【令和6年度版】
〔4〕毎月1回以上払の原則
このページにおいては、賃金支払の5原則の残りの「毎月1回以上払の原則」及び「一定期日払の原則」について学習します。
また、一定期日払の原則の特例である「非常時払」についても学習します。
一 原則
◆賃金は、毎月1回以上支払わなければなりません(第24条第2項本文)。
○趣旨
毎月1回以上の賃金支払(定期的な支払)を保障することで、賃金支払期の間隔が空きすぎることを防止して、労働者の生活の安定を図る趣旨です。
※ 毎月1回以上払の原則は、賃金の「支払回数」(支払期間)の規制であり、後述の一定期日払の原則は、賃金の「支払期日」の規制です。
ただし、いずれも、安定した賃金の支払(定期的な支払)を保障することにより、労働者の生活の安定を図るという点では共通します。
【条文】
第24条(賃金の支払)
〔第1項は、省略(全文は、こちらです)。〕
2.賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条〔=就業規則の作成及び届出の義務〕において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。 |
※ なお、第24条においては、賃金の締切期間及び支払期限については規制されていませんから、毎月1回以上払・一定期日払が保障されていれば、締切期間や支払期限は就業規則等を含む労働契約により自由に決定できるのが原則です。
そこで、賃金締切期間について、必ずしも月の初日から起算して月の末日に締め切る必要はありません(例えば、前月の26日から当月の25日までを一計算期間とする等の定めができます)。
また、支払期限については、必ずしもある月の労働に対する賃金をその月中に支払うことは必要なく、不当に長い期間でない限り(民法第90条の公序に違反するような長い期間は認められません)、締切後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることもできます。【過去問 令和4年問6イ(こちら)】
◯過去問:
・【令和4年問6イ】
設問:
賃金の支払期限について、必ずしもある月の労働に対する賃金をその月中に支払うことを要せず、不当に長い期間でない限り、賃金の締切後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることも差し支えない。
解答:
正しいです(厚労省コンメ令和3年版上巻368頁(平成22年版上巻358頁))。
支払期限については第24条において規制されていませんから、必ずしもある月の労働に対する賃金をその月中に支払うことは必要なく、不当に長い期間でない限り(民法第90条の公序に違反するような長い期間は認められません)、締切後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることもできます。
二 例外
◆「毎月1回以上払の原則」及び後述の「一定期日払の原則」は、次の賃金については適用されません(第24条第2項ただし書、施行規則第8条)。(第89条の就業規則の記載事項において、「臨時の賃金等」といいます。)
※ 既述のゴロ合わせ(こちら)の「・・・ボーリングなら、一番正規の勝率よ」にあたる部分です(このゴロ合わせに対応する次の個所を太字にしておきます。ゴロ合わせは、次の(二)のボーナスから始まり、次に(一)の臨時の賃金、(三)のその他と続きます))。
〇 臨時の賃金等:
(一)「臨時に支払われる賃金」
(二)「賞与」〔=ボーナス〕
(三)「その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金」
➡ この(三)は、具体的には次の賃金のことです(施行規則第8条)。
(1)1箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
(2)1箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
(3)1箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当
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※ なお、これらの「臨時の賃金等」は、「平均賃金」の賃金総額に算入しない賃金(こちら)や「割増賃金」の算定基礎となる賃金に算入しない賃金(こちら)としても登場することには注意です。
また、労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項(こちらの(2))としても登場しました(以上については、すぐ後で整理します)。
以下、これらの(一)~(三)について詳しく見ます。
(一)臨時に支払われる賃金
