【令和7年度版】
序論 雇用保険法の目的、体系
ここでは、雇用保険法の目的や体系等について見ていきます。
§1 雇用保険法の全体像
第1 雇用保険法の趣旨
雇用保険法(以下、「雇用法」ということがあります)は、失業等給付等(保険給付。第69条第1項(雇用法のパスワード)参考)及び雇用保険二事業を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定等を図ることを目的とする法律です(第1条参考)。
1 憲法との関係
憲法第27条第1項 は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と規定し、勤労権と勤労の義務を定めています。
そして、同規定が憲法の社会権の規定(憲法第25条の生存権、第26条の教育を受ける権利、第28条(労働一般のパスワード)の労働基本権)の中に置かれていることを考えますと、勤労権は、国民が公権力により勤労の自由を侵害されないという自由権的側面だけでなく、国に対して労働する機会の提供を求める権利(社会権的側面)も保障したものと解されます。
この勤労権の保障により、労働者が健康で文化的な生活を送ること(生存権の保障)が可能となり、もって個人の尊厳(憲法第13条)が確保されることになります。
ただし、社会権としての勤労権の内容は、法律により具体化されるものと解されています。
なぜなら、社会権としての勤労権の具体的内容は憲法上明らかでないこと、勤労権をどのように実現するかについては政策的・専門的判断が必要となることが多く(例えば、就職を促進するための適切な政策の立案等)、政治部門(立法府、行政府)の判断を尊重する必要もあることからです(裁判所と政治部門との適正な役割分担の問題となります)。
もっとも、勤労権の実現に関する政治部門の裁量権も無制約なものとはいえず、憲法が勤労権を定めた趣旨に照らし、一定の限界は求められるものと解されます。
【参考条文 憲法】
憲法第27条 1.すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2.賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3.児童は、これを酷使してはならない。 |
雇用保険法は、かかる憲法の勤労権の保障の規定を受けて定められた法律の1つです。
その他に、勤労権に関連して、労働施策総合推進法(旧雇用対策法)、職業安定法、職業能力開発促進法など多数のいわゆる労働市場法・雇用政策法(こちら)といわれる法律が定められています。
2 沿革
雇用保険法は、沿革的には、昭和22年に制定された「失業保険法」を前身としています。
当時は戦後の混乱期にあり、失業問題が深刻化しており、被保険者が失業した場合に失業保険金を支給し、その生活の安定を図ることを目的として、保険制度としての失業保険法が定められました。
その後、高度経済成長を経て、昭和48年末のオイルショックによる深刻な不況を契機として低経済成長期に移行する等、社会経済環境の大きな変化を受けて、失業保険制度についても、従来の失業対策(いわば事後的・消極的な雇用対策)を強化するとともに、失業の予防、就職の促進等(いわば事前的・積極的な雇用対策)にも対応すべく、昭和49年に失業保険法に代えて「雇用保険法」が制定されました(昭和50年4月1日施行)。
この雇用保険法においては、雇用保険3事業(現在は雇用保険2事業)として、例えば雇用調整給付金(現在の雇用調整助成金)の制度が設けられ、不況のもとで雇用を維持しつつ行う一時休業等の措置について事業主に助成金が支給されるなどの積極的雇用対策が効果を発揮しました。
その後も、少子高齢化の進行、バブル経済崩壊後の長期にわたる経済の低迷、産業構造の変化、経済のグローバル化、労働者の意識の変化(会社への帰属意識の希薄化等)など、労働環境には大きな変化が生じています。
このような下で、平成6年に雇用継続給付(高年齢雇用継続給付、育児休業給付)が創設されました(平成7年4月1日施行。これにより、従来の「失業給付」は「失業等給付」に改称されました。雇用保険法の保険給付の保険事故が「失業」にとどまらなくなったためです。※1)。
