【令和6年度版】
第5款 労働条件の明示(労基法第15条)
◆使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して労働条件を明示しなければなりません(第15条第1項)。
この明示された労働条件が事実と相違する場合には、労働者は、即時に労働契約を解除することができます(同条第2項)。
この即時解除の場合、就業のため住居を変更した労働者が、契約解除日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要旅費(帰郷旅費)の負担をしなければなりません(同条第3項)。
【条文】
第15条(労働条件の明示) 1.使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令〔=施行規則第5条第3項、第6項〕で定める事項については、厚生労働省令で定める方法〔=書面の交付等(施行規則第5条第4項)〕により明示しなければならない。
2.前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3.前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。 |
○趣旨
労働条件をめぐる紛争を防止し、労働者の保護を図るため、労働契約締結の際に使用者に労働条件の明示を要求したものです(第15条第1項)。
そして、この労働条件の明示の実効性を図るため、明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者に即時解除権を認める(同条第2項)とともに、一定の要件の下で帰郷旅費の請求も可能にさせたものです(同条第3項)。
※【ポイント】
本条の学習では、労働条件の明示事項等の知識を覚えることが必要です(効率良く記憶することがテーマとなります)。
最終的に、上記条文の太字のキーワードを覚える必要があります(選択式で未出題です)。
また、本条は、択一式でも出題が非常に多いため、力を入れる必要があります。
以下、第1項から順に学習します。
なお、過去問は、このページの下部(こちら)に掲載しています。
§1 労働条件の明示(第15条第1項)
◆使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(第15条第1項前段)。
この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法〔=書面の交付等。施行規則第5条第4項〕により明示しなければなりません(同条同項後段)。
〔1〕要件
○「労働契約の締結の際」であること。
明示時期 =「労働契約の締結の際」の意義
◆労働条件を明示すべき時期は、「労働契約の締結の際」(意思表示の合致がなされた際)です。
1 募集
従って、労働者の「募集」の時点では、本規定による労働条件の明示は不要です。
※ 職業安定法において、公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者等は、募集等に当たり労働条件を明示することが義務づけられています(職業安定法第5条の3第1項)。
こちら以下で後述します。
※ 採用の内定(こちら以下)について、内定の時点で労働契約が成立していると解される場合は、その採用内定時に労働条件を明示しなければならないと解されています。
2 就業規則等の変更
労働契約の存続中に、就業規則の変更等によって労働条件が変更された場合には、本規定の適用はないと解されています。
第15条第1項前段の文言上、「労働契約の締結に際し」であり、就業規則が変更されても労働契約自体が締結されたわけではないこと、また、就業規則の変更においては、周知及び変更の合理性が要件とされており(労働契約法第10条(労基法のパスワード。こちら以下)。なお、周知については、労基法第106条第1項にも規定があり、罰則適用の対象となります)、これにより労働者の保護も図られること等が理由といえるのでしょう。
3 有期労働契約の更新
有期労働契約の満了後に、これを「更新」する場合は、本規定が適用されます。更新は、新たな労働契約の締結だからです。
なお、令和6年4月1日施行の施行規則の改正により、有期労働契約の締結・更新の際の労働条件の明示事項の追加等が行われています。詳細は、後述します(こちら以下等)。
4 できる限りの書面による確認
なお、労働契約法第4条は、その第1項において、労働条件及び労働契約の内容について、使用者に対して、労働者の理解を深めるようにさせること(労働契約内容の理解促進)を定めると共に、第2項において、労働者及び使用者に、労働契約の内容について、できる限り書面により確認することを要求しています。
この労働契約法第4条は、その文言上、労基法第15条第1項のように労働契約の締結時にとどまらず、締結前さらには労働契約の変更時にも適用があります。
この労働契約法第4条については、詳しくは、労働契約法のこちら以下(労働一般のパスワード)で説明しています。
【労働契約法】
労契法第4条(労働契約の内容の理解の促進) 1.使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2.労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。 |
〔2〕効果
◆使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(第15条第1項前段)。
この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令(施行規則第5条第3項、第6項)で定める事項については、厚生労働省令で定める方法〔=書面の交付等(施行規則第5条第4項)〕により明示しなければなりません(第15条第1項後段)。
【令和元年度試験 改正事項】
※ 平成31年4月1日施行の施行規則の改正(【平成30.9.7厚生労働省令第112号】第1条)により、労働条件の明示について、主に次の(1)及び(2)の2点が改められています。
(1)明示事項の事実との一致
使用者は、第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならないとされました(施行規則第5条第2項)。
労働者の保護のためには、当然のことながら、使用者は、事実と合致した労働条件を明示しなければならないということです。
なお、「事実と異なるもの」とは、第15条第2項(労働契約の締結の際に明示された労働条件が事実と相違する場合における労働者による即時解除権)において、労働者が即時に労働契約を解除することができるとされる場合と同様に判断されます(【平成30.9.7基発0907第1号】)。
(2)書面の交付等による明示
また、従来は、「厚生労働省令(施行規則第5条第3項)で定める事項」については、「書面の交付」による労働条件の明示が必要でした。
しかし、利便性等の見地から、前述の改正により、書面の交付による労働条件の明示を原則としつつ、労働者が希望した場合は、ファクシミリを利用してする送信の方法、又は電子メールその他の電子的方法による送信の方法により明示することが可能となりました(施行規則第5条第4項)。
以下、これらの労働条件の明示の方法について、まとめて「書面の交付等」ということがあります。
以上については、のちにも触れます(こちら)。
以下では、労働条件の明示の効果について詳しく見ます。
一 明示をすべき者(主体)
労働条件の明示をすべき者は「使用者」ですが(第15条第1項前段、施行規則第5条第1項本文)、問題となるケースは以下の通りです。
(一)出向
出向の場合は、在籍型であれ移籍型であれ、出向先と労働者との間に新たに労働契約関係が成立するものですから、出向に際して、出向先が労働条件を明示することが必要と解されています(この明示は、出向元が出向先に代わって行ってもよいとされます)。
なお、出向の意義については「使用者」 の個所(こちら)で、要件等については後述の「労働契約の変更」の個所(こちら)で詳述しています。
(二)労働者派遣
派遣労働者に対する労働条件の明示は、派遣元の使用者が、(労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により自己が労基法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含めて)すべての明示義務を負います。
【過去問 平成24年問2E(こちら)】/【平成29年問3E(こちら)】
なぜなら、労働条件の明示は労働契約を締結する際の使用者の義務であるところ(第15条第1項前段)、派遣労働者と労働契約を締結する使用者は派遣先ではなく派遣元の使用者だからです(こちら以下も参考です)。
なお、労働者派遣法第34条(労働一般のパスワード)(こちら)は、派遣元事業主は、労働者派遣をする場合にはあらかじめ労働者派遣契約で定める就業条件(=派遣労働者が派遣先で派遣就労する際の労働条件です)等を当該派遣される労働者に明示しなければならないと規定しています。
この点、労働契約の締結時点と派遣する時点が同時である場合(登録型派遣で生じることが多いです。労働一般のこちらを参考です)には、労基法第15条による労働条件(=派遣元事業主と派遣労働者との間の労働契約に基づく労働条件です)の明示と労働者派遣法第34条による派遣先における就業条件の明示を併せて行っても差支えないとされています(【昭和61.6.6基発333号】参考)。
(三)日雇労働者等
明示をする相手方である労働者についての問題として、例えば、日々雇い入れられる者(日雇労働者)や2か月以内の期間を定めて使用される者等についても、第15条第1項に基づく労働条件の明示が必要です。
【過去問 平成9年問3A(こちら)】/【平成11年問7E(こちら)】
本規定は、「労働者」としているだけで、日雇労働者等を除外しているわけでなく、また、労働条件を明確化して紛争を防止する必要性も異ならないからです。
もっとも、日雇労働者については、同一条件で労働契約が更新される場合には、最初の雇入れの際に書面(書面の交付が必要な労働条件の明示のケースです)を交付すれば足り、その都度、当該書面を交付する必要はないとされています(【昭和51.9.28基発690号】参考)。
日々雇い入れられるという性格から、毎日書面を交付する手間を回避するという実際上の必要性を考慮したものといえ、また、その都度の書面交付を不要としても、同一条件による更新であるなら、労働者にとっても労働条件は明確であり本規定の趣旨は満たされるということでしょう。
なお、後述のように、短時間・有期雇用労働法における短時間労働者や有期雇用労働者、労働者派遣法における派遣労働者については、労働条件の明示について特則があります。
二 明示事項(客体)
次に、最も出題頻度が高い「労働条件の明示事項」について学習します。最初に、「労働条件の明示事項」の一覧表を掲載します。
※ 次の一覧表の通り、「労働条件の明示事項」と「就業規則の記載事項」は、対比して覚えるのが効率的です(就業規則の記載事項の詳細については、こちら以下の就業規則の個所で学習します)。
なお、左欄の「労働条件の明示事項」の赤字の部分と※1が令和6年4月1日施行の施行規則の改正事項です。
◆前掲の図と下記のゴロ合わせにより明示事項を覚えます。
※ 労働条件の明示事項のうち、絶対的明示事項とは、必ず明示しなければならない事項のこと、相対的明示事項とは、定めがある場合には明示しなければならない事項のことです(施行規則第5条第1項柱書参考)。
就業規則の記載事項の場合も類似となっており(用語は若干異なりますが)、就業規則の絶対的必要記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければならない事項のこと、相対的必要記載事項とは、定めをする場合には記載しなければならない事項のことです(第89条参考)。
記憶すべきポイントは、3点あります。
1.まず、前掲の図(こちら)のとおり、労働条件の明示事項と就業規則の記載事項は、労働条件の明示事項に特有の「(1)~(3)及び(4)のうち、所定労働時間を超える労働の有無」を除いては、基本的に同様となっています。
もっとも、同図の最後(※1の上)の(h)及び同図の※1についても、両者は異なります。
2.労働条件の明示事項の場合、絶対的明示事項は、「昇給に関する事項」を除き、「書面の交付等」により明示することが必要です(第15条第1項後段、施行規則第5条第3項、第4項)。
昇給に関する事項と相対的明示事項は、口頭による明示でも足ります。
昇給に関する事項の明示を書面の交付等による必要がないとした理由は、昇給に関する事項(例:昇給に関する基準等)は、人事上の秘密性の強い事項であること、将来的な事項であり不確定要素も強いこと等から、書面化になじまないという点にあると考えられます。
3.労働条件の明示事項については、令和6年4月1日施行の施行規則の改正により改められていますが(前掲(こちら)の図の左欄の赤字と※1の箇所です。詳細は、こちら以下等でみます)、※1の「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結(更新)の場合」については、独立に記憶しておきます。
即ち、無期転換申込権(労働契約法第18条に基づく仕組みですが、詳細は後述します)が発生する有期労働契約の締結(更新)の場合には、「無期転換申込みに関する事項」及び「無期転換後の労働条件」(基本的には、絶対的明示事項と相対的明示事項に係る労働条件です)の明示が追加となり、この場合、書面の交付等により明示しなければなりません(「無期転換後の労働条件」のうち「昇給に関する事項」を除きます)。
以上の前提知識をもとに、以下、記憶の作業に入ります。
少なくとも、絶対的明示事項は覚えておいた方がよいです。出題もひところ多かったですし、就業規則の絶対的必要記載事項との混同を防止する必要もあるからです。そこで、ゴロ合わせでいきます。
※【ゴロ合わせ】
○ 絶対的明示事項:
・「期間工の状況を超えるかどうか、始終時刻に、きゅうきゅうきゅうてか。
賃金の決算払を締切り期にしようというのは、しょうもないタイ」
(期間工の苦しい状況をイメージして下さい。)
→「期間(=労働契約の「期間」)、工(=「更」新)の、状(=就業の「場(じょう)」所)、況(=従事すべき「業(きょう)」務)を、超えるかどうか(=所定労働時間を「超える労働の有無」)、
始・終・時刻(=「始」業及び「終」業の「時刻」)に、
きゅう(=「休」憩時間)、きゅう(=「休」日)、きゅう(=「休」暇)、てか(=就業時「転換」)。
賃金の、決(=「決」定)、算(=計「算」)、払(=支「払」の方法)を、締切り(=「締切り」)、期(=支払の時「期」)に、
しよう(=「昇」給)というのは、しょうもない(=「書」面の交付等が「ない」)、タイ(=「退」職)」
上記のゴロ合わせのうち、「期間工の状況を超えるかどうか」まで(こちらの図の(1)~(3)及び(4)の「所定労働時間を超える労働の有無」まで)が、「就業規則」の絶対的必要記載事項には含まれていない事項です。
これらの事項は、個々の労働者ごとに異なることが一般であるため、就業規則によって画一的・定型的に定めることは妥当でないとして、就業規則の記載事項とはしていません。
○ 相対的明示事項:
平成24年度の択一式においては、相対的明示事項のうち「表彰に関する事項」が出題されていますので、相対的明示事項も余裕があれば覚えて下さい。一応、ゴロ合わせをご紹介しておきます。
※「たいてい、臨時のボーナス最低で、食用に敢えてくれーと、がいがい(がやがや)してたら、おもてで制裁され休職した」
(期間工は、たいていボーナスも最低で、食事をくれーと外でガヤガヤしてたら、パンチを受け休職する羽目になりました。)
→「たい・てい(=「退」職「手」当)、臨時(=「臨時」に支払われる賃金)の、ボーナス(=賞与)、最低(=「最低」賃金額)で、
食(=「食」費)、用(=作業「用」品)に、あ・えて(=「安」全及び「衛」生)、くれーと(=職業「訓練」)、
がい・がい(=災「害」補償及び業務「外」疾病扶助)してたら、おもてで(=「表」彰)、制裁(=制裁)され、休職(=休職)した」
※ 臨時の賃金等:
なお、前掲の図(こちら)における※2の「臨時の賃金等」(図中の中央部分以下に3つあります)は、同図中の※3(同図の最下部の文字部分です)のように、賃金支払の5原則の中の「毎月一回以上払、一定期日払の原則」の例外(こちら)と同じ内容です。
覚える必要はないといえますが、一応、ゴロをご紹介しておきます(このゴロは、のちに賃金支払の5原則のゴロと合体します)。
・「ボーリングなら、一番、正規の勝率よ」
(ボーリングなら、勝率が高いです。)
→「ボー(「ボ」ーナス=賞与)、リン(「臨」時に支払われる賃金)グなら、
一番(「1」箇月)、正(「精」勤手当)、規(「勤」続手当)の、勝(「奨」励加給)、率(能「率」手当)よ」
【令和6年度試験 改正事項】
※ なお、令和6年4月1日施行の施行規則の改正(【令和5.3.30厚生労働省令第39号】第1条)により、以下の通り、労働条件の明示事項の追加等が行われました。
