【令和6年度版】
§3 目的(第1条)
次に目的条文を見ます。
厚生年金保険の目的は、第1条に次の通り規定されています。
【条文】
第1条(この法律の目的) この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。 |
【過去問 平成30年問7D(こちら)】
○趣旨
厚生年金保険法は、労働者の老齢、障害又は死亡という保険事故について保険給付を行う制度です。
※ なお、覚える必要はありませんが、以前は、この第1条の末尾には、「・・・福祉の向上に寄与することを目的とし、あわせて厚生年金基金がその加入員に対して行う給付に関して必要な事項を定めるものとする。」と規定されていました。
しかし、前ページの最後で触れましたように、平成25年改正法の施行により、厚年法の第9章「厚生年金基金及び企業年金連合会」が削られ、施行日(基金関係は平成26年4月1日)以後は、厚生年金基金の新設が認められなくなりました。
そこで、前記第1条の目的条文からも、基金に関する上記部分が削られました。
※ 上記の第1条(目的条文)については、次の国民年金法第1条(目的条文。詳細は、国年法のこちら)も参考にして下さい。
(なお、この国民年金法第1条については、平成28年度の国年法選択式において、国民生活の「安定」と「共同連帯」が出題されています。)
【国民年金法】
国民年金法第1条(国民年金制度の目的) 国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。 |
上記の厚年法第1条(目的条文)について、若干、解説します。
一 対象者(被保険者)
すでに学習しましたように、国民年金は、全国民を対象としています。従って、前記の国年法第1条(目的条文)においても、「国民」と規定され、「労働者」等と規定されていません。
対して、厚生年金保険法においては、被用者を対象としているため、第1条(目的条文)においても「労働者」と規定されています。
二 保険事故
厚生年金保険における保険事故は、「老齢、障害又は死亡」であることが示されています。国民年金と同様です。
三 保険給付
保険給付については、すぐ次に見ます第32条が保険給付の種類を規定しています。
なお、国年法において学習しましたが、厚生年金保険の給付は、国民年金のように「給付」ではなく、「保険給付」といいます。
例えば、国民年金の場合は、「年金たる給付」といいますが、厚生年金保険の場合は、「年金たる保険給付」といいます。
国民年金の制度においては、20歳前傷病による障害基礎年金(国年法第30条の4(国年法のパスワード))や保険料免除者(同法第5条第3項~第6項、第89条以下。国年法のこちら以下)に対して支給される老齢基礎年金のように、保険料の納付に基づかずに支給されるという保険方式によらない給付も行われることから(社会扶助方式。給付費についても、基礎年金拠出金については2分の1が国庫負担されるなど(こちら以下)、その財源として保険料以外の占める割合が大きいです)、国民年金の制度においては「保険」という用語は使用していません(国民年金「保険」ではありません)。
以上、目的条文でした。過去問をみたあとで、保険事故と保険給付について簡単に触れておきます。
◯過去問:
・【平成30年問7D】
設問:
厚生年金保険制度は、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的としている。
解答:
誤りです(第1条)。
本問は、国民年金法の第1条(目的条文)の内容となっています。
本問中の「国民生活」の安定や「国民の共同連帯」がチェックすべきキーワードです。
厚生年金保険制度は、被用者のための年金制度ですから、「国民生活」の安定というより「労働者」の生活の安定、「国民」の共同連帯というより「労働者」の共同連帯を考慮した仕組みです。
§4 保険事故と保険給付
厚生年金保険における保険事故と保険給付について整理しますと、次の通りです。
特別支給の老齢厚生年金は、附則(法附則又は改正法の附則)に規定されていますが、非常に重要です。
以下、上記の保険給付について、簡単に説明します。
〔1〕第32条に基づく保険給付
厚生年金保険法の本則(第32条)に規定されている保険給付は、前掲の表(こちら)の 1 に掲げた4種類です。
即ち、老齢厚生年金、障害厚生年金、障害手当金及び遺族厚生年金です。
厚生年金保険法による保険給付は、政府及び実施機関(厚生労働大臣を除きます)が行います(第32条柱書)。
