令和6年度版

 

第3節 適用除外

労基法が適用されない事業ないし対象者があります。適用除外の問題です(第116条)。

 

 

§1 必修事項

まず、覚えるべき事項を一覧表で整理し、ゴロ合わせをご紹介してから、細部を見ます。

この一覧表を覚えることで、適用除外については合格レベルに達すると思います。

この適用除外は、重要です。

 

※【ゴロ合わせ】

・「ロッキードの事業から除外され、どしんと、舵取り、船に乗り、こっからいーわと、地方へ行く

(航空会社のロッキードを首になり、船に乗って地方に帰郷しました。)

 

 ◇大まかには、上記のゴロ合わせの右に行くほど、労基法が適用されることとなります。

 

=「ロッキー(=「労基」法)ドの、事業から、除外(=適用「除外」)され、

ど・しん(=「同」居の「親」族)と、かじ(=「家事」使用人)、(取り)、

船(=「船」員)に乗り、

こっか(=「国家」公務員)ら、いーわ(=「1」般職)と、地方(=「地方」公務員)へ行く」

 

※ 適用除外は、今後学習します各法で問題となり、記憶が混乱しがちです。確実に記憶するため、ゴロ合わせ等を利用することがお勧めです。

 

※ なお、適用除外に関する過去問は、このページの最下部(こちら)です。

 

  

§2 本論

 

【条文】

第116条(適用除外)

1.第1条から第11条まで、次項、第117条から第119条まで及び第121条規定〔=以上の各規定はこちら以下〕を除き、この法律は、船員法(昭和22年法律第100号)第1条第1項〔=船員法第1条第1項〕に規定する船員については、適用しない

 

2.この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない

  

 

 

〔1〕同居の親族のみを使用する事業(第116条第2項)

 ◆同居の親族のみを使用する事業については、労基法は適用されません(第116条第2項)。

 

 

○趣旨

 

事業主とその同居の親族のみから構成される事業(いわゆる家族経営の事業です)については、当該家族の私生活と仕事との区別が不明確な場合があるなど、労働時間等の労働条件の厳格な規制を除外する必要があること、また、労基法の罰則や行政上の監督の対象とするのは円滑な親族関係の維持という点からも妥当でないことを考慮して、労働関係の処理を親族内部の自律ないし家庭裁判所等の家事紛争解決機関による処理に委ねる趣旨から適用除外としたものと解されます。

 

  

一 要件

 

 ◆「同居の親族のみを使用する事業」であること。

 

 (一)親族

 

「親族」とは、民法上の親族(民法第725条(労災保険法のパスワード))のことと解されており、「6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族」のことです。

 

これらの用語の意味(ゴロ合わせも含めて)については、労災保険法の遺族(補償)等年金のこちら以下で学習します。

 

  

(二)同居

 

 1「同居」とは、世帯を同じくして常時生活を共にしていることであり、居住及び生計を同一にしているかどうかで実質的に判断されます(住民基本台帳法にいう「世帯」が同一かどうかにより形式的に判断されるものではありません)。

 

2 本規定は、「同居の親族のみを使用する事業」に適用されますから、同居の親族とともに他人を一人でも使用している場合は、当該事業は労基法の適用される事業(適用事業)となります(第三者が関与することによって、前述の適用除外の趣旨が妥当しなくなるからです)。

【過去問 令和4年問1C(こちら)】

 

ただし、この場合においても、同居の親族については、一般には、事業主と利益を同一にしていて、実質的には事業主と同一の地位にあると認められるため、原則としては、労基法の「労働者」にはあたらないとされています(つまり、使用従属関係・指揮命令関係がないと考えられます)。

 

しかし、同居の親族であっても、以下の(a)~(c)のすべての要件を満たす場合には、「労働者」として取り扱われます(【昭和54.4.2基発第153号】)。

【過去問 平成29年問2ウ(こちら)】

 

(a)常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、一般事務又は現場作業等に従事していること。

 

(b)業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。

 

(c)就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。

 

 

二 効果

 

同居の親族のみを使用する事業については、労基法は適用されません。

  

