令和4年度 労災保険法

令和4年度の労災保険法の本試験問題のインデックスを掲載します。

 

リンク先に本試験問題及びその解説を掲載しています。

 

 

択一式

○【問1】=業務上の疾病のうち過重負荷による脳・心臓疾患に関する認定医基準の問題:

 

▶「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(令和3年9月14日付け基発0914第1号)」に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 

【令和4年問1A】 【令和4年度試験 改正事項

(発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められない場合には、これに近い労働時間が認められたとしても、業務と発症との関連性が強いと評価することはできない。)

 

【令和4年問1B】 【令和4年度試験 改正事項

(心理的負荷を伴う業務については、精神障害の業務起因性の判断に際して、負荷の程度を評価する視点により検討、評価がなされるが、脳・心臓疾患の業務起因性の判断に際しては、同視点による検討、評価の対象外とされている。)

 

【令和4年問1C】 【令和4年度試験 改正事項

(短期間の過重業務については、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合や、発症前おおむね1週間継続して深夜時間に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合に、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。)

 

【令和4年問1D】

(急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認られる「異常な出来事」と発症との関連性については、発症直前から1週間前までの間が評価期間とされている。)

 

【令和4年問1E】

(業務の過重性の検討、評価に当たり、2以上の事業の業務による「長期間の過重業務」については、異なる事業における労働時間の通算がなされるのに対して、「短期間の過重業務」については労働時間の通算はなされない。)

 

 

 

○【問2】=労災就学援護費に関する出題:

 

▶労災保険法施行規則第33条に定める労災就学援護費に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

 

【令和4年問2A】

(労災就学援護費の支給対象には、傷病補償年金を受ける権利を有する者のうち、在学者等である子と生計を同じくしている者であり、かつ傷病の程度が重篤な者であって、当該在学者等に係る学資の支給を必要とする状態にあるものが含まれる。)

 

【令和4年問2B】

(労災就学援護費の支給対象には、障害年金を受ける権利を有する者のうち、在学者等である子と生計を同じくしている者であって、当該在学者等に係る職業訓練に要する費用の支給を必要とする状態にあるものが含まれる。)

 

【令和4年問2C】

(労災就学援護費の額は、支給される者と生計を同じくしている在学者等である子が中学校に在学する者である場合は、小学校に在学する者である場合よりも多い。)

 

【令和4年問2D】

(労災就学援護費の額は、支給される者と生計を同じくしている在学者等である子が特別支援学校の小学部に在学する者である場合と、小学校に在学する者である場合とで、同じである。)

 

【令和4年問2E】

(労災就学援護費は、支給される者と生計を同じくしている在学者等である子が大学に在学する者である場合、通信による教育を行う課程に在学する者か否かによって額に差はない。)

 

 

○【問3】=中小事業主等の特別加入に関する出題:

 

【令和4年問3】 

 

▶厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主で、労働保険徴収法第33条第3項の労働保険事務組合に同条第1項の労働保険事務の処理を委託するものである者(事業主が法人その他の団体であるときは、代表者)は労災保険に特別加入することができるが、労災保険法第33条第1号の厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。 

 

A 金融業を主たる事業とする事業主については常時100人以下の労働者を使用する事業主

 

B 不動産業を主たる事業とする事業主については常時100人以下の労働者を使用する事業主

 

C 小売業を主たる事業とする事業主については常時100人以下の労働者を使用する事業主

 

D サービス業を主たる事業とする事業主については常時100人以下の労働者を使用する事業主

 

E 保険業を主たる事業とする事業主については常時100人以下の労働者を使用する事業主

 

 

○【問4】=業務災害性に関する出題:個数問題

 

▶業務災害に関する次の記述のうち、正しいものはいくつあるか。

 

【令和4年問4ア】

(工場に勤務する労働者が、作業終了後に更衣を済ませ、班長に挨拶して職場を出て、工場の階段を降りる途中に足を踏み外して転落して負傷した場合、業務災害と認められる。) 

 

【令和4年問4イ】

(日雇労働者が工事現場での1日の作業を終えて、人員点呼、器具の点検の後、現場責任者から帰所を命じられ、器具の返還と賃金受領のために事業場事務所へと村道を歩き始めた時、交通事故に巻き込まれて負傷した場合、業務災害と認められる。) 