※ ここでの実施機関とは、「厚生労働大臣以外の実施機関」のことであり、換言しますと、共済組合等に係る実施機関です。詳細は、後に「保険者」の個所(こちら以下(厚年法のパスワード))で見ます。
【条文】
※ 次の第32条は、平成27年10月1日の施行の改正(被用者年金一元化法。【平成24.8.22法律第63号】)により改められています。
念のため、新旧対照表を掲載しておきます(読まなくて結構です。以下で掲載しています新旧対照表についても同様です)。
第32条(保険給付の種類) この法律による保険給付は、次のとおりとし、政府及び実施機関(厚生労働大臣を除く。第34条第1項〔=調整期間の開始年度の決定〕、第40条〔=第三者行為災害〕、第79条第1項及び第2項〔=厚生年金保険事業の円滑な実施を図るための措置〕、第81条第1項〔=保険料の徴収〕、第84条の5第2項〔=拠出金及び政府の負担〕並びに第84条の6第2項〔=拠出金の額〕並びに附則第23条の3〔=拠出金の額の算定に係る措置〕において「政府等」という。)が行う。
一 老齢厚生年金
二 障害厚生年金及び障害手当金
三 遺族厚生年金 |
【平成27年10月1日の施行の改正前】
第32条(保険給付の種類) この法律による保険給付は、次のとおりとする。
一 老齢厚生年金
二 障害厚生年金及び障害手当金
三 遺族厚生年金 |
※ なお、改正された条文について、右のように、改正された個所に下線を付する場合がありますが、必ずしも当該下線部分が重要というわけではありません(単に改正個所という意味です)。重要個所は太字や色つきの字にしています。
【改正後】
第32条(保険給付の種類) この法律による保険給付は、次のとおりとし、政府及び実施機関(厚生労働大臣を除く。第34条第1項〔=調整期間の開始年度の決定〕、第40条〔=第三者行為災害〕、第79条第1項及び第2項〔=厚生年金保険事業の円滑な実施を図るための措置〕、第81条第1項〔=保険料の徴収〕、第84条の5第2項〔=拠出金及び政府の負担〕並びに第84条の6第2項〔=拠出金の額〕並びに附則第23条の3〔=拠出金の額の算定に係る措置〕において「政府等」という。)が行う。
一 老齢厚生年金
二 障害厚生年金及び障害手当金
三 遺族厚生年金 |
※ 上記の通り、被用者年金一元化法の施行により、厚生年金保険の保険給付は、「政府及び厚生労働大臣以外の実施機関」が行う旨が規定されました。
厚生年金保険の保険者は政府ですが(第2条)、被用者年金の一元化により、新たに公務員等(共済組合の組合員等)が厚生年金保険の被保険者に加わりました。
その際、事務処理の円滑化・効率化の見地から、一般(民間)の被用者(又は一般の被用者であった者)(第1号厚生年金被保険者(であった者)。一元化法による改正前は、単に「厚生年金保険の被保険者(であった者)」と表現されました)に関する厚生年金保険の事務については、原則として、従来通り、厚生労働大臣が行うこととし、他方、公務員等(又は公務員等であった者)(第2号から第4号までの厚生年金被保険者(であった者)。改正前は、共済年金の対象者でした)に関する厚生年金保険の事務については、原則として、共済組合等(改正前の共済年金の実施者)が行うこととしました。
これらの厚生年金保険の事務を実施する機関が実施機関です(第2条の5第1項参考。以上、詳細はのちにこちら以下で学習します)。
そして、第1号厚生年金被保険者期間に基づく保険給付に関する事務については、厚生労働大臣が実施機関として行うのですが(第2条の5第1項第1号。実際は、機構に権限が委任等されていることが多いです。詳細は後に学習します)、前掲の第32条においては、包括的に「政府」という表現が使用されています。
保険給付の実施に関する問題については、この「政府」という表現が使用されることが多いようです。
他方、第2号から第4号までの厚生年金被保険者期間に基づく保険給付に関する事務については、厚生労働大臣以外の実施機関が行います(第2条の5第1項第2号~第4号)。
以上が、「政府及び実施機関(厚生労働大臣を除く。)」が保険給付を行う旨を定めた上記第32条の意味です。
※ 次に、老齢厚生年金、障害厚生年金及び遺族厚生年金は、それぞれの基礎年金(老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金)に対応する保険給付です。
障害手当金は、一時金です。