今般の改正は、無期転換ルールに関する見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化等について検討された「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書(令和4年3月)を踏まえ、労働政策審議会労働条件分科会における「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(令和4年12月)に基づいて施行規則が改められたものです(なお、この労政審の報告では、以下の労働条件の明示事項以外にも、「雇止め等に関する基準」や「専門業務型・企画業務型裁量労働制」に関しても言及され、同様に令和6年4月1日から改正施行されています。こちら以下(「改正・最新判例」のパスワード)を参考です)。
(1)就業場所・業務の変更の範囲の明示
まず、絶対的明示事項として、従来から「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」が定められていますが、今般の改正により、これに「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」が追加されました(施行規則第5条第1項第1号の3のかっこ書の追加)。(こちらの図の左欄の絶対的明示事項の(3)の赤字の箇所)
「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲のことです。
従来は、雇入れ直後の「就業の場所及び従事すべき業務」を明示すれば足りるとされていました。
しかし、今般の改正により、「就業の場所及び従事すべき業務」の「変更の範囲」についても絶対的明示事項とすることによって、将来の配置転換等により変更される就業場所・業務の範囲についても労働契約締結時に明示させ、もって労働者の予測可能性を保障し、紛争の発生防止等を図ろうとした趣旨です。
なお、この(1)は、絶対的明示事項であり、原則通り(=絶対的明示事項については、「昇給に関する事項」を除き、書面の交付等による明示を行うことが必要です)、書面の交付等による明示が必要です(施行規則第5条第3項、第4項本文)。
以上の(1)は、すべての労働者に共通する明示事項であり、有期契約労働者も対象となります。
対して、次の(2)は、有期契約労働者のみが対象となる改正事項です。
(2)有期契約労働者に対する明示事項等
また、有期契約労働者(使用者と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)については、①有期労働契約の締結(更新)の際に、更新上限(有期労働契約の通算契約期間又は更新回数の上限)の定めがある場合にその更新上限を明示すること(「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」の明示を定める施行規則第5条第1項第1号の2にかっこ書として追加。こちらの図の左欄の(2)の赤字部分です)並びに②無期転換ルールに基づき、契約期間内に無期転換申込権が発生する有期労働契約を締結(更新)する場合において、(ⅰ)無期転換申込みに関する事項(無期転換を申し込むことができる旨=無期転換申込機会)及び(ⅱ)無期転換後の労働条件(=こちらの図の左欄の絶対的明示事項((2)を除きます)及び(定めをする場合の)相対的明示事項)を明示することが要求されました(施行規則第5条第5項の新設。詳細は、①についてはこちら、②についてはこちらで見ます)。
この(2)の場合、①「更新上限」並びに②(ⅰ)「無期転換申込みに関する事項」及び(ⅱ)「無期転換後の労働条件のうち絶対的明示事項(「昇給に関する事項」を除きます。即ち、こちらの図の「労働契約の締結時に書面の交付等により明示しなければならない事項」の(1)~(6)((2)と昇給に関する事項を除きます)です)については、書面の交付等により明示しなければなりません(施行規則第5条第6項の新設)。
なお、前述の(1)「就業場所・業務の変更の範囲」についても、原則通り、書面の交付等により明示しなければなりません(施行規則第5条第3項。絶対的明示事項については、「昇給に関する事項」を除き、書面の交付等による明示が必要です)。
※ 上記の無期転換ルールとは、労働契約法第18条で規定されている有期労働契約が無期労働契約に転換する仕組みです。
即ち、同一の使用者との間で締結された有期労働契約が反復更新されてそれらを通算した契約期間(通算契約期間といいます)が5年(原則)を超えた場合に、有期契約労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるというものです。
無期転換ルールについては、のちにこちら以下で詳しく見ます。
この無期転換ルールでは、有期契約労働者が無期転換申込権を行使した場合(申込みをした場合)には、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされ(いわゆる「承諾みなし」)、現に締結している有期労働契約の期間満了日の翌日から労務が提供される無期労働契約が、当該「申込みの時点」で成立します。
そこで、この転換後の無期労働契約の成立の時点で、使用者には労基法第15条第1項による労働条件の明示義務が生じますが、本件の「有期契約労働者に対する明示」は、その前の、無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新の時点で、無期転換後の労働条件等を明示させるものです(こちらの図のピンクの部分(上下2か所)で無期転換申込権が発生するため、このピンクの部分の直前の有期労働契約の更新の時点が明示時期です)。
その後、労働者が無期転換申込権を行使した場合に、上記の無期労働契約成立時の労働条件の明示が問題となります。
(両者の明示事項は、同じ内容になることも多いでしょうが、有期労働契約の更新後やや時間を経過した場合は労働条件が変化することもあり得ます。両者の明示事項が全て同じである場合は、使用者は、のちの無期労働契約の成立時には、すでに明示した明示事項と「全て同じである」旨を明示すれば足りるとされています。のちにこちらで再度触れます。)
※ 上記①(こちら)の「更新上限」(施行規則の条文上は、「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合の当該上限」である旨が規定されていますが、「雇止め等に関する基準」を定める告示の基準第1条(のちにこちらで学習します)のタイトルでは「更新上限」と規定されています)の明示とは、通算契約期間の上限(例:通算契約期間が5年に達したら有期労働契約の更新はしない)又は更新回数の上限(例:有期労働契約の更新回数は4回までで、5回目以降は更新しない)の定めがある場合にそれらの上限を明示しなければならないということです。
有期契約労働者に対して、無期転換ルールの適用可能性等についてあらかじめ明確化させる趣旨です。
上記②(こちら)の「無期転換申込みに関する事項」の明示とは、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会を有すること)を明示しなければならないということです。
以上の令和6年4月1日施行の施行規則の改正については、厚労省の資料において次のように整理されています。
※ 上記の資料中の「雇止め告示」(※2)については、のちにこちら以下で学習します(なお、この資料の※2では、当該告示について、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」としていますが、令和6年4月1日施行の告示の改正により、この題名及び内容が改められており、現在は、「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」という題名です。次の表では、改正「雇止めに関する基準」とされています)。
※ 厚労省の改正に関するサイト(こちら)に掲載されている次の表も参考です。
※ 労働条件の明示事項を具体的に定めている施行規則第5条を掲載しておきます。最終的には、熟読して下さい(条文の上部に小文字で掲載している内容は、当該条文の近時の改正の内容です。この部分は読まないで結構です。以後のすべての科目について同様です)。
【施行規則】
※ 次の施行規則第5条は、平成31年4月1日施行の改正(【平成30.9.7厚生労働省令第112号】第1条)により改められています。
〔即ち、同条第2項(現第3項)中、従来、「前項第1号」とあったのが、「第1項第1号」に改められ、第3項(現第4項)に後掲のただし書が追加され、第3項を第4項とし、第2項を第3項とし、第1項の次に、後掲の第2項が新設されました。〕
※ また、本条は、令和6年4月1日施行の改正(【令和5.3.30厚生労働省令第39号】第1条)により改められています。
〔即ち、同条第1項柱書中、従来、「労働契約」とあった次に、「(以下この条において「有期労働契約」という。)」が追加され、同項第1号の2中、従来、「期間の定めのある労働契約」とあったのが、「有期労働契約」に改められ、従来、「事項」とあった次に、「(通算契約期間(労働契約法(平成19年法律第128号)第18条第1項に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)」が追加され、同項第1号の3中、従来、「事項」とあった次に、「(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」が追加され、同条第4項の次に、後掲の2項(第5項及び第6項)が追加されました。〕
施行規則第5条 1.使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第1号の2に掲げる事項については期間の定めのある労働契約(以下この条において「有期労働契約」という。)であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第4号の2から第11号までに掲げる事項〔=相対的明示事項〕については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間(労働契約法(平成19年法律第128号)第18条第1項〔=無期転換ルール〕に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金〔=臨時の賃金等〕を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
〔※ 以下、相対的明示事項です。〕
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金〔=1箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当等〕並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
2.使用者は、法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
3.法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項〔=書面の交付等による明示が必要な事項〕は、第1項第1号から第4号までに掲げる事項〔=絶対的明示事項〕(昇給に関する事項を除く。)とする。
4.法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
5.その契約期間内に労働者が労働契約法第18条第1項の適用を受ける期間の定めのない労働契約の締結の申込み(以下「労働契約法第18条第1項の無期転換申込み」という。)をすることができることとなる有期労働契約の締結の場合においては、使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、第1項に規定するもののほか、労働契約法第18条第1項の無期転換申込みに関する事項並びに当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件〔=無期転換後の労働条件〕のうち第1項第1号及び第1号の3から第11号までに掲げる事項とする。ただし、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち同項4号の2から第11号までに掲げる事項〔=相対的明示事項〕については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
6.その契約期間内に労働者が労働契約法第18条第1項の無期転換申込みをすることができることとなる有期労働契約の締結の場合においては、法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項〔=書面の交付等による明示が必要な労働条件〕は、第3項に規定するもののほか、労働契約法第18条第1項の無期転換申込みに関する事項並びに当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件〔=無期転換後の労働条件〕のうち第1項第1号及び第1号の3から第4号までに掲げる事項〔=絶対的明示事項(第1項第2号以外)〕(昇給に関する事項を除く。)とする。 |
以下、明示事項について個別に見ていきます。
1 絶対的明示事項(施行規則第5条第1項第1号~第4号)
(1)「労働契約の期間に関する事項」(施行規則第5条第1項第1号)
【過去問 平成21年問2B(こちら)】
◆「労働契約の期間に関する事項」については、期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間の定めのない労働契約の場合はその旨を、明示します(【平成11.1.29基発第45号】参考)。【過去問 令和元年問4A(こちら)】
なお、定年制の場合は、期間の定めのない労働契約ですから(こちら以下)、期間の定めのない旨を明示します。
【令和6年度試験 改正事項】
(2)「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)」(施行規則第5条第1項第1号の2)
◆「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)」を明示しなければなりません。
ただし、有期労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限ります(施行規則第5条第1項ただし書、同項第1号の2)。
通算契約期間とは、労働契約法第18条第1項〔=無期転換ルール〕に規定する通算契約期間のことであり(施行規則第5条第1項第1号の2かっこ書)、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除きます)の契約期間を通算した期間です。
通算契約期間が5年(原則)を超えた場合に、有期契約労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるのが無期転換ルールです(こちら以下)。
○趣旨
(ⅰ)この(2)の「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」は、平成24年の施行規則の改正(平成25年4月1日施行)により新設された明示事項です。
以前は、有期労働契約を締結する際の更新の有無等の明示については、【平成15.10.22厚生労働省告示第357号】(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」。なお、令和6年4月1日施行の改正により、「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」に改められています。以下、「雇止め等に関する基準」ということがあります)の中で定められていました(詳細は、「労働契約の終了」の「期間の満了」の個所(こちら以下)で学習します)。
即ち、この改正前の「雇止め等に関する基準」において、契約締結時の明示事項等としては、次のような内容が示されていました(覚えなくて結構です)。
(a)使用者は、期間の定めのある労働契約(「有期労働契約」)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない。
(b)上記(a)の場合において、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない。
(c)使用者は、有期労働契約の締結後に前記(a)、(b)に該当する事項に関して変更する場合には、当該契約を締結した労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならない。
しかし、前記平成24年の改正において、「有期労働契約の継続・終了に係る予測可能性と納得性を高め、もって紛争の防止に資するため、契約更新の判断基準は、労働基準法第15条第1項後段の規定による明示をすることとすることが適当である」として、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」を書面による明示が必要な絶対的明示事項とすることとしました(従来の告示においては、書面による明示は要求されていませんでした)。
そこで、上記の(a)~(c)は削除されました。
・この改正に関する通達である【平成24.10.26基発1026第2号】を掲載しておきます(以上の記述を押さえておけば、この通達は読まないで結構です。なお、この通達は、【令和5.10.12基発1012第2号】により改正されています)。