 

 

〔2〕家事使用人(第116条第2項)

家事使用人についても、労基法は適用されません(第116条第2項)。

 

【過去問 平成16年問1B(こちら)】/【平成23年問1D(こちら)】

 

 

○趣旨

 

家事使用人とは、家庭において家事一般に従事するために使用される者です。

家事使用人に労基法が適用されない理由は、家事労働は家庭における私生活と密着していて、個々の家庭に応じて多様な内容を持つものであるため、労基法の厳格な労働条件の規制を一律に及ぼすことは困難であること、また、家庭内の問題を広く罰則や行政上の監督の対象とすることは妥当でないことにあると考えられます。

(家事使用人については、昔は、住み込みで労働するいわゆる女中さんが多く、家族の一員のようにみなされていたという背景があるとされます。しかし、近時、住み込み型が減少するなど状況が変化しており、労基法において家事使用人を適用除外とすることに問題があることが指摘されており、現在、見直しの議論が進められています。)

 

 

一 要件

 

◆家事使用人であること。

 

(一)家事使用人であるか否かを決定するにあたっては、「従事する作業の種類、性質の如何等を勘案して具体的に当該労働者の実態により決定すべきもの」とされています。

従って、労働契約の当事者いかんとは別に決定されます(【昭和63.3.14基発第150号】参考)。

 

具体例を見てみます。

 

(1)法人に雇い入れられた者であっても、その役員等の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事する者(例:会社が雇用した社長宅のお手伝いさん)は、家事使用人であり、労基法は適用されません。【過去問 平成29年問2イ(こちら)】

(この例の場合、会社が雇用した社長宅のお手伝いさんは、会社に対しては、事業に使用される者として、労働者性が認められることとなりますが、社長宅における家事については、社長宅の家族の指揮命令下で家事を行うものとして、労基法が適用されないこととなります。)

 

(2)対して、個人家庭における家事を事業として請け負うものに雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は、家事使用人に該当しないため、労基法が適用されます。

 

※ 即ち、これらの(1)と(2)の違いは、実質的に誰の指揮命令下にあるのかという点にあります。

 

※ ちなみに、家政婦(夫)紹介所は、家事使用人と雇用主(家庭・利用者)との間の労働契約の成立をあっせんする機関(事業者)であり、家政婦(夫)紹介所が家庭と労働契約を締結するわけではありません(家事使用人は家庭と労働契約を締結し、家庭の指揮命令の下で家事に従事します)。

なお、家事代行サービス会社から紹介を受けた場合は、利用者と家事代行サービス会社とのサービス契約(委任契約)となり、家事使用人は、家事代行サービス会社と雇用関係にあり、当該会社との間では労基法が適用されます。

 

 

※ なお、家事使用人が事業にも使用されるような場合は、どちらが本来の業務であるかによって判断されています。

例えば、個人開業医が、家事使用人として雇用し、看護師の業務も手伝わせる場合は、労基法は適用されないとされますが、「2、3名を雇用して看護婦見習の業務に従事させ、かたわら家事その他の業務に従事させる場合」については、「看護婦見習が本来の業務であり、通常これに従事する場合は本法の適用がある」とされます(【昭和24.4.13基収第886号】)。

  

 

※【比較】

 

なお、労働契約法においては、同居の親族のみを使用する場合の労働契約は適用除外ですが(労働契約法第21条第2項(労働一般のパスワード))、家事使用人については労働契約法の適用除外には含まれていず、労働契約法適用されることに注意です。

 

【過去問 労働一般 平成22年問5D(同居の親族。労働契約法のこちら(労働一般のパスワード))】/【労働一般 平成24年問1A(家事使用人。労働契約法のこちら】/【労働一般 平成28年問1オ(労働契約法のこちら)】

 

労働契約法の場合は、労基法と異なり、罰則の適用や行政上の監督といった取締法規的性格は有しませんから、その適用対象(適用除外)も労基法と同様に取り扱う必要はないところ、家事使用人についてはその労働契約に関する紛争も十分生じうることを考慮して、民事法規としての労働契約法の規制を及ぼすのが妥当とした趣旨といえます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「家事をする契約をした」とでも、無理やり覚えておきます。

