令和6年度版

 

§3 消滅(資格の喪失)

第1号被保険者の「消滅」に関する問題として、「資格の喪失」を取り扱います。

資格の喪失事由(資格の喪失の要件にあたります)と資格の喪失時期を押さえます。

 

 

 

〔1〕要件(資格の喪失の要件)

一 資格の喪失の要件(資格の喪失事由)については、被保険者の要件(資格取得の要件)から導きます。

即ち、第1号被保険者の要件は、「日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しないもの(ただし、厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権者その他厚生労働省令で定める適用除外者除く)」であり、上記のアンダーライン部分が資格の喪失に関わってくることになります。

また、被保険者の死亡は、当然のことながら、資格の喪失事由となります。

 

以上の資格の喪失事由について、具体的には、すぐ後で説明します。

 

 

二 なお、注意点として、「種別の変更」との区別があります(先に少し触れました)。

例えば、第1号被保険者就職して第2号被保険者厚生年金保険の被保険者となったケースのように、強制加入被保険者間の区別(種別)の変更は、資格の喪失及び取得ではなく、「種別の変更」(第11条の2(国年法のパスワード))として取り扱われます。

上記のケースでは、第1号被保険者の「資格を喪失」して第2号被保険者の「資格を取得」すると取り扱われるのではなく、第1号被保険者から第2号被保険者への「種別の変更」として取り扱われるということです。

「種別の変更」の場合には、資格の喪失及び資格の取得とはならず(従って、「資格の喪失の届出」や「資格の取得の届出」は提出しません)、「種別変更の届出」を行います。

 

 

 

〔2〕資格の喪失時期

一 原則 = 翌日喪失

◆資格の喪失事由に該当した場合、その資格の喪失時期は、原則として、翌日喪失となります(第9条柱書)。

即ち、資格の喪失事由の発生日の翌日に資格を喪失するのが原則です。 

 

 

 

二 例外 = 当日喪失

例外として、主として、次の(一)~(三)3つ当日喪失(その日喪失)となることを覚えます(初めの(一)及び(二)は、強制加入被保険者3種類全部について基本的に共通します)。この3つは丸暗記して下さい。

(理屈は、すぐ後で説明します。が、最終的には、理屈は忘れても次の3つが当日喪失となることは記憶していなければなりません。)

 

 

〇 強制加入被保険者の資格喪失時期が当日喪失となる3パターン:

 

(一)年齢要件 = 60歳到達第1号被保険者第3号被保険者の場合)。

 

(二)同日得喪 = 例えば、後掲の表(こちら)の※1の場合(同表の下部の点線内の※1を参考)。

 

(三)厚生年金保険法の関係  具体的には、次の(1)又は(2)の場合。

 

(1)厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権取得した場合(第2号被保険者又は第3号被保険者に該当するときは除きます)。

 

※ この(1)は、第1号被保険者資格喪失についてのみ問題となります。

 

(2)厚生年金保険の被保険者資格を喪失した場合(種別の変更となるときは除きます)。

 

※ この(2)は、第2号被保険者資格喪失についてのみ問題となります。

 

 

 

◆第1号被保険者の資格喪失事由と資格喪失時期とまとめますと、次の表の通りです(第9条)。上記の3パターンを暗記して、さらに、この図で視覚的にイメージして下さい。 

 

 

 

【条文】

 

※ 次の第9条は、一読して下さい。内容は、すぐあとで説明します。

同条第5号第6号は、第2号被保険者及び第3号被保険者の問題ですので、ここではスルーして下さい。

 

※ なお、次の第9条は、令和2年4月1日施行の改正(【令和元.5.22法律第9号】第15条)により改められています。

〔即ち、同条中、従来、「いずれかに該当するに至つたとき」とあった下に、「(第4号については、厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者となつたときに限る。)」が追加され、第4号中、従来、「できる者」とあった下に、「その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者」が追加されました。〕