 

【令和4年問4ウ】

(海岸道路の開設工事の作業に従事していた労働者が、12時に監督者から昼食休憩の指示を受け、遠く離れた休憩施設ではなく、いつもどおり、作業場のすぐ近くの崖下の日陰の平らな場所で同僚と昼食をとっていた時に、崖を落下してきた岩石により負傷した場合、業務災害と認められる。) 

 

【令和4年問4エ】

(仕事で用いるトラックの整備をしていた労働者が、ガソリンの出が悪いため、トラックの下にもぐり、ガソリンタンクのコックを開いてタンクの掃除を行い、その直後に職場の喫煙所でたばこを吸うため、マッチに点火した瞬間、ガソリンのしみこんだ被服に引火し火傷を負った場合、業務災害と認められる。) 

 

【令和4年問4オ】

(鉄道事業者の乗客係の労働者が、T駅発N駅行きの列車に乗車し、折り返しのT駅行きの列車に乗車することとなっており、N駅で帰着点呼を受けた後、指定された宿泊所に赴き、数名の同僚と飲酒・雑談ののち就寝し、起床後、宿泊所に食事の設備がないことから、食事をとるために、同所から道路に通じる石段を降りる途中、足を滑らせて転倒し、負傷した場合、業務災害と認められる。) 

 

 

○【問5】=通勤災害性に関する出題:

 

▶労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復を、合理的な経路及び方法により行うことによる負傷、疾病、障害又は死亡は、通勤災害に当たるが、この「住居」、「就業の場所」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

 

【令和4年問5A】

(同一市内に住む長女が出産するため、15日間、幼児2人を含む家族の世話をするために長女宅に泊まり込んだ労働者にとって、長女宅は、就業のための拠点としての性格を有する住居と認められる。) 

 

【令和4年問5B】

(アパートの2階の一部屋に居住する労働者が、いつも会社に向かって自宅を出発する時刻に、出勤するべく靴を履いて自室のドアから出て1階に降りようとした時に、足が滑り転倒して負傷した場合、通勤災害に当たらない。) 

 

【令和4年問5C】

(一戸建ての家に居住している労働者が、いつも退社する時刻に仕事を終えて自宅に向かってふだんの通勤経路を歩き、自宅の門をくぐって玄関先の石段で転倒し負傷した場合、通勤災害に当たらない。) 

 

【令和4年問5D】

(外回りの営業担当の労働者が、夕方、得意先に物品を届けて直接帰宅する場合、その得意先が就業の場所に当たる。) 

 

【令和4年問5E】

(労働者が、長期入院中の夫の看護のために病院に1か月間継続して宿泊した場合、当該病院は就業のための拠点としての性格を有する住居と認められる。) 

 

 

○【問6】=通勤災害性に関する出題:

 

▶通勤災害に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 

【令和4年問6A】

(労働者が上司から直ちに2泊3日の出張をするよう命じられ、勤務先を出てすぐに着替えを取りに自宅に立ち寄り、そこから出張先に向かう列車に乗車すべく駅に向かって自転車で進行中に、踏切で列車に衝突し死亡した場合、その路線が通常の通勤に使っていたものであれば、通勤災害と認められる。) 

 

【令和4年問6B】

(労働者が上司の命により、同じ社員寮に住む病気欠勤中の同僚の容体を確認するため、出勤してすぐに社員寮に戻る途中で、電車にはねられ死亡した場合、通勤災害と認められる。) 

 

【令和4年問6C】

(通常深夜まで働いている男性労働者が、半年ぶりの定時退社の日に、就業の場所からの帰宅途中に、ふだんの通勤経路を外れ、要介護状態にある義父を見舞うために義父の家に立ち寄り、1日の介護を終えた妻とともに帰宅の途につき、ふだんの通勤経路に復した後は、通勤に該当する。) 

 

【令和4年問6D】

(マイカー通勤の労働者が、経路上の道路工事のためにやむを得ず通常の経路を迂回して取った経路は、ふだんの通勤経路を外れた部分についても、通勤災害における合理的な経路と認められる。) 

 