 

→「家事(=「家事」使用人)をする、契約(=労働「契約」法は適用される)をした」 

 

 

二 効果

 

家事使用人については、労基法は適用されません。 

 

 

 

※ なお、令和6年2月8日に「家事使用人の雇用ガイドライン」が策定されました。

 

・概要 = こちら

 

・家事使用人の雇用ガイドライン = こちら

 

・厚労省サイト = こちら

 

 

 

 

〔3〕船員(第116条第1項)

船員法第1条第1項に規定する船員については、原則として、船員法の規定が適用されるため、労基法適用されません第116条第1項)。

 

 

○趣旨

 

船員は、長期間、海洋に出るなど、労基法による厳格な規制になじまず、そこで、特別法である船員法により労働条件を規律することとしています。

 

 

【条文】

第116条(適用除外)  

1.第1条から第11条まで、次項、第117条から第119条まで及び第121条の規定〔=以上の各規定はこちら以下除き、この法律は、船員法(昭和22年法律第100号)第1条第1項〔=船員法第1条第1項〕に規定する船員については、適用しない

 

2.この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

 

 

 

一 要件

 

船員法第1条第1項(※1)に規定する船員であること。

  

 

    ※1 船員法:

 

船員法の船員や船舶の定義については、今後、他の法でも時々登場することがありますので、参考までに条文を掲載しておきます。あまり細かく読まなくても結構です。 

 

船員法第1条(船員)

1.この法律において「船員」とは、日本船舶又は日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶に乗り組む船長及び海員並びに予備船員をいう。

 

2.前項に規定する船舶には、次の船舶含まない

 

一 総トン数5トン未満の船舶

 

二 湖、川又は港のみを航行する船舶

 

三 政令の定める総トン数30トン未満の漁船

 

四 前3号に掲げるもののほか、船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭和26年法律第149号)第2条第4項に規定する小型船舶であつて、スポーツ又はレクリエーションの用に供するヨット、モーターボートその他のその航海の目的、期間及び態様、運航体制等からみて船員労働の特殊性が認められない船舶として国土交通省令の定めるもの

 

3.前項第2号の港の区域は、港則法(昭和23年法律第174号)に基づく港の区域の定めのあるものについては、その区域によるものとする。ただし、国土交通大臣は、政令で定めるところにより、特に港を指定し、これと異なる区域を定めることができる。

 

 

※ 参考までに、船員法の船舶に含まれない船舶は、次の(a)~(d)です(船員法第1条第2項)。

 

(a)総トン数トン満の船舶

 

(b)湖、川又は港のみを航行する船舶

 

(c)政令の定める総トン数0トン未満の漁船

 

(d)スポーツ用のット等の船員労働の特殊性が認められない船舶として国土交通省令の定めるもの。

 

※【ゴロ合わせ】(あえて覚える必要はありません)

・「ゴミは、港のみと、あさる漁船よ」

 

→「ゴ・ミ(=「5」トン「未」満)は、港のみ(=「港等のみ」を航行)と、あ・さ(=「3」0トン)る、漁船(=30トン未満の「漁船」)、よ(=「ヨ」ット)」

 

 

船員法第2条  

1.この法律において「海員」とは、船内で使用される船長以外の乗組員で労働の対償として給料その他の報酬を支払われる者をいう。

 

2.この法律において「予備船員」とは、前条第1項に規定する船舶に乗り組むため雇用されている者で船内で使用されていないものをいう。

 

 

※ ちなみに、前掲の船員法第2条第1項の「海員」については、船内における飲食店等で使用される者も船内使用の乗組員にあたることとなり、直接に運航業務に携わらなくても海員となります。

同条第2項の「予備船員」の例としては、休暇・休職中の者とか、乗船待機者等です。 

 

 

二 効果

 

(一)原則

 

船員法第1条第1項に規定する船員については、原則として、船員法の規定が適用されるため、労基法適用されません第116条第1項)。

 

 

