【令和6年度版】
〔2〕資格の取得時期
前のページでは、第1号被保険者の(資格取得の)要件について学習しました。
この第1号被保険者の要件に該当した場合に、いつから第1号被保険者の資格を取得するのかが問題となります。即ち、資格の取得時期の問題です(第8条第1号~第3号)。
一 資格の取得事由
まず、「資格の取得時期」の前提として問題となる「資格の取得事由」は、前ページで学習済みの第1号被保険者の要件(資格の取得の要件)の問題です。
従って、第1号被保険者の「資格の取得事由」は、第1号被保険者の要件(国内居住の20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しないもの(ただし、厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権者その他厚生労働省令で定める適用除外者は除く)から導きます(第7条第1項第1号)。
上記のアンダーライン部分が資格の取得に関わってくることになります。詳細は、下記の表以下の部分で説明します。
二 資格の取得時期
◆「資格の取得時期」は、当日取得(その日取得)です。
※ 被保険者(強制加入被保険者)の資格の取得時期が当日取得となるという点は、国民年金の他、厚生年金保険、健康保険等(社労士試験の対象科目のその他の社会保険法)において、基本的に共通します。
以上の「資格の取得事由」と「資格の取得時期」については、具体的には、次の図の通りです(第8条第1号~第3号)。
【令和2年度試験 改正事項】
※ 令和2年4月1日施行の改正により、次の表の最後の欄(国民年金法の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の2〕で定める者でなくなったこと)が追加されました。
【条文】
※ 第1号被保険者の資格取得については、次の第8条の第1号~第3号が規定しています(次の条文は読みにくいですが、詳細はこれからの説明で判明します。)
※ なお、本条は、令和2年4月1日施行の改正(【令和元.5.22法律第9号】第15条)により改められています。
〔即ち、同条第3号中、従来、「できる者」とあった下に、「その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者」が追加されました。〕
第8条(資格取得の時期) 前条〔=強制加入被保険者〕の規定による被保険者は、同条第1項第2号及び第3号のいずれにも該当しない者〔=第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しない者〕については第1号から第3号までのいずれかに該当するに至つた日に、20歳未満の者又は60歳以上の者については第4号に該当するに至つた日に、その他の者については同号又は第5号のいずれかに該当するに至つた日に、それぞれ被保険者の資格を取得する。
一 20歳に達したとき。
二 日本国内に住所を有するに至つたとき。
三 厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の2〕で定める者でなくなつたとき。
四 厚生年金保険の被保険者の資格を取得したとき。
五 被扶養配偶者となつたとき。 |
以下、第1号被保険者の資格の取得時期についての注意点を挙げます。
(一)20歳に達した日
◆20歳未満の者は、20歳に達した日に第1号被保険者の資格を取得します(第8条柱書、同条第1号)。
この「20歳に達した日」とは、「20歳の誕生日の前日」のことです。
以下、この理屈を少し見ておきます(すでに労基法の「年少者」の個所(労基法のこちら(労基法のパスワード))で詳述しています)。
年齢計算については、年齢計算に関する法律によって、起算点(起算日)は、例外的に初日を算入し出生日から起算することとなっています(年齢計算法第1項(労基法のパスワード)。誕生は、通常、1日の途中ですが、当該誕生日から人である以上、その日から起算することとした趣旨です)。
そして、年によって期間を定めた場合は、期間は暦に従って計算し(年齢計算法第2項、民法第143条第1項)、満了点(満了日)は、起算日に応答する日の前日の終了(24時)となります(年齢計算法第2項、民法第143条第2項)。
そこで、例えば、4月1日生まれの者が満20歳に達する日とは、一応、20年後の3月31日(24時)となります。
ただ、このように満了点が3月31日の24時となるため、具体的に満20歳に達する日を3月31日と解したらよいのか、それとも、「3月31日の24時=4月1日の0時」として4月1日と解したらよいのかは、問題となります。
この点、次の判例が解決しました。
・【静岡県教育委員会事件=最判昭和54.4.19】
(事案)
