令和5年度 厚生年金保険法
令和5年度の厚生年金保険法の本試験問題のインデックスを掲載します。
リンク先に本試験問題及びその解説を掲載しています。
択一式
○【問1】= 3歳未満の子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例に関する問題:
▶厚生年金保険法第26条に規定する3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例(以下本間において「本特例」という。)に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(本特例についての実施機関に対する申出は、第1号厚生年金被保険者又は第4号厚生年金被保険者はその使用される事業所の事業主を経由して行い、第2号厚生年金被保険者又は第3号厚生年金被保険者は事業主を経由せずに行う。)
(本特例〔=「厚生年金保険法第26条に規定する3歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例」のこと〕が適用される場合には、老齢厚生年金の額の計算のみならず、保険料額の計算に当たっても、実際の標準報酬月額ではなく、従前標準報酬月額が用いられる。)
(甲は、第1号厚生年金被保険者であったが、令和4年5月1日に被保険者資格を喪失した。その後、令和5年6月15日に3歳に満たない子の養育を開始した。更に、令和5年7月1日に再び第1号厚生年金被保険者の被保険者資格を取得した。この場合、本特例は適用される。)
(第1子の育児休業終了による職場復帰後に本特例が適用された被保険者乙の従前標準報酬月額は30万円であったが、育児体業等終了時改定に該当し標準報酬月額は24万円に改定された。その後、乙は第2子の出産のため厚生年金保険法第81条の2の2第1項の適用を受ける産前産後体業を取得し、第2子を出産し産後体業終了後に職場復帰したため第2子の養育に係る本特例の申出を行った。第2子の養育に係る本特例が適用された場合、被保険者乙の従前標準報酬月額は24万円である。)
(本特例の適用を受けている被保険者の養育する第1子が満3歳に達する前に第2子の養育が始まり、この第2子の養育にも本特例の適用を受ける場合は、第1子の養育に係る本特例の適用期間は、第2子が3歳に達した日の翌日の属する月の前月までとなる。)
○【問2】= 届出に関する問題:
▶厚生年金保険法に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(船舶所有者は、その住所に変更があったときは、5日以内に、所定の届書を日本年金機構に提出しなければならない。)
(住民基本台帳法第30条の9の規定により、厚生労働大臣が機構保存本人確認情報の適用を受けることができない被保険者(適用事業所に使用される高齢任意加入被保険者又は第4種被保険者等ではないものとする。)は、その氏名を変更したときは、速やかに、変更後の氏名を事業主に申し出なければならない。)
(受給権者又は受給権者の属する世帯の世帯主その他その世帯に属する者は、厚生労働省令の定めるところにより、厚生労働大臣に対し、厚生労働省令の定める事項を届け出、かつ、厚生労働省令の定める書類その他の物件を提出しなければならない。)
(老齢厚生年金の受給権者は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第2条第5項に規定する個人番号を変更したときは、速やかに、所定の事項を記載した届書を、日本年金機構に提出しなければならないが、老齢厚生年金の受給権者が同時に老齢基礎年金の受給権を有する場合において、当該受給権者が国民年金法施行規則第20条の2第1項の届出を行ったときは、本届出を行ったものとみなされる。)
(適用事業所の事業主は、被保険者(船員被保険者を除く。)の資格の取得に関する事項を厚生労働大臣に届け出なければならないが、この届出は、当該事実があった日から5日以内に、所定の届書等を日本年金機構に提出することによって行うものとされている。)
○【問3】= 厚生年金保険法に関する諸問題:
▶厚生年金保険法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(任意適用事業所の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けることにより当該事業所を適用事業所でなくすることができるが、このためには、当該事業所に使用される者の全員の同意を得ることが必要である。なお、当該事業所には厚生年金保険法第12条各号のいずれかに該当する者又は特定4分の3未満短時間労働者に該当する者はいないものとする。)
(死亡した被保険者に死亡の当時生計を維持していた妻と子があった場合、妻が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有しないであって、子が当該遺族基礎年金の受給権を有していても、その間、妻に対する遺族厚生年金は支給される。)