以下、上記の保険給付の概観について見ます。
一 老齢厚生年金
老齢厚生年金は、厚生年金保険の被保険者期間を有し、受給資格期間を満たす者が、65歳以上である場合に(65歳(原則)に達したときに)支給される保険給付です(第42条)。
老後の生活保障を目的としています。
もっとも、老齢厚生年金は、大別しますと、次の(A)・(B)の2種類があります。
〇 老齢厚生年金の種類:
(A)65歳以上の者に支給される「本来の老齢厚生年金」(第42条)(一般に、「本来支給の老齢厚生年金」といいます)
(B)65歳未満の者(基本的には、60歳台前半の者)に支給される「特別支給の老齢厚生年金」(法附則第8条等) |
※ 特別支給の老齢厚生年金は、基本的には60歳台前半の者に支給されるものですが、第3種被保険者の特例が適用される場合や一定の女性については、55歳以上から支給されることがあります。公務員等の場合は、さらに早い年齢から支給される場合があります。
(なお、特別支給の老齢厚生年金は、厚年法の本則(第32条)に基づくものではなく、附則に基づく保険給付ですが、本来支給の老齢厚生年金と対比する観点から、ここで見ておきます。)
以下、この(A)(B)の両者について、少し詳しく見ます。
(A)本来支給の老齢厚生年金
※「本来支給の老齢厚生年金」の体系は、こちらの図の通りです(ここでは眺めて頂くだけで足ります)。
(一)支給要件
1 本来支給の老齢厚生年金の支給要件は、次の3つです(第42条)。
◯ 本来支給の老齢厚生年金の支給要件:
(1)(1月以上の)厚生年金保険の被保険者期間があること
(3)65歳以上であること 【平成30年度試験 改正事項】 (3)10年以上の受給資格期間を満たすこと(即ち、保険料納付済期間等が10年以上であること) |
支給要件の基本的な枠組みは、老齢基礎年金の場合とパラレルです(上記(1)の要件は少し修正されますが)。
なお、平成29年8月1日施行の改正により、老齢基礎年金の受給資格期間が10年に短縮されたことに伴い、老齢厚生年金の上記(3)の要件についても、10年の受給資格期間で足りることに改められました。
※ 後述の「特別支給の老齢厚生年金」の支給要件の場合は、上記(1)は、「1年以上」の厚生年金保険の被保険者期間があることに変わり、上記(2)は60歳以上(65歳未満)であること(原則)に変わります(法附則第8条)。
(二)効果
支給額(基本年金額)は、報酬比例となります。
即ち、厚生年金保険の場合、支給額(基本年金額)や保険料の額は、報酬及び賞与の額に応じて決定されることが特徴です。
基本年金額は、ごく大まかには、「月の報酬の平均額(平均標準報酬(月)額)× 給付乗率 × 厚生年金保険の被保険者期間の月数」で計算します(第43条第1項)。
給付乗率は、生年月日に応じて支給額を減じるためのものです。
なお、加算額として、配偶者又は子についての加給年金額があります(第44条)。
(B)特別支給の老齢厚生年金
特別支給の老齢厚生年金とは、65歳未満の者(60歳台前半の者)に経過的に支給される老齢厚生年金です。
上記の通り、老齢厚生年金は、65歳から支給されるのが原則ですが(第42条第1号)、旧厚年法においては、原則として60歳から老齢年金を支給しており、その期待権を保護する必要があるため、新法の下でも、原則として60歳台前半(60歳から64歳まで)の者に対して、旧法の仕組みに準じて経過的に老齢厚生年金を支給することとしたものです。
なお、被用者年金一元化法による改正前の共済各法に基づく退職共済年金の場合も、基本的にパラレルであり(旧共済年金制度(昭和60年(翌年施行)の改正前の共済各法に基づく制度です)において、原則として60歳から退職年金が支給されていました)、特別支給の退職共済年金の制度がありました。
※ この「特別支給の老齢厚生年金」は、「60歳台前半の老齢厚生年金」(試験では、この用語による出題も多いです)とか、「65歳未満の老齢厚生年金」などといわれることもあります。
前述のように、特別支給の老齢厚生年金は、原則として、60歳から支給される60歳台前半の老齢厚生年金ですが、第3種被保険者の特例に該当する者や女性等については、65歳未満で支給される場合もありますから、厳密には「65歳未満の老齢厚生年金」となります。
表現の仕方としては、単に「特別支給の老齢厚生年金」とすれば足ります。
もっとも、文脈により、「60歳台前半」とか「65歳未満」を追加した方が、内容がわかりやすくなる場合があります。
