令和6年度版

 

§3 基本的理念

健康保険制度の基本的理念について、次の第2条が規定しています。選択式対策として、赤字部分は覚える必要があります(同条のほぼすべてになりますが)。

 

平成29年度まで、上記のように記載していましたが、平成30年度の選択式において、後掲の通り、3つの空欄が出題されました。引き続きキーワードに注意しておいて下さい。

 

 

【条文】

第2条(基本的理念)

健康保険制度については、これが医療保険制度基本をなすものであることにかんがみ、高齢化の進展疾病構造の変化社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、その結果に基づき、医療保険の運営の効率化給付の内容及び費用の負担適正化並びに国民が受ける医療の質の向上総合的に図りつつ、実施されなければならない。

 

 

【選択式 平成30年度 A=「疾病構造の変化」、B=「運営の効率化」、C=「質の向上」(こちら)】

 

 

以下、この第2条について、若干の注意点に触れておきます。

 

 

 

1 高齢化の進展

 

前掲の第2条の2行目に「高齢化の進展」とありますが、「少子高齢化の進展ではないことは注意です。

公的年金制度の場合は、賦課方式による世代間扶養を基礎とする制度であるため、支え手である現役世代の減少の原因となる「少子化」に対する対策が重要な問題となります。そこで、「少子高齢化」というキーワードが使われることが多いです。

他方、公的医療保険制度の場合は、なにより急激な高齢化の進行による高齢者医療費の増大に対する対策が問題となっているため、本条においても「高齢化の進展」の側面に言及しているものと解されます。

 

 

2 その在り方に関して常に検討が加えられること

 

「その在り方に関して常に検討が加えられること」が必要であり、例えば、5年ごとに、制度の在り方に関して検討が加えられるのではないことに注意です。

【過去問 平成21年問1C(こちら)】

 

対して、公的年金制度の場合は、少なくとも5年ごとに財政の現況及び見通しが作成されることから(国年法第4条の3第1項(国年法のパスワード)厚年法第2条の4第1項(厚年法のパスワード))、少なくとも5年ごとに制度の在り方に関して検討が加えられていることとなります。

 

 

3 検討

 

次の平成18年改正法附則第2条第1項は、【過去問 平成21年問1D(こちら)】で出題されています。一応、全文を掲載しておきます(今後は、おそらく出題可能性は低いものと予想されますが)。

 

 

【平成18年改正法附則】

平成18年改正法附則第2条(検討)

1.政府は、この法律〔=健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)〕の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況等を勘案し、この法律により改正された医療保険各法及び第7条の規定による改正後の高齢者の医療の確保に関する法律(以下「高齢者医療確保法」という。)の規定に基づく規制の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

 

2.高齢者医療確保法による高齢者医療制度については、制度の実施状況、保険給付に要する費用の状況、社会経済の情勢の推移等を勘案し、第7条の規定の施行後5年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるべきものとする。

 

3.政府は、入所者の状態に応じてふさわしいサービスを提供する観点から、介護保険法第8条第25項〔現在は、同法第8条第28項で規定 〕に規定する介護老人保健施設及び同条第24項〔現在は、同法第8条第27項で規定〕に規定する介護老人福祉施設の基本的な在り方並びにこれらの施設の入所者に対する医療の提供の在り方の見直しを検討するとともに、介護保険施設等の設備及び運営に関する基準並びに利用者負担の在り方等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるとともに、地域における適切な保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備の支援に努めるものとする。

 

 

 

  

§4 体系

序論の最後に、健康保険法の体系図を掲載しておきます。

 

 

 

 

 

※ 試験の傾向について:

 

なお、健保法の択一式は、近年、かなり細かい(難しい)知識が出題されることが多いです。そこで、ある程度は、細かい知識にまで手を広げていく学習努力も必要です。

ただ、基本的知識が十分にあれば、択一式の肢をかなり絞り込むことができ、実際は、難しい細かい知識は知らなくても解答できるケースが少なくありません。

そこで、まずは、基本的な知識(これだけで膨大な量があります)を正確に記憶していくことが重要です。

当サイトでは、この試験で必要な基本的な知識を習得するため、一方で、知識を体系化し、他方で、細かい知識はゴロ合わせ等によってピンポイントで覚えていきます。 

 