(適用事業所に使用される70歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者となるが、船舶所有者に臨時に使用される船員であって日々雇い入れられる者は被保険者とはならない。)
(老齢厚生年金における加給年金額の加算対象となる配偶者が、繰上げ支給の老齢基礎年金の支給を受けるときは、当該配偶者に係る加給年金額は支給が停止される。)
(被保険者であった70歳以上の者で、日々雇い入れられる者として船舶所有者以外の適用事業所に臨時に使用されている場合(1か月を超えて引き続き使用されるに至っていないものとする。)、その者は、厚生年金保険法第27条で規定する「70歳以上の使用される者」には該当しない。)
○【問4】= 厚生年金保険法に関する諸問題:【個数問題】
▶厚生年金保険法に関する次のアからオの記述のうち、正しいものはいくつあるか。
(被保険者期間を計算する場合には、月によるものとし、被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月までをこれに算入する。)
(厚生年金保険の適用事業所で使用される70歳以上の者であっても、厚生年金保険法第12条各号に規定する適用除外に該当する者は、在職老齢年金の仕組みによる老齢厚生年金の支給停止の対象とはならない。)
(被保険者が同時に2以上の事業所に使用される場合における各事業主の負担すべき標準賞与額に係る保険料の額は、各事業所についてその月に各事業主が支払った賞与額をその月に当該被保険者が受けた賞与額で除して得た数を当該被保険者の保険料の額に乗じて得た額とされている。)
(中高齢寡婦加算が加算された遺族厚生年金の受給権者である妻が、被保険者又は被保険者であった者の死亡について遺族基礎年金の支給を受けることができるときは、その間、中高齢寡婦加算は支給が停止される。)
(経過的寡婦加算が加算された遺族厚生年金の受給権者である妻が、障害基礎年金の受給権を有し、当該障害基礎年金の支給がされているときは、その間、経過的寡婦加算は支給が停止される。)
○【問5】= 遺族厚生年金に関する問題:
▶遺族厚生年金に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(夫の死亡による遺族厚生年金を受給している者が、死亡した夫の血族との姻族関係を終了させる届出を提出した場合でも、遺族厚生年金の受給権は失権しない。)
(夫の死亡による遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給していた甲が、新たに障害厚生年金の受給権を取得した。甲が障害厚生年金の受給を選択すれば、夫の死亡当時、夫によって生計を維持されていた甲の子(現在10歳)に遺族厚生年金が支給されるようになる。)
(船舶が行方不明となった際、現にその船舶に乗っていた被保険者若しくは被保険者であった者の生死が3か月間分からない場合は、遺族厚生年金の支給に関する規定の適用については、当該船舶が行方不明になった日に、その者は死亡したものと推定される。)
(配偶者と離別した父子家庭の父が死亡し、当該死亡の当時、生計を維持していた子が遺族厚生年金の受給権を取得した場合、当該子が死亡した父の元配偶者である母と同居することになったとしても、当該子に対する遺族厚生年金は支給停止とはならない。)
(被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時、その者と生計を同じくしていた配偶者で、前年収入が年額800万円であった者は、定期昇格によって、近い将来に収入が年額850万円を超えることが見込まれる場合であっても、その被保険者又は被保険者であった者によって生計を維持していたと認められる。)
○【問6】= 特別支給の老齢厚生年金に関する問題:
▶特別支給の老齢厚生年金に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(第2号厚生年金被保険者期間のみを有する昭和36年1月1日生まれの女性で、特別支給の老齢厚生年金の受給資格要件を満たす場合、報酬比例部分の支給開始年齢は64歳である。)
(特別支給の老齢厚生年金の受給資格要件の1つは、 1年以上の被保険者期間を有することであるが、この被保険者期間には、離婚時みなし被保険者期間を含めることができる。)
(特別支給の老齢厚生年金については、雇用保険法による高年齢雇用継続給付との併給調整が行われる。ただし、在職老齢年金の仕組みにより、老齢厚生年金の全部又は一部が支給停止されている場合は、高年齢雇用継続給付との併給調整は行われない。)
(報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の受給権を有する者であって、受給権を取得した日から起算して1年を経過した日前に当該老齢厚生年金を請求していなかった場合は、当該老齢厚生年金の支給繰下げの申出をすることができる。)
