【令和6年度版】
§3 目的(第1条)
国民年金制度の目的は、第1条に次の通り規定されています(非常に重要です。太字部分のキーワードは丸暗記が必要です。・・・と指摘しておりましたが、平成28年度の選択式において、赤字にしていた部分が出題されました)。
【条文】
第1条(国民年金制度の目的) 国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。 |
【選択式 平成28年度 A=国民生活の「安定」、B=「共同連帯」(こちら)】
○趣旨
国民年金制度は、生存権の保障(憲法第25条第2項)の理念に基づき、老齢、障害又は死亡(保険事故)により国民の生活の安定が阻害されることを国民の共同連帯によって防止しようとする制度です。
若干、解説します。
※ なお、当サイトでは、条文等について、基本的にリンクを付けています。
ただし、いちいちリンク先の条文をご覧になる必要はありません(国年法及び厚年法の特に附則等の条文は、複雑でわかりにくいものが多く、全ての条文を読み込もうとしますと、時間が足りなくなります)。
重要な条文については、当サイトで指摘致しますので、お読み下さい。その他の条文については、学習状況に応じてご参照下さい。
一 対象者(被保険者)
国民年金は、全国民を対象としています。従って、前記の第1条(目的条文)においても、「国民」と規定され、「労働者」等と規定されていません。
対して、厚生年金保険法においては、被用者を対象としているため、目的条文(同法第1条)においても、「労働者」と規定されています。
二 保険事故
三 給付
四 その他
(一)生存権
この第1条においては、国民年金制度は、憲法第25条第2項に規定する理念に基づくものと定められています。
【憲法】
憲法第25条 1.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2.国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 |
憲法第25条は、国民の生存権を定めたものです。
即ち、同条は、社会的・経済的弱者の救済といった社会福祉国家理念の見地から、生存権を保障することにより、人間らしい生活を可能にさせ、もって個人の尊厳(憲法第13条)を実質的に確保しようとした趣旨です。
そして、憲法第25条第1項は、生存権を国民の権利の側から定めたものであり、同条第2項は、それに対する国家の義務の側から定めたものと解されます。
ただし、この生存権の権利性(国家の義務性)の具体的内容については争いがあります。
社会権としての生存権の内容は、法律により具体化されるものと解されるのが一般です。
なぜなら、社会権としての生存権の具体的内容は憲法上必ずしも明白でないこと(「健康で文化的な最低限度の生活」の内容等について直ちに明白な基準を定立できるわけではありません)、生存権をどのように実現するかについては政策的・専門的判断が必要となることも多く(例えば、公的年金に加算額を加算するか、いくらの額を加算するか等)、財政的基盤も問題となることなどから、政治部門(立法府、行政府)の判断を尊重する必要もあることからです(裁判所と政治部門との適正な役割分担の問題となります)。
もっとも、生存権の実現に関する政治部門の裁量権も無制約なものとはいえず、憲法が生存権を定めた趣旨に照らし、一定の限界は求められるものと解されます。
国民年金法は、憲法第25条第2項の規定を受けて、老齢、障害又は死亡に伴う国民の生活の安定の阻害を防止することによって、国民の生存権を保障し、その個人の尊厳を確保しようとしたものです。
(二)国民の共同連帯
1「国民の共同連帯」とは、多様な意味内容で使用される用語ですが、この国年法第1条においては、社会保険の仕組みを用いて相互に助け合うことを意味しているものと解されます。
2 なお、「国民の共同連帯」という用語は、例えば、次の社労士試験の対象科目の目的条文等の中で使用されています。
(1)国民年金法 = 第1条(本条。目的条文)
【選択式 平成28年度 B(こちら)】
(2)高齢者医療確保法 = 第1条(社会一般のパスワード)(目的条文)(社会一般のこちら)
(3)介護保険法 = 第1条(目的条文)(社会一般のこちら)
【選択式 社会一般 平成27年度 D(こちら)】
(4)日本年金機構法 = 第2条第1項(基本理念等)
§4 国民年金の給付(第2条)
【条文】
第2条(国民年金の給付) 国民年金は、前条の目的を達成するため、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行うものとする。 |
【選択式 令和5年度 D=「必要な給付」(こちら)】
○趣旨
