令和4年度 労基法
令和4年度(2022年度)の労働基準法の本試験問題のインデックスを掲載します。
リンク先に本試験問題及びその解説を掲載しています。
択一式
○【問1】=労働者に関する問題:
▶労働基準法の労働者に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(労働基準法の労働者であった者は、失業しても、その後継続して求職活動をしている間は、労働基準法の労働者である。)
(労働基準法の労働者は、民法第623条に定める雇用契約により労働に従事する者がこれに該当し、形式上といえども請負契約の形式を採るものは、その実体において使用従属関係が認められる場合であっても、労働基準法の労働者に該当することはない。)
(同居の親族のみを使用する事業において、一時的に親族以外の者が使用されている場合、この者は、労働基準法の労働者に該当しないこととされている。)
(株式会社の代表取締役は、法人である会社に使用される者であり、原則として労働基準法の労働者になるとされている。)
(明確な契約関係がなくても、事業に「使用」され、その対償として「賃金」が支払われる者であれば、労働基準法の労働者である。)
○【問2】=労働時間に関する問題:
▶ 労働基準法の労働時間に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(労働安全衛生法により事業者に義務付けられている健康診断の実施に要する時間は、労働安全衛生規則第44条の定めによる定期健康診断、同規則第45条の定めによる特定業務従事者の健康診断等その種類にかかわらず、すべて労働時間として取り扱うものとされている。)
(定期路線トラック業者の運転手が、路線運転業務の他、貨物の積込を行うため、小口の貨物が逐次持ち込まれるのを待機する意味でトラック出発時刻の数時間前に出勤を命ぜられている場合、現実に貨物の積込を行う以外の全く労働の提供がない時間は、労働時間と解されていない。)
(労働安全衛生法第59条等に基づく安全衛生教育については、所定労働時間内に行うことが原則とされているが、使用者が自由意思によって行う教育であって、労働者が使用者の実施する教育に参加することについて就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加とされているものについても、労働者の技術水準向上のための教育の場合は所定労働時間内に行うことが原則であり、当該教育が所定労働時間外に行われるときは、当該時間は時間外労働時間として取り扱うこととされている。)
(事業場に火災が発生した場合、既に帰宅している所属労働者が任意に事業場に出勤し消火作業に従事した場合は、一般に労働時間としないと解されている。)
(警備員が実作業に従事しない仮眠時間について、当該警備員が労働契約に基づき仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに対応することが義務付けられており、そのような対応をすることが皆無に等しいなど実質的に上記義務付けがされていないと認めることができるような事情が存しないなどの事実関係の下においては、実作業に従事していない時間も含め全体として警備員が使用者の指揮命令下に置かれているものであり、労働基準法第32条の労働時間に当たるとするのが、最高裁判所の判例である。)
○【問3】=第36条等に関する問題:
▶労働基準法第36条(以下本問において「本条」という。)に定める時間外及び休日の労働等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(使用者が労働基準法施行規則第23条によって日直を断続的勤務として許可を受けた場合には、本条〔第36条〕第1項の協定がなくとも、休日に日直をさせることができる。)
(小売業の事業場で経理業務のみに従事する労働者について、対象期間を令和4年1月1日から同年12月31日までの1年間とする本条第1項の協定をし、いわゆる特別条項により、1か月について95時間、1年について700時間の時間外労働を可能としている事業場においては、同年の1月に90時間、2月に70時間、3月に85時間、4月に75時間、5月に80時間の時間外労働をさせることができる。)
(労働者が遅刻をし、その時間だけ通常の終業時刻を繰り下げて労働させる場合に、1日の実労働時間を通算すれば労働基準法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、本条第1項に基づく協定及び労働基準法第37条に基づく割増賃金支払の必要はない。)
(就業規則に所定労働時間を1日7時間、1週35時間と定めたときは、1週35時間を超え1週間の法定労働時間まで労働時間を延長する場合、各日の労働時間が8時間を超えずかつ休日労働を行わせない限り、本条〔第36条〕第1項の協定をする必要はない。)