(報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の受給権を有する者が、被保険者でなく、かつ、障害の状態にあるときは、老齢厚生年金の額の計算に係る特例の適用を請求することができる。ただし、ここでいう障害の状態は、厚生年金保険の障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態に限定される。)
○【問7】= 厚生年金保険法に関する諸問題:
▶厚生年金保険法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(老齢厚生年金に係る子の加給年金額は、その対象となる子の数に応じて加算される。1人当たりの金額は、第2子までは配偶者の加給年金額と同額だが、第3子以降は、配偶者の加給年金額の3分の2の額となる。)
(昭和9年4月2日以後に生まれた老齢厚生年金の受給権者については、配偶者の加給年金額に更に特別加算が行われる。特別加算額は、受給権者の生年月日によって異なり、その生年月日が遅いほど特別加算額が少なくなる。)
(甲は、厚生年金保険に加入しているときに生じた障害により、障害等級2級の障害基礎年金と障害厚生年金を受給している。現在は、自営業を営み、国民年金に加入しているが、仕事中の事故によって、新たに障害等級2級に該当する程度の障害の状態に至ったため、甲に対して更に障害基礎年金を支給すべき事由が生じた。この事例において、前後の障害を併合した障害の程度が障害等級1級と認定される場合、新たに障害等級1級の障害基礎年金の受給権が発生するとともに、障害厚生年金の額も改定される。)
(乙は、視覚障害で障害等級3級の障害厚生年金(その権利を取得した当時から引き続き障害等級1級又は2級に該当しない程度の障害の状態にあるものとする。)を受給している。現在も、厚生年金保険の適用事業所で働いているが、新たな病気により、障害等級3級に該当する程度の聴覚障害が生じた。後発の障害についても、障害厚生年金に係る支給要件が満たされている場合、厚生年金保険法第48条の規定により、前後の障害を併合した障害等級2級の障害厚生年金が乙に支給され、従前の障害厚生年金の受給権は消滅する。)
(障害手当金の額は、厚生年金保険法第50条第1項の規定の例により計算した額の100分の200に相当する額である。ただし、その額が、障害基礎年金2級の額に2を乗じて得た額に満たないときは、当該額が障害手当金の額となる。)
○【問8】= 厚生年金保険法に関する諸問題:
▶厚生年金保険法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
・【令和5年問8A】 【直近の改正事項】
(特定4分の3未満短時間労働者に対して厚生年金保険が適用されることとなる特定適用事業所とは、事業主が同一である1又は2以上の適用事業所であって、当該1又は2以上の適用事業所に使用される労働者の総数が常時100人を超える事業所のことである。)
(毎年12月31日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額の100分の200に相当する額が標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額を超える場合において、その状態が継続すると認められるときは、政令で、当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行わなければならない。)
(政府は、令和元年8月に、国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しを公表した。そのため、遅くとも令和7年12月末までには、新たな国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しを作成しなければならない。)
・【令和5年問8D】(国年法のパスワード)
(国民年金法による年金たる給付及び厚生年金保険法による年金たる保険給付については、モデル年金の所得代替率が100分の50を上回ることとなるような給付水準を将来にわたり確保するものとされている。この所得代替率の分母の基準となる額は、当該年度の前年度の男子被保険者の平均的な標準報酬額に相当する額から当該額に係る公租公課の額を控除して得た額に相当する額である。)
(厚生年金保険の任意単独被保険者となっている者は、厚生労働大臣の認可を受けて、被保険者の資格を喪失することができるが、資格喪失に際しては、事業主の同意を得る必要がある。)
○【問9】=老齢厚生年金に関する諸問題:
▶厚生年金保険法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(今年度65歳に達する被保険者甲と乙について、20歳に達した日の属する月から60歳に達した日の属する月の前月まで厚生年金保険に加入した甲と、20歳に達した日の属する月から65歳に達した日の属する月の前月まで厚生年金保険に加入した乙とでは、老齢厚生年金における経過的加算の額は異なる。)