さらに、平成10年に教育訓練給付が創設される(同年12月1日施行)とともに、雇用継続給付に介護休業給付が追加される(平成11年4月1日施行)などの改正がなされました。
平成12年には、雇用失業情勢の悪化に対応して、基本手当の所定給付日数が離職理由により区分される改正等が行われています(特定受給資格者の制度の創設等。なお、特定理由離職者の制度は、平成20年秋のリーマンショック後の不況を背景として、平成21年の改正により創設されました)。
近年においても、就職促進給付の就業促進手当として「就業促進定着手当」が追加され(既存の再就職手当の一種です。平成26年4月1日施行)、また、教育訓練給付について、新たに「専門実践教育訓練に係る教育訓練給付金」(専門実践教育訓練給付金)が追加されると共に、暫定的に「教育訓練支援給付金」の制度も設けられました(平成26年10月1日施行)。
育児休業給付についても、支給要件が緩和されたり(平成26年10月1日施行)、支給額に係る一定期間の支給率が暫定的に引き上げられました(同年4月1日施行。現在では、次に触れる令和2年4月1日施行の改正により、この暫定措置が本則に改められています)。
【令和2年度試験 改正事項】
さらに、令和2年4月1日施行の改正(令和2年改正法。【令和2.3.31法律第14号】第1条)により、失業等給付から育児休業給付が分離されました(第3条、第10条第6項等参考。育児休業給付は、「第3章 失業等給付」から分離され、新設された「第3章の2 育児休業給付」(現在は、「第3章の2 育児休業等給付」)の章に規定されました)。
これは、育児休業給付の支給額が一貫して増加していたことを踏まえ(基本手当に匹敵する支給総額となっています)、育児休業給付を失業等給付とは異なる給付体系として位置づけ、育児休業給付の収支について失業等給付の収支と区分して明確化することを目的とするものです。
この改正に伴い、「失業等給付及び育児休業給付(現在は、育児休業等給付)」は、併せて「失業等給付等」と称されます(第69条第1項参考)。
【令和5年度試験 改正事項】
その後、令和4年10月1日施行の改正(【令和3.6.9法律第58号】)により、育児介護休業法において「出生時育児休業」が創設されたことに伴い、雇用保険法の育児休業給付においても「出生時育児休業給付金」が新設され(第61条の8)、育児休業給付は「育児休業給付金」と「出生時育児休業給付金」の2種類となりました(第61条の6第1項)。
【令和7年度試験 改正事項】
さらに、令和7年4月1日施行の改正により、育児に関する給付として、「出生後休業支援給付」(出生後休業支援給付金)及び「育児時短就業給付」(育児時短就業給付金)が新設され、従来の「育児休業給付」(育児休業給付金及び出生時育児休業給付金)にこれら「出生後休業支援給付」及び「育児時短就業給付」を加えたものが「育児休業等給付」と称されることとなりました(第61条の6第1項、第3条、第69条第1項)。
育児休業給付については、より詳しくはこちら以下で学習します。
3 近時の改正
先に少し触れましたが、雇用保険法は、近時も大きな改正が続いています。
ここでは、これらの最近の大きな改正についての大まかな概要をご紹介します(初学者の方は、流し読みして下さい)。
(1)高年齢被保険者
以前は、65歳に達した日以後に雇用される者は、原則として、適用除外者とされていました。
しかし、平成29年1月1日施行の改正により、65歳以上の被保険者が「高年齢被保険者」とされ、65歳以後に新たに雇用される者も雇用保険法の適用対象とされることになりました。これにより、従来の「高年齢継続被保険者」の制度が廃止されています。
高年齢被保険者については、失業した場合は高年齢求職者給付金が支給されるほか、就職促進給付(常用就職支度手当、移転費及び後掲の求職活動支援費のみ)、教育訓練給付及び雇用継続給付の支給対象となります。
ちなみに、徴収法上の雇用保険料の徴収(免除対象高年齢労働者の制度の廃止)は、令和2年度から開始されています。
【令和4年度試験 改正事項】