「臨時に支払われる賃金」とは、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」のことです(【昭和22.9.13基発第17号】)。
例:
・就業規則の定めによって支給される私傷病手当(【昭和26.12.27基収第3857号】)
・病気欠勤又は病気休職中の月給者に支給される加療見舞金(【昭和27.5.10基収第6054号】)
・退職手当(退職金)(【昭和22.9.13発基第17号】)など
○趣旨
「臨時に支払われる賃金」は、臨時的賃金であるという性質上、毎月1回以上払・一定期日払の原則が適用できないため、その例外が認められています。
なお、この「臨時に支払われる(た)賃金」は、労基法上、次のような取り扱いがなされます(「臨時に支払われる賃金」と規定されている場合と「臨時に支払われた賃金」と規定されている場合がありますが、同様の内容です)。
〇「臨時に支払われる(た)賃金」の労基法上の取扱い :
(a)平均賃金
「臨時に支払われた賃金」は、平均賃金の算定基礎である賃金総額から控除されます(第12条第4項。こちら)。
(b)毎月1回以上払、一定期日払の原則の例外
「臨時に支払われる賃金」は、毎月1回以上払、一定期日払の原則の例外となります(第24条第2項。本件です)。
(c)割増賃金
「臨時に支払われた賃金」は、割増賃金の算定基礎から除外されます(第37条第5項、施行規則第21条第4号。こちら)。
(d)就業規則の相対的必要記載事項
「臨時に支払われる賃金」は、就業規則の相対的必要記載事項の「臨時の賃金等」となります(第89条第2号かっこ書、第4号、第24条第2項ただし書。こちら)。
(e)労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項
「臨時に支払われる賃金」は、労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項となります(第15条第1項、施行規則第5条第1項第5号。こちらの(2))。
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(二)賞与
「賞与」とは、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」のことです。
「定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず」賞与にはあたりません(【昭和22.9.13発基第17号】)。
○趣旨
賞与の性格は多様であり、賃金の後払的性格の他、月給を補う生活補填的性格、貢献に対する功労報償的性格、将来の労働に対する勤労奨励的性格、企業業績の収益分配的性格などを有するものです。
そして、支給(支給額や支給の有無)が不確定なものについては、毎月1回以上・一定期日払の原則を性質上適用できないため、その例外としていることになります。
なお、賞与についての詳細は、すでに学習しましたこちらをご参照下さい。
〇 年俸制との関係:
1 年棒制(年棒制とは、賃金の全部又は相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度のことです)において、毎月の支払部分と賞与部分を合計して予め年棒額が確定している場合がありますが、この場合は、当該賞与部分は労基法上の「賞与」にはあたりません。
賞与とは、支給額が予め確定されていないものをいうからです(また、かかる賞与部分は、支給額及び支給事由が予め確定しているため、上記(一)の「臨時に支払われた賃金」にもあたりません)。
2 なお、年棒制であっても、毎月1回以上払・一定期日払の原則は適用されるため、毎月・定期に賃金を支払うことが必要です(【過去問 平成2年問3D】)。
ただし、年棒額を毎月均等して支払うといった規制は定められていませんから、毎月の支払額については、労働契約等により自由に決定できます。
【過去問 平成21年問4E(こちら)】/【平成30年問6C(こちら)】
※ 対して、年棒制の場合に「平均賃金」を算定するときは、年棒額の12分の1に相当する額を1か月分の賃金として算定することが必要です(平均賃金とは、大まかには、直近の3か月分の賃金の1日当たりの平均額のことです。年棒額を月ごとに均等化して算定しないと、公正な平均額が算定できないことになります)。
そして、毎月の支払部分と賞与部分を合計して予め年棒額を確定している場合には、上述の通り、かかる賞与部分は労基法上の賞与にあたらないため、平均賃金の賃金総額にも算入することが必要です(平均賃金の賃金総額には、「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」は算入しないこととなっています。賞与は、これにあたることが多いです。しかし、上記ケースの場合は、予め支給額が確定しているため、賞与にあたらないのです)。