〔引用開始。〕
労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第15条第1項前段〔=法第15条第1項前段〕の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件及び同項後段の厚生労働省令で定める事項として、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合においては「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間(労働契約法(平成19年法律第128号)第18条第1項〔=労働契約法第18条第1項〕)に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)」(以下「更新の基準」という。)を加えるものとしたこと(則第5条第1項第1号の2及び第3項)。
これにより、更新の基準は、則第5条第4項の規定により、書面の交付等により明示しなければならない労働条件となるものであること。
書面の交付等により明示しなければならないこととされる更新の基準の内容は、有期労働契約を締結する労働者が、契約期間満了後の自らの雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能となるものであることを要するものであること。
当該内容については、平成15年10月22日付け基発第1022001号「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」の記の第1の2の(2)のアの(ア)において示していたものと同様であり、
例えば、「更新の有無」として、
a 自動的に更新する
b 更新する場合があり得る
c 契約の更新はしない
等を、
また、「契約更新の判断基準」として、
a 契約期間満了時の業務量により判断する
b 労働者の勤務成績、態度により判断する
c 労働者の能力により判断する
d 会社の経営状況により判断する
e 従事している業務の進捗状況により判断する
等を明示することが考えられるものであること。
加えて、有期労働契約の更新に関して、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を明示する必要があること。
また、更新の基準についても、他の労働条件と同様、労働契約の内容となっている労働条件を使用者が変更する場合には、労働者との合意その他の方法により、適法に変更される必要があること。
〔引用終了。〕
【令和6年度試験 改正事項】
(ⅱ)さらに、令和6年4月1日施行の施行規則の改正により、「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限」(以上について、まとめて「更新上限」と表現されることがあります)も明示しなければならないことに改められました(施行規則第5条第1項第1号の2にかっこ書として追加。こちらの図の左欄の(2))。
前述(こちらの①)の通り、通算契約期間の上限(例:通算契約期間が5年に達したら有期労働契約の更新はしない)又は更新回数の上限(例:有期労働契約の更新回数は4回までで、5回目以降は更新しない)の定めがある場合に、それらの上限を明示しなければならないということです。
有期契約労働者に対して、無期転換ルールの適用可能性等についてあらかじめ明確化させる趣旨です。
※ なお、「有期労働契約の更新上限を定めている場合にその内容を明示することが求められており、更新上限がない場合にその旨を明示することは要しない」とされます(「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」(以下、このページにおいて「Q&A」といいます。こちら)3の2)。
※ また、通算契約期間の上限や、有期労働契約の更新回数の上限の明示内容(例:更新回数の上限については、契約の当初から数えた回数を書くのか、残りの契約更新回数を書くのか等)については、「労働者と使用者の認識が一致するような明示となっていれば差し支えない」とされ、「なお、労働者・使用者間での混乱を避ける観点からは、契約の当初から数えた更新回数又は通算契約期間の上限を明示し、その上で、現在が何回目の契約更新であるか等を併せて示すことが考えられる。」とされます(「Q&A」3の1)。
【令和6年度試験 改正事項】
※ なお、使用者は、有期労働契約の締結後、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め、又はこれを引き下げようとするときは、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければなりません(有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準第1条)。
この使用者が更新上限を新設・短縮する場合にその理由を事前に説明する義務を定める基準第1条は、令和6年4月1日施行の同基準の改正により新設されました。
詳細は、のちにこちらで見ます。
【令和6年度試験 改正事項】
(3)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む)(施行規則第5条第1項第1号の3)
【過去問 平成15年問2E(こちら)】/【平成21年問2B(こちら)】
◆「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」については、従来は、雇入れ直後の「就業の場所及び従事すべき業務」を明示すれば足りるとされていました(将来の就業場所等を併せ網羅的に明示することは差支えないとされました。前掲【平成11.1.29基発第45号】参考。【過去問 令和3年問2B(こちら)】)。
しかし、前述(こちらの(1))の通り、令和6年4月1日施行の施行規則の改正により、「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」も明示事項に追加されました(施行規則第5条第1項第1号の3のかっこ書の追加)。(こちらの図の左欄の絶対的明示事項の(3))
将来の配置転換等によって変更される就業場所・業務の範囲についても、労働契約締結時に明示させることによって、労働者の予測可能性を保障しようとした趣旨です。
以下、通達(【令和5.10.12基発1012第2号】。こちら)から引用します。
〔引用開始。〕
①労基法第15条第1項前段の規定に基づいて明示しなければならない労働条件に、就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を追加したものであること。
②「就業の場所及び従事すべき業務」とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所及び労働者が通常従事することが想定されている業務をいい、配置転換及び在籍型出向が命じられた場合の当該配置転換及び在籍型出向先の場所及び業務が含まれるが、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修等、就業の場所及び従事すべき業務が一時的に変更される場合の当該一時的な変更先の場所及び業務は含まれないものであること。
③「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、当該労働契約の期間中における就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲をいうものであること。
〔そこで、例えば、直近の有期労働契約の期間中には場所・業務の変更は想定されないが、契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務のケースのように、「契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務については、改正労基則において明示が求められるものではない。」とされます(「Q&A」2の1)。
なお、日雇労働者については、雇入れ日における就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足り、「変更の範囲」を明示する必要はないとされます(日雇労働については、その日の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば、「労働契約の期間中における変更 の範囲」も明示したものと考えられるとされます)。「Q&A」2の2)。〕
④労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務(以下「テレワーク」という。)については、労働者がテレワークを行うことが通常想定されている場合には、テレワークを行う場所が就業の場所の変更の範囲に含まれるが、労働者がテレワークを行うことが通常想定されていない場合には、一時的にテレワークを行う場所はこれに含まれないものであること。
⑤ 就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲は、有期労働契約を含む全ての労働契約の締結の際に明示する必要があるものであること。
〔引用終了。〕
※「変更の範囲」の明示は、就業場所・業務がどの程度限定されるかにより記載が異なります。
例えば、就業場所・業務に限定がない場合において、「就業場所」について、「雇入れ直後」は「仙台営業所」と、「変更の範囲」は「会社の定める営業所」と明示すること、また、「従事すべき業務」について、「雇入れ直後」は「原料の調達に関する業務」と、「変更の範囲」は「会社の定める業務」と明示することなどが可能です(こちらのパンフレットの4頁参考)。
(4)「始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無〔=いわゆる残業の有無です〕、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項」(施行規則第5条第1項第2号)
【過去問 平成15年問2A(こちら)】/【平成18年問3C(こちら)】
(ア)当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示することが必要です。
(イ)当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足ります(以上、前掲【平成11.1.29基発第45号】参考)。
(5)「賃金(退職手当及び第5号〔=下記の2の(2)〕に規定する賃金〔=臨時の賃金等〕を除く。以下この(5)において同じ)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」(施行規則第5条第1項第3号)
◆「賃金(退職手当及び第5号(こちら)に規定する賃金〔=臨時の賃金等〕を除きます)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」です。
(ア)「退職手当及び臨時の賃金等」(これらは、相対的記載事項になっています)を除く「賃金」に関する事項となります。
(イ)就業規則等の規定と併せて、賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよいとされます(ただし、就業規則等を労働者に周知させる措置がとられていることが必要です)。
例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでもよいとされます(【昭和51.9.28基発第690号】参考)。
【過去問 平成15年問2C(こちら)】/【令和2年問5イ(こちら)】
(6)「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」(施行規則第5条第1項第4号)
退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければなりません(前掲【平成11.1.29基発第45号】参考)。
当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるとされます(【平成15.10.22基発第1022001号】参考)。
以上で、絶対的明示事項について終わります。次に、相対的明示事項です。
2 相対的明示事項(施行規則第5条第1項第4号の2~第11号)
(1)「退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」(施行規則第5条第1項第4号の2)
この(1)は、退職手当関係です。
(2)「臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項」(施行規則第5条第1項第5号)
◆「臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び施行規則第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項」が、相対的明示事項です。
このうち、「施行規則第8条各号に掲げる賃金」とは、次の(ア)~(ウ)です(前掲の図(こちら)の下部の※2、3でも記載しました。また、ゴロ合わせもご紹介済みです)。
(ア)1箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
(イ)1箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
(ウ)1箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当
なお、(a)就業規則の記載事項、及び(b)賃金支払の5原則の中の「毎月1回以上払、一定期日払の原則」の例外(こちら)においては、「臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金」を「臨時の賃金等」と規定していますが(第24条第2項ただし書、第89条第2号)、この「厚生労働省令で定める賃金」とは、上記の「施行規則第8条各号に掲げる賃金」((ア)~(ウ))のことをいうとされています(施行規則第8条柱書)。
従って、本件(2)の労働条件の相対的明示事項の第5号と上記(a)及び(b)の「臨時の賃金等」とは、結局、同じ内容を指すことになります。
(前掲の明示事項の図(こちら)の最下部の※2、3の中でも記載しました。出題が多い個所というわけではなく、無用の混乱を避けるために記載しています。)
なお、ここで、「臨時に支払われる賃金」についてまとめておきます。
「臨時に支払われる賃金」とは、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」のことです(【昭和22.9.13基発第17号】参考)。
例えば、就業規則の定めによって支払われる私傷病手当(【昭和26.12.27基収第3857号】)、病気欠勤等の月給者に支給される加療見舞金(【昭和27.5.10基収第6054号】)、退職金(【昭和22.9.13発基第17号】などです。
※ 「臨時に支払われる(た)賃金」は、労基法上、次のような取扱いがなされます(「臨時に支払われる賃金」と規定されている場合と「臨時に支払われた賃金」と規定されている場合がありますが、同様の内容です)。労基法全体の学習が終わった時点で、再度、ここを確認して下さい。
〇「臨時に支払われる(た)賃金」の労基法上の取扱い :
(a)平均賃金
「臨時に支払われた賃金」は、平均賃金の算定基礎である賃金総額から控除されます(第12条第4項。こちらの(一))。
(b)毎月1回以上払、一定期日払の原則の例外
「臨時に支払われる賃金」は、毎月1回以上払、一定期日払の原則の例外となります(第24条第2項ただし書、こちらの(一))。
(c)割増賃金
「臨時に支払われた賃金」は、割増賃金の算定基礎から除外されます(第37条第5項、施行規則第21条第4号。こちらの6)。
(d)就業規則の相対的必要記載事項
「臨時に支払われる賃金」は、就業規則の相対的必要記載事項の「臨時の賃金等」となります(第89条第2号かっこ書、第4号、第24条第2項ただし書、こちら)。
(e)労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項
「臨時に支払われる賃金」は、労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項となります(第15条第1項、施行規則第5条第1項第5号)。(これが本問の問題です。)
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相対的明示事項の続きに戻ります。以下は、簡単に見ます。
(3)「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項」(施行規則第5条第1項第6号)
(4)「安全及び衛生に関する事項」(施行規則第5条第1項第7号)
(5)「職業訓練に関する事項」(施行規則第5条第1項第8号)
(6)「災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項」(施行規則第5条第1項第9号)