当サイトでは、基本的には「特別支給の老齢厚生年金」と表記しますが、「60歳台前半の老齢厚生年金」等と表記することも多いです。短縮して、「特老厚」と表現することもあります。
なお、「特別支給の老齢厚生年金」という表現は、厚年法自体では使用されていません(「厚生年金保険法附則第8条の規定による老齢厚生年金」という表現(法附則第9条等参考)をベースとして、内容に応じて、これに修正が加えられて表現されることが多いです)。
ただし、施行規則では、「特別支給の老齢厚生年金」の表現が使用されています(施行規則第30条の2第1項本文かっこ書や国民年金法施行規則第16条の2第1項柱書など)。
この特別支給の老齢厚生年金は、定額部分と報酬比例部分から構成されます。
定額部分は老齢基礎年金に相当する部分であり、報酬比例部分は65歳からの本来支給の老齢厚生年金に相当する部分です。次の図のイメージとなります。
※「特別支給の老齢厚生年金」の体系は、こちらの図の通りです(ここでは眺めて頂くだけで足ります)。
(一)支給要件
特別支給の老齢厚生年金の支給要件は、次の3つです(法附則第8条)。
◯ 特別支給の老齢厚生年金の支給要件:
1 1年以上の厚生年金保険の被保険者期間を有すること
2 60歳以上65歳未満であること(原則)
※ 生年月日(及び性別等)に応じて定められている支給開始年齢に達していることが必要です(法附則第8条の2等)。すぐ次に詳しく見ます。
3 受給資格期間を満たすこと (この3は、本来支給の老齢厚生年金の支給要件と同様です。) |
※ 支給開始年齢:
上記2の※の「支給開始年齢」について、見ておきます。
特別支給の老齢厚生年金は、元々は、旧厚年法の老齢年金に準じて、60歳から定額部分と報酬比例部分を合わせた額を支給するものでした。
しかし、少子高齢化による年金財政の問題等の見地から、まず、定額部分の支給開始年齢を段階的に引き上げて定額部分を廃止することとし(平成6年改正)、定額部分の廃止後に、報酬比例部分の支給開始年齢も段階的に引き上げて(平成12年改正。平成25年4月から引き上げが開始されています)、最終的に特別支給の老齢厚生年金を廃止することとされました。
受給権者の生年月日(及び性別等)に応じて、これらの支給開始年齢が定められており、これによって特別支給の老齢厚生年金の仕組みの大枠(定額部分が加算されているか等)が決定されます。
具体的には、特別支給の老齢厚生年金の支給を受ける者については、「60歳から定額部分が加算された報酬比例部分の支給を受けられる者」、「定額部分の支給開始年齢が引き上げられる段階にある者」、「定額部分の支給は受けられず60歳から報酬比例部分のみの支給を受けられる者」、及び「報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられる段階にある者」という4タイプが存在します。
この支給開始年齢の原則の大枠を図示しますと、後掲の通りです(特別支給の老齢厚生年金の支給を受けられない者も含め、5タイプに分けています)。
※ なお、被用者年金一元化法による改正に伴い、従来の「支給開始年齢の原則」のパターンが若干修正されています。
大枠は異ならないのですが、厚生年金保険に新加入した公務員等のうち、従来の厚年法の特別支給の老齢厚生年金の「支給開始年齢の原則」のパターンから外れる者がおり(具体的には、後掲の図の〔1〕から〔5〕のそれぞれの「1の女性」と「3の特定警察職員等」です)、かかる者の取扱いが追加されました。
即ち、従来は、同図の〔1〕から〔5〕において、それぞれの「1の男性」と「2の女性」のパターンだけがありました。
一元化法による改正に伴い、これにそれぞれ、「1の女性」と「3の特定警察職員等」が追加されました(なお、第3種被保険者等については、「支給開始年齢の特例」の個所で学習します)。
以上の詳細については、特別支給の老齢厚生年金の個所で説明しますので、ここではざっと眺める程度で結構です。ゴロ合わせは、この図の下でご紹介します。
※ 上記図(こちら以下)の〔2〕は、「定額部分の支給開始年齢が引き上げられる段階(過程)にある者」であり、生年月日の2年を単位として1歳ずつ定額部分の支給開始年齢が引き上げられていきます(こちらの図で詳しく記載していますが、後に学習しますのでスルーして頂いて結構です)。