この場合の平均賃金の計算方法としては、賞与部分も含めた年棒額の12分の1を1か月の賃金として計算します(詳しくは、「平均賃金」の個所(こちら)で学習します)。
〇過去問:
・【平成21年問4E】
設問:
いわゆる年俸制で賃金が支払われる労働者についても、労働基準法第24条第2項のいわゆる毎月1回以上一定期日払の原則は適用されるため、使用者は、例えば年俸制(通常の賃金の年俸)が600万円の労働者に対しては、毎月一定の期日を定めて1月50万円ずつ賃金を支払わなければならない。
解答:
誤りです。
本問の前段の「年俸制についても毎月1回以上一定期日払の原則が適用される」という点は、正しいです。
しかし、後段の年俸制の場合に毎月均等額で賃金を支払わなければならないという点は誤りです。年棒額を毎月均等して支払うといった規制は定められていませんから、毎月の支払額については、労働契約等により自由に決定できます(本文は、こちらです)。
・【平成30年問6C】
設問:
労働基準法では、年俸制をとる労働者についても、賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないが、各月の支払いを一定額とする(各月で等分して支払う)ことは求められていない。
解答:
正しいです。
前問と類問です。
年棒制であっても、毎月1回以上払・一定期日払の原則は適用されるため、毎月・定期に賃金を支払うことが必要です。
ただし、年棒額を毎月均等して支払うといった規制は定められていませんから、毎月の支払額については、労働契約等により自由に決定できます。本文は、こちらです。
(三)その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金
「その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金」とは、「臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるもので厚生労働省令で定める賃金」ということですが、具体的には、施行規則第8条により次の第1号から第3号が定められています。
【施行規則】
施行規則第8条 法第24条第2項但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。
一 1箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当
二 1箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
三 1箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当 |
○趣旨
賞与に準ずる性格を有し、1箇月以内の期間では支給額の算定基礎となるべき労働者の勤務成績等を判定するのに短期に過ぎるおそれがあると認められる賃金について、毎月1回以上払・一定期日払の原則の例外としたものです。
〇過去問:
・【平成20年問3C】
設問:
使用者は、1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当について、毎月1回以上支払わなければならない。
解答:
誤りです。
上記の施行規則第8条第1号の問題です。この精勤手当は毎月1回以上払の原則が適用されない例外にあたります。
以上で、「毎月1回以上払の原則」を終わります。次は、「一定期日払の原則」です。
〔5〕一定期日払の原則
一 原則
◆賃金は、毎月一定期日を定めて支払わなければなりません(第24条第2項本文)。
○趣旨
賃金の毎月の支払期日を定めることにより、毎月1回以上払の原則とあいまって、賃金の定期的な支払を確保し、労働者の生活の安定を図るものです。
(一)一定の期日
「一定の期日」とは、期日が特定されるともに、その期日が周期的に到来するものでなければなりません(そうでなければ、定期払の原則により労働者の生活の安定を図る趣旨は実現できないからです)。
必ずしも、月の15日等と暦日を指定する必要はなく、月給について「月の末日」(【過去問 平成13年問3E(こちら)】/【平成27年問4E(こちら)】)、週給について「土曜日」等とすることは、支払期日が特定されているため問題ありません。
しかし、「毎月15日から20日までの間」等のように日が特定されない定めをすること、あるいは、「毎月第2土曜日」のように月7日の範囲で変動するような期日の定めをすることは認められません(【過去問 前掲の平成13年問3E(こちら)】/【令和元年問5C(こちら)】)。
例えば、月の初日(1日)が第1週の土曜日であるケースでは、第2土曜日は8日になりますが、月の初日が第1週の日曜日であるケースでは、第2土曜日は14日になり、第2土曜日といっても7日の範囲で特定されないことになります。