 

第9条(資格喪失の時期)

第7条の規定による被保険者〔=強制加入被保険者〕は、次の各号いずれかに該当するに至つた日翌日第2号該当するに至つた日更に第7条第1項第2号〔=第2号被保険者〕若しくは第3号〔=第3号被保険者〕に該当するに至つたとき又は第3号から第5号までのいずれかに該当するに至つたとき(第4号については、厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者となつたとき限る。)は、その日)に、被保険者の資格喪失する。

 

一 死亡したとき。

 

二 日本国内住所を有しなくなつたとき(第7条第1項第2号又は第3号〔=第2号被保険者又は第3号被保険者〕に該当するときを除く。)。

 

三 60歳に達したとき(第7条第1項第2号〔=第2号被保険者〕に該当するときを除く。)。

 

四 厚生年金保険法に基づく老齢給付等受けることができる者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の2で定める者となつたとき(第7条第1項第2号又は第3号〔=第2号被保険者又は第3号被保険者〕に該当するときを除く。)。

 

五 厚生年金保険の被保険者の資格を喪失したとき(第7条第1項各号のいずれかに該当するときを除く。)。

 

六 被扶養配偶者でなくなつたとき(第7条第1項第2号又は第3号〔=第1号被保険者又は第2号被保険者〕に該当するときを除く。)。

 

 

 

以下、上記表及び前掲の第9条の理屈を説明します。

 

 

 

1 死亡した場合(第9条第1号)

◆死亡した場合は、当然に、被保険者の資格を喪失します(第9条第1号。第1号被保険者~第3号被保険者に共通です)。

そして、その資格喪失時期は、「翌日喪失」の原則通り死亡日翌日となります(第9条柱書)。 

 

【過去問 平成14年問6D(こちら)】/【令和4年問8E(こちら)】

 

以上は、基本的に、どの保険法でも同様です。

 

死亡したときは、通常、1日の途中ですから、死亡の場合に当該死亡日に資格を喪失するものと解しては、当該死亡日の生存していた間の資格まで否定することになってしまいます。そこで、死亡日の翌日に資格を喪失させたものと解されます。  

 

 

 

2 日本国内に住所を有しなくなった場合(第9条第2号)

(1)原則

 

◆日本国内に住所を有しなくなった場合(第9条第2号) も、原則は、翌日喪失です(第9条柱書)。

 

考え方は、上記の死亡の場合と同様であり、通常、1日の途中までは、国内に住所を有していたはずですから、その途中までの資格を否定するのは妥当でないため、翌日喪失となります。

 

 

(2)例外 = 同日得喪

 

◆ただし、例外は、次の同日得喪の場合です。

即ち、国内住所を有しなくなった日に更に第2号被保険者又は第3号被保険者該当するに至った場合は、「その日」に第1号被保険者の資格喪失します(当日喪失)。(第9条柱書かっこ書

【過去問 平成19年問9A(こちら)参考】

 

例えば、第1号被保険者就職した日に海外派遣されて海外勤務となったようなケースです。

 

注は、この場合は、「種別の変更」とは取り扱われていないことです。

即ち、この場合は、第1号の資格を喪失し、同日に第2号(又は第3号)の資格を取得すると取り扱います(従って、「種別の変更の届出」ではなく、「資格の喪失の届出」及び「資格の取得の届出」を行うことが必要です)。

これは、日本国内に居住している場合と国外に居住している場合とを峻別するという考え方によります。

 

この国内に住所を有しなくなった同日に第2号又は第3号被保険者の資格(以下、ここでは第2号被保険者を例とします)を取得した場合に当該同日の得喪となると取り扱った理由は、もし翌日喪失になると解しますと、第2号の資格取得は「就職した日 = 国内に住所を有しなくなった日」に生じ、第1号の資格喪失はその翌日に生じることになります。

