【最決平成27.5.19】(付加金の請求価額は附帯請求に係る訴額に含まれないとする判例)
民事訴訟の附帯請求に係る訴額について、付加金の請求の訴額を算入しないという最高裁決定を紹介します。
訴額等については、民事訴訟法(以下、「民訴法」ということがあります)等の問題ですのでスルーして結構ですが、判示の中で付加金の制度趣旨等に触れられており、このキーワードをチェックしておく必要があります(結論としては、こちら以下の判示のチェックが必要です。赤字部分にとりわけ注意です)。
なお、付加金については、労基法のこちら(労基法のパスワード)で掲載しています。
1 事案
原告が雇用契約上の地位の確認等を求める訴訟を提起後に、休業手当の請求及びこれに係る付加金の請求を追加する請求の変更をした際に、請求の変更に係る手数料の額の算出の基礎となる訴額について、付加金の請求の価額も算入するのかどうかが争われたものです。
2 前提知識
本件の最高裁決定を理解するための前提として、本件に関する民事訴訟法等の知識に少々触れておく必要があります(流し読みで結構です。以下、しばらくは、試験対策上、覚える必要がない部分であり、理解できなくても問題ありません)。
(1)手数料の額は訴額により算定される
本件で問題となりました「請求の変更」(「訴えの変更」ともいいます。民訴法第143条第1項)とは、訴訟継続後に原告が当初の請求(訴訟物であり、審判対象となります)を変更することです。
今回の事案では、原告は、当初の請求(雇用契約上の地位の確認等を求める請求)を維持しつつ、新たに休業手当の請求とこれに係る付加金の請求を追加しています(訴えの追加的変更になります)。
この「訴えの変更」を行う場合は、訴えを提起する場合等と同様に、手数料を納付する必要があります(「民事訴訟費用等に関する法律」(以下、「民訴費用法」といいます)第3条第1項)。
そして、この手数料の額の算出の基礎とされている「訴訟の目的の価額」は、民事訴訟法第8条第1項及び第9条の規定により算定されます(民訴費用法第4条第1項)。
なお、「訴訟の目的の価額」を「訴額」といいます。
訴額は、裁判所の管轄の決定(第1審の場合、訴額が140万円を超えない請求については簡易裁判所が管轄権を有するのが原則です)や訴えの提起等の手数料の額の算出の基準となります。
ちなみに、「訴訟の目的」ないし「請求」を「訴訟物」ということがあります。訴訟物は、原告の主張であり、審判対象となるものです。
(2)訴額の算定
(ⅰ)訴額の算定の原則
上記の民訴法第8条第1項では、訴額の算定について、次の通り定めています。
即ち、手数料の額の算出の基礎とされている「訴訟の目的の価額」(訴額)は、訴えで主張する利益によって算定されます。
(つまり、原告の請求がそのまま認容された場合(原告の全面勝訴の場合)に原告が直接受ける経済的利益を、客観的かつ金銭的に評価して算定した額を訴額とします。〔民事訴訟法講義案(再訂補訂版)の27頁参考〕
例えば、金銭の支払を求める請求の場合には、原則として、請求する金額が訴額となります。)
訴えの変更においても、このように算定された訴えの変更に係る訴額をもとに手数料の額を算出します。
ただし、本件では、訴えの変更において、複数の請求が追加されており、このように一つの訴えで数個の請求をする場合の訴額の算定については、次の民訴法第9条が問題となります(民訴費用法第4条第1項)。
(ⅱ)併合請求の場合の訴額の算定
一つの訴えで数個の請求をする場合(訴えの併合ないし併合請求といいます)には、原則として、その請求の価額を合算したものを訴訟の目的の価額とします(民訴法第9条第1項本文)。
つまり、一つの訴えにおいて複数の訴訟物が主張される場合は、当該複数の訴訟物の価額を合算した額が訴額となります。
ただし、この訴えの併合における訴額の算定については例外があり、その一つが、「果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるとき」は、「その価額は、訴訟の目的の価額に算入されない」というものです(民訴法第9条第2項)。
「訴訟の附帯の目的であるとき」とは、いわゆる「附帯請求(附帯の目的の請求)」の場合であり、主たる請求に附帯して他の請求を行うことです(例えば、不動産の明け渡しを求める場合に、明け渡しまでの賃料相当額分の請求も併せて行うようなケースです。この両請求は訴訟物は別個ですが、同一手続上における主たる請求(主たる訴訟物)と付随的な請求(付随的な訴訟物)という関係に立ちます)。
つまり、この民訴法第9条第2項により、「果実(利子などのことです)、損害賠償、違約金等」を附帯の目的として請求する場合は、これらの附帯請求に係る価額は、訴額に算入されないことになります(例えば、上記の不動産の明け渡し訴訟のケースでは、不動産価額が訴額となり、明け渡しまでの賃料相当額は訴額に含まれません)。
そこで、本件のように、訴えの変更において、休業手当の請求とこれに係る付加金の請求が追加された場合に、この付加金の請求が(休業手当の請求に対する)附帯請求にあたるとして当該付加金の請求の価額を訴額から除外できるのかが問題となります(除外できれば、原告である労働者としては、休業手当等の請求に併せて付加金も請求する場合の手数料の額が安くなり、経済的負担が軽減されるメリットがあります)。
この点、「付加金の請求」は、文言上は、民訴法第9条第2項の「果実、損害賠償、違約金又は費用の請求」には該当しないかにも見えます。
他方で、付加金は、休業手当等の所定の金銭を使用者が支払わない場合に請求できるものであり、休業手当等の請求とともに付加金の請求が行われる場合は、当該付加金の請求は、休業手当等の請求に対していわば付随的な請求という関係に立つように見え、附帯請求に該当するのではないかが問題となるのです。
以上が今回の事案における論点です(ただし、以上は、試験対策上はほぼ関係ありません。今回の最高裁決定を理解するための背景知識です)。
次に、今回の最高裁決定の要旨と若干の解説です。
3 最高裁決定の要旨
(1)附帯請求に係る果実等の価額を訴額に算入しない趣旨
まず、今回の最高裁の決定では、附帯請求に係る果実、損害賠償等の価額を訴額に算入しない民訴法第9条第2項の趣旨について、次のように明らかにしました。