(7)「表彰及び制裁に関する事項」(施行規則第5条第1項第10号)
※ 制裁に関する事項とは、いわゆる懲戒処分に関する事項です。「労働契約の変更(展開)」の「懲戒処分」の個所(こちら以下)で詳しく学習します。
(8)「休職に関する事項」(施行規則第5条第1項第11号)
※ なお、「休職に関する事項」は、就業規則の相対的必要記載事項には列挙されていませんが(前掲の図(こちら)の右欄を参考)、「休職に関する事項」が当該事業場の労働者の全てに適用される定めであるときは、第89条第10号に該当しますから、相対的必要記載事項として就業規則に記載することが必要となります(前掲の図(こちら)の右欄の(h)です)。
【過去問 平成14年問2B(こちら)】
【令和6年度試験 改正事項】
〇無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結(更新)の場合:
◆なお、上述しましたが(こちらの②)、無期転換ルールに基づき、契約期間内に無期転換申込権が発生する有期労働契約を締結(更新)する場合において、(ⅰ)「無期転換申込みに関する事項」(無期転換を申し込むことができる旨=無期転換申込機会)及び(ⅱ)「無期転換後の労働条件」(=こちらの図の左欄の絶対的明示事項((2)を除きます)及び(定めをする場合の)相対的明示事項)を明示することも必要です(施行規則第5条第5項の新設)。
令和6年4月1日施行の施行規則の改正事項です。
条文では、要旨、次のように規定されています(施行規則第5条第5項)。
・その契約期間内に労働者が労働契約法第18条第1項の適用を受ける期間の定めのない労働契約の締結の申込み(以下「労働契約法第18条第1項の無期転換申込み」という)をすることができることとなる有期労働契約の締結の場合においては、使用者が労働者に対して明示しなければならない労働条件は、施行規則第5条第1項に規定するもののほか、労働契約法第18条第1項の「無期転換申込みに関する事項」並びに「当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件〔=無期転換後の労働条件〕のうち施行規則第5条第1項第1号及び第1号の3から第11号までに掲げる事項」とする。
ただし、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち同項4号の2から第11号までに掲げる事項〔=相対的明示事項〕については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
つまり、労働契約法第18条の無期転換ルールに基づき、契約期間内に無期転換申込権が発生する有期労働契約を締結(更新)する場合においては、本来明示が必要な労働条件のほか、(ⅰ)「無期転換申込みに関する事項」及び(ⅱ)「無期転換後の労働条件」の明示も必要であり、この(ⅱ)「無期転換後の労働条件」とは、絶対的明示事項(こちらの図の左欄の(2)を除きます)及び(定めをする場合の)相対的明示事項であるということです。
(ⅰ)「無期転換申込みに関する事項」とは、無期転換申込権を有すること(無期転換を申し込むことができる旨)をいうものとされます。
即ち、「労契法第18条に規定する無期転換ルール(有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)に転換させる仕組み)に基づき、当該有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間に有期契約労働者が無期労働契約への転換を申し込むことができる権利(以下「無期転換申込権」という。)を有することをいうものであること。」とされます(【令和5.10.12基発1012第2号】)。
有期契約労働者が今回更新される有期労働契約の期間中に無期転換権申込権を行使できることを知らないことがあるため、無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新の際に、使用者に当該労働者が無期転換申込機会を有する旨を明示させようとした趣旨です。
(ⅱ)「無期転換後の労働条件」の明示は、有期契約労働者にとって、無期転換申込権を行使した後の無期労働契約の労働条件の内容が明らかでないと、無期転換申込権の行使の是非の判断に支障が生じることから、当該労働条件の内容を明示させたものです。
なお、無期転換申込権の行使後の無期労働契約の労働条件の内容は、労働契約法第18条第1項後段により、従前の有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除きます)と同一の労働条件となりますが、当該労働条件(契約期間を除きます)について別段の定めがある部分は除くこと等もあって、有期契約労働者にとっては、無期転換申込権の行使後の労働条件の内容が不明確なことがあります。
〇以下、通達(【令和5.10.12基発1012第2号】から引用します。
・「無期転換後の労働条件の明示は、労基則第5条第5項の規定に基づき明示すべき事項について、事項ごとにその内容を明示する方法のほか、同条第1項の規定に基づき明示すべき有期労働契約の労働条件からの変更の有無及び変更がある場合はその内容を明示する方法で行うことも差し支えないこと。」
・「改正省令の施行後は、無期転換申込権の行使によって成立する無期労働契約の労働条件の明示は、無期転換申込権が生じる有期労働契約の更新時及び労働者による無期転換申込権の行使による無期労働契約の成立時にそれぞれ行うこととなること。ただし、無期転換申込権が生じる有期労働契約の更新時に、無期転換後の労働条件の明示を、労基則第5条第5項の規定に基づき明示すべき事項について事項ごとにその内容を示す方法で行った場合であって、当該明示した無期転換後の労働条件と無期転換申込権の行使によって成立する無期労働契約の労働条件のうち同条第1項の規定に基づき明示すべき事項が全て同じである場合には、使用者は、無期労働契約の成立時にその旨〔=すでに明示した明示事項と全て同じである旨〕を書面の交付等の方法により明示することとしても差し支えないこと。」〔前述のこちらを参考です。〕
【令和6年度試験 改正事項】
※ なお、使用者は、労働者に対して、無期転換ルールに基づく「無期転換後の労働条件」を明示する場合においては、当該労働条件に関する定めをするに当たって労働契約法第3条第2項の規定〔=就業実態に応じた均衡考慮の原則〕の趣旨を踏まえて就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、当該労働者に説明するよう努めなければなりません(有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準第5条)。
この基準第5条は、令和6年4月1日施行の改正により新設されました。
詳細は、のちにこちらで見ます。
○ その他、明示事項に関する知識を若干補足しておきます。
【令和元年度試験 改正事項】
(ⅰ)使用者は、第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはなりません(施行規則第5条第2項)。
先に触れましたが、労働者の保護のためには、当然のことながら、使用者は、事実と合致した労働条件を明示しなければならないということです。
平成31年4月1日施行の施行規則の改正(【平成30.9.7厚生労働省令第112号】第1条)により施行規則第5条に追加された規定です。
(ⅱ)第15条の労働契約の締結の際に明示すべき「労働条件」の範囲は、第1条及び第2条の「労働条件」の範囲とは異なります。
【過去問 平成16年問1E(こちら)】
第1条及び第2条の労働条件は、労働者の職場における一切の待遇をいいますが(こちら)、第15条の労働条件は、これまで見てきました施行規則第5条第1項に規定されている労働条件であり、後者の方が狭いことになります。
これらの各規定の趣旨・目的が違いますので、同じ「労働条件」の範囲も異なってくるものです。
(ⅲ)健康保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用に関する事項は、第15条の労働条件の明示事項には含まれていません。
【過去問 平成14年問2C(こちら)】
後述のように、これらの事項は、職業安定法(こちら以下)では、書面の交付等により明示が必要な事項とされています。
(ⅳ)「所定労働日以外の日の労働の有無」(即ち、休日労働の有無)は、本条の明示事項には含まれていません。
【過去問 前掲の平成18年問3C(含まれるとする出題。こちら)】
「休日に関する事項」は絶対的明示事項に含まれており、休日労働の有無もこの「休日に関する事項」に含まれないかは問題です。
しかし、労働時間については、「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無」が絶対的明示事項として定められており、「所定労働時間を超える労働の有無(即ち、時間外労働の有無)」が明示事項として明確に規定されていることと比較しますと、休日の場合は、「所定労働日以外の日の労働の有無」は規定されていず、従って、休日労働の有無は、明示事項に含まれていないと解するのが自然であるということになります。
以上で、「二 明示事項(客体)」を終わります。
三 明示の方法
【令和元年度試験 改正事項】
◆絶対的明示事項については、「昇給に関する事項」を除き、書面の交付等による明示が必要です(施行規則第5条第3項、第4項)。
【過去問 平成15年問2A(こちら)】/【平成21年問2B(こちら)】
正確には、次の通りです。
絶対的明示事項については、「昇給に関する事項」を除き、労働者に対して当該事項が明らかとなる書面の交付による明示を行うことが原則として必要です(施行規則第5条第3項、第4項本文)。
ただし、当該労働者が当該事項が明らかとなる次の①又は②のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法により明示することができます(施行規則第5条第4項ただし書)。
①ファクシミリを利用してする送信の方法
②電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(以下、「電子メール等」といいます)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限ります)
※ 情報通信機器の発展の中で、情報の確実な伝達・記録を確保しつつ、ペーパーレス化・簡便化等を図ることを可能とした改正とされます(水町「詳解労働法」第2版460頁(初版448頁))。
※ なお、要式は自由です。
そして、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えありません(前掲の【平成11.1.29基発45号】参考)。
【過去問 平成24年問7E(こちら)】
【令和6年度試験 改正事項】
◆なお、令和6年4月1日施行の施行規則の改正により明示事項に追加された「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結(更新)の場合」(こちら)の明示の方法については、(ⅰ)「無期転換申込みに関する事項」及び(ⅱ)「無期転換後の労働条件のうち絶対的明示事項(「昇給に関する事項」及び「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」を除きます。即ち、こちらの図の「労働契約の締結時に書面の交付等により明示しなければならない事項」の(1)~(6)((2)と昇給に関する事項を除きます。(2)「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」は、そもそも無期転換後の無期労働契約の労働条件とはなりません)です)については、書面の交付等により明示しなければなりません(施行規則第5条第6項の新設)。
(こちらの図の下部の※1も参考です。)
※ 上記の「書面の交付等」について、【平成30.12.28基発1228第15号】(こちらの第5。最終改正【令和元.7.12基発0712第2号】等(高プロのQ&Aを追加)により、従来の第4から繰下げ)において、いくつか通知されていますので、ご紹介します(なお、平成31年3月上旬に公表されました「改正労働基準法に関するQ&A」(こちら)においても、この通達と同様の内容が掲載されている他、新たなQ&Aも若干追加されており、併せてご紹介します)。
(さしあたりは読まなくて結構です。)
(1)労働者が希望した場合
〔引用開始。〕
則第5条第4項の「労働者が(中略)希望した場合」とは、労働者が使用者に対し、口頭で希望する旨を伝達した場合を含むと解されるが、法第15条の規定による労働条件の明示の趣旨は、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止することであることに鑑みると、紛争の未然防止の観点からは、労使双方において、労働者が希望したか否かについて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましい。
〔引用終了。〕
(以上については、「改正労働基準法に関するQ&A」(こちら)の43頁の「4-1」でも、同内容が取り上げられています。)
(2)電子メール等の具体的内容
〔引用開始。〕
「電子メール」とは、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成14年法律第26号)第2条第1号の電子メールと同様であり、特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の影像面に表示させるようにすることにより伝達するための電気通信(有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう(電気通信事業法第2条第1号)。)であって、①その全部若しくは一部においてSMTP(シンプル・メール・トランスファー・プロトコル)が用いられる通信方式を用いるもの、又は②携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式を用いるものをいうと解される。
①にはパソコン・携帯電話端末によるEメールのほか、Yahoo!メールやGmail といったウェブメールサービスを利用したものが含まれ、②にはRCS(リッチ・コミュニケーション・サービス。+メッセージ(プラス・メッセージ)等、携帯電話同士で文字メッセージ等を送信できるサービスをいう。)や、SMS(ショート・メッセージ・サービス。携帯電話同士で短い文字メッセージを電話番号宛てに送信できるサービスをいう。)が含まれる。
「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」とは、具体的には、LINE や Facebook等のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)メッセージ機能等を利用した電気通信がこれに該当する。
なお、上記②の例えばRCSやSMSについては、PDF等の添付ファイルを送付することができないこと、送信できる文字メッセージ数に制限等があり、また、原則である書面作成が念頭に置かれていないサービスであるため、労働条件明示の手段としては例外的なものであり、原則として上記①の方法やSNSメッセージ機能等による送信の方法とすることが望ましい。
労働者が開設しているブログ、ホームページ等への書き込みや、SNSの労働者のマイページにコメントを書き込む行為等、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、第三者が特定個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないことに留意する必要がある。
上記のサービスによっては、情報の保存期間が一定期間に限られている場合があることから、労働者が内容を確認しようと考えた際に情報の閲覧ができない可能性があるため、使用者が労働者に対して、労働者自身で出力による書面の作成等により情報を保存するように伝えることが望ましい。
〔引用終了。〕
(以上については、「改正労働基準法に関するQ&A」(こちら)の44頁の「4-2」でも、ほぼ同内容が取り上げられていますが、上記の通達の方が詳しい内容となっています。)
(3)電子メール等の「送信」の考え方
〔引用開始。〕
電子メール等の「送信」については、労働者が受信拒否設定をしていたり、電子メール等の着信音が鳴らない設定にしたりしているなどのために、個々の電子メール等の着信の時点で、相手方である受信者がそのことを認識し得ない状態であっても、受信履歴等から電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識しうるのであれば、「電子メール等の送信」に該当するものと解される。
ただし、労働条件の明示を巡る紛争の未然防止の観点を踏まえると、使用者があらかじめ労働者に対し、当該労働者の端末等が上記の設定となっていないか等を確認した上で送信することが望ましい。
〔引用終了。〕
・上記(3)とほぼ同内容ですが、「改正労働基準法に関するQ&A」(こちら)の44頁の「4-3」からも引用しておきます。
〔引用開始。〕
(Q)電子メール等の送信によって労働条件を明示する場合、労働者が電子メールの受信を拒否しているケースも想定されますが、「送信」の具体的な考え方を教えてください。