なお、令和4年1月1日施行の改正により、複数就業者(マルチジョブホルダー)の保護の見地から、高年齢被保険者の特例(特例高年齢被保険者)の制度が試行的に導入されました(第37条の5等)。
特例高年齢被保険者とは、2以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者について、1の事業主の適用事業における週所定労働時間が20時間未満であっても(適用除外者の第6条第1号参考)、2の事業主の適用事業における週所定労働時間(5時間以上のものに限ります)の合計が20時間以上であるときは、その申出により、高年齢被保険者(これを「特例高年齢被保険者」といいます)となることができるとするものです(「高年齢被保険者の特例」。第37条の5等)。
任意加入被保険者ということになります 。
詳しくは、のちにこちら以下(概要)及びこちら以下(詳細)で見ます。
(2)基本手当
基本手当においても、特定受給資格者に係る所定給付日数が一部改正されたり、延長給付について、内容を一新した「個別延長給付」が新設されるとともに(恒久的な制度となりました)、5年間の暫定措置として、「地域延長給付」が新設されるといった改正が行われています(平成29年4月1日施行)。
【令和3年度試験 改正事項】
また、令和2年8月1日施行の改正により、受給資格の要件に係る算定対象期間の算定基礎となる被保険者期間の計算方法が改められました。
即ち、被保険者期間の計算について、 賃金支払の基礎となった日数だけでなく労働時間(時間数)による基準も補完的に追加することによって、被保険者であるにもかかわらず日数が少ないために基本手当等の失業等給付等の支給を受けられないという問題に対応するための見直しが行われました(詳しくは、こちら以下です)。
また、運用面の改正ですが、離職理由による給付制限のうち、正当な理由がない自己都合退職についての給付制限期間が緩和されました(令和2年10月1日施行。こちら以下)。
【令和7年度試験 改正事項】
さらに、令和7年4月1日施行の改正により、正当な理由がない自己都合退職に係る給付制限期間が緩和されています(原則「2箇月」から「1箇月」に)。
その他に、令和7年4月1日施行の改正により、教育訓練等を受講した自己都合退職者に係る給付制限が解除されることとなりました。
即ち、正当な理由がない自己都合退職としての離職理由による給付制限に該当した場合は、給付制限が行われるのが原則ですが、例外として、離職日前1年以内又は離職期間中に、教育訓練給付金に係る教育訓練等を受けた場合は、この給付制限は解除され、基本手当が支給されることとなりました(第33条第1項ただし書第2号、第3号)。
リスキリングによる労働移動を抑制しないという趣旨です。
【令和5年度試験 改正事項】
また、令和4年7月1日施行の改正により、基本手当の受給期間の特例が定められました。
即ち、基準日後〔=離職日の翌日以後〕に事業を開始等した受給資格者が、管轄公共職業安定所長にその旨を申し出た場合は、当該事業の実施期間(4年から受給期間の日数を除いた日数が限度です。最大で3年)は、受給期間に算入されません(第20条の2)。
離職して起業する者が休廃業した場合に、基本手当を受給しやすくすることによって休廃業のリスクを軽減しようとした趣旨です(詳しくは、こちら以下です)。
(3)就職促進給付
就職促進給付においては、平成28年の改正(平成29年1月1日施行)により、従来の「広域求職活動費」が見直され、求職活動に伴う費用を支給する給付としてより広い内容を持つ「求職活動支援費」の制度に改められました。
具体的には、従来とほぼ同内容の「広域求職活動費」のほか、「短期訓練受講費」(短期間の教育訓練の受講費用(教育訓練給付金の支給を受けていないもの)の援助)及び「求職活動関係役務利用費」(求人者との面接等や教育訓練等受講の間の子の保育等サービスに係る利用費の援助)の3種類から構成されます。
さらに、再就職手当の支給率の引上げや移転費(着後手当)の額の引上げも行われています。
また、正当な理由がなく自己都合によって退職した者であって、①離職日(基準日)前1年以内に、教育訓練等を受けたことがある受給資格者又は②当該訓練を離職日(基準日)以後に受ける受給資格者については、離職理由による給付制限は解除され、基本手当が支給されます(第33条第1項ただし書第2号、第3号))。