(本条〔第36条〕第1項の協定は、事業場ごとに締結するよう規定されているが、本社において社長と当該会社の労働組合本部の長とが締結した本条第1項の協定に基づき、支店又は出張所がそれぞれ当該事業場の業務の種類、労働者数、所定労働時間等所要事項のみ記入して所轄労働基準監督署長に届けた場合、当該組合が各事業場ごとにその事業場の労働者の過半数で組織されている限り、その取扱いが認められる。)
○【問4】=総則(第1条~第12条)に関する問題:
▶労働基準法の総則(第1条~第12条)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(労働基準法第1条にいう「労働関係の当事者」には、使用者及び労働者のほかに、それぞれの団体である使用者団体と労働組合も含まれる。)
(労働基準法第3条にいう「信条」には、特定の宗教的信念のみならず、特定の政治的信念も含まれる。)
(就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定がある場合、現実には男女差別待遇の事実ないとしても、当該規定は無効であり、かつ労働基準法第4条違反となる。)
(使用者の暴行があっても、労働の強制の目的がなく、単に「怠けたから」又は「態度が悪いから」殴ったというだけである場合、刑法の暴行罪が成立する可能性はあるとしても、労働基準法第5条違反とはならない。)
(法令の規定により事業主等に申請等が義務付けられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、当該社会保険労務士は、労働基準法第10条にいう「使用者」に該当するので、当該申請等の義務違反の行為者として労働基準法の罰則規定に基づいてその責任を問われうる。)
○【問5】=労働契約等に関する問題:
▶労働基準法に定める労働契約等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(社会保険労務士の国家資格を有する労働者について、労働基準法第14条に基づき契約期間の上限を5年とする労働契約を締結するためには、社会保険労務士の資格を有していることだけでは足りず、社会保険労務士の名称を用いて社会保険労務士の資格に係る業務を行うことが労働契約上認められている等が必要である。)
(労働基準法第15条第3項にいう「契約解除の日から14日以内」であるとは、解除当日から数えて14日をいい、例えば、9月1日に労働契約を解除した場合は、9月1日から9月14日までをいう。)
(労働基準法第16条のいわゆる「賠償予定の禁止」については、違約金又あらかじめ定めた損害賠償額を現実に徴収したときにはじめて違反が成立する。)
(「前借金」とは、労働契約の締結の際又はその後に、労働することを条件として使用者から借り入れ、将来の賃金により弁済することを約する金銭をいい、労働基準法第17条は前借金そのものを全面的に禁止している。)
(労働基準法第22条第1項に基づいて交付される証明書は、労働者が同項に定める法定記載事項の一部のみが記入された証明書を請求した場合でも、法定記載事項をすべて記入しなければならない。)
○【問6】=賃金に関する問題:個数問題
▶労働基準法に定める賃金等に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
(通貨以外のもので支払われる賃金も、原則として労働基準法第12条に定める平均賃金等の算定基礎に含まれるため、法令に別段の定めがある場合のほかは、労働協約で評価額を定めておかなければならない。)
(賃金の支払期限について、必ずしもある月の労働に対する賃金をその月中に支払うことを要せず、不当に長い期間でない限り、賃金の締切後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることも差し支えない。)
(労働基準法第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由の1つである「疾病」とは、業務上の疾病、負傷であると業務外のいわゆる私傷病であるとを問わない。)
(「労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条〔労働基準法第24条〕が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがつて、右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないが、国家公務員等退職手当法〔現在の国家公務員退職手当法〕による退職手当の給付を受ける権利については、その譲渡を禁止する規定がない以上、退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においては、国または公社はもはや退職者に直接これを支払うことを要せず、したがつて、その譲受人から国または公社に対しその支払を求めることが許される」とするのが、最高裁判所の判例である。)
(労働基準法第27条に定める出来高払制の保障給について、同種の労働を行っている労働者が多数ある場合に、個々の労働者の技量、経験、年齢等に応じて、その保障給額に差を設けることは差し支えない。)