また、電子メール等の中には Gmail や LINE など、受信した内容が労働者本人の利用する通信端末機器自体には到達せず、メールサーバー等においてデータが管理される場合がありますが、その場合は、メールサーバー等に到達した時点で送信されたことになるのでしょうか。
(A)労働者が受信拒否設定をしていたり、電子メール等の着信音が鳴らない設定にしたりしているなどのために、個々の電子メール等の着信の時点で、相手方である受信者がそのことを認識し得ない状態であっても、受信履歴等から電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識しうるのであれば、送信をしたことになります。
また、web メールサービスや SNS 等において、本人の通信端末機器に受信した内容が到達していなくても、メールサーバー等に到達していれば、電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識し得る状態にあると判断できるため、認められます。
なお、労働条件の明示を巡る紛争の未然防止の観点から、使用者があらかじめ労働者に対し、当該労働者の端末等が上記の設定となっていないか等を確認することや、web メールサービスや SNS 等については上記のような特色があることから、実際に労働者本人が着信できているか確認するように促すこと等の対応を行うことが望ましいです。
〔引用終了。〕
(4)記録の出力及び書面の作成
〔引用開始。〕
労働条件の明示の趣旨を鑑みると、使用者が労働者に対し確実に労働条件を明示するとともに、その明示された事項を労働者がいつでも確認することができるよう、当該労働者が保管することのできる方法により明示する必要があることから、労働者が書面の交付による明示以外の方法を望んだ場合であっても、電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。
この場合において「出力することにより書面を作成することができる」とは、当該電子メール等の本文又は当該電子メール等に添付されたファイルについて、紙による出力が可能であることを指すが、労働条件の明示を巡る紛争の未然防止及び書類管理の徹底の観点から、労働条件通知書に記入し、電子メール等に添付し送信する等、可能な限り紛争を防止しつつ、書類の管理がしやすい方法とすることが望ましい。
〔引用終了。〕
・関連する内容として、「改正労働基準法に関するQ&A」(こちら)の45頁の「4-6」も掲載しておきます。
〔引用開始。〕
(Q)「出力することにより書面を作成することができるものに限る」とは、プリンターの保有状況等、個人的な事情を指しますか。それとも世間一般的に出力可能なことを指しますか。
(A)則第5条第4項の要件は「当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」であり、あくまで書面を作成するかどうかは当該労働者個人の判断に委ねられていることから、当該労働者の個人的な事情によらず、一般的に出力が可能な状態であれば、「当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」に該当します。
〔引用終了。〕
(5)電子メール等による送信の方法による明示の場合の署名等
〔引用開始。〕
電子メール等による送信の方法による明示を行う場合においても、書面による交付と同様、明示する際の様式は自由であるが、紛争の未然防止の観点から、明示しなければならない事項に加え、明示を行った日付や、当該電子メール等を送信した担当者の個人名だけでなく労働条件を明示した主体である事業場や法人等の名称、使用者の氏名等を記入することが望ましい。
〔引用終了。〕
・関連する内容として、「改正労働基準法に関するQ&A」(こちら)の46頁の「4-7」も掲載しておきます。
〔引用開始。〕
(Q)電子メール等による送信をする場合、署名は必要ですか。
(A)電子メール等による送信の方法による明示を行う場合においても、書面による交付と同様、明示する際の様式は自由であり、使用者の署名や押印は義務付けられていませんが、紛争の未然防止の観点から、例えば、原則の書面の交付による明示の際には押印している等の事情があれば、電子メール等による送信の方法の際にも署名等をすることが望ましいです。
〔引用終了。〕
四 労働条件の明示がない場合
次に、第15条第1項に違反して、労働契約の締結の際に労働条件を明示せずに労働契約が締結された場合の効果の問題について見ておきます。
(一)公法上の効果
まず、第15条第1項に違反して労働条件を明示しなかった使用者は、30万円以下の罰金に処せられます(第120条第1号)。
※ なお、労働条件を明示しなかった場合には罰則が適用されますが、明示した労働条件が実際の労働条件と異なる場合には、罰則は適用されず、労働契約の即時解除及び帰郷旅費の問題(第15条第2項及び第3項)となることには注意です。
【過去問 平成27年問3C(こちら)】
(二)私法上の効果
労働契約の締結の際、使用者が必要な労働条件の明示をしなかった場合であっても、労働契約自体は有効に成立すると解されています。
なぜなら、第15条第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者に即時解除権を認めていますが、これは、一定の労働条件が明示されず、その結果、労働条件と事実が相違したとしても、労働契約の成立自体は認めることを前提としているものと解されること(契約の解除は、契約が有効に成立したことを前提とするものです)、また、明示ない場合に労働契約が無効となるとしますと、労働条件は明示されなかったが労働者が現状の労働条件に満足しており労働契約の存続を望んでいるような場合、かえって労働者の不利益になりかねないこと等が考慮されているものと解されます。
以上で、労働条件の明示に関する第15条第1項を終わります。続いて、同条第2項の即時解除について学習します。
§2 即時解除(第15条第2項)
◆第15条第1項によって労働契約の締結の際に明示された労働条件が事実と相違する場合は、労働者は、即時に労働契約を解除することができます(第15条第2項)。
【過去問 平成23年問2B(こちら)】
【条文】
第15条(労働条件の明示)
〔第1項は、省略。〕
2.前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3.前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。 |
○趣旨
第15条第1項によって明示された労働条件が事実と相違する場合は、労働者の保護のため、労働者に労働契約の即時解除権を認めたものです。
即ち、錯誤の取消し(民法改正)や債務不履行による契約解除といった民法上の手段によらなくても、単に「事実と相違する」だけで契約を解消できる点、また、期間の定めの有無にかかわらず、「即時に」解除権を行使できる点において、民法の原則を修正して、労働者の保護を図っています。
この後者については、労働者が労働契約を解約する場合、本来なら、期間の定めのある労働契約のときは、やむを得ない事由がなければ中途解約はできず(民法第628条)、期間の定めのない労働契約の場合も2週間の予告期間が必要となるという原則(民法第627条第1項)を修正しているということです。
一 要件
◆第15条第1項の規定によって明示された労働条件が事実と相違すること。
(一)労働条件
「第15条第1項の規定によって明示された労働条件」となっていますから、この「労働条件」とは、明示されたすべての労働条件を指すものではなく、明示された労働条件中、第15条第1項によって明示すべきこととされている労働条件(絶対的明示事項と相対的明示事項)に限られると解されています。
例えば、社宅が単なる福利厚生施設とみなされる場合は、労働契約締結の際に社宅の供与を明示しながら実際にはこれを供与しなかったとしても、本規定に基づき解除することはできません(【昭和23.11.27基収第3514号】参考)。
社宅の供与といった福利厚生は、第15条第1項の所定の労働条件には含まれていないからです。【過去問 令和5年問5B(こちら)】
ただし、社宅の供与を受ける利益が「賃金」にあたる場合(=社宅の供与を受けない者に対して均衡手当が支給される場合は、賃金にあたると解されています。詳しくは、「賃金」のこちら)には、第15条第1項に基づく施行規則第5条第1項第3号の「賃金」に該当するため、当該社宅の供与を受ける利益も明示事項に含まれますから、本規定に基づく解除もできます。
(二)労働条件の主体
「明示された労働条件」とは、当該労働者自身に関する労働条件に限られると解されています。【過去問 平成12年問2D(こちら)】
例えば、労働契約の締結の際、自己以外の者の労働条件について付帯条項が明示されていた場合(例:労働者の契約締結に当たって、均衡上、他の労働者の賃金を上げることを使用者が約束したケースなど)、使用者がその条項通りに契約を履行しないことがあっても、当該労働者は本規定に基づき契約を解除することはできないとされます(【昭和23.1.27基収第3514号】参考)。
(労働者自身に関する労働条件でない事項について明示と異なっていても、当該労働者の保護のために労働契約を解除するまでの必要性は乏しいといえること、また、当該労働者の保護は、債務不履行に基づく損害賠償請求や解除権の行使(民法第415条、第541条以下)という一般原則により行えることが考慮されているのでしょう。)
二 効果
◆当該労働者は、即時に労働契約を解除できます。
(参考)
この「解除」とは、契約の効果を遡及的に消滅させる解除(民法第545条等)のことではなく、契約を将来に向かって消滅させる解約のことです(民法第630条が、「雇用契約の解除は、将来に向かってのみ効力を生じる」旨を規定しています)。
【過去問 平成28年問2B(こちら)】
雇用契約(労働契約)は、通常、継続的な契約関係であるため、解除により過去に遡及して権利義務を消滅させては法律関係の安定を害します(例えば、労働者は受領した過去の賃金相当額を返還し、使用者は給付された過去の労働に相当する利益の額を返還することになり、清算関係が複雑化します)。
そこで、雇用契約の解除に遡及効は認めず将来効のみ認めたものです。
以上で、即時解除を終わり、最後に帰郷旅費の負担について学習します。
§3 帰郷旅費の負担(第15条第3項)
◆労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と相違するため、労働者が労働契約を即時解除する場合において、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければなりません(第15条第3項)。
【条文】
第15条(労働条件の明示)
〔第1項は、省略。〕
2.前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3.前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。 |
【記述式 平成8年度=「14日」】
○趣旨
明示された労働条件が事実と相違するため、労働契約を即時解除した労働者が、就業のために住居を変更しており帰郷する場合に、使用者に帰郷旅費を負担させることによって、労働者の解除権の行使を実質的に保障しその保護を図ろうとした趣旨です。
一 要件
◆就業のために住居を変更した労働者が、第15条第1項により明示された労働条件と事実が相違することを理由として労働契約を即時解除し、当該契約解除日から14日以内に帰郷すること。
以下、問題となる点を見ます。
(一)住居
「住居」とは、住所(「各人の生活の本拠を住所とする」。民法第22条(国年法のこちら))よりも広く、居所(=生活の本拠とまではいえないが、多少の期間、継続して居住する場所。民法第23条第1項は、「住所が知れない場合には、居所を住所とみなす」としています)も含むとされています。
例えば、寄宿舎に入居した場合や住込み労働者になったような場合にも、帰郷するときには帰郷旅費を保障する必要性があることには変わりがないからです。
(二)帰郷
「帰郷」とは、通常、就業する直前に労働者の居住していた場所まで帰ることをいいますが、これのみに限定されず、父母その他親族の保護を受ける場合には、その者の住所に帰る場合も含むと解されています(【昭和23.7.20基収第2483号】参考)。
就業に伴い従来居住していた場所から転居すると、就業直前の居住場所に再度居住できない場合が多いためです。
(三)契約解除の日から14日以内
「契約解除の日から14日以内」とは、民法の期間の計算(民法第140条、第141条)を適用し(期間の計算方法については、労基法上特に規定がありませんから、民法の期間計算の方法によります(民法第138条))、初日は算入せず、契約解除日の翌日から起算して14日以内ということです。
【過去問 令和4年問5B(こちら)】
1 まず、民法の期間計算の考え方の基本を見ておきます(詳しくは、後にも見ます(こちら))。
「日、週、月又は年」によって期間を定めたときは、以下の通り、期間を計算します。
(1)起算点(起算日)
◆期間の初日は、原則として、算入しません = 初日不算入の原則(民法第140条本文)。
例外は、期間が午前零時から始まるとき、即ち、初日に端数がないときです。この場合は、初日を算入します(民法第140条ただし書)。
(2)満了点(満了日)
◆期間は、その末日の終了をもって満了するのが原則です(民法第141条)。
そして、週、月又は年によって期間を定めた場合は、その期間は暦に従って計算し(民法第143条第1項)、満了点は、起算日に応答する日の前日となるのが原則です(同条第2項本文)。
例えば、本件の「明示された労働条件が事実と相違する場合の帰郷旅費の負担」のケースにおいて、6月1日に労働契約を解除した場合は、次の通りです。
・起算点
6月1日における労働契約の解除は、通常、1日の途中に行われるものですから、初日に端数がないこととなり、初日不算入の原則通りとなるため、起算点は6月2日(の午前零時)です。
・満了点
本件のように期間が日にちである場合は、起算点から当該日数を数えます。
そこで、6月2日から14日を数えて、満了点は6月15日(の午後24時)となります(丸々14日をあけることが必要です)。
※ 簡単には、「6月2日(初日不算入)+14日 ー 1日」と計算します。
期間の計算は、社労士試験では色々な場面で登場し、重要です。特に徴収法等で必要な知識です。関係個所でまた解説することとし、ひとまず期間計算の問題は終わります。
2 14日以内に帰郷することが必要ですが、14日以内に目的地に向けて出発すれば足り、到着する必要はないと解されています(到着することが必要としては、遠距離に帰郷する者ほど不利になり不合理でしょう)。
なお、使用者が帰郷旅費を支給しないために14日経過後に帰郷(出発)する場合も、使用者に対する帰郷旅費請求権は失わないとされています。
二 効果
(一)私法上の効果
◆使用者は、帰郷のため必要な旅費を負担しなければなりません(第15条第3項)。
※「必要な旅費」とは、帰郷するまでに通常必要とする一切の費用をいいます。
食費、宿泊費や家財道具等の運送費等も含みます。
また、労働者本人の分だけでなく、就業のため移転した家族の旅費も含まれると解されています(【昭和23.9.13発基第17号】等参考)。
【過去問 平成29年問3B(こちら)】
使用者により明示された労働条件が事実と相違するため労働者は帰郷するのであり、使用者に帰責性が認められること、例えば夫が就職した場合にはその妻や子等もともに移転してくるのが通常であることを考えますと、「必要な旅費」としての帰郷に通常必要とする費用の中に家族分の旅費も含まれると解することが妥当といえます。
(二)公法上の効果
三 横断整理
最後に、本件の「明示された労働条件が事実と相違する場合の帰郷旅費の負担」について、類似する事項との横断整理をしておきます(初学者の方は、流し読みして下さい)。
(一)14日
まず、労基法において「14日」が登場する場面は、4つあります。
1 本件の「明示された労働条件が事実と相違する場合の即時解除に伴う帰郷旅費(第15条第3項、こちら)
2 試用期間中の者に係る解雇予告の制度の適用除外(第21条第4号、こちら)
試の使用期間中の者(試用期間中の者)については、原則として、解雇予告の制度は適用されませんが、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には適用されます。
(ゴロ合わせについては、解雇予告の制度の個所でご紹介します。)
満18歳未満の者(=年少者といいます。令和4年4月1日施行の改正により、未成年者と同義になりました)が解雇日から14日以内に帰郷する場合は、使用者は、必要旅費を負担しなければならないのが原則です(例外として、当該年少者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者が当該事由について行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定をうけた場合は、負担は不要です)。
※【ゴロ合わせ】
・「帰郷は嫌かい? いーよ、本人のせいにて」
→「帰郷(=「帰郷」旅費の負担)は・嫌(=「18」歳)・かい(=「解」雇)?