【令和4年問6E】

(他に子供を監護する者がいない共稼ぎ労働者が、いつもどおり親戚に子供を預けるために、自宅から徒歩10分ほどの勤務先会社の前を通り過ぎて100メートルのところにある親戚の家まで、子供とともに歩き、子供を預けた後に勤務先会社まで歩いて戻る経路のうち、勤務先会社と親戚の家との間の往復は、通勤災害における合理的な経路とは認められない。) 

 

 

○【問7】=再発に関する出題:

 

【令和4年問7】

 

▶業務起因性が認められる傷病が一旦治ゆと認定された後に「再発」した場合は、保険給付の対象となるが、「再発」であると認定する要件として次のアからエの記述のうち、正しいものの組合せは、後記AからEまでのうちどれか。

 

ア 当初の傷病と「再発」とする症状の発現との間に医学的にみて相当因果関係が認められること

 

イ 当初の傷病の治ゆから「再発」とする症状の発現までの期間が3年以内であること

 

ウ 療養を行えば、「再発」とする症状の改善が期待できると医学的に認められること

 

エ 治ゆ時の症状に比べ「再発」時の症状が増悪していること

 

 

A(アとイ) B(アとエ) C(アとイとエ) D(アとウとエ) E(アとイとウとエ)  

 

 

 

選択式

次の文中の   の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。

 

1 業務災害により既に1下肢を1センチメートル短縮していた(13級の8)者が、業務災害により新たに同一下肢を3センチメートル短縮(10級の7)し、かつ1手の小指を失った(12級の8の2)場合の障害等級は  級であり、新たな障害につき給付される障害補償の額は給付基礎日額の  日分である。

なお、8級の障害補償の額は給付基礎日額の503日分、9級は391日分、10級は302日分、11級は223日分、12級は156日分、13級は101日分である。

 

 

2 最高裁判所は、中小事業主が労災保険に特別加入する際に成立する保険関係について、次のように判示している(作題に当たり一部改変)。

 

労災保険法(以下「法」という。)が定める中小事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険の保険関係(以下「保険関係」という。)を前提として、当該保険関係上、中小事業主又はその代表者を  とみなすことにより、当該中小事業主又はその代表者に対する法の適用を可能とする制度である。そして、法第3条第1項、労働保険徴収法第3条によれば、保険関係は、労働者を使用する事業について成立するものであり、その成否は当該事業ごとに判断すべきものであるところ、同法第4条の2第1項において、保険関係が成立した事業の事業主による政府への届出事項の中に「事業の行われる場所」が含まれており、また、労働保険徴収法施行規則第16条第1項に基づき労災保険率の適用区分である同施行規則別表第1所定の事業の種類の細目を定める労災保険率適用事業細目表において、同じ建設事業に附帯して行われる事業の中でも当該建設事業の現場内において行われる事業とそうでない事業とで適用される労災保険率の区別がされているものがあることなどに鑑みると、保険関係の成立する事業は、主として場所的な独立性を基準とし、当該一定の場所において一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される。そうすると、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(以下「建設の事業」という。)を行う事業主については、個々の建設等の現場における建築工事等の業務活動と本店等の事務所を拠点とする営業、経営管理その他の業務活動とがそれぞれ別個の事業であって、それぞれその業務の中に  を前提に、各別に保険関係が成立するものと解される。

したがって、建設の事業を行う事業主が、その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは、営業等の事業につき保険関係の成立する余地はないから、営業等の事業について、当該事業主が特別加入の承認を受けることはできず、  に起因する事業主又はその代表者の死亡等に関し、その遺族等が法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきである。

 

選択肢:

 

①8 ②9 ③10 ④11 ⑤122 ⑥201 ⑦290 ⑧402

⑨営業等の事業に係る業務 ⑩建設及び営業等以外の事業に係る業務

⑪建設及び営業等の事業に係る業務 ⑫建設の事業に係る業務

⑬事業主が自ら行うものがあること  ⑭事業主が自ら行うものがないこと

⑮使用者 ⑯特別加入者 ⑰一人親方  ⑱労働者

⑲労働者を使用するものがあること ⑳労働者を使用するものがないこと

 

 

 

選択式解答

A=②「9」(施行規則第14条第5項第14条第3項第1号

 

B=⑦「290」(施行規則第14条第5項

 

C=⑱「労働者」(【広島中央労基署長(竹藤工業)事件=最判平成24.2.24】)

 

D=⑲「労働者を使用するものがあること」(同上)

 