(二)例外

 

◆ただし、総則の一部(第1条から第11条まで。即ち、労働憲章の部分・用語の定義)及びこれに関する罰則(第117条から第119条まで及び第121条。罰金刑のみを定めている罰則規定(第120条)は適用されません)並びに同居の親族家事使用人適用除外第116条第2項)の規定は、船員についても適用されます(第116条第1項)。

【過去問 平成16年問1A(労働憲章について。こちら

 

※ これらの規定は、労働法の基本原則にかかわるなど、船員と一般の労働者とを区別する必要がないものです。

 

 

【参考】

 

上記(二)の「船員適用される労基法の規定」を列挙しますと、以下の通りです(以上までの太字部分を押さえればよく、以下はその確認としてご覧になれば足ります。初学者の方は、労基法全体の勉強を済ませてから、再度確認して下さい)。

 

 

(1)労働憲章

 

・労働条件の原則(第1条

 

・労働条件の決定(第2条

 

・均等待遇(第3条

 

・男女同一賃金の原則(第4条

 

・強制労働の禁止(第5条

 

・中間搾取の排除(第6条

 

・公民権行使の保障(第7条)(なお、第8条は削除されています。)

 

 

(2)用語の定義

 

・労働者の定義(第9条

 

・使用者の定義(第10条

 

・賃金の定義(第11条

 

 

(3)罰則

 

・以上に関する罰則(罰金刑のみを定めている罰則規定(第120条(労基法のパスワード))は除きます)(第117条~第119条第121条

 

 

(4)適用除外

 

・同居の親族、家事使用人の適用除外(第116条第2項) 

 

 

 

〔4〕公務員

次に、公務員に関する適用除外です。まず、条文(第112条)を掲載します。

 

 

【条文】

第112条(国及び公共団体についての適用)

この法律及びこの法律に基いて発する命令は、都道府県市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。

 

 

※ 上記第112条では、公務員についても、労基法が適用されることとなっています。

しかし、実際には、国家公務員法や地方公務員法等の特別法の適用により、この第112条は修正されており、公務員についての適用関係は以下に説明するようになっています。

かなり複雑な適用関係となっており、まず大雑把に次のようにとらえて下さい。

 

 

一 国家公務員一般職の場合

 

(一)原則 = 労基法は適用されない

 

なお、国有林野事業の職員についても、労基法は適用されません。

 

(二)例外 = 行政執行法人の職員については、労基法は適用される。

 

 

二 地方公務員の一般職の場合

 

(一)原則 = 労基法は適用される。

 

(二)例外 = ただし、具体的には、次の通り、従事する事業により適用される規定の範囲等が異なる。

 

1 地方公営企業等の職員等の場合 = 労基法がほぼ全面的に適用される。

 

2 その他の一般職の地方公務員の場合 = 一定の規定適用されない

 

 

以下、少し詳しく見ます。が、深入りしますと切りがない個所であり、そう細かい問題が出題されているわけでもありませんので、まずは、上記のアウトラインをとらえて下さい(なお、本問では、より単純化するため、要件・効果の視点による整理は行わずに、原則・例外の視点による整理に留めます)。

 

 

一 国家公務員

 

(一)原則

 

一般職(※1)に属する国家公務員については、労基法及びこれに基づいて発する命令は、適用されないのが原則です(国家公務員法附則第6条)。※2

 

 

(二)例外

 

◆例外として、行政執行法人〔=以前の「特定独立行政法人」が改称され、制度内容が改正されました。平成27年4月1日施行〕(※3)については、その職員は国家公務員ですが、労基法が適用されます(行政執行法人の労働関係に関する法律37条第1項)。

 

※ 行政執行法人以外独立行政法人(※3)の職員は、国家公務員ではないので、労基法が全面的に適用されます。※4

 

 

※1 一般職と特別職:

 

「一般職」とは、「特別職」以外の公務員をいいます(国家公務員法第2条第2項地方公務員法第3条第2項)。

 

「特別職」とは、内閣総理大臣、国務大臣、大使、裁判官、地方公共団体の長など、その地位や職務が特別の性格を有する公務員をいいます(国家公務員法第2条第3項地方公務員法第3条第3項参考)。