(二)所定支払日が休日にあたる場合
所定支払日が休日にあたる場合は、その支払日を繰り上げ又は繰り下げて支払うことは認められています(やむを得ない措置といえるからです。ただし、支払日は各月内にあることは必要であるため(「毎月」一定期日払の原則です)、月給制で月末が支払日となっているケースは、繰り下げは認められません)。
【過去問 平成13年問3C(こちら)】/【令和5年問6C(こちら)】
二 例外
◆「一定期日払の原則」の例外は、上述の「毎月1回以上払の原則の例外」の場合と同様です。上記のこちらをご確認下さい。
○過去問:
・【平成13年問3E】
設問:
定期賃金を、毎月の末日というような特定された日に支払うこと、又は毎月の第4金曜日というような特定された曜日に支払うことは、労働基準法第24条第2項に規定する賃金の一定期日払いの原則に違反しない。
解答:
誤りです。
「毎月の第4金曜日」のように、月7日の範囲で変動するような期日の定めをすることは認められません。
・【平成13年問3C】
設問:
賃金の所定支払日が休日に該当する場合は、労働基準法第24条第2項に規定する一定期日払いの原則によって、当該支払日を繰り下げることはできず、繰り上げて直近の労働日に支払わなければならない。
解答:
誤りです。
所定支払日が休日にあたる場合は、その支払日を繰り上げ又は繰り下げて支払うことは認められています(やむを得ない措置といえるからです)。
ただし、支払日は各月内にあることは必要であるため(「毎月」一定期日払の原則です)、月給制で月末が支払日となっているケースは、繰り下げは認められません。
・【平成27年問4E】
設問:
労働基準法第24条第2項に定める一定期日払の原則は、期日が特定され、周期的に到来することを求めるものであるため、期日を「15日」等と暦日で指定する必要があり、例えば「月の末日」とすることは許されない。
解答:
誤りです。
「一定の期日」とは、期日が特定されるともに、その期日が周期的に到来するものであれば足ります。そこで、月の末日をすることも、この要件を満たすため、一定期日払の原則に違反しません。
・【令和元年問5C】
設問:
労働基準法第24条第2項にいう「一定の期日」の支払については、「毎月15日」等と暦日を指定することは必ずしも必要ではなく、「毎月第2土曜日」のような定めをすることも許される。
解答:
誤りです。
「毎月第2土曜日」のような定め方は、月7日の範囲で変動するような期日の定めであり、一定期日払の原則に違反すると解されています。
前掲の【平成13年問3E(こちら)】や【平成27年問4E(こちら)】と類問です。
・【令和5年問6C】
設問:
賃金の所定支払日が休日に当たる場合に、その支払日を繰り上げることを定めることだけでなく、その支払日を繰り下げることを定めることも労働基準法第24条第2項に定めるいわゆる一定期日払に違反しない。
解答:
正しいです(厚労省コンメ令和3年版上308頁)。
本文は、こちらです。
前掲の【平成13年問3C(こちら)】で類問が出題されています。
以上で、賃金支払の5原則について終わります。
次に、「一定期日払の原則」の例外として、非常時払について学習します。
〔Ⅱ〕非常時払(第25条)
◆使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるため請求する場合は、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければなりません(第25条)。
○趣旨
賃金は定期払(一定期日払)を原則としますが(第24条第2項)、労働者が非常の出費を要する場合には、賃金の繰上げ払いを請求できることとして、その生活の安定を図ったものです(「一定期日払の原則」の例外・特例となります)。
【過去問 平成26年問4A(こちら)】
※ なお、一定期日払の原則の例外として、他に、第23条の「金品の返還」(こちら)の規定もあります(労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求により「7日以内」に、賃金の支払及び労働者の権利に属する金品の返還を義務づけるものです)。
【条文】
第25条(非常時払) 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令〔=施行規則第9条〕で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。 |
※1 上記第25条の「厚生労働省令で定める非常の場合」について、施行規則第9条が次の通り定めています。
【施行規則】
施行規則第9条 法第25条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。