リスキリングによる労働移動を抑制しないという趣旨です。
【令和7年度試験 改正事項】
なお、就業促進手当のうちの就業手当(受給資格者が、安定しない職業に、早期に再就職した場合(例:短期のアルバイトとして再就職したケース)に基本手当日額の10分の3相当額が支給されるもの)は、令和7年4月1日施行の改正(【令和6.5.17法律第26号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第1条)により廃止されました。
就業手当の受給者数が極めて少数であり、さらに減少傾向にあること、我が国が直面する人手不足の状況下においては安定した職業への就職を促進していくことが求められることが考慮されたものです。
のちにこちらでも触れます。
(4)教育訓練給付
教育訓練給付においては、専門実践型教育訓練給付金(「支給要件期間」の改正や支給額の引上げ等)や教育訓練支援給付金(令和4年3月31日までの延長等)に関する重要な改正がいくつか行われています(平成30年1月1日施行)。
また、令和元年10月1日施行の施行規則の改正により、特定一般教育訓練給付金の制度が新設されました。
一般教育訓練給付金の支給要件をベースとしつつ、ITスキルなどキャリアアップ効果の高い講座の受講を対象としたものであり、支給率や上限額が一般教育訓練給付金の2倍となっています。なお、受講開始前の手続が必要であるという特徴もあります。
【令和7年度試験 改正事項】
なお、令和6年の改正(【令和6.5.17法律第26号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第1条)では、教育訓練給付金の給付率の上限が従来の70%から80%に引き上げられました(令和6年10月1日施行。第60条の2第4項)。
これは、専門実践教育訓練給付金(原則(本体支給)は受講費用の50%の支給)について、従来の資格取得等に係る追加支給(20%の追加)に加え、教育訓練の受講後に賃金が上昇したことによる追加支給(賃金上昇に係る追加支給。10%の追加)が新設されたことに伴う見直しです(詳細は、施行規則第101条の2の7等の施行規則で規定されています)。
なお、上限額についても改正されています。
また、特定一般教育訓練給付金についても、資格取得等に係る追加支給(10%の追加)が新設されました。
さらに、教育訓練支援給付金については、令和7年4月1日施行の改正により、①適用が2年間延長され、令和9年3月31日までの適用とされた半面で、給付率が従来の80%から60%に引き下げられました。
(5)雇用継続給付
雇用継続給付においては、育児介護休業法の改正に連動した見直しが多くなっています。
即ち、育児休業給付において、対象となる子の範囲が拡大され(平成29年1月1日施行)、また、一定の要件の下、2歳までの子に係る育児休業が対象とされました(平成29年10月1日施行)。
そして、前述の通り、令和2年4月1日施行の改正により、育児休業給付は、失業等給付(雇用継続給付)から分離されました。
その後、令和4年10月1日施行の改正により、「出生時育児休業給付金」が新設されました。
さらに、令和7年4月1日施行の改正による「出生後休業支援給付」及び「育児時短就業給付」の新設については、先にこちらで触れました。
介護休業給付においては、対象家族のうち「祖父母、兄弟姉妹及び孫」について従来の「同居かつ扶養」の要件がなくなりました。
その他、介護休業の分割取得が可能となり(以上、平成29年1月1日施行)、また、介護休業給付金の給付率の引き上げなどの見直しが行われています(平成28年8月1日施行)。
【令和7年度試験 改正事項】
高年齢雇用継続給付については、令和7年4月1日施行の改正により、給付率が縮小されました。
65歳までの雇用確保措置の進展、働き方改革関連法による改正に伴い、定年退職し再雇用された後も、雇用形態にかかわらない公正な待遇が要求されることなどから、同給付の将来の廃止が想定されています。