第2条は、国民年金の給付は、国民の老齢、障害又は死亡という保険事故に対して行われることを定めたものです。
一 保険事故
老齢を保険事故としている点が、公的年金制度の特徴です(例えば、労災保険法や健康保険法では、老齢は保険事故ではありません)。
また、障害及び死亡について、国民年金や厚生年金保険においては、業務上又は業務外が問われないことも特徴です。
二 保険と保険給付
国民年金制度も、他の公的年金制度(厚生年金保険制度)と同様に社会保険です。
即ち、加入者が保険料を納付して一定の保険事故が生じた場合に公的責任に基づき給付を受けられるものであり、保険の方式によりリスクを分散しリスクに対応する公的制度です。
しかし、国民年金制度においては、20歳前傷病による障害基礎年金(第30条の4(国年法のパスワード)。こちら以下)や保険料の免除を受けた者(第5条第2項~第6項、第89条以下。こちら以下)に対して支給される老齢基礎年金のように、保険料の納付に基づかずに支給されるという保険方式によらない給付も行われることから(社会扶助方式。給付費についても、基礎年金拠出金については2分の1が国庫負担されるなど(こちら以下)、その財源として保険料以外の占める割合が大きいです)、国民年金制度においては「保険」という用語は使用せずに(国民年金「保険」ではありません)、例えば、「保険給付」ではなく「給付」と表現しています。
即ち、国民年金法に基づくすべての給付が保険原理により行われるわけではありません。
【過去問 平成26年問7A(こちら)】
(参考)
・【最判平成19.10.9(学生無年金障害者訴訟)】は、国民年金制度について、次のように判示しています。
「国民年金制度は、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし、被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行う保険方式を制度の基本とするものであり(法1条、87条)、〔以下、省略〕」
◯過去問:
・【平成26年問7A】
設問:
国民年金は、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとされ、国民年金法に基づくすべての給付は保険原理により行われる。
解答:
誤りです。
国民年金法に基づく給付は、20歳前傷病による障害基礎年金、保険料免除者に対する給付、福祉年金など、「保険原理」ではなく社会扶助の原理により行われるものがあります。
そして、国民年金は、「必要な保険給付を行う」のではなく、「必要な給付を行うもの」と規定されています(第2条)。
三 保険事故と給付
国民年金における保険事故と給付について整理しますと、次の通りです。
以下、上記の給付について、簡単に説明します。
(一)第15条に基づく給付
国民年金法の本則(第15条)に規定されている給付は、前掲(こちら)の表の 1 に掲げました6種類です(次の条文に示されています)。
【条文】
第15条(給付の種類) この法律による給付(以下単に「給付」という。)は、次のとおりとする。
一 老齢基礎年金
二 障害基礎年金
三 遺族基礎年金
四 付加年金、寡婦年金及び死亡一時金 |
1 基礎年金
基礎年金は、国民年金の基礎的な給付であり、被保険者の種別に関わらず支給されるものです。
老齢、障害及び死亡の各保険事故に対応して老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金があります。
(1)老齢基礎年金
老齢基礎年金は、一定期間、国民年金の保険料を納付した者(保険料納付済期間等を有する者)が、原則として65歳に達したときに支給される基礎年金です(第26条以下。こちら)。
老後の生活保障を目的としたものです。
支給額については、20歳から60歳までの40年間(又は加入可能月数)のすべての期間が保険料納付済期間となっている場合(第1号被保険者を例としますと、そのすべての被保険者期間について保険料が全額納付されている場合です)に、満額(定額)が支給されますが、保険料納付済期間が40年(加入可能月数)未満である者については、上記満額から、当該不足する期間に相当する分の年金額が減額されます。
(2)障害基礎年金
障害基礎年金は、傷病に係る初診日に被保険者である者等が、障害認定日に障害等級2級以上に該当し、初診日の前日における保険料納付要件を満たしている場合に支給される基礎年金です(第30条以下。こちら)。
障害者の生活保障を目的としたものです。
支給額は、定額制(障害等級2級の場合、老齢基礎年金の満額と同額)です(なお、子の加算額があります)。
(3)遺族基礎年金