勧奨退職の年齢が「60歳以下の者」と定められている場合において、明治45年4月1日生れであり、昭和48年3月31日に退職した者が右勧奨退職の対象になるかが争われた事案。
(判旨)
「明治45年4月1日生れの者が満60才に達するのは、右の出生日を起算日とし、60年目のこれに応当する日の前日の終了時点である昭和47年3月31日午後12時であるところ(年令計算に関する法律・民法第143条第2項)、日を単位とする計算の場合には、右単位の始点から終了点までを1日と考えるべきであるから、右終了時点を含む昭和47年3月31日が右の者の満60才に達する日と解することができる。」(要旨)とした原審(【東京高判昭和53.1.30】)の判断がそのまま是認されました。
※ つまり、「満60歳に達する日」として、「日を単位とする計算」となっている場合には、「1日」を単位と考えて、当該1日の始点から終了点までを満了点と取り扱うという考え方といえます。
従って、「満60歳に達する日」とは、60歳の誕生日の前日丸1日(前日の0時から24時まで)ということになり、この前日の開始時にすでに60歳に達すると考えることになります。
本件の20歳到達の場合も、第8条柱書は、「第1号〔=20歳に達したとき〕から第3号までのいずれかに該当するに至った日」に資格を取得する旨を規定していますから、「20歳に達した日」が問題となっており、20歳の誕生日の前日の開始時に20歳に達すると解することになります。
なお、「達する日」という用語と「達した日」という用語は使い分けることがあり、「達した日」とは「達する日」の翌日をいうと解されることがあります。
しかし、例えば、労基法の年少者の第56条(労基法のパスワード)の年齢計算のケースなどでは、そのように細かくは考えていないようであり、例えば、「満60歳に達した日」も「満60歳に達する日」と同日と解されることがあります(労基法第56条第1項では、「使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない。」と規定されていますが、この「満15歳に達した日」とは、上記で説明しました「満15歳に達する日」と同義と解されています(労基法のこちら以下を参考)。
対して、上記の判例(原審)は、「達する日」としており、この判例の立場の方が正確だと思われます。
ちなみに、年齢計算の方法は、法律ごとに考える必要もあり、難しいです(例えば、社労士試験の学習範囲では、後期高齢者医療制度における後期高齢者医療の被保険者となる75歳到達(高齢者医療確保法第52条第1号(社会一般のパスワード))の解釈が問題となります。
ここでは、「誕生時の前日」ではなく、「誕生日当日」を75歳到達と取り扱っています(詳細は、社会一般のこちら)。
さしあたり、年齢が加算されるのは「誕生日の前日」であるというのが原則と考えておけばよいです。
なお、期間計算に関する民法等の条文については、労基法のこちらです。
以上で、期間計算に関する問題は終わります。第1号被保険者の資格の取得(時期)についての注意点として、次に、種別の変更の問題をざっと見ておきます。
(二)種別の変更
第1号被保険者の要件として、「第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しないもの」であることが必要であり、第2号被保険者(又は第3号被保険者)が第1号被保険者となったとき(例えば、60歳未満のサラリーマンが会社を退職して自営業者となったケース)は、一見、第2号被保険者(又は第3号被保険者)の資格の喪失と第1号被保険者の資格の取得が生じるともなります。
実態はその通りなのですが、しかし、国民年金法の手続上は、強制加入被保険者間の区別(種別)の変更は、「種別の変更」(第11条の2)として取り扱われており、「資格の喪失」及び「資格の取得」とは取り扱われていないことに注意です。
即ち、上記のケースでは、第2号被保険者(又は第3号被保険者)の資格を喪失して第1号被保険者の資格を取得すると取り扱われるのではなく、第2号被保険者(又は第3号被保険者)から第1号被保険者への「種別の変更」として取り扱われます。
【過去問 令和3年問2C(こちら)】参考
この「被保険者の種別」とは、「第1号被保険者、第2号被保険者又は第3号被保険者のいずれであるかの区別」をいいます(第11条の2)。
種別の変更の場合には、資格の喪失や資格の取得は伴わず(従って、資格の喪失の届出や資格の取得の届出は行いません)、原則として、種別の変更の届出を行います(種別変更届の提出)。
種別の変更については、のちに種別変更の届出の個所(こちら)で詳しく見ます。
なお、強制加入被保険者と任意加入被保険者との間の変更の場合は、「種別の変更」ではなく、「資格の喪失」と「資格の取得」として取り扱われます。
