【令和6年度版】
第2章 使用者
ここでは、労基法上の使用者について見ます。
§1 使用者の要件
使用者については、次の第10条が定義しています。即ち、使用者の要件は、次の通りです。
【条文】
第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。 |
【選択式 平成21年度 A=「すべての者」(こちら)】
○趣旨
第10条は、労働基準法の規制(罰則の適用や行政上の監督等)を受ける責任主体を定めたものです。
※【ゴロ合わせ】
・「使用者は、自営はダメ」
→「使用者は、自(=「事」業主)、営(=経「営」担当者)は、ダメ(=使用者の「ため」に行為をする者)」
以下、詳しく見ます。
一 事業主
二 事業の経営担当者
事業の経営担当者とは、事業経営一般について権限と責任を有する者をいいます。
例えば、法人の代表者や支配人等です。
三 事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
労基法が規制する事項について実質的な権限を有している者をいいます。
即ち、人事部長、総務課長など、労働者に関する事項(人事、給与、労務管理等)について、実質的な権限を有していることが必要です。
【過去問 平成24年問4D(こちら)】
例えば、時間外労働を命じる権限を有する課長が労基法違反となる残業を部下に命じた場合には、この課長自身は労基法上の労働者(第9条)ですが、第10条の「事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」として使用者にも該当するため、労基法違反の責任を問われることとなります。
即ち、労基法上は、同一人物が労働者にあたる場面と使用者にあたる場面があることとなります(労基法は、その実効性を確保するため、使用者の概念を広げたのです)。
【過去問 令和2年問1B(こちら)】/ 【令和5年問4E(こちら)】
なお、この三や上記二(事業の経営担当者)に該当する者が労基法違反として処罰される場合は、上記一の事業主(例えば、法人)についても、両罰規定(第121条(労基法のパスワード))により原則として罰金刑が科されることとなります(詳細は、罰則の個所(こちら)で学習します)。
若干、通達を見ます。
・【昭和22.9.13基発第17号】
「『使用者』とは本法〔=労基法〕各条の義務についての履行の責任者をいい、その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによるが、かかる権限が与えられておらず、たんに上司の命令の伝達者に過ぎない場合は使用者とはみなされない」
【令和2年問1C(こちら)】
・【昭和62.3.26基発第169号】
「法令の規定により事業主等に申請等が義務づけられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかつた場合には、当該社会保険労務士は、労働基準法第10条にいう『使用者』及び各法令の両罰規定にいう『代理人、使用人その他の従業者』に該当するものであるので、当該社会保険労務士を当該申請等の義務違反の行為者として、各法令の罰則規定及び両罰規定に基づきその責任を問い得るものであること。
【過去問 平成15年問1D(こちら)】/【令和4年問4E(こちら)】
また、この場合、事業主等に対しては、事業主等が社会保険労務士に必要な情報を与える等申請等をし得る条件を整備していれば、通常は、必要な注意義務を尽くしているものとして免責されるものと考えられるが、そのように必要な注意義務を尽くしたものと認められない場合には、当該両罰規定にもとづき事業主等の責任をも問い得るものであること。」
※ 上記のケースの社労士は、上記三(こちら)の「事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」としての使用者にあたることになります。
なお、両罰規定とは、違反行為をした者が事業主でない場合に、利益の帰属者である事業主にも責任を負わせることによって、労基法の実効性を強化したものですが(第121条)、詳しくはのちにこちらで学習します。
○過去問:
・【選択式 平成21年度】
設問:
労働基準法において「使用者」とは、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をする A 」をいう。
選択肢(本問に関連するもののみ):
④監督若しくは管理の地位にある者 ⑪指揮監督者 ⑮すべての者 ⑳利益代表者
解答:
A=⑮「すべての者」(第10条)
※ なお、選択肢の④のいわゆる「管理監督者」は「労働時間、休憩及び休日」に関する規定の適用が除外される適用除外者であり(第41条)、のちにこちら以下で学習します。
また、⑳の「利益代表者」は、「使用者の利益を代表する者」として、労働組合法の労働組合の(消極的)要件(労働組合法第2条ただし書第1号(労働一般のパスワード)。こちら)などで登場します。
・【平成24年問4D】
