.5%)。
※ 前年調査より減少です。
(2)企業規模別
・1,000人以上 = 77.3%(前回77.9%、前々回76.4%、前々々回77.9%)
・300~999人 = 68.6%(同69.7%、同69.5%、同72.5%)
・100~299人 = 67.9%(同66.1%、同63.1%、同64.4%)
・30~99人 = 55.3%(同62.4%、同56.9%、同56.2%)
※ 企業規模が大きいほど、変形労働時間制を採用している企業割合が多いです。
※ また、今回の調査では、前年調査より増加したのは「100~299人」規模の企業のみです。
(3)変形労働時間制の種類別(複数回答)
・「1年単位の変形労働時間制」 =31.5%(前回34.3%、前々回31.4%、前々々回33.9%、)
・「1か月単位の変形労働時間制」=24.0%(同26.6%、同25.0%、同23.9%)
・「フレックスタイム制」 =6.8%(同8.2%、同6.5%、同6.1%)
【過去問 労働一般 平成28年問4C】
※ つまり、「1年単位 = 30%強」、「1か月単位 = 約25%」、「フレックス = 約7%」です。大まかには「6:5:1」の関係です。
フレックスタイム制の採用割合が7%弱に過ぎませんが(労働者にとっては便利な制度ですが、使用者にとっては労働者をコントロールしにくい制度です)、近年、採用割合が増加傾向にありました(今回は減少しましたが)。
今回の調査では、すべての変形性の種類について前回より採用割合が減少しています。
2 種類別適用労働者割合
(1)変形労働時間制の適用を受ける労働者割合=51.7%(前回の令和4年調査では、52.1%、前々回の令和3年調査では48.9%、前々々回の令和2年調査では51.5%、平成31年調査では53.7%、平成30年調査では51.8%、平成29年調査では50.7%、平成28年調査では52.3%)。
※ 前回は3年ぶりに増加しましたが、今回は再び減少しました。
(2)変形労働時間制の種類別
・「1年単位の変形労働時間制」=18.7%(令和4年調査19.0%、令和3年調査17.8%、令和2年調査19.1%、平成31年調査21.4%、平成30年調査33.8%、平成29年調査34.7%)
・「1か月単位の変形労働時間制」=22.0%(同22.7%、同21.5%、同23.0%、同23.9%、同20.9%、同23.9%)
・「フレックスタイム制」=10.6%(同10.3%、同9.3%、同8.2%、同5.4%、同4.6%、平成28年調査7.8%)
※ フレックスタイム制は、6年連続増加し、前回から10%を超えています。
次ページ以下において、4つの変形制を順に見ていきます。