令和3年度 労基法

令和3年度(2021年度)の労働基準法の本試験問題のインデックスを掲載します。

 

リンク先に本試験問題及びその解説を掲載しています。 

 

 

択一式

○【問1】=総則に関する問題:

 

【令和3年問1A】 

(第1条第2項(労働条件の原則)の「この基準を理由として」の意義)

 

【令和3年問1B】

(第3条(均等待遇)が禁止する「差別的取扱」をするとは、当該労働者を有利又は不利に取り扱うことをいう。)

 

【令和3年問1C】

(第5条(強制労働の禁止)に定める「脅迫」とは、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人又は本人の親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、脅迫者自ら又は第三者の手によって害を加えるべきことを通告することをいが、必ずしも積極的言動によって示す必要はなく、暗示する程度でも足りる。)

 

【令和3年問1D】 

(公民権行使の保障(第7条)の条文の出題)

 

【令和3年問1E】

(労働者が法令により負担すべき所得税等を事業主が労働者に代わって負担する場合、当該代わって負担する部分は、労働者の福利厚生のために使用者が負担するものであるから、第11条の賃金とは認められない。)

 

 

○【問2】=労働契約及び年次有給休暇等に関する問題:

 

・【令和3年問2A】 

(第14条にいう「一定の事業の完了に必要な期間を定める」労働契約については、3年(同条第1項の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)を超える期間について締結することが可能であるが、その場合には、その事業が有期的事業であることが客観的に明らかであり、その事業の終期までの期間を定める契約であることが必要である。)

 

【令和3年問2B】

 (労働契約の締結の際に、使用者が労働者に書面により明示すべき「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」について、労働者にとって予期せぬ不利益を避けるため、将来就業する可能性のある場所や、将来従事させる可能性のある業務を併せ、網羅的に明示しなければならない。)

 

【令和3年問2C】

 (第17条にいう「労働することを条件とする前貸の債権」には、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融や賃金の前払いのような弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないものも含まれる。)

 

【令和3年問2D】

 (使用者は、過半数労働組合等に意見聴取をした上で、就業規則に、労働契約に附随することなく、労働者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約をすることができる旨を記載し、当該就業規則を行政官庁に届け出ることにより、労働契約に附随することなく、労働者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約をすることができる。)

 

【令和3年問2E】

 (第39条に従って、労働者が日を単位とする有給体暇を請求したとき、使用者は時季変更権を行使して、日単位による取得の請求を時間単位に変更することができる。)

 

 

○【問3】=賃金等に関する問題:個数問題

 

【令和3年問3ア】

(使用者は、退職手当の支払については、現金の保管、持ち連び等に伴う危険を回避するため、労働者の同意を得なくても、当該労働者の預金又は貯金への振込みによることができるほか、銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手を当該労働者に交付することによることができる。)

 

【令和3年問3イ】

(賃金を通貨以外のもので支払うことができる旨の労働協約の定めがある場合には、当該労働協約の適用を受けない労働者を含め当該事業場のすべての労働者について、賃金を通貨以外のもので支払うことができる。)

 

【令和3年問3ウ】

(使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することに、労働者がその自由な意思に基づき同意した場合においては、「右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定〔第24条第1項のいわゆる賃金全額払の原則〕に違反するものとはいえないものと解するのが相当である」が、「右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならない」とするのが、最高裁判所の判例である。)

 

 ・【令和3年問3エ】

(第24条第1項の禁止するところではないと解するのが相当と解される「許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならない」とするのが、最高裁判所の判例である。)

 

【令和3年問3オ】

(第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由には、「労働者の収入によって生計を維持する者」の出産、疾病、災害も含まれるが、「労働者の収入によって生計を維持する者」とは、労働者が扶養の義務を負っている親族のみに限らず、労働者の収入で生計を営む者であれば、親族でなく同居人であっても差し支えない。)

 

 

○【問4】=休業手当に関する問題:

 