(老齢厚生年金の支給繰下げの申出をした者に支給する繰下げ加算額は、老齢厚生年金の受給権を取得した日の属する月までの被保険者期間を基礎した老齢厚生年金の額と在職老齢年金の仕組みによりその支給を停止するものとされた額を勘案して、政令で定める額とする。)
・【令和5年問9C】 【直近の改正事項】
(65歳到達時に老齢厚生年金の受給権が発生していた者が、72歳のときに老齢厚生年金の裁定請求をし、かつ、請求時に繰下げの申出をしない場合には、72歳から遡って5年分の年金給付が一括支給されることになるが、支給される年金には繰下げ加算額は加算されない。)
・【令和5年問9D】 【前年度の改正事項】
(厚生年金保険法第43条第2項の在職定時改定の規定において、基準日が被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの間に到来し、かつ、当該被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの期間が1か月以内である場合は、基準日の属する月前の被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎として、基準日の属する月の翌月から年金の額を改定するものとする。)
(被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、再び被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1か月を経過したときは、その被保険者の資格を喪失した月以前おける被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、資格を喪失した日から起算して1か月を経過した日の属する月から、年金の額を改定する。)
○【問10】= 厚生年金保険法に関する諸問題:
▶厚生年金保険法に関する次のアからオの記述のうち、誤っているものの組み合わせは、後記AからEまでのうちどれか。
(障害厚生年金の給付事由となった障害について、国民年金法による障害基礎年金を受けることができない場合において、障害厚生年金の額が障害等級2級の障害基礎年金の額に2分の1を乗じて端数処理をして得た額に満たないときは、当該額が最低保障額として保障される。なお、配偶者についての加給年金額は加算されない。)
(甲は、障害等級3級の障害厚生年金の支給を受けていたが、63歳のときに障害等級3級に該当する程度の障害の状態でなくなったために当該障害厚生年金の支給が停止された。その後、甲が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当することなく65歳に達したとしても、障害厚生年金の受給権は65歳に達した時点では消滅しない。)
(遺族厚生年金を受けることができる遺族のうち、夫については、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持していた者で、55歳以上であることが要件とされており、かつ、60歳に達するまでの期間はその支給が停止されるため、国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有するときも、55歳から遺族厚生年金を受給することはない。)
(遺族厚生年金は、障害等級1級又は2級に該当する程度の障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したときにも、一定の要件を満たすその者の遺族に支給されるが、その支給要件において、その死亡した者について保険料納付要件を満たすかどうかは問わない。)
(遺族厚生年金と当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく遺族基礎年金の受給権も有している妻が、30歳に到達する日前に当該遺族基礎年金の受給権が失権事由により消滅した場合、遺族厚生年金の受給権は当該遺族基礎年金の受給権が消滅した日から5年を経過したときに消滅する。)
選択式
次の文中の の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。
1 厚生年金保険法第100条の9の規定によると、同法に規定する厚生労働大臣の権限(同法第100条の5第1項及び第2項に規定する厚生労働大臣の権限を除く。)は、厚生労働省令(同法第28条の4に規定する厚生労働大臣の権限にあっては、政令)で定めるところにより、 A に委任することができ、 A に委任された権限は、厚生労働省令(同法第28条の4に規定する厚生労働大臣の権限にあっては、政令)で定めるところにより、 B に委任することができるとされている。