一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合
三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により1週間以上にわたつて帰郷する場合 |
これらの規定をまとめますと、次の要件のようになります。
一 要件
◆非常時払が認められる要件は、次の通りです(第25条、施行規則第9条)。
(一)労働者又は労働者の収入によって生計を維持する者が
(二)出産し、疾病にかかり、災害をうけ、結婚し、死亡し、又はやむを得ない事由により1週間以上帰郷する場合に
(三)当該費用に充てるため、当該労働者が請求すること。 |
これらは、次の図でイメージし、要所をゴロ合わせにより覚えておきます。
非常時払は、少し前までは出題がなかったのですが、平成一桁時代にはちらほら出題されていました。
しかし、近時は出題がコンスタントにあります。
即ち、平成26年度の択一式で出題され、さらに、平成28年度・平成29年度と続けて出題され、令和元年度・3年度・4年度にも出題がありました。
※【ゴロ合わせ】
・「非常時にイージーだが、3秒で、採血して、止んだら1週帰ってきおう(きよう)ぜい」
(得体のしれない出血をして非常時なのですが、簡単に採血検査をして、出血が止まったら、1週間帰郷しようと思っています。)
→「非常時(=「非常時」払)に、イージー(=労働者の収入により生計「維持」する者)だが、
3(=出「産」)、秒(=疾病→「病」気)で、採(=「災」害)、血(=「結」婚)、し(=「死」亡)て、
止んだら、1週、帰って(=「やむ」を得ない事由によって「1週」間以上の「帰」郷)、きおう(=「既往」の労働)、ぜい(=「請」求)」
要件について、若干、補足しておきます。
1「労働者の収入によって生計を維持する者」とは、労働者が扶養義務を負っている親族のみに限られず、労働者の収入で生計を営む者であれば、親族でない同居人であってもよいとされています(厚労省コンメ令和3年版上巻374頁(平成22年版上巻364頁))。
【過去問 令和3年問3オ(こちら)】
2「疾病」、「災害」は、業務上・業務外を問いません。
【過去問 令和元年問5D(こちら)】/【令和4年問6ウ(こちら)】
「災害」は、天災、地変、事変による一切の自然災害・人的災害を含むとされます。
なお、「災害」については【過去問 平成7年】に、「結婚」については【平成3年】及び【平成9年】に出題されています。
また、「出産」、「疾病」、「災害」(以上は、第25条で例示されているものです)について、【平成29年問6B(こちら)】及び前掲の【令和3年問3オ(こちら)】で問われています。
3「労働者の請求」については、労働者が死亡の場合の費用に充てるために請求する場合は、相続人等の賃金請求権者が請求することになります。
二 効果
(一)基本的効果
◆使用者は、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければなりません(第25条)。
「既往の労働」ですから、すでに労働を提供した部分(期間)に対応する賃金を支払えば足り、いまだ労働の提供のない部分(期間)に対する賃金を支払う義務はありません。
【過去問 平成28年問3D(こちら)】
(二)公法上の効果
○過去問:
・【平成29年問6B】
設問:
労働基準法第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由は、労働者本人に係る出産、疾病、災害に限られず、その労働者の収入によって生計を維持する者に係る出産、疾病、災害も含まれる。
解答:
正しいです。
非常時払が認められるためには、次の①~③のいずれの要件も満たすことが必要です(第25条、施行規則第9条)。
①労働者又は労働者の収入によって生計を維持する者であること。
②前記①の者が、出産し、疾病にかかり、災害をうけ、結婚し、死亡し、又はやむを得ない事由により1週間以上帰郷すること。
③当該費用に充てるため、当該労働者が請求すること。
本問では、「非常時払を請求しうる事由」として、上記の①及び②が問題となります(太字部分です)。
即ち、本問では、①について、労働者本人だけでなく、「労働者の収入によって生計を維持する者」も含まれることが論点となっています。
②については、本問では、「出産、疾病及び災害」が問題となっています。
・【令和3年問3オ】
設問:
労働基準法第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由には、「労働者の収入によつて生計を維持する者」の出産、疾病、災害も含まれるが、「労働者の収入によつて生計を維持する者」とは、労働者が扶養の義務を負っている親族のみに限らず、労働者の収入で生計を営む者であれば、親族でなく同居人であっても差し支えない。