遺族基礎年金は、被保険者等が死亡した場合に、当該死亡者により生計を維持されていた配偶者(「子のある配偶者」(即ち、一定の子と生計同一である配偶者)に限ります)又は一定の「子」に支給されます(第37条以下。こちら)。
このように遺族基礎年金の支給対象となる遺族は、「子のある配偶者」又は「子」に限られることが特徴です。
従って、遺族基礎年金は、遺族の生活保障を目的としたものですが、子の保護が重視されていることになります。
この「子のある配偶者」については、以前は、「子のある妻」に限られ(いわゆる母子年金)、「子のある夫」は遺族基礎年金の支給対象である遺族に含まれていませんでした。しかし、夫と妻の取扱いの均衡の見地から、平成26年4月1日施行の改正(平成24年制定のいわゆる「年金機能強化法」。【平成24.8.22法律第62号】。詳細はこちらですが、さしあたりスルーして下さい)により見直しが行われ、「子のある夫」も含む「子のある配偶者」が遺族基礎年金の対象とされました。
支給額は、定額制(老齢基礎年金の満額と同額)です(なお、子の加算額があります)。
以上が、基礎年金の3種類でした。
次に、第1号被保険者の独自給付である3種類を見ます。
2 第1号被保険者の独自給付
第1号被保険者の独自給付とは、第1号被保険者(国内居住の20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しないもの。適用除外者は除きます)としての被保険者期間を対象(基礎)として支給される給付です。
即ち、第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間等を一定期間有することが支給要件となります(従って、第2号被保険者及び第3号被保険者としての被保険者期間しか有しない者については、この第1号被保険者の独自給付は支給されません)。
付加年金、寡婦年金及び死亡一時金の3種類があります。
(1)付加年金
付加年金とは、老齢基礎年金の上乗せ給付であり、老齢基礎年金に付加して支給される年金です。
即ち、付加保険料(第1号被保険者及び「特例による任意加入被保険者以外の任意加入被保険者」が納付できます。月額400円です)を納付した者が、老齢基礎年金の受給権を取得した場合に支給される年金です(第43条以下。こちら)。
支給額は、200円に付加保険料に係る保険料納付済期間の月数を乗じて得た額となります。
(2)寡婦年金
寡婦年金とは、第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間等のみで老齢基礎年金の受給資格期間を満たす夫が、老齢基礎年金の支給を受ける前等に死亡した場合に、当該夫の妻に60歳(原則)から65歳到達月までの間支給されるものです(第49条以下。こちら)。
死亡した夫の国民年金の保険料の掛け捨てを防止するとともに、65歳になって自ら老齢基礎年金の支給を受けられるようになるまでの高齢の寡婦の生活保障を図るものです。
(3)死亡一時金
死亡一時金とは、第1号被保険者として一定期間保険料を納付した者が老齢基礎年金等の支給を受ける前に死亡した場合において、その遺族が遺族基礎年金の支給を受けられないときに当該遺族に支給される一時金です(第52条の2以下。こちら)。
死亡者の国民年金の保険料の掛け捨ての防止を図るものです。
第15条の6種類の給付のうち、死亡一時金のみが年金ではなく一時金です。
(二)法附則上の給付
以下の給付は、国民年金法の本則ではなく、附則に規定されている給付です。この中では、まずは、脱退一時金が重要です。
1 特例老齢年金(法附則第9条の3)
特例老齢年金は、旧令共済組合の組合員であった期間を有する者が、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない一定の場合に支給される老齢年金です(法附則第9条の3。こちら)。
戦時中の旧陸軍共済組合等の組合員であった者に関する特例です。
なお、「特例老齢年金」という表現は当サイトが使用する表現です。法附則第9条の3のタイトル(見出し)に基づくなら、「旧陸軍共済組合等の組合員であった期間を有する者に対する老齢年金」となります。
そして、厚年法にも「特例老齢年金」があるため、本来は、国年法の「特例老齢年金」については、タイトルに従って「旧陸軍共済組合等の組合員であった期間を有する者に対する老齢年金」と表現した方がよいといえます。
が、当サイトでは、文字量の削減のため、「特例老齢年金」と表現することが多く、厚年法の「特例老齢年金」と紛らわしい個所では、「国年法の特例老齢年金」と表現することがあります。
2 特別一時金(昭和60年改正法附則第94条)
特別一時金は、旧法の障害年金等の受給権者であって、旧法の施行期間中に国民年金に任意加入等をしていた者について、当該保険料の掛け捨てを防止するために一時金が支給されるものです(こちら)。