この定額部分の支給開始年齢の引上げの完了後に、報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられていきます(現在、定額部分の支給開始年齢の引き上げは完了し、平成25年4月から、報酬比例部分の支給開始年齢の引上げが始まっています)。
上記図の〔4〕は、「報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられる段階にある者」であり、同様に生年月日の2年を単位として1歳ずつ報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられていきます。
※ 上記図の基準となる生年月日を覚えることは、不可欠です(過去問も多いです)。
覚える個所は、同図(こちら)の〔1〕から〔5〕のそれぞれの「1の男性」の部分です。
この「1の男性」の「5年遅れの生年月日の女性」が、同図の〔1〕から〔5〕のそれぞれの「2の女性」となります(これは、のちに学習しますが、厚生年金保険において、女性の支給開始年齢を55歳から60歳に引き上げるのが男性より遅れたため、5年遅れの支給開始年齢の引き上げとなっているものです(昭和60年改正法附則第58条第1項))。
そして、前掲の図(こちら以下)の〔1〕から〔5〕のそれぞれの「3の特定警察職員等」は、それぞれの「1(の男性)」の「6年遅れの生年月日」となります(特定警察職員等の職務の特殊性(激務であること等)から、支給開始年齢の引上げが一般職員より遅くなっています。
ちなみに、特定警察職員等とは、警察官、消防吏員等(一定の階級以下であることが必要です)のうち一定の者をいいます(法附則第7条の3第1項第4号)。詳細は本文で見ます)。
結局、「1の男性」の生年月日を覚え、「2の女性」はその「5年遅れ」、「3の特定警察職員等」はその「6年遅れ」であることさえ覚えておけば、前掲の図の生年月日はマスターできます。
もう一点、同図(こちら以下)の〔1〕から〔5〕の「1と2の女性」について、「1の女性」は、「第2号厚生年金被保険者等」であること、「2の女性」は、「第1号厚生年金被保険者等」であることも覚えておかなければなりません。
「2の女性」は、「第1号厚生年金被保険者であり、又は第1号厚生年金被保険者期間を有する者(女性)」です。
これは、一般(民間)の被用者である(又は被用者であった)女性のことです。
一元化法による改正前の厚年法においての「特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げの原則」における女性の取扱いと同様となります。
「1の女性」は、公務員等のケースです。
即ち、共済組合の組合員等(である厚生年金保険の被保険者)であり、又は共済組合の組合員等としての(厚生年金保険被保険者)期間を有する者(女性)です。
この「1の女性」については、一元化法による改正前の共済年金において、特別支給の退職共済年金の支給開始年齢の引上げにつき、男性と同じ生年月日の者が対象とされていましたので(女性と男性との間に生年月日による違いがありませんでした)、共済年金制度が厚生年金保険制度と統合された後も、引き続き男性と同様の取り扱いがなされています。
例えば、公務員等の場合、昭和16年4月2日から昭和24年4月1日までの間に生まれた者は、男性も女性も、定額部分が加算された特別支給の退職共済年金の支給開始年齢が同様に引き上げられていました。
従って、一元化法による改正後においても、昭和16年4月2日から昭和24年4月1日までの間に生まれた男性及び「第2号厚生年金被保険者等」である女性は、前掲の図(こちら以下)の〔2〕の1に該当するものとして、定額部分が加算された特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が同様に引き上げられます。
上記の「1の男性」の生年月日をゴロ合わせにより覚えます。
※【ゴロ合わせ】
・「定食は、トロ4つにし、ヒレと2杯で去ろう」
(ダイエットしている(?)中年オヤジのイメージです。夜の定食はトロ4つと、ヒレカツとサワー2杯だけにして帰ろうとしています。)
→「定(=「定」額部分の支給開始年齢が引き上げられる段階にある者)食は、トロ、よ、っつ(=「16」年「4」月「2」日生まれ男性から)、にし(=「24」年4月1日生まれの男性まで)、
ヒレ(=報酬「比例」部分の支給開始年齢が引き上げられる段階にある者)と、2杯(=「28」年4月2日生まれの男性から)で、去ろう(=「36」年4月1日生まれの男性まで)」