【令和3年問4A】

(第26条(休業手当)は、債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができない場合、債務者は反対給付を受ける権利を失わないとする民法の一般原則では労働者の生活保障について不十分である事実にかんがみ、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障しようとする趣旨の規定であるが、賃金債権を全額確保しうる民法の規定を排除する点において、労働者にとって不利なものになっている。)

 

【令和3年問4B】

(使用者が休業手当を支払わなければならないのは、使用者の責に帰すべき事由によって休業した日から体業した最終の日までであり、その期間における第35条の休日及び労働協約、就業規則又は労働契約によって定められた同条によらない休日を含むものと解されている。)

 

 ・【令和3年問4C】

(就業規則で「会社の業務の都合によって必要と認めたときは本人を休職扱いとすることがある」と規定し、更に当該休職者に対しその体職期間中の賃金は月額の2分の1を支給する旨規定することは違法ではないので、その規定に従って賃金を支給する限りにおいては、使用者に本条の体業手当の支払義務は生じない。)

 

【令和3年問4D】

(親会社からのみ資材資金の供給を受けて事業を営む下請工場において、現下の経済情勢から親会社自体が経営難のため資材資金の獲得に支障を来し、下請工場が所要の供給を受けることができず、しかも他よりの獲得もできないため体業した場合、その事由は第26条の「使用者の責に帰すべき事由」とはならない。)

 

【令和3年問4E】

(新規学卒者のいわゆる採用内定について、就労の始期が確定し、一定の事由による解約権を留保した労働契約が成立したとみられる場合、企業の都合によって就業の始期を繰り下げる、いわゆる自宅待機の措置をとるときは、その繰り下げられた期間について、第26条に定める体業手当を支給すべきものと解されている。)

 

 

○【問5】=労働時間等に関する問題:

 

【令和3年問5A】

(令和3年4月1日から令和4年3月31日までを有効期間とする書面による時間外及び休日労働に関する協定を締結し、これを令和3年4月9日に厚生労働省令で定めるところにより所轄労働基準監督署長に届け出た場合、令和3年4月1日から令和3年4月8日までに行われた法定労働時間を超える労働は、適法なものとはならない。)

  

 ・【令和3年問5B】

(使用者は、労使協定により、1か月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができるが、この協定の効力は、所轄労働基準監督署長に届け出ることにより認められる。)

 

【令和3年問5C】

(第33条では、災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、所轄労働基準監督署長の許可を受けて、その必要の限度において第32条から第32条の5まで又は第40条の労働時間を延長し、労働させることができる旨規定されているが、満18才に満たない者については、第33条の規定は適用されない。)

 

【令和3年問5D】

(第32条又は第40条に定める労働時間の規定は、事業の種類にかかわらず監督又は管理の地位にある者には適用されないが、当該者が妊産婦であって、前記の労働時間に関する規定を適用するよう当該者から請求があった場合は、当該請求のあった規定については適用される。)

 

【令和3年問5E】

(フレックスタイム制を導入している場合の第36条による時間外労働に関する協定における1日の延長時間については、 1日8時間を超えて行われる労働時間のうち最も長い時間数を定めなければならない。)

 

 

○【問6】=第65条(産前産後休業等)に関する問題:

 

【令和3年問6A】

(第65条の「出産」の範囲は、妊娠4か月以上の分娩をいうが、1か月は28日として計算するので、4か月以上というのは、85日以上ということになる。)

   

 ・【令和3年問6B】

(第65条の「出産」の範囲に妊娠中絶が含まれることはない。)

 

【令和3年問6C】

(使用者は、産後8週間(女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせる場合は6週間)を経過しない女性を就業させてはならないが、出産当日は、産前6週間に含まれる。)

 

【令和3年問6D】

(6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性労働者については、当該女性労働者の請求が産前の休業の条件となっているので、当該女性労働者の請求がなければ、第65条第1項による就業禁上に該当しない。)

 

【令和3年問6E】

(第65条第3項は原則として妊娠中の女性が請求した業務に転換させる趣旨であるが、新たに軽易な業務を創設して与える義務まで課したものではない。)