(ここは、民訴法等の問題であるため、試験対策上は、スルーで大丈夫だと思います。ただ、試験対策上重要な下記の(2)に関係するため触れておきます。)
「訴訟の目的の価額は管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とされているところ、民訴法9条2項は、果実、損害賠償、違約金又は費用(以下、併せて『果実等』という。)の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額を訴訟の目的の価額に算入しない旨を定めている。同項の規定が、金銭債権の元本に対する遅延損害金などのように訴えの提起の際に訴訟の目的の価額を算定することが困難な場合のみならず、それ以外の場合を含めて果実等の請求をその適用の対象として掲げ、これらの請求が訴訟の附帯の目的であるときはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとしているのは、このような訴訟の附帯の目的である果実等の請求については、その当否の審理判断がその請求権の発生の基礎となる主たる請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることなどに鑑み、その価額を別個に訴訟の目的の価額に算入することなく、主たる請求の価額のみを管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とすれば足りるとし、これらの基準を簡明なものとする趣旨によるものと解される。」
つまり、この最高裁の決定では、果実、損害賠償、違約金等の附帯の目的の請求において、これらの附帯請求に係る価額が訴額に算入されない旨を定める民訴法第9条第2項の趣旨として、附帯請求が主たる請求と同一手続上で審理される付随的な審判対象であることから、管轄の決定や訴額(手数料の額)の算定について主たる請求の価額のみを基準とすることにより、基準の簡明化を図ろうとするものと考えていることになります。
(2)付加金の請求について
やっとたどり着きましたが、以下が試験対策上のポイントです。赤字部分に注意です。
なお、すでに学習しましたように、付加金は、使用者が、解雇予告手当、休業手当、割増賃金又は年休中の賃金を支払わなかった場合に労働者が請求できるものですが、この「解雇予告手当、休業手当、割増賃金又は年休中の賃金」について、以下では、本事案に即して「休業手当等」といいます(以下の最高裁決定でもそのような意味で使用しています)。
最高裁決定は、付加金の制度について、その趣旨は、「労働者の保護の観点から、上記の休業手当等の支払義務を履行しない使用者に対し一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし、その支払義務の履行を促すことにより上記各規定〔=休業手当等に係る付加金の支払義務を定める規定〕の実効性を高めようとするものと解されるところ、このことに加え、上記のとおり使用者から労働者に対し付加金を直接支払うよう命ずべきものとされていることからすれば、同法114条の付加金については、使用者による上記の休業手当等の支払義務の不履行によって労働者に生ずる損害の塡補という趣旨も併せ有するものということができる。」とします。
そして、付加金の制度の規定の内容からは、休業手当等の「未払金の請求に係る訴訟において同請求〔=休業手当等の請求〕とともにされる付加金の請求につき、その付加金の支払を命ずることの当否の審理判断は同条所定の未払金の存否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われるものであるといえるから、上記のような付加金の制度の趣旨も踏まえると、上記の付加金の請求についてはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとすることが前記の民訴法9条2項の趣旨に合致するものということができる。」として、
付加金の請求が、「同条〔=付加金制度の労基法第114条〕所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして、その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものと解するのが相当である。」としました。
つまり、付加金の請求が休業手当等の未払金の請求とともに行われる場合は、当該付加金の請求は、休業手当等の請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることから、これは、前述3の(1)の附帯請求に係る訴額の例外的算定の場合の事情と共通すること(実質上の根拠)、
及び付加金制度の趣旨が労働者の「損害の填補」にもあるため、付加金の請求は「損害賠償又は違約金」の請求と見ることができること(条文上の根拠)という2点から、本件付加金の請求について民訴法第9条第2項を適用する基礎があるとみたものと解されます。
最後に、最高裁決定を掲載しておきます。が、上記の(2)部分の判示を押さえておけば大丈夫だと思います。
4 最高裁決定
〔引用開始(スペース等のデザイン面について、一部、サイト用に変更しています)。〕
1 本件は、使用者を相手に雇用契約上の地位の確認等を求める訴訟(以下「本案訴訟」という。)を提起した抗告人が、本案訴訟において労働基準法26条の休業手当の請求及びこれに係る同法114条の付加金の請求(以下「本件付加金請求」という。)を追加する訴えの変更をした際に、本件付加金請求に係る請求の変更の手数料(民事訴訟費用等に関する法律3条1項、別表第1の5項、4条1項)として4万8000円を納付した後、付加金の請求の価額は民訴法9条2項により訴訟の目的の価額に算入しないものとすべきであり、上記手数料は過大に納められたものであるとして、民事訴訟費用等に関する法律9条1項に基づき、その還付の申立てをした事案である。
