【令和6年度版】
過労死等防止対策推進法
〔Ⅰ〕序論
「過労死等防止対策推進法」(【平成26.6.27法律第100号】)は、平成26年6月27日公布、平成26年11月1日に施行された法律です。
全部で14条であり、内容的には難しくなく、次のページで記載します条文を素読して頂ければ足ります。
試験対策上は、「過労死等防止対策白書」をチェックする必要があり、その前提として条文も押さえます。
※ 平成30年度の労働一般の択一式(【問4C(後掲のこちら)】)において、条文に関連する設問が1肢出題されました。
【令和元年度試験 改正事項】
まず、本法の趣旨について、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下、「大綱」といいます。【平成27年7月24日閣議決定】。改正【平成30年7月24日閣議決定】、最終改正【令和3年7月30日閣議決定】)の「1 はじめに」の部分から引用します。
太字部分を追う感じでざっと一読して下さい。
立法の経緯
大綱(最終改正の【令和3年7月30日閣議決定】)から引用します。
〔引用開始。〕
第1 はじめに
1 これまでの取組
近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっている。
過労死等は、本人はもとより、その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに社会にとっても大きな損失である。
過労死は、1980年代後半から社会的に大きく注目され始めた。
「過労死」という言葉は、我が国のみでなく、国際的にも「karoshi」として知られるようになった。
近年においても、過労死等にも至る若者の「使い捨て」が疑われる企業等の問題等、劣悪な雇用管理を行う企業の存在と対策の必要性が各方面で指摘されている。
過労死等は、人権に関わる問題とも言われている。
このような中、過労死された方の遺族等やその方々を支援する弁護士、学者等が集まって過労死を防止する立法を目指す団体が結成された。団体では、全国で55万人を超える署名を集める等により被災者の実態と遺族の実情を訴え、立法への理解を得るよう国会に対する働きかけを行うとともに、地方議会に対しては法律の制定を求める意見書が採択されるよう働きかけを行った。また、国際連合経済社会理事会決議によって設立された社会権規約委員会が、我が国に対して、長時間労働を防止するための措置の強化等を勧告している。このような動きに対応し、143の地方議会が意見書を採択するとともに、国会において法律の制定を目指す議員連盟が結成される等、立法の気運が高まる中で、過労死等防止対策推進法(以下「法」という。)が、平成26年6月に全会一致で可決、成立し、同年11月1日に施行された。
このように、過労死に至った多くの尊い生命と深い悲しみ、喪失感を持つ遺族等による四半世紀にも及ぶ活動を原動力として制定された法の施行以降、過労死等の防止のための対策は法に則って推進されてきた。
まず、法の規定に基づき、過労死等の防止対策を効果的に推進するため、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下「大綱」という。)を定めるべく、専門家委員、当事者代表委員、労働者代表委員、使用者代表委員の4者から構成される過労死等防止対策推進協議会(以下「協議会」という。)を5回開催し、意見交換、議論を行い、平成27年7月に、大綱が閣議決定され、国会に報告された。
法及び大綱に基づき、調査研究等、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援の取組が国等により進められており、その状況は法第6条に基づく「過労死等防止対策白書」(以下「白書」という。)で、毎年報告されている。
また、大綱策定後の協議会においては、定期的に、行政の取組の推進状況や白書についての報告がなされ、それらの報告に基づき、過労死等防止対策をめぐる課題や今後の過労死等防止対策の進め方について、議論を行い、平成30年7月に見直しを行った大綱が閣議決定され、国会に報告された。
大綱見直し後においては、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行等により各種の取組が進められたところであるが、そうした取組が進められている中でも、働き過ぎによって尊い生命が失われたり、特に、若年層の心身の健康が損なわれる事案が増加するといった、痛ましい事態が今もなお後を絶たない状況にあり、過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現にはほど遠い。
さらに、世界的な流行となった新型コロナウイルス感染症は、令和2年1月に、国内で最初の感染者が確認され、この対応等のために発生する過重労働によって過労死等が発生しないよう、その対策をより一層推進する必要がある。
また、国際機関から長時間労働が生命と健康に与える影響と長時間労働対策の必要性についての指摘もなされている。