○【問7】=労働時間等に関する問題:
▶労働基準法に定める労働時間等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか
(使用者は、労働基準法別表第1第8号(物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業)、第10号のうち映画の製作の事業を除くもの(映画の映写、演劇その他興行の事業)、第13号(病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業)及び第14号(旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業)に掲げる事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、労働基準法第32条の規定にかかわらず、1週間について48時間、1日について10時間まで労働させることができる。)
(労働基準法第32条の2に定めるいわゆる1か月単位の変形労働時間制を労使協定を締結することにより採用する場合、当該労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出ないときは1か月単位の変形労働時間制の効力が発生しない。)
(医療法人と医師との間の雇用契約において労働基準法第37条に定める時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていた場合、「本件合意は、上告人の医師としての業務の特質に照らして合理性があり、上告人が労務の提供について自らの裁量で律することができたことや上告人の給与額が相当高額であったこと等からも、労働者としての保護に欠けるおそれはないから、上告人の当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないからといって不都合はなく、当該年俸の支払により、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということができる」とするのが、最高裁判所の判例である。)
(労働基準法第37条第3項に基づくいわゆる代替休暇を与えることができる期間は、同法第33条又は同法第36条第1項の規定によって延長して働させた時間が1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌日から2か月以内の範囲内で、労使協定で定めた期間とされている。)
(年次有給休暇の権利は、「労基法39条1、2項の要件が充足されることによつて法律上当然に労働者に生ずる権利ということはできず、労働者の請求をまつて始めて生ずるものと解すべき」であり、「年次〔有給〕休暇の成要件として、労働者による『休暇の請求』や、これに対する使用者の『承認』を要する」とするのが、最高裁判所の判例である。)
選択式
次の文中の の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。
1 労働基準法第20条により、いわゆる解雇予告手当を支払うことなく9月30日の終了をもって労働者を解雇しようとする使用者は、その解雇の予告は、少なくとも A までに行わなければならない。
2 最高裁判所は、全国的規模の会社の神戸営業所勤務の大学卒営業担当従業員に対する名古屋営業所への転勤命令が権利の濫用に当たるということができるか否かが問題となった事件において、次のように判示した。
「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が B なされたものであるとき若しくは労働者に対し通常 C とき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」
3 労働安全衛生法第59条において、事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行わなければならないが、この教育は、 D についても行わなければならないとされている。
4 労働安全衛生法第3条において、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、 E と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」と規定されている。
選択肢:
①8月30日 ②8月31日 ③9月1日 ④9月16日
⑤行うべき転居先の環境の整備をすることなくなされたものである
⑥快適な職場環境の実現
⑦甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである
⑧現在の業務に就いてから十分な期間をおくことなく
⑨他の不当な動機・目的をもつて
⑩当該転勤先への異動を希望する他の労働者がいるにもかかわらず
⑪配慮すべき労働条件に関する措置が講じられていない
⑫予想し得ない転勤命令がなされたものである
⑬より高度な基準の自主設定