 

 

○【問7】=就業規則等に関する問題:

 

【令和3年問7A】

(第89条第1号から第3号までの絶対的必要記載事項の一部を記載しない就業規則も、その効力発生についての他の要件を具備する限り有効であり、使用者は、そのような就業規則を作成し届け出れば同条違反の責任を免れることができるが、行政官庁は、このような場合においては、使用者に対し、必要な助言及び指導を行わなければならない。)

 

【令和3年問7B】

(欠勤(病気事故)したときに、その日を労働者の請求により年次有給休暇に振り替える取扱いが制度として確立している場合には、当該取扱いについて就業規則に規定する必要はない。)

 

【令和3年問7C】

(同一事業場において当該事業場の全労働者の3割について適用される就業規則を別に作成する場合、当該事業場において当該就業規則の適用を受ける労働者のみの過半数で組織する労働組合又は当該就業規則の適用を受ける労働者のみの過半数を代表する者の意見を聴くことで、第90条による意見聴取を行ったこととされる。)

 

【令和3年問7D】

(就業規則中に懲戒処分を受けた場合は昇給させないという欠格条件を定めることは、第91条(減給の制裁の制限)に違反する。)

 

【令和3年問7E】

(第91条にいう「一賃金支払期における賃金の総額」とは、「当該賃金支払期に対し現実に支払われる賃金の総額」をいい、一賃金支払期に支払われるべき賃金の総額が欠勤や遅刻等により少額となったときは、その少額となった賃金総額を基礎として10分の1を計算しなければならない。 )

 

 

 

選択式

次の文中の   の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。

 

1 賠償予定の禁止を定める労働基準法第16条における「違約金」とは、労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場合に労働者本人若しくは親権者又は  の義務として課せられるものをいう。

 

 

2 最高裁判所は、歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払により労働基準法第37条の定める割増賃金が支払われたといえるか否かが問題となった事件において、次のように判示した。

 

「使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、  に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、その前提として、労働契約における賃金の定めにつき、  に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である[… (略)…]。そして、使用者が、労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において、上記の判別をすることができるというためには、当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ、当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは、当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり[… (略)…]、その判断に際しては、当該手当の名称や算定方法だけでなく、[… (略)…]同条の趣旨を踏まえ、  等にも留意して検討しなければならないというべきである。」

 

 

3 事業者〔※「使用者」とあったのを「事業者」に訂正する正誤表あり〕は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の   に応じて適正な配置を行うように努めなければならない。

 

 

4 事業者は、高さが  以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行う場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。

 

選択肢:

 

①1メートル ②1.5メートル ③2メートル ④3メートル

⑤2親等内の親族 ⑥6親等内の血族 ⑦家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金 ⑧希望する仕事 ⑨就業経験 ⑩心身の条件 ⑪通常の労働時間の賃金 

⑫当該手当に関する労働者への情報提供又は説明の内容 ⑬当該歩合給 ⑭当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け ⑮同種の手当に関する我が国社会における一般的状況 

⑯配偶者 ⑰平均賃金にその期間の候度時間を乗じた金額 ⑱身元保証人 ⑲労働時間 ⑳労働者に対する不利益の程度 

 

 

 

選択式解答

A=⑱身元保証人(第16条

 

B=⑪通常の労働時間の賃金(【国際自動車事件=最判令和2.3.30】)

 

C=⑭当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け(同上)

 

D=⑩心身の条件(安衛法第62条

 

E=③2メートル(規則第518条第1項

 

 

選択式の論点とリンク先

〔1〕問1

 

本問は、賠償予定の禁止(第16条)における違約金の内容に関する出題です。

違約金とは、一般に、債務不履行の場合に債務者が債権者に支払うべきものとあらかじめ定められた金銭等のことであり、第16条の違約金においては、労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない場合に労働者側が支払義務を負うものです。

この違約金の支払義務を負う者(契約の相手方)は、労働者のみにならず、労働者の親権者又は身元保証人も含まれると解されています(厚生労働省「平成22年度版労基法コンメンタール」上244頁参考)。