これは、強制加入被保険者と任意加入被保険者の効果に違いがあること(例えば、任意加入被保険者については、保険料の免除は認められませんし、基金に加入できない場合があります)等から、両者を手続上も峻別することにより、法律関係の安定化・明確化を図ろうとしたものといえます。
(三)厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者でなくなったとき
例えば、国会議員互助年金法を廃止する法律(互助年金廃止法)附則に規定する普通退職年金、及び旧国会議員互助年金法の普通退職年金において、当該普通退職年金の受給権者が3年を超える懲役に処せられたときは、当該年金の受給権は消滅します(互助年金廃止法附則第2条、旧国会議員互助年金法第2条第1項、第14条第1項)。
この場合は、「厚生年金保険法に基づく老齢を支給事由とする年金たる保険給付『その他の老齢又は退職を支給事由とする給付』であって政令〔=施行令第3条〕で定めるもの(以下「厚生年金保険法に基づく老齢給付等」という。)を受けることができる者」(第7条第1項第1号)に該当しなくなるため、第1号被保険者の資格を取得します。
かなり特殊なケースですので、ほどほどで結構です。
(四)厚生労働省令で定める適用除外者でなくなったとき
【令和2年度試験 改正事項】
国民年金法の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の2〕で定める者でなくなったときも、被保険者の資格を取得します(第8条第3号)。
この厚生労働省令で定める適用除外者とは、「医療滞在ビザにより国内に滞在する外国人」及び「観光等(ロングステイビザ)による短期滞在の外国人」のことです(施行規則第1条の2。前頁のこちら)。
そこで、例えば、これらの外国人が日本国籍を取得し、適用除外者でなくなったような場合は、国内居住等のその他の要件も満たしていれば、その日に第1号被保険者の資格を取得することになるのでしょう。
以上で、「資格の取得時期」の問題を終わります。
〔3〕効果
第1号被保険者の資格を取得した場合の効果(広義)としては、大まかには、以後、第1号被保険者としての被保険者期間が認められるということです。
被保険者期間の計算方法については、後述しますが(こちら以下)、月を単位とし、被保険者の資格取得月から、資格喪失月の前月までを被保険者期間とします(複数の被保険者期間(各強制加入被保険者や任意加入被保険者を含めた複数の被保険者に係る被保険者期間)を合算できます)(第11条)。
この第1号被保険者としての被保険者期間のうち保険料を納付した期間は、保険料納付済期間にあたり、国民年金の給付の支給要件や支給額の基礎となります(第5条第1項)。
また、第1号被保険者としての被保険者期間の計算の基礎となる各月について、国民年金の保険料が徴収されます(第87条第2項)。
例えば、3月31日に20歳に達した場合は、その日に第1号被保険者の資格を取得し、被保険者期間は被保険者の資格を取得した月である3月から開始し、保険料も被保険者期間の計算の基礎となる各月について徴収されるため、3月から徴収されます。
もっとも、以上の被保険者としての権利義務を実際に行使し得るのは、資格取得の届出等が行われた後ということになります。
しかし、資格を取得すれば、届出等の有無にはかかわらず、被保険者としての権利義務は発生します。
以上についての詳細は、各該当個所で学習しますが、次に、重要な概念である保険料納付済期間の体系のみを示しておきます。
【令和元年度試験 改正事項】
※ 平成31年4月1日施行の改正により、産前産後の保険料の免除に係る期間(産前産後保険料免除期間)が保険料納付済期間に追加されています。下記の図の 1 の〔1〕の部分です。
これらを含む細かい説明については、老齢基礎年金の支給要件の個所(こちら以下)等で学習します。
※ なお、以下では、「第1号被保険者としての被保険者期間」を「第1号被保険者の被保険者期間」とか「第1号被保険者期間」と表現することがあります。第2号被保険者及び第3号被保険者についても、同様です。
以上で、第1号被保険者の「発生(資格の取得)」に関する問題を終わります。
§2 変更
第1号被保険者の「変更」に関する問題としては、種別の変更や氏名、住所の変更等といった届出に関連するものがあり、詳細は、届出の個所で学習します。
なお、種別の変更とは、すでに少し触れましたが、第1号、第2号、第3号被保険者という強制加入被保険者の間における資格・区別の変更のことです。
例えば、第1号から第2号に変わった場合、種別の変更となり、種別の変更の届出を行うのであり、第1号の資格を喪失して第2号の資格を取得するとは構成されていません。
なお、以下の第2号、第3号被保険者についても、以上については同様ですので、そこでは変更に関する問題についての言及は省略します。
次のページでは、第1号被保険者の「消滅(資格の喪失)」に関する問題を学習します。