以上で、序論を終わります。以下、序論に関係する過去問を見ます。

 

 

 

○過去問:

 

・【平成21年問1A】

設問:

健康保険法は、大正11年に制定され、同時に施行された日本で最初の社会保険に関する法である。

 

解答:

誤りです。

健康保険法は、大正11年に制定されましたが、「同時に施行された」のではなく、施行は昭和2年(保険給付及び費用の負担に関する規定以外は、大正15年)です。

大正12年に関東大震災が発生したため、施行が遅れました。

なお、健康保険法が日本で最初の社会保険に関する法であるという点は、正しいです。

本文は、こちら以下です。

 

 

・【労働一般 令和3年問9B】

設問:

健康保険法第1条では、「この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」と規定している。

〔なお、設問の冒頭において、「社会保険制度の目的条文に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。」と記載されています。〕

 

解答:

正しいです。

第1条のとおりです。

 

 

・【平成26年問4B】

設問:

健康保険の被保険者が通勤途上負傷し、労災保険の保険給付を受けることができるときは、その負傷について健康保険からの保険給付は行われず、その者が勤務する事業所が労災保険の任意適用事業所で労災保険に未加入であった場合にも、同様に健康保険からの保険給付は行われない。

 

解答:

誤りです。

本問の通勤途上の負傷は、通勤災害に該当します。そして、通勤災害は、労災保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害以外の傷病にあたりますから(健保法第1条)、健康保険の対象となります(なお、平成25年の健保法第1条の改正前においても、通勤災害は業務外の事由による災害として、健康保険の対象となりました)。

ただし、通勤災害については、基本的には、労災保険の保険給付を受けることができますから、健康保険の保険給付は行われません(第55条第1項)。従って、本問の前段は正しいです。

 

他方、本問の後段については、当該通勤災害について労災保険の保険給付を受けることができない場合ですから、労災保険等により健康保険の療養の給付等に「相当する給付を受けることができる場合」(第55条第1項)には該当しませんので、健康保険から保険給付が行われる場合があります(健保法第1条)。

よって、本問の後段が誤りとなります。

 

 

・【令和3年問9E】

設問:

被保険者又はその被扶養者において、業務災害(労災保険法第7条第1項第1号に規定する、労働者の業務上の負傷、疾病等をいう。)と疑われる事例で健康保険の被保険者証を使用した場合、保険者は、被保険者又はその被扶養者に対して、まずは労災保険法に基づく保険給付の請求を促し、健康保険法に基づく保険給付を留保することができる。

 

解答:

正しいです(【平成25.8.14厚生労働省保険局保険課事務連絡】)。

「労災保険法における業務災害については健康保険の給付の対象外であり、・・・、まずは労災保険の請求を促し、健康保険の給付を留保することができる。」とされます。

本文は、こちらです。

 

 

・【平成21年問1B(一部補正)】

設問:

健康保険法は、労働者災害補償保険法の業務災害(労災保険法第7条第1項第1号)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産を対象としているが、業務上の傷病として労働基準監督署長に認定を申請中の未決定期間は、一応業務外の傷病として健康保険から給付を行い、最終的に業務上の傷病と認定された場合には、さかのぼって給付相当額の返還が行われる。

 

解答:

誤りです。

【昭和28.4.9保文発第2014号】によりますと、業務上の傷病として労働基準監督署長に認定を申請中の未決定期間は、「一応業務上の取扱いをし、最終的に業務上の傷病でないと認定され、健康保険による業務外と認定された場合には、さかのぼって療養費、傷病手当金等の給付が行われる」とされています(こちら)。

 

 

・【令和4年問1A】

設問:

被保険者又は被扶養者の業務災害(労災保険法第7条第1項第1号に規定する、労働者の業務上の負傷、疾病等をいう。)については健康保険法に基づく保険給付の対象外であり、労災保険法に規定する業務災害に係る請求が行われている場合には、健康保険の保険給付の申請はできない。

 

解答:

誤りです。

被保険者又は被扶養者の業務災害については健康保険法に基づく保険給付の対象外ですが、労災保険給付の請求が行われている場合であっても、最終的に業務上の傷病でないと認定され、健康保険による業務外と認定された場合には、さかのぼって健康保険の給付が行われます(【昭和28.4.9保文発第2014号】。こちら)。