こうしたことから、大綱に基づくこれまでの取組状況を踏まえつつ、過労死等に関する諸問題にも対応するために、新たな大綱を策定するものである。
人の生命はかけがえのないものであり、どのような社会であっても、過労死等は、本来あってはならない。過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として、今後、この大綱に基づき、過労死等の防止のための対策を推進する。
〔引用終了。〕
ちなみに、当初の【平成27年7月24日閣議決定】における大綱の冒頭は、次の通りでした。太字部分をチェックして下さい。
〔引用開始。〕
近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっている。
過労死等は、本人はもとより、その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに社会にとっても大きな損失である。
過労死は、1980年代後半から社会的に大きく注目され始めた。
「過労死」という言葉は、我が国のみでなく、国際的にも「karoshi」として知られるようになった。
近年においても、過労死等にも至る若者の「使い捨て」が疑われる企業等の問題など、劣悪な雇用管理を行う企業の存在と対策の必要性が各方面で指摘されている。
過労死等は、人権に関わる問題とも言われている。
このような中、過労死で亡くなられた方の遺族等やその方々を支援する弁護士、学者等が集まって過労死を防止する立法を目指す団体が結成された。団体では、全国で55万人を超える署名を集める等により被災者の実態と遺族の実情を訴え、立法への理解を得るよう国会に対する働きかけを行うとともに、地方議会に対しては法制定の意見書が採択されるよう働きかけを行った。また、国際連合経済社会理事会決議によって設立された社会権規約委員会が我が国に対して、長時間労働を防止するための措置の強化等を勧告している。このような動きに対応し、143の地方議会が意見書を採択するとともに、国会において法制定を目指す議員連盟が結成される等、立法の気運が高まる中で、過労死等防止対策推進法(以下「法」という。)が提出され、平成26年6月に全会一致で可決、成立し、同年11月1日に施行された。
このように、法が成立した原動力には、過労死に至った多くの尊い生命と深い悲しみ、喪失感を持つ遺族による四半世紀にも及ぶ活動があった。
当初は、過重労働と脳・心臓疾患や自殺との関連性が必ずしも明らかではなかったが、現在では、長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関連性が強いという医学的知見が得られている。また、業務における強い心理的負荷による精神障害により、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害され、自殺に至る場合があると考えられている。このような共通の認識の下、法には、過労死等の定義が、我が国の法律上初めて以下のとおり規定された。
・ 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
・ 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
・ 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
法では、基本理念として、過労死等の防止のための対策は、過労死等に関する実態が必ずしも十分に把握されていない現状を踏まえ、過労死等に関する調査研究を行うことにより過労死等に関する実態を明らかにし、その成果を過労死等の効果的な防止のための取組に生かすことができるようにするとともに、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の関心と理解を深めること等により、行わなければならないと定められている。また、この基本理念の下、勤労感謝の日を含む11月を過労死等防止啓発月間とすることが定められている。
また、国に過労死等の防止のための対策を効果的に推進する責務を課すとともに、地方公共団体は国と協力しつつ過労死等の防止のための対策の効果的な推進に努めなければならないとされている。事業主は国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策への協力、国民は過労死等の防止の重要性の自覚及びこれに対する関心と理解を深めることに、それぞれ努めるものとされている。
この大綱は、以上に述べた法の基本的な考え方を踏まえ、法第7条第1項の規定に基づき、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するために定めるものである。
人の生命はかけがえのないものであり、どのような社会であっても、過労死等は、本来あってはならない。過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的として、今後、この大綱に基づき、過労死等の防止のための対策を推進する。
〔引用終了。〕
次のページでは、条文を掲載します。