E=⑨「営業等の事業に係る業務」(同上)

 

 

選択式の論点とリンク先

問1は、加重の問題ですが、典型例ではなく、併合が加味された応用問題となっています。

また、問2は、中小事業主の特別加入についての判例からの出題です。当サイトでは、詳しく解説していましたが、一般には難しい部類の問題であり、選択式は2問とも厄介でした。

 

 

1 問1(空欄のA及びB)

 

問1(こちら)は、加重の問題ですが、併合が加味されています。過去、出題がなかったパターンの問題です。

 

加重の典型例は、「新たな事故により同一の部位に障害が残り重くなった」というケースです(こちら以下(労災保険法のパスワード)を参考です)。

ところが、本問は、新たな事故により、①「同一の部位(同一下肢)」に障害(第10級の7)が残っただけでなく、当該新たな事故により、②「異なる(系列の)障害(小指の障害)」(第12級の8の2)も発生しています。

「同一の事故」により「異なる障害の系列」に複数の障害が残った場合は、「併合」の問題ですので、上記①と②については併合の状態になっていることになります。

 

そこで、次の2通りの考え方があり得るのでしょう。

 

(ⅰ)既存の障害(第13級の8)と上記①の加重障害(第10級の7)について、加重の処理(障害等級は重い第10級(第10級の7は、第10級です)とし、支給額は差額支給)をしてから、上記②(第12級の8の2)について併合の処理をする。

 

(ⅱ)①の加重障害(第10級の7)について、まず、②(第12級の8の2)と併合の処理をしてから、既存の障害(第13級の8)について加重の処理をする。

 

結論的には、(ⅱ)のように処理します。

次のとおりです(【昭和50.9.30基発第565号(「障害等級認定基準 」)】5(3)ハ。厚労省コンメ8訂新版416頁(7訂新版388頁))。 

 

「同一の部位に身体障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな身体障害が残った場合は、まず、同一部位の加重された後の身体障害についてその障害等級を定め、次に、他の部位の身体障害について障害等級を定め、両者を併合して現在の身体障害の該当する障害等級を認定する。」

 

この通達はわかりにくいのですが(上記の太字がポイントです)、まず、同一部位の障害に係る併合の処理をしてから、他の部位の障害に係る加重の処理をするという意味です。

即ち、まず、前記①の加重障害(第10級の7)と②(第12級の8の2)の併合の処理をし、第10級と第12級の併合として、重い第10級を1級繰上げ第9級とします(併合繰上げ。こちらの図を参考です)。

次に、この併合繰上げによる第9級と、既存の障害(第13級の8)について加重の処理をし(こちらの図を参考です)、障害等級は重い第9級とし(=空欄のA)、支給額は前者と後者の差額として「第9級(391日分)ー第13級(101日分)=290日分(=空欄のB)」となります。

この290日分の障害補償一時金と既存の障害に係る第13級の8(101日分)の障害補償一時金が併給されることになります。

 

他方、前記(ⅰ)の処理では、まず、加重の処理をし、障害等級は重い第10級とし、支給額は差額支給として、第10級と第13級の差額である201日分となります。次に、②(第12級の8の2)について併合の処理をするため、第10級と第12級の併合として、重い第10級を繰上げ第9級(391日分)とすることになります。すると、この第9級の場面では、先の差額支給(201日分)の処理が反映されにくいという問題があるのでしょう。

 

以上より、(ⅱ)のように、先に併合の処理をしてから、加重の処理をしたほうが自然だということになります。

本試験会場でもこのような感覚を感じたなら、本問の処理が可能でしたが、「見たことがない問題だ」として慌ててしまいますと、失当するおそれがある嫌な問題でした。

 

 

2 問2(空欄のC~E)

 

問2(こちら)は、中小事業主の特別加入についての【広島中央労基署長(竹藤工業)事件=最判平成24.2.24】(以下、「本判決」といいます)を題材とした出題です。

中小事業主の特別加入において、中小事業主が、使用する労働者を個々の建築の現場における事業にのみ従事させ、本店を拠点とする営業等の事業には全く従事させていなかった場合において、受注を希望していた工事の予定地の下見に赴く途中で事故により死亡した場合の業務災害性が問題となった判例です。