 

ちなみに、特別職の「国家」公務員については、基本的には(労基法の労働者と認められる限り)労基法が適用されます(具体的には、「裁判所職員、国会職員、防衛省職員」以外の特別職の国家公務員について、労基法が適用されます)。

他方、特別職の「地方」公務員については、労基法が全面的に適用されます(地方公務員法第4条第2項)。

(ただし、この特別職の取り扱いまでは、覚える必要はないでしょう。)

 

 

※2 一般職の国家公務員: 

 

 上記(一)(こちら)が「一般職の国家公務員」について労基法等を適用除外としている理由は、これらの公務員については団体交渉制度の適用が排除されていること(労働組合法及び労働関係調整法の適用除外とされていること)に対応させたものです。

即ち、これらの公務員の労働関係(労働条件の決定等)については、公務の公共性・公益性や円滑性等が考慮されて、労使自治の原則は適用されず、国家公務員法に基づき人事院規則で規律されています。

 

 

※3 独立行政法人:

 

独立行政法人」とは、国の行政組織の効率化・肥大化防止の見地から、国の行政組織のうち、政策の実施機関について(企画立案機関と対比されます)、国から切り離し、独立の法人としたものです。

従って、独立行政法人の職員は、原則として、国家公務員ではありません。よって、労基法も適用されます。

 

他方、「行政執行法人」とは、独立行政法人のうち、その業務の公益性が特に強いようなものをいいます(独立行政法人通則法第2条第4項参考)。

行政執行法人については、その公益性の高さから、当該法人の職員の身分は国家公務員とされていますが、国から分離された独立行政法人という性格や従来からの取扱いもあって、その業務等については基本的に国家公務員法の適用が除外されています。そこで、国家公務員法が適用される国家公務員とは異なり、労基法が適用されます。

行政執行法人として、国立印刷局、造幣局、国立公文書館など7法人が定められています。

 

「行政執行法人」は、以前の「特定独立行政法人」(例えば、独立行政法人国立印刷局や造幣局など)が改称され制度内容が改められたものであり、平成27年4月1日より当該改正が施行されています。

即ち、「独立行政法人通則法」が改正され、また、「特定独立行政法人の労働関係に関する法律」が「行政執行法人の労働関係に関する法律」と改称される等の改正が行われました。

 

 

※4 国有林野事業: 

 

以前は、国有林野事業を行う国の経営する企業の職員について、労基法は適用されていましたが、平成24年の改正(平成25年4月1日施行)により、国有林野事業は国の直営事業でなくなり、国有林野事業の職員については、一般職の国家公務員と同様に労基法が適用されないこととなりました(改正前は、国有林野事業は特別会計として処理されていましたが、行政改革の一環として一般会計に統合されることとなり、国有林野事業の職員についても、一般の国家公務員と同様に取り扱われることとされました)。 

 

 

次に、地方公務員です。 

 

 

二 地方公務員

 

(一)原則

 

一般職に属する地方公務員については、労基法が適用されるのが原則です。

 

 

(二)例外

 

◆ただし、具体的には、以下の通り、従事する事業により適用される規定の範囲等が異なります。

 

 

1 地方公営企業等の職員等の場合

 

➡ 労基法がほぼ全面的に適用されます。

 

「地方公営企業等」とは、地方公営企業及び特定地方独立行政法人のことをいいます(地方公営企業労働関係法第3条第3号)。

 

地方公営企業の職員(地方公共団体が経営する交通、電気、ガス、水道などの事業を行う企業に勤務する職員のことです)の場合は、労基法がほぼ全面的に適用されます(地方公営企業法第39条第1項)。

 

特定地方独立行政法人に勤務する一般職の地方公務員も、この(二)の1と同様の取り扱いがなされます(地方公営企業労働関係法第3条第2号地方独立行政法人法第53条第1項第1号)。

 