しかし、これでは、「国内に住所を有しなくなった日」について、第1号被保険者の資格と第2号被保険者の資格が併存してしまうことになるため、この「国内に住所を有しなくなった日」については、前者の第1号被保険者の資格は喪失させたものです。

 

なお、第2号被保険者については、国内居住は要件でないため、国内に住所を有しなくなっても、その資格を喪失しません(第9条第2号かっこ書)。 

 

 

 

3 厚生労働省令で定める適用除外者となったとき(第2号被保険者又は第3号被保険者に該当するときを除く)(第9条第4号)

令和2年度試験 改正事項】

国民年金法の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の2で定める者となったとき(第2号被保険者又は第3号被保険者に該当するときを除きます)は、その翌日に被保険者の資格を喪失します(第9条柱書第4号)。

 

この厚生労働省令で定める適用除外者とは、「医療滞在ビザにより国内に滞在する外国人」及び「観光等(ロングステイビザ)による短期滞在の外国人」のことです(施行規則第1条の2)。(こちら以下

 

例えば、技術や技能の在留資格をもって在留し企業に雇用されていた外国人が病気になって退職し、第2号被保険者から第1号被保険者に種別が変更された後、在留期間が迫ってきたため、在留資格の変更許可を申請して、医療滞在ビザに変更許可されたような場合は、当該許可日の翌日に第1号被保険者の資格を喪失するのでしょう。

そして、許可日の前までは、従来の在留資格が存続していることになり、第1号被保険者の資格も存続しているものとして、許可日の翌日に資格を喪失するとしたのでしょう。

 

 

 

4 60歳到達

(1)当日喪失

 

◆「60歳に達したとき」(第9条第3号) は、例外的に、当日喪失その日喪失)となります(第9条柱書かっこ書)。 

 

【過去問 平成14年問6D(こちら)】/【平成30年問7D(こちら)】/【前掲の令和4年問8E(こちら)】

 

年齢要件の場合は、どの保険法でも、基本的に当日喪失となります。

これは、年齢要件の場合、1日の途中で年齢が加算されるものではないですから(前掲(こちら以下)の【静岡県教育委員会事件=最判昭和54.4.19】(原審)によりますと、「日を単位とする計算の場合には、右単位の始点から終了点までを1日と考えるべきである」とされますから、誕生日前日の午前零時に年齢が加算されることになります)、当日喪失としても、いわば資格の端数は生じず、不都合がないという理由だと思われます。

 

 

(2)第2号被保険者について

 

なお、第2号被保険者については、国民年金被保険者としては直接的には年齢要件がないため、60歳に達しても第2号被保険者の資格喪失しません

【過去問 平成20年問6B(こちら)参考】

 

もっとも、次の2点に若干注意です。

 

(ア)まず、例えば、厚生年金保険当然被保険者(適用事業所に使用される70歳未満の者であって、適用除外者以外のものをいいます。厚生年金保険の被保険者のうち、原則的な被保険者です)については、70歳未満という年齢要件があります(厚年法第9条(厚年法のパスワード))。

この場合は、当然被保険者が70歳に達しますと、「その日」に厚生年金保険の被保険者の資格を喪失します(国年法と同様に、年齢要件については当日喪失となります。厚年法第14条第5号厚年法のこちらの表の5)。

そして、後述のように、「国民年金の第2号被保険者」の資格喪失時期は、「厚生年金保険の被保険者の資格喪失日」となりますから(国年法第9条第5号)、この「70歳に達した日」において、「厚生年金保険被保険者」の資格を喪失するとともに、「国民年金第2号被保険者」の資格も喪失します。

よって、「70歳に達した日」に、厚年法国年法第2号両者の被保険者資格を喪失します。

 

従って、第2号被保険者について、国民年金法においては資格喪失の「年齢要件」は規定されていませんが、厚生年金保険の被保険者に関する年齢要件から、間接的に、国民年金の第2号被保険者の資格の喪失も生じることになります。