つまり、前掲の図(こちら以下)の〔2〕と〔4〕の始まりと終わりの生年月日を覚えれば、他のグループの生年月日もすべてわかるということです。
以上、非常に長くなりましたが、特別支給の老齢厚生年金の支給要件の概観を終わります。
(二)効果
特別支給の老齢厚生年金の支給額(基本年金額)については、定額部分の額と報酬比例部分の額に分かれることが特徴です。
1 定額部分の額
前掲の図(こちら)の通り、生年月日(及び性別等)に応じて、定額部分が加算されることとなっており、定額部分の支給開始年齢に達したときから定額部分が加算されます。
定額部分の額は、被保険者期間の長さに応じた定額制となります。
2 報酬比例部分の額
報酬比例部分も、その支給開始年齢に達したときから支給されます。
報酬比例部分の額の計算方法は、65歳からの本来支給の老齢厚生年金の基本年金額の計算方法と同様となります。
なお、特別支給の老齢厚生年金においても、加算額として、配偶者又は子についての加給年金額があります。
以上、概観にしては長くなりましたが、老齢厚生年金のアウトラインを終わります(複雑な事項は、あらかじめ大枠を見ておきますと、あとが楽になります)。
以下、その他の保険給付についても簡単に見ておきます。
二 障害厚生年金
障害厚生年金(本来の障害厚生年金)は、傷病に係る初診日に厚生年金保険の被保険者である者(初診日の要件)が、障害認定日に障害等級3級以上に該当し(障害認定日の要件)、初診日の前日における保険料納付要件を満たしている場合(保険料納付要件)に支給される保険給付です(第47条以下)。障害者の生活保障を目的としたものです。
支給要件は基本的に障害基礎年金とパラレルですが、初診日の要件については、「初診日に厚生年金保険の被保険者であること」が必要であること(初診日において、厚生年金保険の被保険者の資格を喪失している者は対象となりません)、また、障害認定日の要件については、「障害等級3級も含まれる」ことが大きな違いです(なお、保険料納付要件は、障害基礎年金の場合と同じです)。
支給額(基本年金額)は、老齢厚生年金の基本年金額の例により計算した額となり、基本的には、老齢厚生年金の基本年金額の場合と同様ですが、被保険者期間について300月の最低保障があることなど修正点が重要です。
また、加算額として、「配偶者の加給年金額」があります。
三 障害手当金
四 遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者等が死亡した場合に、その死亡当時、当該死亡者により生計を維持されていた一定の遺族に支給される保険給付です(第58条以下)。
遺族の生活保障を目的としています。
遺族基礎年金の場合は、支給対象となる遺族は、子のある配偶者又は子に限定されていましたが、遺族厚生年金の場合はより広い遺族が支給対象となります(労災保険法の遺族(補償)等年金の支給対象となる遺族と似ていますが異なりますので、両者の遺族を明確に記憶することが必要です。のちに本文において、ゴロ合わせにより覚えます)。
支給額(基本年金額)は、老齢厚生年金の基本年金額の4分の3となります。
その上で、具体的には、短期要件の場合(25年(原則。以下このページにおいて同じです)以上の受給資格期間を満たしていない者が死亡した場合)は、障害厚生年金の基本年金額の計算方法と同様となり、長期要件の場合(25年以上の受給資格期間を満たしている者が死亡した場合)は、老齢厚生年金の基本年金額の計算方法と同様となります。
【平成30年度試験 改正事項】
※ 平成29年8月1日施行の受給資格期間の10年への短縮に係る改正前は、長期要件と短期要件は、「老齢厚生年金の受給資格期間を満たしている者」が死亡した場合かどうかで区別されました。
しかし、同改正により、老齢厚生年金(老齢基礎年金)の受給資格期間は10年に短縮される一方で、遺族厚生年金の長期要件における受給資格期間については、従来通り、25年を基準に判断するものとされました。
そこで、改正後は、長期要件と短期要件は、「老齢厚生年金の受給資格期間を満たしている者」が死亡した場合かどうかで区別されるのではなく、「25年以上の受給資格期間を満たしている者」が死亡した場合かどうかで区別されることとなりました。
遺族厚生年金の加算額としては、中高齢寡婦加算額、経過的寡婦加算額などがあります。
中高齢寡婦加算額は、遺族厚生年金の受給権者である中高齢(40歳以上65歳未満)の妻について、遺族基礎年金が支給されない場合に保護しようとするものです(第62条)。