設問:
労働基準法に定める「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をする管理監督者以上の者をいう。
解答:
誤りです。
「事業主のために行為をする管理監督者以上の者」ではなく、「事業主のために行為をするすべての者」が正しいです(第10条)。
労基法の使用者について、「管理監督者以上の者」という制限はありません。
ちなみに、労基法上、「管理監督者(監督又は管理の地位にある者)」は、のちに第41条第2号において登場します(こちら以下)。
・【平成15年問1D】
設問:
労働基準法及びそれに基づく命令の規定により事業主に申請等が義務づけられている場合において、当該申請等について事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、その社会保険労務士は、同法第10条にいう「使用者」に該当するものであるので、その社会保険労務士を、当該申請等の義務違反の行為者として、同法の罰則規定に基づきその責任を問うことができる。
解答:
正しいです。
前掲の通達(【昭和62.3.26基発第169号】。こちら)の通りです。
・【平成26年問1E】
設問:
労働基準法にいう「使用者」とはその使用する労働者に対して賃金を支払う者をいうと定義されている。
解答:
誤りです。
第10条は、使用者について、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」と定義しており、賃金を支払う者に限定していません。
すぐあとで見ますように、労働契約法の使用者は、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」に限定されています(労働契約法第2条第2項)。
・【令和2年問1A】
設問:
「事業主」とは、その事業の経営の経営主体をいい、個人企業にあってはその企業主個人、株式会社の場合は、その代表取締役をいう。
解答:
誤りです。
「株式会社の場合は、その代表取締役をいう」のではありません。
事業主とは、会社その他の法人の場合はその法人そのものをいいます。
代表取締役は、第10条の「事業の経営担当者」にあたります。
・【令和2年問1B】
設問:
事業における業務を行うための体制が、課及びその下部組織としての係で構成され、各組織の管理者として課長及び係長が配置されている場合、組織系列において係長は課長の配下になることから、係長に与えられている責任と権限の有無にかかわらず、係長が「使用者」になることはない。
解答:
誤りです。
使用者とは、労働基準法各条の義務についての履行の責任者をいい、その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、同法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによります(【昭和22.9.13基発第17号(こちら)参考)。
本問では、係長に与えられている責任と権限の有無によっては、当該者が労基法が規制する事項について実質的な権限を有し、使用者(「事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」)に該当することがあり得ます。
よって、本問は、「係長に与えられている責任と権限の有無にかかわらず、係長が『使用者』になることはない」としている点が誤りです。
・【令和2年問1C】
設問:
事業における業務を行うための体制としていくつかの課が設置され、課が所掌する日常業務の大半が課長権限で行われていれば、課長がたまたま事業主等の上位者から権限外の事項について命令を受けて単にその命令を下に伝達しただけであっても、その伝達は課長が使用者として行ったこととされる。
解答:
誤りです。
【昭和22.9.13基発第17号(こちら)】によれば、使用者かどうかの判断は、労基法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによりますが、かかる権限が与えられておらず、たんに上司の命令の伝達者に過ぎない場合は使用者とはみなされないとされます。
本問の課長は、その「権限外の事項について命令を受けて単にその命令を下に伝達しただけ」ですから、当該伝達は使用者として行ったものとは認められません。
・【令和4年問4E】
設問:
法令の規定により事業主等に申請等が義務付けられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、当該社会保険労務士は、労働基準法第10条にいう「使用者」に該当するので、当該申請等の義務違反の行為者として労働基準法の罰則規定に基づいてその責任を問われうる。
解答:
正しいです(【昭和62.3.26基発第169号】)。
本文のこちらです。前掲の【平成15年問1D(こちら)】と類問です。
・【令和5年問4E】
設問:
労働基準法第10条にいう「使用者」は、企業内で比較的地位の高い者として一律に決まるものであるから、同法第9条にいう「労働者」に該当する者が、同時に同法第10条にいう「使用者」に該当することはない。
解答:
誤りです。
第10条の使用者は、「企業内で比較的地位の高い者として一律に決まるもの」ではなく、例えば、「事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」とは、労基法が規制する事項について実質的な権限を有している者をいいます(【昭和22.9.13基発第17号】)。
従って、労働者に該当する者であっても、同時に労働者に関する事項(人事、給与、労務管理等)について、実質的な権限を有しているなら、使用者に該当することがあります。【令和2年問1B(こちら)】が類問です。
本文は、こちらです。
§2 各法の使用者等の横断整理
ここで、各法の使用者等についてまとめておきます。
初学者の方は、各法の使用者等の名称や内容が必ずしも同一ではないことをざっと見て頂ければ足ります(各法の該当個所を勉強している際に、労基法の使用者と比較するようにして下さい)。
受験経験者の方は、確実に理解・記憶をしているかのチェックをお願いします(ただし、労働組合法の使用者については、一般のテキストではあまり触れられていない個所であり、労働一般の労組法(こちら以下(労働一般のパスワード))で詳しく学習しますので、ここでは素通りで結構です)。
※ なお、労働契約法(以下、「労契法」ということがあります)の使用者について、触れておきます。
労働契約法上の「使用者」とは、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」とされ(労働契約法第2条第2項)、同法第6条が、労働契約は「労働者及び使用者が合意することによって成立する」としていますから、労契法上の「使用者」は労働契約の一方当事者であることが予定されています。
従って、同法の「使用者」とは事業の経営主体のことであり、上記の労基法の使用者の一(こちら)の「事業主」のことをいいます。
これは、労働契約法は、労働契約の成立、変更(展開)、終了に関する基本的ルールを定めることを目的とした法律であり、労働契約関係にある当事者間の法律関係を規律するものであることを考慮したものといえます。
対して、労基法の場合は、労働者の保護を強化する見地から、労基法が規制する事項について実質的な権限を有している者も使用者として対象に含めるという考え方によっています。
労基法上の使用者と労契法上の使用者との違いについては、次の通り、平成29年度の労働一般の択一式で出題されています。
・【過去問 労働一般 平成29年問1A】
設問:
労働契約法第2条第2項の「使用者」とは、「労働者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」をいうが、これは、労働基準法第10条の「使用者」と同義である。
解答:
誤りです。
労契法上の使用者は、労基法上の使用者のうちの「事業主」のことです(労働契約法第2条第2項、第6条参考)。
労基法上の使用者は、「事業主」の他、「事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」を含みますので(第10条)、労契法上の使用者より広い概念です。
§3 使用者が問題となるケース = 労働者派遣や出向等
使用者に関連する問題として、労働者派遣や出向について整理しておきます。
これらの問題は、労働者派遣法の知識が必要になるなど、かなり手ごわいです。
初学者の方は、徐々に理解し記憶していけば足り、最初の段階では流し読みして下さい。
〔1〕労働者派遣の場合の使用者
一 意義
労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、その雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してする者を含まない」ものです(労働者派遣法第2条第1号(労働一般のパスワード))。
即ち、労働者派遣では、派遣元事業主と派遣労働者との間に労働契約関係(雇用契約関係)があり、派遣元事業主と派遣先事業主との間に労働者派遣契約が締結され、この労働者派遣契約に基づき派遣元事業主が派遣先事業主に労働者を派遣し、右派遣契約に基づき派遣先事業主は派遣労働者を指揮命令する権限を有することとなります(派遣先事業主と派遣労働者との間には、労働契約関係は存在しません)。
なお、派遣法第2条第1号の後段の「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してする者を含まない」とは、後述の在籍出向を労働者派遣から除外するという意味です。
労働者派遣の意義等の詳細については、労働一般の派遣法のこちら以下で学習しますが、さしあたりはリンク先は読まないで結構です。以下を読み進めて下さい。
二 労働者派遣における使用者の責任関係