2 甲は20歳の誕生日に就職し、厚生年金保険の被保険者の資格を取得したが、40代半ばから物忘れによる仕事でのミスが続き、46歳に達した日に退職をし、その翌日に厚生年金保険の被保険者の資格を喪失した。退職した後、物忘れが悪化し、退職の3か月後に、当該症状について初めて病院で診察を受けたところ、若年性認知症の診断を受けた。その後、当該認知症に起因する障害により、障害認定日に障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあると認定された。これにより、甲は障害年金を受給することができたが、障害等級2級に該当する程度の障害の状態のまま再就職することなく、令和5年4月に52歳で死亡した。甲には、死亡の当時、生計を同一にする50歳の妻(乙)と17歳の未婚の子がおり、乙の前年収入は年額500万円、子の前年収入は0円であった。この事例において、甲が受給していた障害年金と乙が受給できる遺族年金をすべて挙げれば、 C となる。
3 令和X年度の年金額改定に用いる物価変動率がプラス0.2%、名目手取り賃金変動率がマイナス0.2%、マクロ経済スライドによるスライド調整率がマイナス0.3%、前年度までのマクロ経済スライドの未調整分が0%だった場合、令和X年度の既裁定者(令和X年度が68歳到達年度以後である受給権者)の年金額は、前年度から D となる。なお、令和X年度においても、現行の年金額の改定ルールが適用されているものとする。
【前々年度の改正事項】
4 厚生年金保険法第67条第1項の規定によれば、配偶者又は子に対する遺族厚生年金は、その配偶者又は子の所在が E 以上明らかでないときは、遺族厚生年金の受給権を有する子又は配偶者の申請によって、その所在が明らかでなくなったときにさかのぼって、その支給を停止する。
選択肢:
①0.1%の引下げ ②0.2%の引下げ ③0.5%の引下げ
④1か月 ⑤1年 ⑥3か月 ⑦3年
⑧国税庁長官 ⑨財務大臣 ⑩市町村長
⑪障害基礎年金、遺族基礎年金 ⑫障害基礎年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金
⑬障害基礎年金、障害厚生年金、遺族基礎年金
⑭障害基礎年金、障害厚生年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金
⑮据置き ⑯地方厚生局長
⑰地方厚生支局長 ⑱都道府県知事 ⑲日本年金機構理事長 ⑳年金事務所長
選択式解答
A=⑯「地方厚生局長」(第100条の9第1項)
B=⑰「地方厚生支局長」(第100条の9第2項)
C=⑫「障害基礎年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金」(国年法第30条(国年法のパスワード)、第37条、第37条の2。厚年法第58条、第59条)
D=②「0.2%の引下げ」(第43条の5第1項)
E=⑤「1年」(第67条第1項)
選択式の論点とリンク先
〔1〕問1(空欄のA、B)
問1(空欄のA及びB。こちら)は、権限の委任に関する問題です。
年金法における厚生労働大臣の権限の委任等については、こちら(厚年法のパスワード)が全体像となります。
即ち、基本的に次の①~③の3パターンがあります。
①日本年金機構への厚生労働大臣の権限の委任等
➡ 厚生労働大臣の「権限に係る事務の委任」(第100条の4)と、機構への「事務の委託」(第100条の10)があります。
②地方厚生局長等への厚生労働大臣の権限の委任(第100条の9、施行規則第108条)〔これが本問のテーマです。〕
③財務大臣への厚生労働大臣の滞納処分等の権限の委任(第100条の5)
問1の場合は、その設問中に、「権限に係る事務の委任」や「事務の委託」という文言はないことから、上記①の問題ではないとできます。
また、③の財務大臣への滞納処分等の権限の委任(こちら以下)については、「滞納処分等の権限の全部又は一部を自らが行うこととした場合等における滞納処分等その他の処分に係る納付義務者が滞納処分等その他の処分の執行を免れる目的でその財産について隠ぺいしているおそれがあることその他の政令で定める事情がある」といった要件を満たすことが必要であるところ、設問ではそのような文言がないですから、結局、問1は、②「地方厚生局長等への厚生労働大臣の権限の委任」の問題であるということになります(本文は、こちら以下です)。
本問の内容は、市販の1冊本でも基本的には記載されていると思います。
ただ、本問は、条文ベースで出題されているため、条文を読んだことがない場合は、「同法第100条の5第1項及び第2項」とか「同法第28条の4」といった条番号が登場するなど、少々戸惑う可能性があります。
第100条の9を一度でも熟読されていると、このような危険性は少なくなるでしょう。
このように、年金法の場合も、「本則」の基本的な条文については、一度は目を通されていると安心です(附則の条文は、重要なもの(例:支給の繰上げ)を除いて、基本的には読む必要がありません)。