なぜなら、第16条は、契約の相手方を労働契約の当事者である労働者に限定していないこと、また、賠償予定の禁止の趣旨の実効化の必要があること(労働者の身元保証人に対してなら賠償予定ができるとしては、実質的には、当該労働者の退職の自由が制約されることとなります)からです(本文は、こちら)。

 

労働憲章については、毎年度出題必至ですので、十分な準備が必要です。

今回は、条文の文言そのものではなく、関連する知識が問われたものですが、身元保証人については、【平成28年問2C(こちら)】で出題されていたため、正答できる内容でした。

 

 

〔2〕問2

 

問2(空欄のB及びC)は、タクシー乗務員の歩合給から割増賃金分を控除して支給する旨の賃金規則の適法性が問題となった【国際自動車事件=最判令和2.3.30】からの出題です(こちら以下)。

昨年の判決に関する出題ですから(昨年度から出題対象です)、久しぶりにごく最近の判例が出題されたことになります。

ただ、この判決は、割増賃金の定額支給等(法所定の算定方法に基づかない割増賃金)に関する近時の一連の重要判決として事前にチェックされていた方が多かったのではないかと思います(当サイトでも、「直前対策講座」の「その6」の【問1】で取り上げており(こちら直前対策講座のパスワード)、空欄のBについては的中しました)。

 

 

〔3〕問3

 

問3(空欄のD)は、安衛法第62条(安衛法のパスワード)の「中高齢者等についての配慮」(安衛法のこちら)からの出題です。

 

本問は、簡単な問題であるとはいえませんが、規則等からの出題ではなく、法律(安衛法)からの出題です。 

安衛法は、選択式の出題対象ですから、法律条文をきちんと読み込む必要があります(安衛法自体は、それほど条文は多くないです(本則だけなら123条しかありません))。

条文をただ読んでも記憶に結びつきませんから、条文内容(条文の解説)を当サイトで確認して頂き、内容とともに自然に記憶に残して下さい。 

 

 

〔4〕問4

 

問4(空欄のE)は、厳しい出題です(規則第518条第1項)。

もっとも、当サイトではかなりマークしており、こちらにおいて、「高さが2メートル以上」、「作業床」について太字の赤字にしています。

墜落等による危険の防止は、近時の改正事項があり、注意が必要でした。

 

なお、令和2年度の選択式(こちら)においては、「墜落、飛来崩壊等による危険の防止」から、規則第526条の「昇降するための設備の設置等」が出題されていました(「1.5」メートルが空欄でした)。

 

また、択一式の【平成27年問8A(こちら)】では、高さが2メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所における「囲い等」の設置義務について出題されていました(規則第519条)。

当サイトでも、規則第518条第519条を併せて解説しており、この択一式過去問についてもご紹介していましたので、過去問の記憶がある場合は、結果的に「2メートル」を正解できた可能性もあります。

 

安衛法においても、近時の改正事項や過去問についてはチェックが必要です。

 

 

総評

選択式については、全体的にはやや厳しかったかもしれません。

労基法の選択式のうち、問2の「国際自動車事件判決」については、出題可能性の高い判決の一つでしたので、十分な準備をして空欄の少なくとも1つは正答することが可能でした。

問1は、条文の文言自体を問うものではありませんでしたが、択一用の学習の中で押さえることができた内容が出題されています。

 

安衛法の選択式が、やや厳しかったと思います。問3(空欄D)について学習していたかどうかがポイントになりました。

 

複数回の受験経験があり基本的な知識を備えている方は、安衛法の選択式対策に少し力を入れて下さい(当サイトの赤字部分のキーワードや数字を記憶していくことが有用です)。

 

択一式については、肢によっては、やや難しいあるいは細かいものもありましたが、全体としては合格点を獲得しやすい出題内容だったと思います。通常の学習でカバーできる範囲内の出題でした。

なお、働き方改革関連法による改正事項からの出題は、直接的にはありませんでした。