さらに、地方公営企業法の適用を受けない簡易水道業の職員及び単純な労務に雇用される一般職に属する者(地方公務員法第58条)についても、上記(二)の1と同様の取り扱いがなされます(地方公営企業労働関係法第17条同法附則第5条)。

 

 

この1の場合に、適用されない労基法の規定は次のみです(地方公営企業法第39条第1項)。

 

(1)有期労働契約の基準等の規定(第14条第2項第3項

 

(2)災害補償(第75条~第88条) 

 

 

 

2 上記1以外の一般職の地方公務員の場合

 

➡ 労基法の一定の規定適用されません地方公務員法第58条第3項)。

 

この2の場合に、適用されない労基法の規定は次の通りです。

 

(1)労働条件の決定(第2条

 

(2)有期労働契約の基準等の規定(第14条第2項第3項)= 上記の1の(1)と同じです

 

(3)賃金支払の原則(第24条第1項

 

(4)変形労働時間制(ただし、1箇月単位の変形労働時間制の場合は、労使協定の部分を除き、適用されます)(第32条の3第32条の4第32条の5地方公務員法第58条第3項、第4項

 

(5)みなし労働時間制(ただし、事業場外労働の場合は、労使協定の部分を除き、適用されます)(第38条の2第2項第3項第38条の3第38条の4地方公務員法第58条第3項、第4項

 

(6)年次有給休暇の計画的付与(第39条第6項)、使用者による時季指定第39条第7項第8項

 

(7)高度プロフェッショナル制度第41条の2

 

(8)災害補償(第75条~第88条)= 上記1の(2)と同じです。

 

(9)就業規則(第89条~第93条

 

(10)労働基準監督官の司法警察官としての職務権限(第102条)(ただし、現業職には適用されます) 

 

 

※1 一般職の地方公務員について労基法の一部規定を適用除外としている理由は、これらの公務員には団体交渉制度(労組法及び労調法)の適用が除外されていること、また、地方公務員について特別規定が定められている事項があることにあります。

 

上記2における適用されない規定を見ますと、例えば、(1)労働条件の決定(第2条)や(9)就業規則に関する規定(第89条~第93条)の適用除外は、一般職の地方公務員には団体交渉制度が適用されないことに対応しています。

また、(3)賃金支払の原則(第24条第1項)や(8)災害補償(第75条等)の適用除外は、かかる地方公務員に特別の規定があることによります。

 

 

※2 労働基準法等の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定のうち、地方公共団体の職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準法別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに掲げる事業〔=現業。こちら参考〕に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)が行うものとされています(地方公務員法第58条第5項)。

 

※ つまり、地方公務員に労基法等が適用される場合の労働基準監督機関の職権に関しては、現業に従事する職員については、労基法上の労働基準監督機関(労働基準監督署等)が行いますが、非現業に従事する職員については、地方公共団体の人事委員会等が行う、ということです。

 

 

以上で、適用除外を終わります。これにて、事業の本文を終わります。

続いて、適用除外に関する過去問を見てみます。   

 

 

○過去問:

 

〔1〕同居の親族

 

・【平成29年問2ウ】

設問:

同居の親族は、事業主と居住及び生計を一にするものとされ、その就労の実態にかかわらず労働基準法第9条の労働者に該当することがないので、当該同居の親族に労働基準法が適用されることはない。

 

解答:

誤りです。

本問の同居の親族に労働基準法が適用されることもあります。次のとおりです。

まず、「同居の親族のみを使用する事業」については、労基法は適用されません(第116条第2項)。

他方、同居の親族とともに他人を一人でも使用している場合は、当該事業は労基法の適用される事業(適用事業)となりますが、その場合であっても、同居の親族については、一般には、事業主と利益を同一にしていて、実質的には事業主と同一の地位にあると認められるため、原則としては、労基法の「労働者」にはあたりません(つまり、使用従属関係・指揮命令関係がないと考えられます)。 

しかし、同居の親族であっても、次の(a)~(c)のすべての要件を満たす場合には、「労働者」と取り扱われます(【昭和54.4.2基発第153号】)。

 

(a)常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、一般事務又は現場作業等に従事していること。

 

(b)業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。

 