〔2〕問2(空欄のC)
問2(空欄のC。こちら)は、事例問題です。
夫甲が死亡してその妻乙と子がある場合において、甲が受給していた障害年金と妻乙が受給できる遺族年金の種類を挙げるという設問です。
新タイプの出題ですが、要するに、障害年金の種類(障害基礎年金、障害厚生年金)と遺族年金の種類(遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金)を思い出して、それぞれの支給要件を思い浮かべ、事案に当てはめるというものです。
支給要件をぱっと思い出せるかがポイントです(なお、国年法のこちらを参考です)。
難しくはないですが、多少時間はかかります。
ざっと事案を見ますと、夫甲は初診日に厚生年金保険の被保険者ではなくなっており、障害厚生年金は支給されないというあたりがポイントになりそうなことがわかります。
これによって、選択肢のうち、⑪「障害基礎年金、遺族基礎年金」か、⑫「障害基礎年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金」のいずれかが正解であろうと判断でき、遺族厚生年金が支給されるかどうかをチェックすればよいことがわかります。
ここでは、念のため、支給要件の該当性を細かく見ておきます。
(1)夫甲が受給していた障害年金
障害基礎年金及び障害厚生年金の支給要件は、いずれも①「初診日の要件」、②「障害認定日の要件」及び③「保険料納付要件」の3つです(それぞれの具体的内容は異なります)。
夫甲は、厚生年金保険の被保険者の資格の喪失後(=退職の3か月後)に若年性認知症に係る初診日がありますから、障害厚生年金の①初診日の要件(初診日において、厚生年金保険の被保険者であること)には該当しません(障害厚生年金の支給要件は、厚年法のこちらです)。
そこで、障害基礎年金の支給要件の該当性について検討します(ただし、設問では、「甲は障害年金を受給することができた」とありますから、次の②障害基礎年金の初診日の要件が認定できた段階で障害基礎年金を受給していたであろうことは想定できます。従って、以下の障害基礎年金の支給要件該当性については詳細な検討は不要ですが、参考程度に記載しておきます)。
①初診日の要件
障害基礎年金の初診日の要件は、(a)初診日において、国民年金の被保険者であること、又は(b)初診日において、被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であることのいずれかです(国年法のこちら)。
夫甲は、46歳到達日に退職し、その3か月後に初診日があります。
従って、夫甲(60歳未満で国内居住者です)は、この初診日において、国民年金の第1号被保険者(=国内居住の20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しないもの。厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権者等は除きます)であったはずであり、初診日の要件を満たします。
②障害認定日の要件
夫甲は、障害認定日に障害等級2級の障害認定を受けています。
③保険料納付要件
障害基礎年金が支給されるためには、「初診日の前日における保険料納付要件を満たしていること」が必要です(こちら以下)。
順番としては、まず、「直近1年間に滞納期間がないことの特例(直近1年間の特例)」(初診日の属する月の前々月までの1年間に滞納期間がないこと)を検討するのですが、本問では、退職から初診日までの3か月間について、第1号被保険者に係る保険料を納付したかどうか等が不明のため、原則の「3分の2要件」(初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があるときは、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること)を判断します。
夫甲は、20歳の誕生日に厚生年金保険の被保険者の資格を取得し、退職の3か月前の46歳到達日まで同被保険者でしたから、この期間すべてが国民年金の第2号被保険者としての保険料納付済期間であり、3分の2要件はらくらく満たすことになります。
以上より、夫甲は、障害基礎年金の受給権を取得していました。
(2)妻乙が受給できる遺族年金
次に、妻乙が受給できる遺族年金については、遺族基礎年金、遺族厚生年金及び寡婦年金が問題となります(なお、設問が、妻乙が受給できる遺族「給付」とある場合は、その他に死亡一時金の検討も必要です)。
遺族年金の支給要件については、死亡者の要件と遺族の要件を検討します。
ア 遺族基礎年金
まず、遺族基礎年金の死亡者の要件は、次の4つのいずれかです(こちら)。
①国民年金の被保険者が死亡したこと。
②被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものが、死亡したこと。
