【令和6年度版】
〔3〕労働時間の特例(第40条等)
週の法定労働時間の特例として、週44時間を法定労働時間とできる事業があります(「特例事業」といいます)。次の通りです。
◆使用者は、常時10人未満の労働者を使用する次の事業については、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができます(第40条、施行規則第25条の2第1項)。
(ア)商業
(イ)映画・演劇業(映画製作の事業を除く)
(ウ)保健衛生業
(エ)接客娯楽業 |
○趣旨
週40時間の法定労働時間の原則を適用することが困難である零細規模のサービス業等について、週の法定労働時間の特例を認めたものです。
上記の青枠線内の部分を暗記することが不可欠です。ゴロ合わせを使います。
※【ゴロ合わせ】
・「ボボしてやってくれたら、生活、永遠に保障」
(意味不明ですが、とにかく覚えて下さい)
→「ボボ(=「44」」し、て(=「10」(テン)人未満)、や(=1日「8」時間)ってくれたら、
生活(「接客」娯楽業)、永・遠(=「映」画・「演」劇)に、保(=「保」健衛生業)、障(=「商」業)」
【条文】
施行規則第25条の2 1.使用者は、法別表第1第8号〔=商業〕、第10号〔=映画・演劇業〕(映画の製作の事業を除く。)、第13号〔=保健衛生業〕及び第14号〔=接客娯楽業〕に掲げる事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、法第32条の規定にかかわらず、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。
〔第2項以下は、省略(全文は、こちら(労基法のパスワード))〕
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〈1〉要件
一定の事業のうち常時10人未満の労働者を使用する使用者であること(施行規則第25条の2第1項)。
1 一定の事業
一定の事業については、上記しました。過去問を見てみます。
◯過去問:
・【平成18年問3E】
設問:
使用者は、物品の販売の事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、労働基準法第32条の規定にかかわらず、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。
解答:
正しいです。
物品の販売の事業は、上記の「商業」(法別表第1第8号)にあたります。
あとは、「常時10人未満使用」、「1週間44時間・1日8時間」という点をチェックします。
2 常時10人未満の労働者を使用
「常時10人未満の労働者を使用する」の意義を見ます。
この点は、のちに学習します就業規則の作成義務が発生する「常時10人以上の労働者を使用する使用者」であることの意義(こちら(労基法のパスワード))とパラレルになります(「未満」と「以上」の違いはあります)。
(1)常時
まず、「常時」とは、「常態として」ということです。
従って、時としては10人以上となることがあってもよいことになります。
(2)事業場単位
「常時10人未満の労働者を使用する」かどうかは、事業場単位で判断します。
事業場単位の原則については、「事業」の個所(こちら)で見ました。
(3)労働者
労働者とは、当該事業場に使用されているすべての労働者をいいます。
従って、正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者も含みます。例えば、臨時的・短期的な雇用形態の労働者や、他社へ派遣中の労働者も含まれます。
【過去問 平成30年問1ウ(下記)】
◯過去問:
・【平成30年問1ウ】
設問:
常時10人未満の労働者を使用する小売業では、1週間の労働時間を44時間とする労働時間の特例が認められているが、事業場規模を決める場合の労働者数を算定するに当たっては、例えば週に2日勤務する労働者であっても、継続的に当該事業場で労働している者はその数に入るとされている。
解答:
正しいです。
まず、「週に2日勤務する労働者」であっても、施行規則第25条の2第1項が規定する常時10人未満の「労働者」に該当します。
この労働者とは、当該事業場に使用されているすべての労働者をいい、例えば、短時間労働者や週に数回勤務する労働者も含みます。
次に、「継続的に」当該事業場で労働している者であれば、同規定の「常時」10人未満の労働者にも該当します。
以上より、本問の労働者は、施行規則第25条の2第1項が規定する「常時10人未満の労働者を使用する」に該当します。
本問は、特例事業に関する問題としては、過去、出題がなかったタイプの問題のようであり、少々難しかったかと思いますが、のちに学習します就業規則の作成義務が発生する「常時10人以上の労働者を使用する使用者」の考え方(こちら(労基法のパスワード))をヒントにすることができました。
〈2〉効果
1 基本的効果
◆1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができます(施行規則第25条の2第1項)。
※ この特例事業の場合も、1日の労働時間は、法定労働時間通り「8時間」が上限であることは注意です。【過去問 令和4年問7A(こちら)】
◯過去問:
・【令和4年問7A】
設問:
使用者は、労働基準法別表第1第8号(物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業)、第10号のうち映画の製作の事業を除くもの(映画の映写、演劇その他興行の事業)、第13号(病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業)及び第14号(旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業)に掲げる事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、労働基準法第32条の規定にかかわらず、1週間について48時間、1日について10時間まで労働させることができる。
解答:
誤りです。
「1週間について48時間、1日について10時間まで労働させることができる」のではなく、「1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる」が正しいです(第40条、施行規則第25条の2第1項)。
本問では、特例事業において労働させることができる時間数が論点となっています。
その他に、特例事業の業種(商業、映画・演劇業(映画製作の事業を除く)、保健衛生業及び接客娯楽業)と「常時10人未満の労働者使用」についても注意です。
2 変形労働時間制についての適用の有無
【令和元年度試験 改正事項】
なお、のちに学習します変形労働時間制(4つ)において、この特例事業の「週44時間」の特例を適用できるのは、1箇月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制(ただし、清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制を除きます(施行規則第25条の2第4項))の2つのみです(施行規則第25条の2第2項から第4項)。
○趣旨
変形労働時間制のうち、特に労働者の負担が大きくなりやすい1年単位の変形制と1週間単位の変形制については、特例事業に係る例外を認めないことにしたものです(1年単位の変形制の場合は、変形期間が長期のため、過重労働が長期間集中する危険性があること、又、1週間単位の変形制の場合は、予め各日の所定労働時間を特定する必要がなく、各週の開始前までに各日の労働時間を通知すれば足りるため、労働者にとって生活の予定が立てにくいといった負担があることを考慮しています。詳しくは、各制度の個所で学習します)。
なお、以前は、フレックスタイム制を採用する事業については、特例事業の「週44時間」の特例を全面的に適用することができました。
しかし、平成31年4月1日施行の改正により、フレックスタイム制に係る清算期間の上限が従来の「1箇月」から「3箇月」に延長されたことに伴い、清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に係る事業については、特例事業の特例を適用できないものとされました(施行規則第25条の2第4項)。
清算期間が1箇月を超える場合は、短期間に長時間労働が集中するといった弊害があるため、過重労働を防止する配慮がなされたものです(後にフレックスタイム制の個所(こちら以下)で見ます)。
以上の変形労働時間制についての特例の適用の有無について、ゴロ合わせで覚えておきます。
※【ゴロ合わせ】
・「ボボは、ひと月ぶりィ」
(これも意味不明ですが、とにかく覚えて下さい。)
→「ボボ(=週「44」時間の特例)は、ひと月(=「1箇月」単位)、ぶり(=「フレ」ックス)、ィ(=「1」箇月を超えるフレックスには不適用)」
◯過去問:
・【平成17年問7C】
設問:
使用者は、労働基準法別表第1第13号の保健衛生の事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。また、この特例の下に、1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制及び1年単位の変形労働時間制を採用することができる。
解答:
誤りです。
本問の特例は、「1年単位の変形労働時間制」については採用することはできません(施行規則第25条の2第2項から第4項)。
また、(これは出題後の改正事項ですが)清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に係る事業についても、当該特例を適用することはできません(施行規則第25条の2第4項)。
本問の前段については、正しいです。
「保健衛生の事業」をチェックです。
※ 第40条
なお、この特例事業の例外は、もともとは法第40条を根拠とするものです。
即ち、次の通り、第40条が労働時間と休憩に関する原則の特例の大枠について定め、その細部については厚生労働省令に委任しており、これに基づき先の施行規則第25条の2が特例事業の例外を定めています。
【条文】
第40条(労働時間及び休憩の特例) 1.別表第1第1号から第3号まで〔=製造業、鉱業及び建設業〕、第6号〔=農林業〕及び第7号〔=水産業、畜産・養蚕業〕に掲げる事業以外の事業で、公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものについては、その必要避くべからざる限度で、第32条から第32条の5まで〔=法定労働時間制及び変形労働時間制。即ち、法定労働時間制(第32条)、1箇月単位の変形労働時間制(第32条の2)、フレックスタイム制(第32条の3)、フレックスタイム制の清算期間の一部についてのみ労働した労働者に関する特例(第32条の3の2)、1年単位の変形労働時間制(第32条の4)、1年単位の変形制の対象期間の一部についてのみ労働した労働者に関する特例(第32条の4の2)、1週間単位の非定型的変形労働時間性(第32条の5)〕の労働時間及び第34条の休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。