以上、雇用保険法の沿革を見てきましたが、雇用保険法は、現在では、雇用の安定等を図るセーフティーネットとしての総合的な法律であるといえます。
※1 失業等給付等:
【令和2年度 令和7年度試験 改正事項】
前述の通り、雇用保険法の保険給付は、令和2年4月1日施行の改正により、①「失業等給付」及び②「育児休業等給付」(当該改正当時は「育児休業給付」)に大別され、これらを併せて③「失業等給付等」といいます。
このうち、①の「失業等給付」の「等」とは、「失業」を要件(保険事故)としていない「雇用継続給付」及び「教育訓練給付」(教育訓練支援給付金を除きます)のことです。
対して、「失業」を要件(保険事故)とする保険給付として、「求職者給付」及び「就職促進給付」があります。詳細は、後に触れます。
他方、③の「失業等給付等」の語尾についた「等」とは、②「育児休業給付」のことです。
次に雇用保険法の体系を大まかに見ます。
第2 雇用保険法の体系
今まで学習してきました労基法や労災保険法と同様に、雇用保険法の全体の体系についても、「主体」、「客体」、「事業」、「費用(財政)」及び「その他」に分類して整理します。
〔Ⅰ〕主体
「主体」については、「被保険者」の概念が登場します(労災保険法では、被保険者の概念はありませんでした)。
被保険者とは、「適用事業に雇用される労働者であって、適用除外者(第6条各号(雇用保険法のパスワード)に掲げる者)以外のもの」をいいます(第4条第1項参照)。
この被保険者として4種類あります(のちに図示します(こちら))。
被保険者の種類により、受給できる保険給付が異なります。
この各被保険者の要件をきちんと押さえることは必須です。ゴロ合わせでも利用して覚えましょう(後にご紹介します)。
〔Ⅱ〕客体
「客体」については、保険事故や賃金について学習します。
〔Ⅲ〕事業
「事業」については、大別しまして、「失業等給付等」(保険給付です)と「雇用保険二事業」があります。
保険給付とその他の事業に分けられるという点では、労災保険法(その他の保険法)とも同様です。
事業の全体像は、次の図の通りです。
【令和2年度試験 改正事項】
「事業」については、「失業等給付等」が学習の中心となります。保険給付の種類が多く、かなり厄介です。
後述の「失業等給付等」の体系図によって、全体構造を押さえること、また、各保険給付の体系を押さえること(「要件」、「手続」及び「効果」の視点により整理します)が重要です。
覚えなければならない知識量が多いため、全体構造や体系を把握していませんと、混乱のもとになります。
まずは、「失業等給付等」として、「失業等給付」と「育児休業等給付」に区分され、前者の「失業等給付」として、「求職者給付」、「就職促進給付」、「教育訓練給付」及び「雇用継続給付」の4種類があることを押さえ、これらそれぞれの制度の目的・趣旨を把握します。
その後、それぞれ具体的な給付を押さえていきます。
「求職者給付」においては、一般被保険者が失業した場合に、その失業期間中(求職期間中)の所得保障を図るために支給される「基本手当」(いわゆる失業手当です)がベースとなります。
あとは、それぞれの給付について、「要件」、「手続」及び「効果(支給額等)」を押さえていきます。後述の基本手当の体系図を参照して下さい。
なお、雇用保険法の勉強方法について、若干のアドバイスです。
どの法律もそうですが、雇用保険法も、基本的な概念を積み上げて制度等が構成されています。
特に雇用保険法の場合、技術的・人工的に作り上げられているという側面が強いため、基本的な概念、要件等をしっかり記憶しておかないと、不正確な知識が乱立してあとあと収拾がつかなくなる危険があります。記憶・暗記を馬鹿にせず、一つ一つの知識をしっかり覚えて下さい(実は、勉強の中でもっとも大変で苦痛な作業は、暗記する作業なのです)。
全体構造・体系を押さえると共に、細かい知識を一つ一つ記憶していくこと、記憶した知識を何度も思い出す機会を設けることが学習のポイントです(細部がわかってこないと、全体構造も把握できないということが少なくありませんので、学習を一通り終了した段階で、改めて全体構造を再チェックしてみて下さい)。
なお、初学者の方は、まずは、少なくとも基本手当の終わりくらいまでは、ざっと流し読みをして大体の雰囲気をつかんで下さい。