いー・よ(=「14」)、本人の・せい(=「本人」に「帰責」事由あり)・にて(=「認定」)」
使用者は、常時10人以上の労働者を就業させる事業、厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業の附属寄宿舎を設置し、移転し、又は変更しようとする場合においては、厚生労働省令で定める危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手14日前までに、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
【選択式 令和2年度 A=「工事着手14日前まで」(こちら)】
※【ゴロ合わせ】
・「寄宿舎計画、とーちゃん、重視して、せいへんかー?」
→「寄宿舎計画、とー(=常時「10」人以上使用)・ちゃん・重視(=工事「着」手「14」日前まで)し・て(=届「出」)、
せ(=「設」置)・い(=「移」転)・へん(=「変」更)かー?」
(二)各法の労働条件の明示の比較
※ 労働条件の明示は、職業安定法、短時間・有期雇用労働法、労働者派遣法等においても要求されており、以下では、このうち、前2者について、労基法の労働条件の明示と比較しておきます(初学者の方は、現段階では、これらの法においても労働条件の明示が問題となることだけ押さえておいて下さい。詳細は、労働一般の上記各法において学習します)。
まず、後掲のまとめの図で、概観をつかんで下さい。
なお、後掲の図中の中央の「短時間・有期雇用労働法」(略称)は、令和2年4月1日施行の改正により、従来の「パートタイム労働法」(略称)から改められたものです。
また、「労働者派遣法」における「労働条件の明示」(派遣法第31条の2第2項第1号(労働一般のパスワード)。労働一般のこちら以下)は、同じく令和2年4月1日施行の改正により新設されたものです。短時間・有期雇用労働法における労働条件の明示とパラレルになっている部分が多いです。
その他に、「就業条件等の明示」(同法第34条)についても規定されています(労働一般のこちら以下。こちらは、平成27年に改正にされましたが、従来からあるものです)。
労働者派遣法における労働条件・就業条件の明示については、ボリュームがありますので、以下では触れません(のちに派遣法を学習する際に前掲のリンク先でチェックして下さい)。
【平成30年度 令和2年度 令和6年度試験 改正事項】
※ 平成30年1月1日施行の職業安定法施行規則の改正により、前掲の図の右側の「職業安定法」のイのうち、(ⅱ)以外の3つが追加されました((ⅴ)は除きます)。
その他に、職業紹介の際に明示した労働条件を変更等する場合は、労働契約の相手方となろうとする者に対して、変更する労働条件等を明示することが必要となりました。
※ また、令和2年4月1日施行の職業安定法施行規則の改正により、同じ図中の(ⅴ)(受動喫煙防止措置に関する事項)が追加されました。
【令和6年度試験 改正事項】
※ さらに、令和6年4月1日施行の職業安定法施行規則の改正により、前掲(こちら)の同日施行の労働基準法施行規則の改正に対応した見直しも行われています。
基本的には、労基法(施行規則)の労働条件の絶対的明示事項に関する同改正が、職業安定法(施行規則)においてもそのまま反映されていると考えるとよいです。
以下、前掲の図の短時間・有期雇用労働法と職業安定法の部分について、解説します。
Ⅰ 短時間・有期雇用労働法
「短時間・有期雇用労働法」は、正式には、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」といいます。
令和2年4月1日施行の改正(【平成30.7.6法律第71号】。いわゆる「働き方改革関連法」第7条)により、従来のいわゆる「パートタイム労働法」(正式には、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)から改められたものです。
(Ⅰ)短時間・有期雇用労働者
短時間・有期雇用労働法における「短時間労働者」(=1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者のそれに比べ短い労働者をいいます)及び「有期雇用労働者」(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいいます。短時間労働者及び有期雇用労働者を「短時間・有期雇用労働者」といいます)についても、労基法は適用されますから(労働者(第9条)であれば、原則として労基法が適用されます)、労基法第15条第1項の労働条件の明示の規定は適用されます。
ただし、短時間・有期雇用労働法では、書面(文書)による労働条件の明示について、労基法の特則を設けており、以下の(Ⅱ)の〔2〕及び〔3〕の通りとなります。
(Ⅱ)短時間・有期雇用労働法における短時間・有期雇用労働者に対する文書による労働条件の明示の規制
短時間・有期雇用労働法における短時間・有期雇用労働者に対する文書による労働条件の明示の規制は、以下の〔1〕~〔3〕の通りです。
詳しくは、短時間・有期雇用労働法で学習します(労働一般のこちら以下(労働一般のパスワード))。
〔1〕労基法第15条第1項の「労働契約締結の際の労働条件の絶対的明示事項」(これは、労基法がそのまま適用されるケースです)
➡ 昇給に関する事項を除き、書面の交付等による明示が必要です。
➡ 違反しますと、30万円以下の罰金に処せられます(労基法第120条第1号)。
〔2〕特定事項 = 昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無及び相談窓口の4つ
➡「文書の交付等」による明示が必要です(短時間・有期雇用労働者法6条第1項(労働一般のパスワード)、同法施行規則第2条第1項)。
この「文書の交付等」とは、文書の交付の他、短時間・有期雇用労働者が希望した場合のファックス送信、電子メール等の送信の方法をいいます(同法施行規則第2条第3項)。
(労基法の労働条件の明示の方法においても、平成31年4月1日施行の改正により、同様の内容に改められています(先にこちらで触れました)。
なお、短時間・有期雇用労働法においても、令和2年4月1日施行の改正により、「電子メール」を「電子メール等」とする趣旨の見直しが行われています。
結論としては、労基法における労働条件の明示方法と短時間・有期雇用労働法における労働条件の明示の方法は、同様の内容となっています。)
※ なお、「昇給」に関する事項は、労基法では絶対的明示事項ですが、書面の交付等は不要となっています。
また、「退職手当」と「賞与」に関する事項は、労基法では任意的明示事項であり、定めがある場合は明示は必要ですが、書面の交付等は不要となっています。
短時間・有期雇用労働法では、以上の3つについても、文書の交付等による明示を要求しています。
※ また、平成27年4月1日施行の短時間・有期雇用労働法(当時は、「パートタイム労働法」)施行規則の改正により、特定事項に「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」が追加されています。
※ 以上の〔2〕の「特定事項の文書の交付等による明示義務」に違反しますと、10万円以下の過料に処せられます(短時間・有期雇用労働法第31条)。
※【ゴロ合わせ】
・「と(10)・くてい事項」
(参考)
なお、「過料」とは、上記〔1〕の労基法上の「罰金」のような行政「刑罰」(刑法総則や刑事訴訟法が適用されるのが原則です)ではなく、秩序罰といわれるものであり、行政上の義務の不履行に対して、刑法上の刑罰以外の制裁として科されるものです。
行政上の届出違反など、比較的軽微な違反に対して科されることが多いです。
〔3〕上記〔1〕と〔2〕以外の事項
➡ 文書の交付等により明示するように努める努力義務にとどまります(短時間・有期雇用労働法第6条第2項)。
※ 以上の〔1〕~〔3〕について図示しますと、次の通りです。
参考までに、短時間・有期雇用労働法の条文を掲載しておきます(労働一般で学習しますので、細かく読まないで結構です)。
【短時間・有期雇用労働法】
短時間・有期雇用労働法第6条(労働条件に関する文書の交付等) 1.事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項〔=労基法上、労働契約の締結の際に書面の交付等により労働条件の明示が必要な事項〕以外のものであって厚生労働省令〔=施行規則第2条第1項(労働一般のパスワード)〕で定めるもの(次項及び第14条第1項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令〔=施行規則第2条第3項〕で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。
2.事業主は、前項の規定に基づき特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。 |
【短時間・有期雇用労働法施行規則】
短時間・有期雇用労働法施行規則第2条(法第6条第1項の明示事項及び明示の方法) 1.法第6条第1項(労働一般のパスワード)の厚生労働省令で定める短時間・有期雇用労働者に対して明示しなければならない労働条件に関する事項は、次に掲げるものとする。
一 昇給の有無
二 退職手当の有無
三 賞与の有無
四 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
2.事業主は、法第6条第1項の規定により短時間・有期雇用労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
3.法第6条第1項の厚生労働省令で定める方法は、第1項各号に掲げる事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを当該短時間・有期雇用労働者が希望した場合における当該方法とする。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該短時間・有期雇用労働者が当該電子メール等の記録を出力することによる書面を作成することができるものに限る。)
4.前項第1号の方法により行われた法第6条第1項に規定する特定事項(以下この項において「特定事項」という。)の明示は、当該短時間・有期雇用労働者の使用に係るファクシミリ装置により受信した時に、前項第2号の方法により行われた特定事項の明示は、当該短時間・有期雇用労働者の使用に係る通信端末機器により受信した時に、それぞれ当該短時間・有期雇用労働者に到達したものとみなす。 |
続いて、職業安定法上の労働条件の明示についてです。
Ⅱ 職業安定法
【平成29年度 平成30年度 令和元年度 令和2年度 令和6年度試験 改正事項】
職業安定法において、公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者等は、職業紹介等に当たり、求職者等に対し、労働条件を明示しなければならないとされ、また、求人者は、求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者に対し、労働条件を明示しなければならない等とされており(職業安定法第5条の3)、この明示すべき労働条件とは以下の事項とされています(同法施行規則第4条の2第3項)。
なお、これらの事項は、原則として、書面の交付等による明示が必要です(同法施行規則第4条の2第4項)。
※ 平成30年1月1日施行の改正(雇用保険法等の一部を改正する法律(【平成29.3.31法律第14号】)に基づく施行規則の改正(【平成29.6.30厚生労働省令第66号】)により、明示事項等が改められました。
以下の(4)、(9)及び(10)が追加になっています。下線部分です。
【令和元年度試験 改正事項】
※ また、平成31年4月1日施行の改正(【平成30.12.19厚生労働省令第145号】第1条)により、書面の交付等による明示について規定が整備されました(職業安定法施行規則第4条の2第4項第2号及び第5項の改正)。(前者の第4項第2号については、労基法の労働条件の明示方法の労基法施行規則第5条第4項とほぼ同内容の規定となっています。)
【令和2年度試験 改正事項】
※ また、令和2年4月1日施行の改正(【令和元.5.10厚生労働省令第2号】)により、明示事項が追加されました。下記の(11)です(職業安定法施行規則第4条の2第3項9号の新設)。
【令和6年度試験 改正事項】
※ さらに、令和6年4月1日施行の改正(【令和5.6.28厚生労働省令第89号】)により、明示事項が追加されました。
下記の(2)、(3)のかっこ書及び(4)のかっこ書が追加されました。
前掲(こちら)の同日施行の労働基準法施行規則の改正に対応した見直しです。
〇明示事項は、次の通りです(職業安定法施行規則第4条の2第3項)。
(1)労働契約の期間に関する事項
【令和6年度試験 改正事項】
(2)有期労働契約(期間の定めのある労働契約(当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものに限ります))を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含みます)
【令和6年度試験 改正事項】
(3)就業の場所に関する事項(就業の場所の変更の範囲を含みます)
(4)試みの使用期間に関する事項
【令和6年度試験 改正事項】
(5)労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含みます)
(6)所定労働時間を超える労働の有無、始業及び終業の時刻、休憩時間及び休日に関する事項
※ 労基法の絶対的明示事項と異なり、「休暇」と「就業時転換」に関する事項は、含まれていません。
(7)賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(労基法施行規則第8条各号に掲げる賃金〔=臨時の賃金等〕を除く)の額に関する事項
※ 労基法の絶対的明示事項と異なり、「賃金の額」に関する事項の明示で足ります。
(8)健康保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用に関する事項
※ 労基法の明示事項と異なり、社会保険(広義)の適用に関する事項も明示事項となっています(職業安定法施行規則第4条の2第3項第6号)。
※ なお、平成25年施行の労基法の絶対的明示事項の追加である「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」は、職業安定法上の明示事項には入っていません。
(9)労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
(10)労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨(労働者を派遣労働者として雇用しようとする者に限る)
【令和2年度試験 改正事項】
(11)就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項(職業安定法施行規則第4条の2第3項に第9号が新設)
※ 労働条件の変更の場合の明示:
【平成30年度試験 改正事項】
また、職業紹介の際に明示した労働条件を変更等する場合は、労働契約の相手方となろうとする者に対して、変更する労働条件等を明示することが必要となりました(職業安定法第5条の3第3項の新設。平成30年1月1日施行)。
即ち、求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者(供給される労働者を雇用する場合に限ります)は、それぞれ、求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であって、これらの者に対して職業安定法第5条の3第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(「従事すべき業務の内容等」)を変更する場合その他厚生労働省令〔=職業安定法施行規則第4条の2第1項〕で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令〔=同法施行規則第4条の2第2項〕で定める事項を明示しなければなりません(職業安定法第5条の3第3項)。
具体的には、次の(ⅰ)~(ⅳ)の場合に、変更内容の明示が必要です(職業安定法第5条の3第3項、同法施行規則第4条の2第1項)。〔以下の具体例は、厚労省のリーフレットから転載しています。〕