ただし、実際上は、次に触れます(イ)によって、70歳到達前に第2号被保険者の資格を喪失することが多いため、この「70歳到達によって厚生年金保険の被保険者の資格と国民年金第2号被保険者の資格が共に喪失する」という例は、さほど生じないはずです。

 

いずれにしましても、「第2号被保険者について、60歳到達により自動的に第2号被保険者の資格を喪失する」ようなことはありません。

 

 

(イ)また、第2号被保険者については年齢要件はありませんが、後述のように、65歳以上の者にあっては、老齢退職年金給付の受給権を有しない者のみ第2号被保険者となりますので(第2号被保険者の要件は、こちらです。法附則第3条)、実際上は、第2号被保険者は、原則として65歳の到達によりその資格を喪失することとなります(法附則第4条)。

 

即ち、老齢基礎年金(及び老齢厚生年金)の支給開始年齢は原則として65歳であるため、通常は、65歳に達しますと、老齢基礎年金(及び老齢厚生年金)の受給権を取得しますので、当該老齢基礎年金等の受給権者は、老齢退職年金給付の受給権を有する者であるとして、第2号被保険者の資格を喪失するのです。

従って、実際上は、第2号被保険者には、原則として65歳の年齢要件があることになります。

ただ、第1号被保険者第3号被保険者のように「常に(自動的に)」一定の年齢(60歳)において資格を喪失するのではない点が異なります。

そこで、第2号被保険者の「65歳の年齢要件」は、事実上のものに過ぎません。

詳細は、第2号被保険者の個所でも言及します。  

 

 

 

5 厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者となったとき(第2号被保険者又は第3号被保険者に該当するときを除く)(第9条第4号)

厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権を有しないことが、第1号被保険者の要件ですから(この趣旨については、こちらで触れました)、当該受給権を取得した場合には、第1号被保険者の資格を喪失します(第9条第4号)。

この場合、資格喪失時期は、当日喪失となることに注意です(第9条柱書かっこ書)。

【過去問 平成19年問9C(こちら)】

 

もし翌日喪失となると解しますと、その前日(即ち、「厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権の取得日」)には、第1号被保険者でありながら「厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権」を有していることになり、「厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権を有する者は第1号被保険者にはならない」というルール(第7条第1項第1号かっこ書)と調和しないため、当日喪失と取り扱っているものと解されます。

 

なお、上記5のかっこ書の「第2号被保険者又は第3号被保険者に該当するときを除く」という意味は、次の通りです。

 

まず、第3号被保険者については、厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権を取得しても、その資格を喪失しません。

第3号被保険者の要件と「厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権の取得」は何ら関係がないからです。

 

次に、第2号被保険者については、先に少し触れましたように、第2号被保険者が、65歳「以上」の者であるときは、「老齢退職年金給付の受給権」を有しないことが要件であり(法附則第3条法附則第4条)、従って、65歳「以上」の第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)が「厚生年金保険法に基づく老齢給付等」を受けることができる者となったときは、「老齢退職年金給付」の受給権を取得したものとして、第2号被保険者の資格を喪失することとなります。

しかし、65歳「未満」の第2号被保険者の場合は、「厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者となった」ときであっても、その資格を喪失しませんから(法附則第4条参考)、この場合について、上記のように「第2号被保険者(又は第3号被保険者)に該当するときを除く」と定めることに意味があることになります。 

 

 

 

〔3〕効果

資格の喪失の効果としては、第1号被保険者の資格を喪失した以後は、第1号被保険者としての被保険者期間に該当しないことが挙げられます。

具体的には、被保険者資格を喪失した月前月までが、当該資格に係る被保険者期間となります(第11条第1項)。

そして、第1号被保険者資格の喪失月以後は、保険料の納付義務なくなります

 

以上で、第1号被保険者について、終わります。次のページでは、第2号被保険者について学習します。