以下、雇用保険法の体系図から始まり、いくつかの重要な体系図を掲載しておきます。
今の段階では覚えて頂く必要はなく、眺めるだけで結構です(のちにゴロ合わせなどを駆使して覚え込みます)。
上記の体系図の Ⅰ の「主体」の 2 の「被保険者」の4種類について、詳しく見ますと、次の通りです(のちに覚えますので、ここでは一読だけで結構です)。
【令和4年度試験 改正事項(特例高年齢被保険者の追加)】
前掲の体系図(こちら)の Ⅲ の「事業」中の 1 の「失業等給付等」の内容について、次の表で少し細かく見ておきます(この失業等給付等の全体構造についても、後に覚えますので、ここではざっと眺めて頂ければ十分です)。
【令和2年度 令和5年度 令和7年度試験 改正事項】
前掲の図にもう少し解説を加えたものが、以下の図です。
次は、就職促進給付以下です。
※ なお、被保険者の種類と失業等給付等との関係については、こちら(雇用保険法のパスワード)の表をご参照下さい。
次に、失業等給付等の個々の保険給付を学習する際の流れについては、次の図の通りです。
労災保険法で学習しました体系と基本的には共通します(他の保険法においても大枠は同様です)。
さらに、失業等給付等の中心である「基本手当」の体系の概観図を掲載しておきます。
この基本手当の体系が他の求職者給付においてもベースとなり、非常に重要です(これも、例えば「支給要件 = 受給資格の要件」については、後にゴロ合わせも利用して覚え込みますので、ざっと眺める程度で結構です。
雇用保険法の学習のポイントは、この基本手当の体系図が頭に浮かんで、各項目の大まかな内容が思い出せるように学習することです)。
次に、雇用保険法の目的を見ます。
§2 雇用保険法の目的(第1条、第3条)
【令和2年度 令和7年度試験 改正事項】
雇用保険法の目的については、下記の第1条が規定しています。
この第1条については、平成22年度の選択式において出題されていましたが、さらに平成28年度の選択式においても3か所出題されました。
また、令和2年4月1日施行の改正によっても改められています。
さらに、令和7年4月1日施行の改正により、新設された「育児時短就業給付」を含む形に見直されています。
本条は、出題可能性の有無にかかわらず非常に重要な規定です。
【条文】
※ 次の第1条は、令和2年4月1日施行の改正(【令和2.3.31法律第14号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第1条)により改められています。
〔即ち、同条中、従来、「受けた場合」とあった下に、「及び労働者が子を養育するための休業をした場合」が追加されました(その後、次の令和7年4月1日施行の改正により、上記「及び労働者が」は「並びに労働者が」に改められています)。〕
※ また、本条は、令和7年4月1日施行の改正(【令和6.6.12法律第47号】。「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」第13条)により改められています。
〔即ち、同条中、従来、「及び労働者が」とあったのが、「並びに労働者が」に改められ、従来、「休業」とあった下に、「及び所定労働時間を短縮することによる就業」が追加されました。〕
第1条(目的) 雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合並びに労働者が子を養育するための休業及び所定労働時間を短縮することによる就業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。 |
※ この第1条は雇用保険法におけるキーワードが満載です。
上記の赤いキーワードについては、特に注意が必要であり、暗記するまで読み込むことが必要です。その際、後述の分析を参考にして下さい。
・【選択式 平成22年度 A=「雇用の継続」、B=「生活及び雇用の安定」】
この平成22年度の選択式については、紛らわしい他の選択肢が少なかったため簡単な問題でした。