(ⅰ)当初明示された「従事すべき業務の内容等」を変更する場合(職業安定法第5条の3第3項)
例)当初:基本給30万円/月 ⇒ 基本給28万円/月
(ⅱ)当初明示された「従事すべき業務の内容等」の範囲内で従事すべき業務の内容等を特定する場合(施行規則第4条の2第1項第1号)
例)当初:基本給25万円~30万円/月 ⇒ 基本給28万円/月
(ⅲ)当初明示された「従事すべき業務の内容等」を削除する場合(施行規則第4条の2第1項第2号)
例)当初:基本給25万円/月、営業手当3万円/月 ⇒ 基本給25万円/月
(ⅳ)(当初明示されていなかった)「従事すべき業務の内容等」を追加する場合(施行規則第4条の2第1項第3号)
例)当初:基本給25万円/月 ⇒ 基本給25万円/月、営業手当3万円/月
以下、職業安定法等の条文です。さしあたりはスルーで結構です。労働一般で学習します。
【職業安定法】
※ 次の職業安定法第5条の3は、平成30年1月1日施行の改正(雇用保険法等の一部を改正する法律。【平成29.3.31法律第14号】)により、第3項が新設されるといった見直しが行われています。
※ なお、平成28年8月20日施行の職業安定法の改正により、第1項等に、「特定地方公共団体」が追加されています。
職業安定法第5条の3(労働条件等の明示) 1.公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
2.求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者又は供給される労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
3.求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者(供給される労働者を雇用する場合に限る。)は、それぞれ、求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であつて、これらの者に対して第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(以下この項において「従事すべき業務の内容等」という。)を変更する場合その他厚生労働省令〔=職業安定法施行規則第4条の2第1項〕で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令〔=同法施行規則第4条の2第2項〕で定める事項を明示しなければならない。
4.前3項の規定による明示は、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令〔=同法施行規則第4条の2第3項〕で定める事項については、厚生労働省令〔=同法施行規則第4条の2第4項〕で定める方法により行わなければならない。 |
【職業安定法施行規則】
※ 下記の職業安定法施行規則第4条の2も、平成30年1月1日施行の改正(【平成29.6.30厚生労働省令第66号】)により大きく改められています。
※ また、本条は、平成31年4月1日施行の改正(【平成30.12.19厚生労働省令第145号】第1条)により改められています。
〔即ち、同条第4項第2号について、後掲の通り改められ、第5項中、従来、「前項第2号」とあったのが、「前項第2号イ」に改められ、従来、「明示は、」とあった下に、「当該」が追加され、従来、「電子計算機に備えられたファイルに記録されたときに」とあったのが、「ファクシミリ装置により受信した時に、同号ロの方法により行われた明示事項の明示は、当該書面被交付者の使用に係る通信端末機器に備えられたファイルに記録された時に、それぞれ」と改められました。〕
※ また、本条は、令和2年4月1日施行の改正(【令和元.5.10厚生労働省令第2号】)により、第3項に第9号が追加されました。
※ さらに、本条は、令和6年4月1日施行の改正(【令和5.6.28厚生労働省令第89号】)により改められています。
〔即ち、同条第3項柱書中、従来、「ただし、」とあった次に、「第2号の3に掲げる事項にあつては期間の定めのある労働契約(当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものに限る。以下この項において「有期労働契約」という。)に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給の場合に限り、」が追加され、従来、「あつては、」とあったのが、「あつては、」に、従来、「者に限る」とあったのが、「場合に限る」に改められ、同項第1号中、従来、「事項」とあった次に、「(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む。)」が追加され、同項第2号の2の次に、後掲の1号(第2号の3)が追加され、同項第3号中、従来、「事項」とあった次に、「(就業の場所の変更の範囲を含む。)」が追加されました。〕
職業安定法施行規則第4条の2(法第5条の3に関する事項)
1.法第5条の3第3項〔=明示した労働条件を変更等する場合〕の厚生労働省令で定める場合は、次のとおりとする。
一 求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者(以下この項において「紹介求職者等」という。)に対して法第5条の3第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(以下「従事すべき業務の内容等」という。)の範囲内で従事すべき業務の内容等を特定する場合
二 紹介求職者等に対して法第5条の3第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容等を削除する場合
三 従事すべき業務の内容等を追加する場合
2.法第5条の3第3項〔=労働条件の変更等の場合に明示すべき事項〕の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 前項第1号の場合において特定する従事すべき業務の内容等
二 前項第2号の場合において削除する従事すべき業務の内容等
三 前項第3号の場合において追加する従事すべき業務の内容等
3.法第5条の3第4項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。ただし、第2号の3に掲げる事項にあつては期間の定めのある労働契約(当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものに限る。以下この項において「有期労働契約」という。)に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給の場合に限り、第8号に掲げる事項にあつては労働者を派遣労働者(労働者派遣法第2条第2号2条第2号(労働一般のパスワード)に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)として雇用しようとする場合に限るものとする。
一 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む。)
二 労働契約の期間に関する事項
二の二 試みの使用期間に関する事項
二の三 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間((労働契約法(平成19年法律第128号)第18条第1項に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)
三 就業の場所に関する事項(就業の場所の変更の範囲を含む。)
四 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
五 賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第8条各号〔=労働基準法施行規則第8条各号〕に掲げる賃金を除く。)の額に関する事項
六 健康保険法(大正11年法律第70号)による健康保険、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)による厚生年金、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による労働者災害補償保険及び雇用保険法(昭和49年法律第116号)による雇用保険の適用に関する事項
七 労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
八 労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨
九 就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項
4.法第5条の3第4項の厚生労働省令で定める方法は、前項各号に掲げる事項(以下この項及び次項において「明示事項」という。)が明らかとなる次のいずれかの方法とする。ただし、職業紹介の実施について緊急の必要があるためあらかじめこれらの方法によることができない場合において、明示事項をあらかじめこれらの方法以外の方法により明示したときは、この限りでない。
一 書面の交付の方法
二 次のいずれかの方法によることを書面被交付者(明示事項を前号の方法により明示する場合において、書面の交付を受けるべき者をいう。以下この号及び次項において同じ。)が希望した場合における当該方法
イ ファクシミリを利用してする送信の方法
ロ 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下このロ及び第17条の7第2項第2号ロにおいて「電子メール等」という。)の送信の方法(当該書面被交付者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
5.前項第2号イの方法〔=ファックス〕により行われた明示事項の明示は、当該書面被交付者の使用に係るファクシミリ装置により受信した時に、同号ロの方法〔=電子メール等〕により行われた明示事項の明示は、当該書面被交付者の使用に係る通信端末機器に備えられたファイルに記録された時に、それぞれ当該書面被交付者に到達したものとみなす。
6.法第5条の3第1項から第3項までの規定による明示は、試みの使用期間中の従事すべき業務の内容等と当該期間が終了した後の従事すべき業務の内容等とが異なる場合には、それぞれの従事すべき業務の内容等を示すことにより行わなければならない。
7.求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者は、求職者、募集に応じて労働者となろうとする者又は供給される労働者に対して法第5条の3第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容等に関する記録を、当該明示に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給が終了する日(当該明示に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給が終了する日以降に当該明示に係る労働契約を締結しようとする者にあつては、当該明示に係る労働契約を締結する日)までの間保存しなければならない。
8.求人者は、公共職業安定所から求職者の紹介を受けたときは、当該公共職業安定所に、その者を採用したかどうかを及び採用しないときはその理由を、速やかに、通知するものとする。 |
以上で、本文を終わります。次に、労働条件の明示に関する過去問を見ます。
○過去問:
【以下の過去問についてのご注意】
※ 平成31年4月1日施行の施行規則の改正により、従来、書面の交付により労働条件を明示することが必要であった場合について、当該労働者が当該明示事項が明らかとなるファクシミリを利用してする送信の方法又は電子メール等の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限ります)のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法により明示することができることに改められました(施行規則第5条第4項)。
これらの明示の方法を、当サイトでは、「書面の交付等」といいます。
以下の本ページにおける過去問について、出題当時、設問中に「書面の交付」とあった個所は、「書面の交付等」に補正しています。
なお、今後、この労働条件の明示の方法(書面の交付等の内容)自体が問われる可能性がありますので、こちらをチェックしておいて下さい。
・【平成9年問3A】
設問:
使用者は、労働契約の締結に際し、賃金に関する事項については書面の交付等により明示しなければならないこととされており、これは2箇月以内の期間を定めて使用される者についても同様である。
解答:
正しいです。
第15条第1項の「労働契約の締結の際の労働条件の明示義務」は、「2箇月以内の期間を定めて使用される者」についても適用されます。除外する旨の規定はないからです(こちらを参考)。
なお、本問の前段については、出題当時は、「書面により明示しなければならない」とありましたが、前記の通り、平成31年4月1日施行の施行規則の改正により改められています。
即ち、労働条件の明示方法は、「書面」に限定されているのではなく、労働者が希望した場合は、ファクシミリを利用してする送信の方法、又は電子メールその他の電子的方法による送信の方法により明示することが可能です(施行規則第5条第4項)。
・【平成11年問7E】
設問:
日々雇入れられる者については、労働者名簿の調製は必要なく、また、労働契約締結時に書面で労働条件を明示する必要もない。
解答:
誤りです。
日々雇入れられる者についても、労働契約締結時に原則として書面の交付等により労働条件を明示する必要があります(第15条第1項)。
なお、本問の前段の労働者名簿の調製においては、日々雇入れられる者については不要とされています(第107条第1項かっこ書)。のちにこちら以下で学習します。
・【平成15年問2E(一部補正)】
設問:
労働契約の締結に際し労働者に対して書面の交付等により明示しなければならないこととされている労働条件の多くは就業規則のいわゆる絶対的必要記載事項とも一致しているが、労働契約の締結に際し労働者に対し書面の交付等により明示しなければならないこととされている「就業の場所に関する事項」は、就業規則の絶対的必要記載事項とはされていない。
解答:
正しいです(施行規則第5条第1項第1号の3、法第89条)。
労働契約の締結の際に書面の交付等により明示しなければならない事項のうち、「労働契約の期間に関する事項」、「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含みます)」、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含みます)」及び「所定労働時間を超える労働の有無」に関する事項については、就業規則の絶対的必要記載事項ではありません(本文は、こちら以下です)。
なお、令和6年4月1日施行の労基法施行規則の改正により追加された「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結(更新)の場合」の明示事項(こちらの図の下部の※1。こちらの②)、についても、就業規則の絶対的必要記載事項ではありません。
・【平成21年問2B(一部補正)】
設問:
労働契約の期間に関する事項、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)は、使用者が、労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付等によって明示しなければならない事項に含まれている。
解答:
正しいです(施行規則第5条第1項第1号(労働契約の期間に関する事項)、第1項第1号の3(就業の場所及び従事すべき業務に関する事項)。施行規則第5条第3項、第4項)。
「絶対的明示事項」のうち「書面の交付等による明示」が「不要」な事項は、「昇給に関する事項」のみです。
・【平成24年問7E】
設問:
労働基準法第15条により、使用者が労働契約の締結の際し書面で行うこととされている労働条件の明示については、当該労働条件を記載した就業規則を交付することではその義務を果たすことはできない。
解答:
誤りです。