③老齢基礎年金の受給権者(25年以上(原則)の受給資格期間を満たす者に限ります)が死亡したこと(③と④は長期要件)。
④25年以上(原則)の受給資格期間を満たす者が死亡したこと。
本問では、④「25年(原則)以上の受給資格期間を満たした者が死亡した場合」に該当します(夫甲は、20歳誕生日の月から46歳到達日の翌日(資格喪失日)の前月まで第2号被保険者でしたから、25年以上の保険料納付済期間を有します)。
(なお、甲は、初診日に国民年金の第1号被保険者であり、前述のように、保険料納付要件も満たしますから、①「国民年金の被保険者が死亡した場合」としても処理できます。)
次に、遺族の要件です(こちら)。
次の(ア)~(ウ)のすべての要件を満たすことが必要です。
(ア)国民年金の被保険者等の配偶者又は子であること
(イ)被保険者等の死亡当時その者によって生計を維持していたこと
(ウ)配偶者については、被保険者等の死亡当時、次の子と生計を同じくすること(生計同一)。
子については、18歳の年度末までにあるか又は20歳未満の障害等級に該当する障害状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと
妻乙について、上記(ア)の要件は満たします。
(イ)の生計維持の要件については、「被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額〔年額850万円〕以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のもの等」であることが必要です(こちら以下)。
妻乙は、前年収入が年額500万円でしたから、生計維持の要件を満たします。
(ウ)については、子は、夫甲の死亡当時17歳かつ未婚であり、また、子の前年収入は0円であって、夫甲が妻乙と子のいずれとも生計を同一にしていたのですから、妻乙は夫の死亡当時、当該子と生計を同一にしていたものと解してよいです。
以上より、妻乙は、遺族の要件を満たすため、遺族基礎年金を受給できます。
なお、子も遺族の要件を満たすため、遺族基礎年金の受給権を取得しますが、配偶者(妻乙)が遺族基礎年金の受給権を有するとき、又は生計を同じくするその子の父若しくは母(妻乙)があるときに該当するため、その間、支給停止となります(こちら)。
ただし、本問では、子の遺族年金については問題となっていませんから、不要な論点です。
イ 遺族厚生年金
次に、妻乙の遺族厚生年金の支給要件該当性です。
遺族の要件は、次の(ア)~(エ)のいずれかです(厚年法のこちら)。
①短期要件
(ア)厚生年金保険の被保険者が死亡したこと。
(イ)被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したこと。
※ 以上の2つの場合には、保険料納付要件を満たすことも必要です。
(ウ)障害等級の2級以上に該当する障害状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したこと。
②長期要件
(エ)老齢厚生年金の受給権者(25年(原則。以下同じ)以上の受給資格期間を満たす者に限ります)、又は25年以上の受給資格期間を満たす者が死亡したこと。
本問の場合、前述の通り、夫乙は20歳の誕生日から46歳到達日まで厚生年金保険の被保険者でしたから、この間、国民年金の第2号被保険者としての保険料納付済期間であり、25年以上の受給資格期間を有するため、(エ)の長期要件を満たします。
そして、遺族の要件としては、妻乙は、夫甲の死亡当時夫によって生計を維持したものですから(先の遺族基礎年金における生計維持の要件の判断と同様です)、妻乙には遺族厚生年金が支給されます。
ちなみに、妻乙が受給できる遺族年金について、寡婦年金も問題となります(選択肢中に寡婦年金がないため、検討不要ですが)。
しかし、寡婦年金の支給要件として、「死亡日の前日における第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間等が10年以上である夫が死亡したこと」が必要であるところ、夫甲は、第1号被保険者としての被保険者期間が退職から3か月ほどしかありませんから、寡婦年金の支給要件を満たしません。
以上、問2でした。
〔3〕問3(空欄のD)
問3(空欄のD。こちら)は、年金額の改定に関する出題です。
年金額の改定に関する基本的な理解についてチェックする内容です。
まず、年金額の改定に関する基本的なルールとして、基準年度前(新規裁定者。受給権者が68歳となる年度前)に係る改定では、原則として、名目手取り賃金変動率を基準として改定し、基準年度以後(既裁定者。受給権者が68歳となる年度以後)に係る改定では、原則として、物価変動率を基準として改定するという仕組みがあります。
新規裁定者に係る改定について、原則として「名目手取り賃金変動率」を基準とする趣旨は、新規裁定者については、退職(引退)からほどないため、現役の就労者の場合に近づけて、就労者の手取り賃金の上昇による生活水準の向上の分を年金額に反映させようとしたものと解されます。