・【選択式 平成28年度 A=「生活及び雇用の安定」、B=「求職活動」、C=「福祉の増進」(こちら)】
この平成28年度の選択式の「生活及び雇用の安定」は、平成22年度と同じ個所が出題されました。
いずれのキーワードも、上記条文で赤字にしていますように、重要個所でした。
ただし、今回は、紛らわしい選択肢が山ほどあり(「雇用の安定」、「雇用の促進」、「職業訓練の実施」、「職業生活の設計」、「職業の選択」、「生活の安定」、「地位の向上」、「保護」)、日頃から目的条文の丁寧な学習を心がけていませんと、厳しい出題だったと思います。
【条文】
※ 次の第3条は、令和2年4月1日施行の改正(【令和2.3.31法律第14号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第1条)により改められています。
〔即ち、同条中、従来「失業等給付」とあった下に、「及び育児休業給付」が追加されました(その後、次の令和7年4月1日施行の改正により、「育児休業給付」とあったのが、「育児休業等給付」に改められています)。〕
※ また、本条は、令和7年4月1日施行の改正(【令和6.6.12法律第47号】。「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」第13条)により改められています。
〔即ち、同条中、従来、「育児休業給付」とあったのが、「育児休業等給付」に改められました。〕
第3条(雇用保険事業) 雇用保険は、第1条の目的を達成するため、失業等給付及び育児休業等給付を行うほか、雇用安定事業及び能力開発事業を行うことができる。 |
◆上記の第1条と第3条により、雇用保険法の全体像が示されています。
即ち、雇用保険においては、失業等給付及び育児休業等給付(失業等給付等。第69条第1項参考)並びに雇用保険二事業(雇用安定事業及び能力開発事業)が行われます(第3条)。
そして、第1条では、失業等給付等について、「失業した場合」(求職者給付)、「雇用の継続が困難となる事由が生じた場合」(雇用継続給付)、「労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合」(教育訓練給付)、「労働者が子を養育するための休業及び所定労働時間を短縮することによる就業をした場合」(育児休業等給付)に支給される旨、及び「失業した場合」に「求職活動を容易にする等その就職を促進」するために(就職促進給付)支給される旨が規定されています。
さらに、雇用保険二事業について、「失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大」等を図るもの(雇用安定事業)、及び「労働者の能力の開発及び向上」を図るもの(能力開発事業)である旨が規定されています。
※ なお、教育訓練給付については、第60条の2第1項柱書が「雇用の安定及び就職の促進を図るために必要な職業に関する教育訓練として厚生労働大臣が指定する教育訓練を受け」と規定していますから、第1条と併せてみますと、教育訓練給付の目的が「雇用の安定及び就職の促進を図る」ことにあるのがわかります。
【令和7年度試験 改正事項】
※ 第1条については、令和7年4月1日施行の改正(【令和6.6.12法律第47号】。「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」第13条)により、「子を養育するための休業」とあった下に、「及び所定労働時間を短縮することによる就業」が追加されました。
この「労働者が子を養育するための・・・所定労働時間を短縮することによる就業」は、令和7年4月1日施行の改正により新設された「育児時短就業給付」(育児時短就業給付金)を受けたものです。
同改正によって、この「育児時短就業給付」のほか、「出生後休業支援給付」(出生後休業支援給付金)も新設され、従来の「育児休業給付」(育児休業給付金及び出生時育児休業給付金)、「出生後休業支援給付」及び「育児時短就業給付」を「育児休業等給付」と表現することとなりました(第61条の6第1項、第3条)。
この第1条を分解して図式化しますと、次のようになります。
育児休業等給付の体系は、次の通りです。