従って、「保険給付の時効期間(2年間)を考慮し、労災保険給付の請求が行われている場合であっても、健康保険給付の申請が可能である」とされます(【平成25.8.14事務連絡】。こちら)。 

 

 

・【平成17年問7E】

設問:

被保険者数が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しては、健康保険による療養の給付が行われない。

 

解答:

誤りです。

本問の代表者については、労災保険から保険給付を受けることができる場合を除き、例外的に、健康保険による保険給付が行われます(第53条の2かっこ書施行規則第52条の2)。本文は、こちら以下です。

 

 

・【平成19年問1A(一部補正)】

設問:

被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者であって、一般の労働者と著しく異ならないような労務に従事している者については、その者の業務遂行の過程において業務に起因した傷病に関しても、健康保険の療養の給付及び傷病手当金の給付が行われる。

 

解答:

正しいです。

出題当時は、本問の代表者については、健康保険の「療養の給付」は行われましたが、「傷病手当金」の給付は行われなかったため、誤りの内容でした。

しかし、平成25年の改正により、「傷病手当金」の給付も行われることになりました(第53条の2かっこ書施行規則第52条の2)。従って、現在では、本問は正しいです。

 

 

・【平成23年問2B(一部補正)】

設問:

健康保険法は、労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害以外の疾病等に関して保険給付を行うこととされているが、当面の暫定的な措置として、被保険者が5人未満である小規模な適用事業所に所属する法人の代表者(労働者災害補償保険法の特別加入となっている者及び労働基準法の労働者の地位を併せ保有すると認められる者を除く。)であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、業務上の事由による疾病等であっても、健康保険による保険給付の対象となる。ただし、傷病手当金は支給されない。

 

解答:

誤りです。

本問の本文は正しいですが、ただし書については、平成25年の改正により、従来と異なり「傷病手当金」も支給されることとなりました(第53条の2かっこ書施行規則第52条の2)。従って、本問は出題当時は正しい内容でしたが、現在では誤りです。

 

 

・【平成26年問2C】

設問:

被保険者の数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務(当該法人における従業員が従事する業務と同一であると認められるものに限る。)に起因する疾病、負傷又は死亡に関しては、傷病手当金を含めて健康保険から保険給付が行われる。

 

解答:

正しいです(第53条の2かっこ書施行規則第52条の2)。

「法人の役員である被保険者又はその被扶養者に係る保険給付の特例」について、平成25年10月1日施行の改正後、初の出題となった設問です。

 

 

・【平成30年問10A】

設問: 

被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者は、業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても健康保険による保険給付の対象となる場合があるが、その対象となる業務は、当該法人における従業員(健康保険法第53条の2に規定する法人の役員以外の者をいう。)が従事する業務と同一であると認められるものとされている。

 

解答:

正しいです(第53条の2施行規則第52条の2)。

前問【平成26年問2C(こちら)】と類問です。詳しくは、こちら以下です。

 

 

・【令和4年問2A】

設問:

被保険者の数が5人以上である適用事業所に使用される法人の役員としての業務(当該法人における従業員が従事する業務と同一であると認められるものに限る。)に起因する疾病、負傷又は死亡に関しては、傷病手当金を含めて健康保険から保険給付が行われる。

 

解答:

誤りです。

「5人以上」ではなく、「5人未満」が正しいです(第53条の2かっこ書施行規則第52条の2。【平成25.8.14事務連絡】)。

 

即ち、被保険者数が5人未満である適用事業所に使用される法人の代表者等であって、当該法人における一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、当該業務に起因する傷病等についても、傷病手当金も含めて健康保険から保険給付が行われます。

過去問頻出です。本文は、こちら以下です。

 

 

・【平成21年問1C】

設問:

健康保険制度は、高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びにこれらに密接に関連する制度と併せて5年ごとに検討が加えられることになっている。

 

解答:

誤りです。

「5年ごと」に検討が加えられるのではなく、「常に」検討が加えられます(第2条)。

本文は、こちらです。

 

 

・【平成21年問1D】

設問:

政府は、健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況等を勘案し、この法律による改正後の高齢者の医療の確保に関する法律の規定に基づく規制の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることになっている。

 

解答:

正しいです(平成18年改正法附則第2条第1項)。

 

 

次のページからは、「主体」に入ります。