労働者派遣における使用者の問題(派遣元事業主と派遣先事業主のいずれが、労基法の使用者として派遣労働者に係る責任を負担するのか)については、次のように考えられています。
即ち、労働基準法は、本来、労働者と労働契約関係にある事業に適用されるものと解されるため、派遣労働者に関しては、 派遣労働者と労働契約関係にある派遣元事業主(以下、「派遣元」ということがあります)が責任を負い、派遣労働者と労働契約関係にない派遣先事業主(以下、「派遣先」ということがあります)は責任を負わないのが原則となります。
しかし、派遣労働者については、これと労働契約関係にない派遣先が業務遂行上の指揮命令を行うという特殊な労働関係にありますので、労働者派遣法において、派遣労働者の法定労働条件を確保する等の観点から、労働基準法等の適用について特例が定められています(派遣法第44条~第47条の2。条文等は、労働一般の派遣法のこちら以下で掲載していますが、さしあたりはリンク先は読まないで結構です)。
【選択式 平成15年度 A~C(こちら)】/【令和2年問1E(こちら)】
この特例における考え方は、基本的には、派遣労働者と労働契約関係にある派遣元が労基法上の使用者としての責任を負うものであるという原則を維持しつつ、労働者派遣の実態から派遣元に責任を問うことの困難な事項、派遣労働者の保護の実効を期するうえから派遣先に責任を負わせることが適切な事項については、派遣先が責任を負うとするものです。
この特例における派遣元と派遣先の労基法上の責任関係について大枠を見ますと、次のようになります。
(一)労働時間、休憩、休日等については、派遣先が責任を負います(派遣法第44条第2項)。
※ これらの労働条件については、実際に現場で指揮命令を行う派遣先に法定労働条件を遵守させる必要があること、かかる現場における日常的な細部の事項についてまで派遣元に責任を負わせるのは酷といえることが考慮されているものと解されます。
※ ただし、労使協定の締結等(36協定等)や就業規則の締結・届出は、派遣元の責任とされていることに、要注意です。
つまり、労働時間等の基本的な枠組みの設定等は、労働契約関係にある派遣元に責任を負わせています。
例えば、派遣元の事業主が36協定(36協定とは、時間外労働、休日労働を例外的に適法に行わせるための労使間の協定です)を締結し、届け出れば、派遣先の事業主は当該協定の範囲内で法定労働時間を超えて労働させられることとなります。
(二)その他の労働契約、賃金、年次有給休暇、就業規則、災害補償等については、原則通り、派遣元が責任を負います(派遣法第44条に特段の規定がない事項については、原則通り、派遣元が責任を負います)。
(三)ただし、労働者の人格的利益に深くかかわるような事項や労基法の実効性を確保するため重要な事項等については、派遣元と派遣先の双方に責任が負わされています。
例えば、次のような事項です(派遣法第44条第1項。一部、解釈によります)。
・均等待遇(第3条) 【選択式 平成24年度 A(こちら)】
・強制労働の禁止(第5条)
・徒弟の弊害排除(第69条)
・申告を理由とする不利益取扱いの禁止(第104条)
・行政庁への報告、出頭命令(第104条の2)
・法令の要旨の周知義務(第106条)
・記録の保存義務(第109条)
なお、この(三)の場合、派遣元と派遣先の双方が責任を負うのですが、これは、それぞれが派遣中の労働者について権限を有する事項について別個に負うものであり、同一の行為について双方が連帯して責任を負うということではありません(【平成11.3.31基発第168号】参考)。
※【ポイント】
以上については、例外である(一)(派遣先が責任を負う場合)と(三)(双方が責任を負う場合)を覚え、他は原則の(二)(派遣元が責任を負う場合)になると押さえればよいことになります(従って、原則の(二)に当たるケースは、細部を覚える必要はありません)。
本個所は出題頻度が多いため、反復して頭に記憶を定着させておくことが必要です。
以下、労働者派遣における派遣元・派遣先の責任分担について一覧表を掲載しておきます
(この一覧表においては、過去問の出題歴を掲載していませんが、多数の出題があります。各個所にて過去問をご紹介します)。
※ なお、企画業務型裁量労働制(こちら)や高度プロフェッショナル制度(こちら)は、派遣労働者については適用できないとされています(詳細は、前掲のリンク先で見ます)。
※ 以下、関連する通達を見ます。試験対策上は、これらもチェックしておく必要があります。
(1)労働者派遣法第3章第4節労働基準法等の適用に関する特例等〔=これまで検討してきた問題です。派遣法44条(労働一般のパスワード)等〕は、労働者派遣という就業形態〔=【選択式 平成17年度 C】で「就業形態」が出題〕に着目して、労働基準法等に関する特例を定めるものであり、業として行われる労働者派遣だけでなく、業として行われるのでない労働者派遣についても適用されるものとされます。
また、労働者派遣法に基づき労働者派遣事業の実施につき許可を受けた派遣元事業主が行う労働者派遣に限らず、さらに、同法に定める労働者派遣の適用対象業務に関する労働者派遣に限られないとされます(【平成11.3.31基発第168号】参考)。