3 脱退一時金(法附則第9条の3の2)
短期在留外国人についても基本的に国民年金制度は適用され保険料の納付が必要ですが、受給資格期間を満たせないため老齢基礎年金の支給に結びつかないことがあります。
そこで、国民年金の保険料の掛け捨て防止の趣旨から、短期在留外国人が帰国した場合に脱退一時金を支給することにしています(法附則第9条の3の2以下。こちら)。
4 福祉年金
旧国民年金法(その意味は次のページで見ます)において無拠出制により支給されていた福祉年金の一定のものについて、現在も引き続き支給されているものがあります。老齢福祉年金です(法附則第32条等)。(次のページでやや詳しく見ます。)
〇過去問:
・【令和2年問6E】
設問:
国民年金法によれば、給付の種類として、被保険者の種別のいかんを問わず、加入実績に基づき支給される老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金と、第1号被保険者としての加入期間に基づき支給される付加年金、寡婦年金及び脱退一時金があり、そのほかに国民年金法附則上の給付として特別一時金及び死亡一時金がある。
解答:
誤りです。
設問中、「脱退一時金」と「死亡一時金」を入れ替えれば正しい内容となります。
即ち、国民年金法の本則上、第1号被保険者としての加入期間に基づき支給される給付として、付加年金、寡婦年金及び「死亡一時金」があり、そのほかに国民年金法附則上の給付として特別一時金及び「脱退一時金」があります。
なお、設問中、「老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金」について、「加入実績に基づき支給される」とあります(以下、詳細については、各給付を学習してから再チェックして下さい)。
この点、「老齢基礎年金」の場合は、支給要件として、10年以上の受給資格期間を満たすことが必要であること(第26条ただし書)、また、支給額について、基本年金額は、保険料納付済期間が40年未満である者について、満額から当該不足する期間に相当する分の年金額が減額され(いわゆる「フルペンション減額方式」)、保険料納付済期間及び保険料免除期間に応じて支給されること(第27条ただし書)を考えますと、「加入実績に基づき支給される」といえます。
「遺族基礎年金」の場合は、支給額は定額ですが(第38条)、支給要件として、いわゆる長期要件については、25年(原則)以上の受給資格期間を満たすことが必要ですから(第37条第3号、第4号)、これも「加入実績に基づき支給される」という面があります。
なお、遺族基礎年金の支給要件として、保険料納付要件(死亡日の前日において、当該死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があるときは、原則として、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること(第37条ただし書))が要求されることがあります。
ただ、この保険料納付要件は、厳密には、加入実績(加入期間の長さ)が考慮されるというより、滞納期間の割合(3分の2要件)が考慮されるものです。
死亡日の前日において、当該死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間が「ない」ときは、保険料納付要件が要求されないこと(被保険者となってほどなく死亡したような場合にも、遺族の保護が必要だからです)からも、保険料納付要件が加入実績そのものを表すものではないことが分かります。
もっとも、「加入実績」という用語を、「加入期間の長さ」に限定する意味ではなく、「加入期間があったこと、ないし加入期間の割合」も含めた意味に理解するならば、保険料納付要件も広義の「加入実績」であるとはいえます。
「障害基礎年金」の場合は、支給額は定額であり(第33条)、支給要件についても、加入実績を考慮したものはありません(第30条。保険料納付要件については、前記の通り、厳密には、加入実績と同義ではありません)。
以上のように、設問中、「加入実績に基づき支給される老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金」とある部分については、厳密には、「障害基礎年金」は該当しないと考えることは可能ですが、前記の通り、「加入実績」の意味をどのように捉えるかにもよります。
いずれにしましても、本問では、前記の「脱退一時金」と「死亡一時金」について誤りがあり、正しくない内容です。
以上で、国民年金の給付の概観を終わります。
次のページでは、旧法と新法の給付の関係等について学習します。