他方、68歳到達年度以後の既裁定者については、この既裁定者に対する支給が公的年金制度における給付費の多くを占めることを考慮して、賃金より上昇率が通常は低い物価を基準とした物価スライド制により改定することとしたものと解されます。
上記の原則的ルールの例外の一つとして、令和3年4月1日施行の改正により見直されたものがあります。
即ち、「物価変動率」が「名目手取り賃金変動率」を上回る場合は、「基準年度前」の改定と「基準年度以後」の改定のいずれにおいても、「名目手取り賃金変動率」を基準として改定することに改められました。
これは、給付水準を現役世代の負担能力に見合ったものにして、将来の若年者世代の負担の軽減を図る趣旨です(より詳しくは、国年法のこちら以下(国年法のパスワード)です)。
本問では、この改正事項について出題したものです(つまり、前々年度の改正事項からの出題です)。
本問では、「物価変動率がプラス0.2%、名目手取り賃金変動率がマイナス0.2%」の事案であるため、「物価変動率」が「名目手取り賃金変動率」を上回る場合に該当し、「名目手取り賃金変動率」(マイナス0.2%)を基準として改定します。
以上を前提としたうえで、マクロ経済スライドの適用の有無やキャリーオーバーの制度の適用の有無等を検討します。
この点、マクロ経済スライドについては、名目手取り賃金変動率又は物価変動率がマイナスとなった場合(1未満となった場合)は、同スライドは適用されないことに注意です(マクロ経済スライドは、名目手取り賃金変動率や物価変動率がプラスとなって支給額が増額する場合にその適正化(抑制)を図るという制度です)。
なお、マクロ経済スライドの適用についてはさらに制約があり、名目手取り賃金変動率や物価変動率がプラスとなり、マクロ経済スライドの適用対象となる場合であっても、賃金や物価の伸びが小さく、マクロ経済スライドを適用すると名目額が前年度より下がってしまう場合には、マクロ経済スライドの適用は名目額を下限とする(前年度の年金額を維持する)という制約があります。これを「名目下限措置」といいます。
以上については、前掲の国年法のこちら以下の(2)の下部や、国年法のこちら以下で記載しています。
本問では、名目手取り賃金変動率がマイナスですから、マクロ経済スライドは適用されません(キャリーオーバーの制度の適用もありません)。
従って、年金額の改定は、名目手取り賃金変動率を基準とし、前年度から0.2%の引き下げとなります。
本問は、過去出題されたことがなかった年金額の改定に関する基本的考え方について問う問題でした。
総評
選択式については、厚生年金保険法は、今回の選択式の中では少し厄介な内容でした(平均点は2.5点で、雇用保険法(2.2点)の次に低かったです。前年度の厚年法の選択式の平均点は2.8点でした)。
基準点を確保することは十分可能ではありますが、厚年法(年金法)が苦手な方は、問1の空欄A・Bで悩まれた可能性があり、その後の事例問題の空欄Cや年金額の改定の空欄Dでもつまずかれた危険性はあります。
基礎的な知識や考え方を習得することの重要性が現れた出題であるとはいえます。
択一式については、やや厳し目の出題がありました。
平均点は3.9点(前年度4.6点)であり、国年法の平均点(5.5点)が前年度(4.0点)より大幅に上がっていることと対照的です。
問1(こちら)の「3歳未満の子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例(従前標準報酬月額のみなし措置)」に関する出題は、当サイトで学習していれば、正解肢はすぐに判明するのですが、この正解肢が把握できない場合は、5肢全てが初出の問題であるため、厳しかったです。
問2(こちら)の届出に関する問題についても、通常の学習により正解肢はすぐに判明するのですが、この正解肢がすぐに把握できない場合は、やや細かい知識が含まれている肢のBやDに取り組まなければならないこととなり、時間の浪費につながります。
このように、択一式の場合、1問中でいくつかの肢については細かい知識が要求されるものがありますが、まずは「過去問で頻出の基本的知識とその周辺」について正確に押さえていることが重要です。
令和3年度辺りから、国年法の択一式の難易度が下がり、代わりに厚年法の択一式の難易度がやや上がってきている傾向にあります。
事例系の問題についても、国年法より厚年法で増えてきている様子があります。
ただし、この点は、国年法・厚年法と分断して考えるより、年金二法全体として対策を考えたほうが良いのでしょう。
即ち、国年法・厚年法ともに、まずは基本的事項を理解して支給要件等を思い出せるようにして土台を作り、そのうえで事例問題について多少訓練をしておかれるとよろしいです。
また、今回の問1や問4のような選択式対策として、法本則(及びいくつかの附則)の重要条文については熟読し、数字とキーワードを押さえる必要があります。