2.前項の規定による別段の定めは、この法律で定める基準に近いものであつて、労働者の健康及び福祉を害しないものでなければならない。 |
○趣旨
労基法は、すべての事業(こちら)に適用されることが原則ですが、事業の性格等によっては、労働時間や休憩に関する原則的規定を適用しますと公衆に不便をもたらす等の不都合も生じうることから、法定労働時間制、変形労働時間制及び休憩について、厚生労働省令により特例を定められることとしたものです。
※ この第40条自体は、ほとんど出題対象となっていません(この第40条を具体化した上記「特例事業」の規定や「休憩の原則の例外」等の出題が頻出です)。
ただし、第40条の条文の太字部分は、選択式対策として、念のため押さえておいた方が良いです。何度かこの条文を読んで頂き、読み慣れておいて下さい。
以下、この第40条について、要件及び効果を整理します。
一 要件
◆第32条から第32条の5まで(法定労働時間制及び変形労働時間制。具体的な規定については、前掲の第40条の〔 〕の個所を参考)の労働時間及び第34条の休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをするためには、次の(一)~(四)のいずれの要件にも該当することが必要です。
※ 要件については、ざっと流せば足ります。
(一)第40条の特例が適用される事業であること。
第40条の特例が適用される事業は、次の1及又は2です。
1 別表第1に掲げる次の事業
運輸交通業(法別表第1第4号)、貨物取扱業(第5号)、商業(第8号)、金融保険業(第9号)、映画・演劇業(第10号)、郵便通信業(第11号)、教育研究業(第12号)、保健衛生業(第13号)、接客娯楽業(第14号)、清掃・と畜業(第15号)。
2 別表第1に掲げる事業に該当しない事業
従って、第40条が適用される事業は、おおむねサービス業ということになります。
上記条文の通り、製造業、鉱業、建設業、農林水産業が含まれていないことをざっとつかめば足りるでしょう。
(二)公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものであること。
この特殊の必要とは、事業それ自体が持つ特殊性であって、個別企業における単なる経営上の必要とか季節的繁忙といったものは認められていません。
(三)その必要避くべからざる限度での別段の定めであること。
(四)当該別段の定めは、労基法で定める基準に近いものであって、労働者の健康及び福祉を害しないものであること(第40条第2項)。
二 効果
◆第40条の特例が適用される事業においては、労働時間及び休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めができます。
即ち、法定労働時間(第32条)、変形労働時間制(第32条の2~第32条の5)及び休憩(第34条)に関する規定についての特例が定められます。
具体的には、施行規則により、以下の特例が定められています。
(一)労働時間に関する特例
1 特例事業に係る週44時間の労働時間(施行規則第25条の2)
※ これが、本ページの最初に学習したものです。
2 列車等に乗務する予備勤務者についての1箇月単位の変形制の特例(施行規則第26条)
※ 詳しくは、1箇月単位の変形制の個所(こちら以下)で学習します。
この予備勤務者についての特例が、もともとは第40条を根拠としていることは、軽く頭に残しておいて下さい。
(二)休憩に関する特例
※ ここは、「休憩」の個所(こちら)で詳しく学習します。今の段階では、眺めるだけで足ります。
1 一斉休憩の原則の例外である事業(接客娯楽業等)(施行規則第31条)
2 休憩の自由利用の原則の例外(警察官等)(施行規則第33条)
3 休憩付与の除外(長距離乗務員等)(施行規則第32条)
※ なお、年少者(18歳未満の者)については、本第40条の特例は適用されません(第60条第1項)。
→ 従って、年少者には、特例事業の週44時間の労働時間の規定の適用もありません。
児童について、すぐ次に見ます。
以上で、労働時間の特例を終わります。
〔4〕児童の労働時間
◆児童(満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの間の者。つまり、15歳の年度末までにある者)を使用する場合(なお、児童は、原則として使用できませんが、例外として一定の要件を満たす場合は使用できます。第56条)、修学時間を通算して1週間について40時間、修学時間を通算して1日について7時間を超えて労働させられません(第60条第2項)。
○趣旨
児童の保護のため、児童を労働させられる場合においても、法定労働時間の原則を修正して、「修学時間を通算する」こと、及び「1日7時間を上限とする」ことを必要としたものです。(詳しくは、年少者の個所(こちら以下)で学習します。)
以上で、「§1 法定労働時間」について、終わります。次のページでは、労働時間の算定について学習します。