⑭労働災害の絶滅に向けた活動
⑮労働災害の防止に関する新たな情報の活用
⑯労働者が90日以上欠勤等により業務を休み、その業務に復帰したとき
⑰労働者が再教育を希望したとき
⑱労働者が労働災害により30日以上休業し、元の業務に復帰したとき
⑲労働者に対する事前の説明を経ることなく
⑳労働者の作業内容を変更したとき
選択式解答
A=②「8月31日」(第20条第1項)
B=⑨「他の不当な動機・目的をもつて」(【東亜ペイント事件=最判昭61.7.14】)
C=⑦「甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである」(同上)
D=⑳「労働者の作業内容を変更したとき」(安衛法第59条第2項(安衛法のパスワード))
E=⑥「快適な職場環境の実現」(安衛法第3条第1項)
選択式の論点とリンク先
〔1〕問1
問1(こちら)は、解雇予告が必要となる少なくとも「30日前」を具体例に基づき判断する問題です。
解雇予告と解雇予告手当を併用する場合の具体例に関する過去問は頻出であり(こちら以下)、本問も基本的な問題といえます。
使用者は、労働者を解雇する場合には、原則として、30日前までに予告をするか、又は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(両者の併用も可。第20条)。
本問は、30日前までに解雇予告をするケースであり、解雇予告日と解雇の効力発生日との間に丸々30日間をおくことが必要です。
即ち、本問は、9月30日の終了をもって解雇の効力を発生させるケースですから、解雇予告日との間に丸々30日間を空けるためには、少なくとも8月31日には解雇予告をすることが必要です 。
詳細は、本文のこちら以下をご参照下さい。
〔2〕問2
問2(こちら)は、配転の適法性(転勤命令の権利濫用性)について判示した【東亜ペイント事件=最判昭61.7.14】からの出題です。
非常に重要な判決ですが、まだ選択式に出題されていなかったため、当サイトの本文でも警戒していました(こちら以下)。
本判決は、労働協約及び就業規則において、会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあるという事案について、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものとした上で、配転命令権の行使について権利濫用にあたる場合の例として次の3点を挙げています。
①配転命令に業務上の必要性がない場合
②配転命令が「他の不当な動機・目的をもって」なされた場合
③労働者に対し通常「甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである」とき等
②が空欄Bで、③が空欄Cで問われています。
本判決は、受験対策上も当然学習する範囲ですので、2つの空欄ともに正解することが望まれます。
〔3〕問3
問3(空欄のD。こちら)は、安全衛生教育のうち、作業内容変更時の教育に関する出題です。
通常、雇入れ時の教育と作業内容変更時の教育は、両者併せて学習することが多いですから、空欄Dも判断しやすかったと思います。
安衛法第59条第1項と第2項をベースにした出題であり、この条文をチェックしていれば、一層判断しやすい内容でした。
〔4〕問4
問4(空欄のE。こちら)は、事業者の責務を定めた安衛法第3条第1項からの出題です。
この規定は、これまで【記述式 平成11年度 D=「最低基準」、E=「協力」(こちら。安衛法のパスワード)】、【選択式 平成18年度 D=「職場における労働者の安全と健康を確保するようにし」(こちら)】のほか、択一式でも【平成15年問8B(こちら)】でテーマとされており、要注意の規定でした。
これまで、安衛法第3条第1項における「快適な職場環境」(の実現)は狙われたことがありませんでしたが、目的条文の第1条でも「快適な職場環境」(の形成を促進)が用いられており、これは令和元年度の選択式で出題されました(こちら)。
「快適な職場環境」の実現は、安衛法の目的の一つであり、第1条と第3条第1項を関連させて学習していれば、空欄Eも正答しやすかったでしょう。
いずれにしましても、難しい内容ではありませんでした。
総評
選択式は、前年度(令和3年度)は厳しい内容でしたが、今回は基本的な内容であり、基準点の確保は容易だったと思われます。
労基法の選択式対策としては、基本的な判例はチェックしておくことが必要です。
また、安衛法の選択式対策としては、制度等の仕組みを理解した上で、基本的な条文は読み込んでおく必要があります。
労基法の択一式については、肢によっては、やや難しいあるいは細かいものもありましたが、全体としては合格点を獲得しやすい出題内容だったと思います。通常の学習でカバーできる範囲内の出題でした。
なお、【令和4年問3B(こちら)】では、 平成31年施行の働き方改革関連法に基づく時間外労働等の上限規制からの直接的な出題(かつ、事例問題)が出題されました。
今後、この上限規制の他の問題についても注意する必要があります。