経過的寡婦加算額は、遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳以上の場合に加算されるものです(昭和60年改正法附則第73条)。
以上が、本則(第32条)に基づく保険給付です(法附則に基づく保険給付についてもかなり触れましたが)。
次に、法附則上の保険給付の概観を見ます。
〔2〕法附則上の保険給付
以下の保険給付は、厚生年金保険法の附則又は改正法の附則に規定されている給付です。
一 特別支給の老齢厚生年金
すでに説明しましたので、省略します。
二 特例老齢年金
特例老齢年金は、旧令共済組合の組合員であった期間と厚生年金保険の被保険者期間を合算して20年以上である者が、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない一定の場合に支給される老齢年金です(法附則第28条の3)。
戦時中の旧陸軍共済組合等の組合員であった者に関する特例です。
国民年金法の特例老齢年金と異なり、特別支給の老齢厚生年金と類似した取り扱いとなっており、支給要件としては、60歳から支給されること、支給額としては、特別支給の老齢厚生年金の支給額の計算の例によることとなっています。
三 特例遺族年金
上記二の特例老齢年金の支給要件(年齢要件は除きます)を満たす者が死亡した場合に、遺族厚生年金の受給権を取得しない遺族に支給されるものです(法附則第28条の4)。
支給額は、定額部分が加算された特別支給の老齢厚生年金の支給額の計算の例による額の2分の1(100分の50)です。
四 脱退一時金
国民年金の脱退一時金の厚生年金保険版です(法附則第29条)。
即ち、短期在留外国人についても厚生年金保険の制度は適用され保険料の納付が必要ですが、受給資格期間を満たせないため老齢厚生年金の支給に結びつかないことが多いため、厚生年金保険の保険料の掛け捨て防止の趣旨から、短期在留外国人が帰国した場合に脱退一時金を支給することとしています。
五 脱退手当金
脱退手当金は、昭和61年4月1日前の旧法において、厚生年金保険の被保険者期間が短く老齢年金の支給を受けられない一定の者について、保険料の掛け捨てを防止するため、一時金を支給して脱退を認めていたものですが、新法においては廃止されました(基礎年金制度の新設により、各年金制度の被保険者期間を通算して受給資格期間を満たせることとなったためです)。
しかし、新法施行後においても、なお受給資格期間を満たせない者も存在し得ることから、一定の者について経過的に脱退手当金の支給が認められています(昭和60年改正法附則第75条)。
以上で、保険給付の概観を終わります。
§5 旧法と新法の適用関係等
〔1〕旧法と新法の適用関係
旧法と新法の適用関係については、基本的には、昭和61年4月1日(新法の施行日)前までに支給要件に該当した者(保険給付の受給権が発生した者)については、原則として、引き続き旧法による保険給付が支給され、対して、昭和61年4月1日以後に支給要件に該当した者については、新法による保険給付が支給されます(昭和60年改正法附則第63条第1項(老齢厚生年金の規定)等)。
詳細は、各保険給付の個所で触れます(例えば、老齢厚生年金については、こちらです)。
〔2〕被用者年金一元化法による適用関係
被用者年金一元化法の適用関係(例えば、共済組合の組合員等である被保険者に対して、退職共済年金と老齢厚生年金のいずれが支給されるのかの基準)については、基本的には、被用者年金一元化法の施行日(平成27年10月1日)前に支給要件に該当したか(受給権が発生したか)どうかで判断されます。
即ち、一元化法の施行日前に支給要件に該当した(給付事由が生じた)厚生年金保険の保険給付や共済各法の長期給付(共済年金)については、原則として、一元化前の規定が適用され、当該規定に基づき支給されます(被用者年金一元化法附則第12条。国共済法について、一元化法附則第37条第1項。地共済法について、一元化法附則第61条。私学共済法について、一元化法附則第79条)。
ただし、例えば、一元化前の共済各法の規定が適用される遺族共済年金であっても、転給制度は適用されないといった修正が行われるものがあります。
詳細は、各保険給付の個所で触れます(例えば、老齢厚生年金については、こちらです)。
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