解答:
正しいです(第25条、施行規則第9条。厚労省コンメ令和3年版上巻374頁(平成22年版上巻364頁))。
「親族でなく同居人であっても差し支えない」という点は細かい知識です(ちなみに、この知識について、当サイトでは、出題当時の令和3年度版においてもこちらの1の通り記載はしていましたが、このリンク先の1の直前で、「要件については、以上を覚えれば足りますが、若干、補足しておきます。」と記載しており、補足程度の取扱いとしていた中から出題されました)。
非常時払の要件について、こちらの(一)のように、「労働者の収入によって生計を維持する者」が含まれること(施行規則第9条)を覚えていれば、これが単に「生計を維持する者」となっており、「生計を維持する親族」等ではないことから、正解を導くことができました。
実質的に考えてみましても、非常時払の趣旨は、労働者が非常の出費を要する場合において、すでに労働を提供した部分(「既往の労働」)に相当する部分(のみ)の賃金の支払を請求できることにしてその生活の安定を図ったものですから、「生計を維持する者」を親族等のみに限定する理由はないことになります。
・【平成26年問4A】
設問:
労働基準法第24条第2項に従って賃金の支払期日が定められている場合、労働者が疾病等非常の場合の費用に充てるため、既に提供した労働に対する賃金を請求する場合であっても、使用者は、支払期日前には、当該賃金を支払う義務を負わない。
解答:
誤りです。
非常時払は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、使用者は、「支払期日前であっても」、既往の労働に対する賃金を支払わなければならないとする制度であり、第24条第2項の賃金の一定期日払の原則の例外(特例)です。
従って、この非常時払の要件に該当するときは、「支払期日前であっても」、使用者は、労働者が既に提供した労働に対する賃金を支払わらなければなりません。
・【平成28問3D】
設問:
使用者は、労働者が出産、疾病、災害等非常の場合の費用に充てるために請求する場合には、いまだ労務の提供のない期間も含めて支払期日前に賃金を支払わなければならない。
解答:
誤りです。
「いまだ労務の提供のない期間も含めて」ではなく、「既往の労働」に対する賃金を支払えば足ります。
・【令和元年問5D】
設問:
労働基準法第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由のうち、「疾病」とは、業務上の疾病、負傷をいい、業務外のいわゆる私傷病は含まれない。
解答:
誤りです。
非常時払を請求しうる事由の「疾病」とは、第25条及び施行規則第9条の文言上、「業務上」の疾病、負傷に限定されているわけではありません。
従って、「業務外のいわゆる私傷病は含まれない」とする理由はありません。
・【令和4年問6ウ】
設問:
労働基準法第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由の1つである「疾病」とは、業務上の疾病、負傷であると業務外のいわゆる私傷病であるとを問わない。
解答:
正しいです。
非常時払を請求しうる事由の「疾病」とは、第25条及び施行規則第9条の文言上、「業務上」の疾病、負傷に限定されているわけではありません。
前掲の【令和元年問5D(こちら)】が類問です。
・【令和5年問6D】
設問:
使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならないが、その支払いには労働基準法第24条第1項の規定は適用されない。
解答:
誤りです。
本問のいわゆる非常時払についても、第24条第1項の賃金支払の原則は適用されます(例えば、既往の労働に対する賃金を通貨以外のもので支払うことは原則として認められないという形で、通貨払の原則が適用されます)。
非常時払は、労働者が非常の出費を要する場合に賃金の繰上げ払いを請求できることとしてその生活の安定を図ったものであり、「一定期日払の原則」(第24条第2項)の例外・特例である制度です。
従って、非常時払においては、一定期日払の原則は適用されませんが、非常時払いも賃金の支払ですから、通貨払の原則、直接払の原則及び全額払の原則(既往の労働に相当する賃金であって労働者が請求する額で足りるものと解されます)は適用されます(厚労省コンメ令和3年版上巻375頁同旨)。
本問は過去未出題であり、現場で思考することが必要となりますが、非常時払に賃金支払の原則(一定期日払の原則を除く)が適用されないとすると、どのような不都合があるのかを想像しますと、正答しやすいです。
以上で、「§1 賃金の支払方法」の問題を終わります。
次ページにおいて、「休業手当」を学習します。