本判決については、当サイトのこちら以下で詳しく触れていますので、読んで頂いていれば、本問は容易に処理できたといえます。

 

本判決の一部は、択一式の【平成29年問7C(こちら)】で問われたことがあるのですが、中小事業主の特別加入の制度の概要に関する出題であり、本判決の詳細に入ったものではなく、難しくはありませんでした。

他方、本問と関連する問題として、択一式の【平成25年問2C(こちら)】が出題されたことがあります(この平成25年の出題は、【最判平成9.1.23姫路労働基準監督署長(井口重機)事件】をベースにしています)。

この2つの判決は、なかなか難しい内容です。

問2も、本判決をあらかじめ分析していませんと、空欄のC以外は、確信を持って解答することはなかなか困難であったと思います。

 

前提として、中小事業主等の特別加入の制度は、中小事業主が一定数以下の労働者を使用していることから、当該労働者を使用する事業について労災保険の保険関係が成立していることを基礎として、その保険関係に中小事業主等を組み込むという法律構成を採ります。

具体的には、中小事業主等は当該事業に使用される労働者とみなされると取り扱われます(=空欄のC)。

従って、中小事業主等の特別加入では、既存の事業について労災保険の保険関係が成立していることが必要です。

 

本判決の事案は、中小事業主が、使用する労働者を個々の建築の現場における事業にのみ従事させ、本店を拠点とする営業等の事業には全く従事させていなかった場合において、受注を希望していた工事の予定地の下見に赴く途中で事故により当該中小事業主の特別加入者が死亡したものです。

この受注希望の工事予定地に下見に行くという過程における事故は、本店を拠点とする営業等の事業に関する事故ともいえます。

この事案では、業務の内容を「建設工事施行」として中小事業主の特別加入をしており、この「建設工事施行」に、「個々の建築の現場における事業」のほかに、「本店を拠点とする営業等の事業」も含まれるのかが問題になったものといえます。

即ち、「建設工事施行」の中に、「個々の建築の現場における事業」と「本店を拠点とする営業等の事業」がともに含まれていると解せなくもない点が問題なのでしょう。

もし含まれると解せるのなら、受注希望の工事予定地に下見に行くという過程における事故も、業務の内容である「建設工事施行」中の事故として、中小事業主の特別加入による保護を受けられることになります。

しかし、判決は、場所的な独立性の基準を考慮して、「個々の建築の現場における事業」と「本店を拠点とする営業等の事業」とは別の事業であるとします。

そこで、「本店を拠点とする営業等の事業」に使用する労働者が存在しない場合は、当該本店の事業については労災保険の保険関係が成立していないとして、当該本店の事業に係る中小事業主の特別加入も成立しないと構成しました。

 

このような判決の概要をあらかじめ知っていませんと、本問はかなり難問だったことになります。

労災保険法の選択式では、時々、このような難しい判決を素材に設問を作ってきます(ひところ、第三者行為災害に関する出題が多かったです)。

 

なお、今回は、一人親方等の特別加入について、色々改正がありましたので、当サイトの「直前対策講座」でも取り上げていたのですが、中小事業主について出題してきました。

平成27年度にも、特定作業従事者に「家事支援従事者」が追加される改正があったのですが、改正事項は外して特定作業従事者について選択式を出題してくるということがありました(こちら。もっとも、この「家事支援従事者」については、かなり年月を経た令和2年度の択一式(こちら)で出題されました。重要な改正事項はいつか出題される可能性が高いとはいえそうです)。

 

 

 

総評

今回の労災保険法は、選択式・択一式ともに、厳しい内容でした。

選択式については、問2の判例を学習していませんと、基準点をクリアーできない可能性もありました。

択一式については、業務災害性・通勤災害性に関する出題のウエイトが高く、事例系の設問が多いため、解答に時間を要するという問題があります。

また、問3のように比較的容易な設問もありますが、問2や問7のように厳しい設問もあり、事例系の個数問題もあることから(問5)、受験者の方のペースが乱されるような出題となっています。

 

 

毎年度、労災保険法の出題内容は、日頃からの地道な学習の継続がないと対応しにくいものとなっていることが多いですが、当サイトにおいて、条文・事例・認定基準・記憶方法等について十分解説している事項からかなり出題されていることも事実です。

その意味で、当サイトは、現在の出題傾向に適しているとはいえます。