労働条件の明示に当たり、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えありません(【平成11.1.29基発45号】)
本文は、こちらです。
なお、就業規則に記載がない部分については、別途、明示が必要となります。
・【令和3年問2B】
設問:
労働契約の締結の際に、使用者が労働者に書面により明示すべき「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」について、労働者にとって予期せぬ不利益を避けるため、将来就業する可能性のある場所や、将来従事させる可能性のある業務を併せ、網羅的に明示しなければならない。
解答:
正しいです。
本問は、出題当時は、誤りでした。
出題当時は、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」が絶対的明示事項となっており、そこでは、雇入れ直後の「就業の場所及び従事すべき業務」を明示すれば足り、将来の就業場所等を併せ網羅的に明示することは差支えないとされていました(【平成11.1.29基発第45号】)。
従って、従来は、「将来就業する可能性のある場所や、将来従事させる可能性のある業務を併せ、網羅的に明示しなければならない」のではありませんでした。
しかし、令和6年4月1日施行の施行規則の改正により、「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」の次に「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む」というかっこ書が追加されました(施行規則第5条第1項第1号の3)。
これによって、将来の配置転換等によって変更される就業場所・業務の範囲についても、労働契約締結時に明示しなければならないこととなり、 本問の「将来就業する可能性のある場所や、将来従事させる可能性のある業務」についても明示が必要となりました。
・【令和元年問4A】
設問:
労働契約の期間に関する事項は、書面等により明示しなければならないが、期間の定めをしない場合においては期間の明示のしようがないので、この場合においては何ら明示しなくてもよい。
解答:
誤りです。
期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間の定めのない労働契約の場合はその旨を、明示しなければなりません(【平成11.1.29基発第45号】)。
本文は、こちらの(1)です。
・【平成25年問6C(一部補正)】
設問:
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の際に、労働者に対して、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)を、書面の交付等により明示しなければならない。
解答:
正しいです。
本問の「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」については、平成25年4月1日施行の施行規則の改正(平成24年改正)により新設されたものです(施行規則第5条第1項第1号の2)。
その後、令和6年4月1日施行の改正(令和5年改正)により、「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む」というかっこ書が追加されました(こちらの②)。
・【平成15年問2A(一部補正)】
設問:
労働基準法第15条においては、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については書面の交付等により明示しなければならないこととされているが、労働時間については、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等のほか、残業(所定労働時間を超える労働)の有無についても、書面の交付等により明示しなければならないこととされている。
解答:
正しいです(施行規則第5条第1項第2号)。
・【平成18年問3C(一部補正)】
設問:
使用者は、労働基準法第15条(労働条件の明示)の規定に基づき、労働契約の締結に際し、労働者に対して、「所定労働時間を超える労働の有無」及び「所定労働日以外の日の労働の有無」について、書面の交付等により明示しなければならないこととされている。
解答:
誤りです。
「所定労働日以外の日の労働の有無」(休日労働の有無)については、第15条に基づく労働条件の明示事項に含まれていません。
従って、休日労働の有無は、書面の交付等による明示も必要ありません。
本文は、こちらです。
・【平成15年問2C(一部補正)】
設問:
労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付等により明示しなければならないこととされている賃金(退職手当及び一定の賃金を除く。)の決定及び計算に関する事項に係る書面の内容としては、当該事業場の就業規則を労働者に周知させる措置が講じられていれば、就業規則の規定と併せ当該事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、当該労働者の採用時に交付される辞令であって当該就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないとされている。
解答:
正しいです(【平成11.3.31基発第168号】)。本文は、こちらです。
・【令和2年問5イ】
設問:
労働契約の締結の際に、使用者が労働者に書面により明示すべき賃金に関する事項及び書面について、交付すべき書面の内容としては、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等(労働者への周知措置を講じたもの)に規定されている賃金等級が表示されたものでもよい。
解答:
正しいです(【平成11.3.31基発第168号】。
本問の辞令等であれば、賃金に関する事項を把握することができるからです。
前問の【平成15年問2C(こちら)】と類問です。
・【平成24年問2D】
設問:
使用者は、「表彰に関する事項」については、それに関する定めをする場合であっても、労働契約の締結に際し、労働者に対して、労働基準法第15条の規定に基づく明示をする必要はない。
解答:
誤りです。
本問の「表彰に関する事項」は、相対的明示事項であるため、定めをする場合には、明示が必要です(施行規則第5条第1項第10号)。
・【平成14年問2B】
設問:
休職に関する事項は、使用者がこれに関する定めをする場合には、労働基準法第15条第1項及び同法施行規則第5条第1項の規定により、労働契約の締結に際し労働者に対して明示しなければならない労働条件とされており、また、それが当該事業場の労働者のすべてに適用される定めであれば、同法第89条に規定する就業規則の必要記載事項でもある。
解答:
正しいです(施行規則第5条第1項第11号。第89条第10号)。
こちらの図の下部の(h)「求職に関する事項」について、「労働契約の締結の際の相対的明示事項」である「休職に関する事項」と、「就業規則の相対的必要記載事項」である「その他当該事業場の労働者の全てに適用される定めに関する事項」を比較して下さい。
就業規則の記載事項については、詳しくは就業規則の個所(こちら)で学習します。
・【平成14年問2C(一部補正)】
設問:
労働基準法第15条では、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、そのうち一定の事項については書面の交付等により明示しなければならないとされているが、健康保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用に関する事項もこの書面により明示しなければならない事項に含まれている。
解答:
誤りです。
「健康保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用に関する事項」は、労働契約締結の際に書面の交付等により明示しなければならない労働条件に係る事項ではありません。
これらの事項は、職業安定法における労働者の募集、職業紹介に係る労働条件の文書等の交付による明示事項です(職業安定法施行規則第4条の2第3項第6号。こちら)。
・【平成16年問1E】
設問:
労働基準法第15条に基づいて明示すべき労働条件の範囲は、同法第1条「労働条件の原則」及び第2条「労働条件の決定」でいう労働条件の範囲とは異なる。
解答:
正しいです。
第1条及び第2条の労働条件は、労働者の職場における一切の待遇をいいますが、第15条の労働条件は、施行規則第5条第1項に規定されている労働条件であり、後者の方が狭いことになります(本文は、こちらです)。
・【平成24年問2E】
設問:
派遣元の使用者は、労働者派遣法第44条第2項における労働基準法の適用に関する特例により、労働時間に係る労働基準法第32条、第32条の2第1項等の規定については、派遣先の事業のみを派遣中の労働者を使用する事業とみなすとされているところから、これらの特例の対象となる事項については、労働基準法第15条による労働条件の明示をする必要はない。
解答:
誤りです。
派遣労働者に対する労働条件の明示は、派遣元の使用者が、(労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により自己が労基法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含めて)すべての明示義務を負います。
なぜなら、労働条件の明示は労働契約を締結する際の使用者の義務であるところ、派遣労働者と労働契約を締結する使用者は派遣先ではなく派遣元の使用者だからです。
本文は、こちらです。
なお、本問の「労働者派遣法第44条第2項」(労働一般のパスワード)とは、派遣先のみが使用者とみなされる特例に関する規定であり、「労働基準法第32条」とは、法定労働時間を定めた規定、「第32条の2第1項」とは、1箇月単位の変形労働時間制を定めた規定のことです。
・【平成29年問3E】
設問:
派遣労働者に対する労働条件の明示は、労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により派遣先の事業のみを派遣中の労働者を使用する事業とみなして適用することとされている労働時間、休憩、休日等については、派遣先の使用者がその義務を負う。
解答:
誤りです。
派遣労働者に対する労働条件の明示は、派遣元の使用者が、(労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により自己が労基法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日等を含めて)すべての明示義務を負います。
なぜなら、労働条件の明示は労働契約を締結する際の使用者の義務であるところ、派遣労働者と労働契約を締結する使用者は派遣先ではなく派遣元の使用者だからです。
本文は、こちら以下です。
前掲の【平成24年問2E(こちら)】と類問です。
・【平成23年問2B】
設問:
労働基準法第15条第1項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
解答:
正しいです(第15条第2項)。
・【平成27年問3C】
設問:
労働基準法第15条は、使用者が労働契約の締結に際し労働者に明示した労働条件が実際の労働条件と相違することを、同法第120条に定める罰則付きで禁止している。
解答:
誤りです。
労基法第15条に違反して労働条件を明示しなかった場合には、罰則が適用されますが(第120条第1号)、明示した労働条件が実際の労働条件と異なる場合には、罰則は適用されないことに注意です。
この場合は、労働契約の即時解除及び帰郷旅費の問題(第15条第2項及び第3項)の問題となります。
本問は過去に出題が無かった問題といえます。間違えやすい問題でした。
・【平成12年問2D】
設問:
労働者Xの雇入れに当たり、Xは、事業主が使用している労働者Y等との折り合いの関係から、Y等の賃金引上げを要望し、事業主もその引上げを約したが、実際にはその引上げを行わなかった。この場合、Xは、この約束が守られなかったことを理由としては、労働基準法第15条第2項を根拠として自分自身の労働契約の即時解除をすることはできない。
解答:
正しいです(【昭和23.1.27基収第3514号】参考)。
第15条第2項の「明示された労働条件」とは、当該労働者自身に関する労働条件に限られると解されています。本文は、こちらです。
・【平成28年問2B】
設問:
労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と相違しているため、労働者が労働契約を解除した場合、当該解除により労働契約の効力は遡及的に消滅し、契約が締結されなかったのと同一の法律効果が生じる。
解答:
誤りです。
本問は、明示された労働条件が事実と相違する場合に行われた労働契約の即時解除の効果に関する問題です。誤りの内容です。
当サイトでは、「(参考)」と表記していますが、こちらで掲載していました。
本問は、通常、テキストには記載がない論点かもしれません。
ただ、本問の通りに、即時解除された労働契約の効力が初めから消滅したとするとどのような問題が生じるのかを想像して頂くと、正解できた問題といえます。
・【平成29年問3B】
設問:
明示された労働条件と異なるために労働契約を解除し帰郷する労働者について、労働基準法第15条第3項に基づいて使用者が負担しなければならない旅費は労働者本人の分であって、家族の分は含まれない。
解答:
誤りです。
使用者が負担しなければならない旅費に「家族の分」も含まれます。
本問は、明示された労働条件が事実と相違する場合の帰郷旅費の問題です(第15条第3項)。
労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と相違するため、労働者が労働契約を即時解除する場合において、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければなりません。
この「必要な旅費」とは、帰郷するまでに通常必要とする一切の費用をいい、労働者本人の分だけでなく、就業のため移転した家族の旅費も含まれると解されています(【昭和23.9.13発基第17号】等参考)。本文は、こちら以下です。
・【令和4年問5B】
設問:
労働基準法第15条第3項にいう「契約解除の日から14日以内」であるとは、解除当日から数えて14日をいい、例えば、9月1日に労働契約を解除した場合は、9月1日から9月14日までをいう。
解答:
誤りです。
期間の計算方法については、労基法上特に規定がありませんから、民法の期間計算の方法によります(民法第138条)。
そこで、初日に端数がない場合を除き、初日は算入しません(初日不算入の原則。民法第140条)。
よって、第15条第3項(帰郷旅費の負担)の「契約解除の日から14日以内」とは、契約解除日の翌日から起算して14日以内ということです。「解除当日から数えて14日」以内をいうのではありません。
9月1日に労働契約を解除した場合は、9月2日から9月15日までとなります。
本文は、こちら以下です。
・【令和5年問5B】
設問:
社宅が単なる福利厚生施設とみなされる場合においては、社宅を供与すべき旨の条件は労働基準法第15条第1項の「労働条件」に含まれないから、労働契約の締結に当たり同旨の条件を付していたにもかかわらず、社宅を供与しなかったときでも、同条第2項による労働契約の解除権を行使することはできない。
解答:
正しいです(【昭和23.11.27基収第3514号】)。
労働契約の締結の際に明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができます(第15条第2項)。
この点、社宅が単なる福利厚生施設とみなされる場合においては、社宅を供与すべき旨の条件は第15条第1項の「労働条件」に含まれていませんから(施行規則第5条第1項)、同条第2項に基づき労働契約を解除することはできません。
ただし、社宅の供与を受ける利益が「賃金」にあたる場合(=社宅の供与を受けない者に対して均衡手当が支給される場合は、賃金にあたると解されています)には、第15条第1項に基づく施行規則第5条第1項第3号の「賃金」に該当するため、当該社宅の供与を受ける利益も明示事項に含まれますから、第15条第2項に基づく解除をすることができます。
本文は、こちら以下です。
これにて、労働契約の発生に関する問題を終わります。次は、労働契約の変更に関する問題です。