(c)就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。

 

以上、本文はこちら以下です。

 

 

・【令和4年問1C】

設問:

同居の親族のみを使用する事業において、一時的に親族以外の者が使用されている場合、この者は、労働基準法の労働者に該当しないこととされている。

 

解答:

誤りです。

「同居の親族のみを使用する事業」については、労基法は適用されません(第116条第2項)。

しかし、同居の親族だけでなく「親族以外の者が使用されている場合」には、「同居の親族のみを使用する事業」には該当しませんから、当該事業は労基法の適用される事業(適用事業)となります(第三者が関与することによって、労働関係の処理を親族内部の自律に委ねること等を考慮した適用除外の趣旨が妥当しなくなるからです)。

従って、当該適用事業に使用される「親族以外の者」は、「事業(適用事業)に使用される者で、賃金を支払われる者」(第9条)に該当しうるため、特段の事情がなければ労基法上の労働者にあたります。

なお、有期雇用労働者等の「一時的に」使用される者であっても、第9条から除外されていない以上、労働者に該当します。

 

ちなみに、本問の「同居の親族のみを使用する事業において、一時的に親族以外の者が使用されている場合」において、当該「同居の親族」が労働者に該当するためには、こちら以下の(a)~(c)のすべての要件を満たすことが必要です(これは、前掲の【平成29年問2ウ(こちら)】で問われた論点です)。

 

 

 

 

〔2〕家事使用人

 

・【平成23年問1D】

設問:

労働基準法に定める「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいい、この定義に該当する場合には、いかなる形態の家事使用人にも労働基準法が適用される。

 

解答:

誤りです。

本問の前段の労働者の定義は、正しいです。しかし、家事使用人には労基法は適用されないため(第116条第2項)、後段が誤りです。

 

 

・【平成16年問1B】

設問:

家事使用人と雇主との間に結ばれる家事一般に従事するための契約は、民法上の雇用契約であると同時に労働基準法が適用される労働契約でもある。

 

解答:

誤りです。

家事使用人と雇主との間の家事一般に従事するための契約は、民法上の雇用契約にはあたりうるといえます。当事者の一方が労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約する契約といえるからです(民法第623条)。  

他方、家事使用人には労基法は適用されませんから、家事使用人との家事一般に従事するための契約については労基法は適用されないこととなります。 

(なお、本問については、労働契約の成立の個所(こちら)で再度触れます。)

 

 

・【平成29年問2イ】

設問:

法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事している者については、法人に使用される労働者であり労働基準法が適用される。

 

解答:

誤りです。

本問の家事使用人は、法人に雇われていますが、その役職員の家庭の家族の指揮命令の下で家事一般に従事することから、当該役職員の家庭における家事については労基法は適用されません。本文は、こちらです。

 

   

 

〔3〕船員

 

・【平成16年問1A】

設問:

船員法第1条第1項に規定する船員については、労働基準法は適用されず、したがって同法第1条「労働条件の原則」、第2条「労働条件の決定」等の労働憲章的部分も、当然適用されない。

  

解答:

誤りです。

船員法第1条第1項に規定する船員については、原則として、船員法の規定が適用されるため、労基法は適用されません(第116条第1項)。

しかし、例外として、労働憲章の部分等は、船員にも適用されます(第116条第1項。労働憲章等は、その内容上、船員のみに適用しない理由がないためです。本文のこちら以下)。

 

 

〔4〕公務員

 

・【平成10年問7C】

設問:

一般職の国家公務員には労働基準法は適用されず、また、一般職の地方公務員には労働基準法の労働時間に係る規定が適用されない。

 

解答:

誤りです。

本問の後段の地方公務員については、労働時間に係るすべての規定が適用されないわけではありません(本文のこちら以下のように、例えば、変形労働時間制等については基本的に適用されませんが、法定労働時間等は適用されます)。

また、前段の国家公務員についても、一般職の国家公務員のうち、行政執行法人等の職員については、労基法が適用されます。

 

 

以上で、過去問を終わります。

 

次のページでは、主体のもう一方として「使用者」について学習します。