2 原審は、労働基準法114条の付加金は民訴法9条2項にいう損害賠償又は違約金に当たるとは解されず、同項にいう果実又は費用にも当たらないことは明らかであるから、付加金の請求について同項の適用はなく、本件付加金請求の価額は訴訟の目的の価額に算入するのが相当であるとして、上記還付の申立てを却下すべきものとした。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
訴訟の目的の価額は管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とされているところ、民訴法9条2項は、果実、損害賠償、違約金又は費用(以下、併せて「果実等」という。)の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額を訴訟の目的の価額に算入しない旨を定めている。同項の規定が、金銭債権の元本に対する遅延損害金などのように訴えの提起の際に訴訟の目的の価額を算定することが困難な場合のみならず、それ以外の場合を含めて果実等の請求をその適用の対象として掲げ、これらの請求が訴訟の附帯の目的であるときはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとしているのは、このような訴訟の附帯の目的である果実等の請求については、その当否の審理判断がその請求権の発生の基礎となる主たる請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることなどに鑑み、その価額を別個に訴訟の目的の価額に算入することなく、主たる請求の価額のみを管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とすれば足りるとし、これらの基準を簡明なものとする趣旨によるものと解される。
しかるところ、労働基準法114条は、労働者に対する休業手当等の支払を義務付ける同法26条など同法114条に掲げる同法の各規定に違反してその義務を履行しない使用者に対し、裁判所が、労働者の請求により、上記各規定により使用者が支払わなければならない休業手当等の金額についての未払金に加え、これと同一額の付加金の労働者への支払を命ずることができる旨を定めている。その趣旨は、労働者の保護の観点から、上記の休業手当等の支払義務を履行しない使用者に対し一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし、その支払義務の履行を促すことにより上記各規定の実効性を高めようとするものと解されるところ、このことに加え、上記のとおり使用者から労働者に対し付加金を直接支払うよう命ずべきものとされていることからすれば、同法114条の付加金については、使用者による上記の休業手当等の支払義務の不履行によって労働者に生ずる損害の塡補という趣旨も併せ有するものということができる。そして、上記の付加金に係る同条の規定の内容によれば、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされる付加金の請求につき、その付加金の支払を命ずることの当否の審理判断は同条所定の未払金の存否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われるものであるといえるから、上記のような付加金の制度の趣旨も踏まえると、上記の付加金の請求についてはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとすることが前記の民訴法9条2項の趣旨に合致するものということができる。
以上に鑑みると、労働基準法114条の付加金の請求については、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして、その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものと解するのが相当である。
4 これを本件についてみるに、抗告人は、本案訴訟の第1審において、労働基準法26条の休業手当の請求とともにこれに係る同法114条の付加金の請求をしたのであるから、本件付加金請求の価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものというべきである。したがって、本件付加金請求に係る請求の変更の手数料として納付された4万8000円は過大に納められたものであるといえるから、これを抗告人に還付すべきこととなる。
〔以下、略。〕
参考までに、関連する条文を掲載しておきます。
【民事訴訟法】
民訴法第8条(訴訟の目的の価額の算定) 1.裁判所法(昭和22年法律第59号)の規定により管轄が訴訟の目的の価額により定まるときは、その価額は、訴えで主張する利益によって算定する。
2.前項の価額を算定することができないとき、又は極めて困難であるときは、その価額は140万円を超えるものとみなす。 |
民訴法第9条(併合請求の場合の価額の算定) 1.一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。
2.果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない。 |
【民事訴訟費用等に関する法律】
民事訴訟費用等に関する法律第3条(申立ての手数料) 1.別表第1の上欄〔=手数料の額に係る訴えの提起、訴えの変更等の申立ての区分が規定されています〕に掲げる申立てをするには、申立ての区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる額の手数料を納めなければならない。
〔第2項以下は、省略。〕
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民事訴訟費用等に関する法律第4条(訴訟の目的の価額等) 1.別表第1〔=訴えの提起のほか、訴えの変更等についての手数料の額が規定されています〕において手数料の額の算出の基礎とされている訴訟の目的の価額は、民事訴訟法第8条第1項及び第9条の規定により算定する。
〔第2項以下は、省略。〕
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以上で、【最決平成27.5.19】を終わります。
【平成28年10月4日作成】