※ つまり、当該労働者派遣が派遣法に違反する違法なものであっても、労働者派遣の形態である場合には、派遣法44条等の特例等はなお適用されるということです(条文上、派遣法に違反するかどうかは問題としていないこと、また、違反する場合には特例等が適用されないとしては、派遣労働者の保護に欠けることを考慮したものと解されます)。
(2)労働者派遣法第44条の労働基準法の適用に関する特例等が適用されるのは、次のいずれにも該当する労働者派遣です(前掲の【平成11.3.11基発第168号】参考)。
(ア)派遣される者が事業又は事務所の事業主に雇用され、かつ、労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業に使用される者及び家事使用人を除きます)であること。
(イ)派遣先が事業又は事務所の事業主であること。
(3)上記特例等に係る「事業又は事務所」には、業として継続的に行われるものであれば、労働基準法の適用事業のほか、第116条第2項により労働基準法を適用しないこととされている同居の親族のみを使用している事業を含みます。
したがって、同居の親族以外の労働者を使用すれば同法の適用事業となる事業が、派遣労働者の派遣を受けた場合は、当該労働者に関しては同法の適用事業となります(同上通達第168号)。
(4)なお、国、地方公共団体又は行政執行法人が労働者派遣を受けた場合にも、特例等の適用があり、当該国等に対して特例等による労働基準法の適用があります(同上通達)。
【過去問 平成18年問1E(こちら)】
(5)派遣中の労働者に関して、派遣先が義務を負うことになる規定のうち、事業の種類によって適用される基準が異なる規定については、派遣先の事業に適用される基準を適用します(【昭和61.6.6基発第333号】参考)。
※ 例えば、常時10人未満の労働者を使用する商業の事業に労働者を派遣した場合、法定労働時間の遵守義務は(上述の通り)派遣先が負いますが、この場合、派遣先には特例事業として週44時間の法定労働時間が適用されるため(第40条、施行規則第25条の2第1項。のちにこちらで学習します)、本件派遣労働者の法定労働時間も週44時間の規制に緩和されます。
※ なお、「派遣労働者に係る労働条件及び安全衛生の確保について」の【平成27.9.30基発0930第5号】(【平成21年3月31日基発第0331010号】を改正したもの)は、労基法の最後の追補のページ(こちら)で見ます。労基法全体の知識が必要となりますので、労基法の学習が終わってからお読み下さい。
※ また、先に触れましたが、労働基準法の適用に関する特例を定めた派遣法44条の条文等については、派遣法のテキストの中(派遣法のこちら以下)で掲載しています。
しかし、これについても、初学者の方は後回しにして下さい。
以下、過去問を見ます。
〇過去問:
・【選択式 平成15年度】
設問:
労働基準法及び労働安全衛生法(以下「労働基準法等」という。)は、労働者と A 関係にある事業に適用されるので、派遣労働者に関しては、派遣労働者と A 関係にある B が責任を負い、これと A 関係にない C は責任を負わないことになる。しかし、派遣労働者に関しては、これと A 関係にない C が業務遂行上の指揮命令を行うという特殊な労働関係にあるので、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律による労働者派遣事業の制度化に合わせて、派遣労働者の法定労働条件を確保する観点から、同法において、労働基準法等の適用について必要な特例措置が設けられた。
※ なお、いわゆる労働者派遣法は、以前は、設問の通り、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の『就業条件の整備等』に関する法律」という名称でしたが、平成24年10月1日施行の改正により、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の『保護等』に関する法律」という名称に改められました(以下の古い過去問では、派遣法のタイトルを修正して記載します)。
解答:
A=「労働契約」(【平成11.3.31基発第168号】。以下の本問において同様)
B=「派遣元事業主」
C=「派遣先事業主」
・【選択式 平成24年度】
設問:
派遣中の労働者の派遣就業に関しては、労働者派遣法第44条第1項に掲げられた労働基準法第3条等の規定の適用については、派遣中の労働者は A にある派遣元の事業に加えて、 A にない派遣先の事業とも A にあるものといなされる。
解答:
A=「労働契約関係」(派遣法第44条第1項参考。【平成20.7.1基発第0701001号】)
※ 本問は、派遣元と派遣先の双方が責任が負う場合の問題です(こちら)。
設問中の第3条は、均等待遇に関する規定です(のちにこちら以下で学習します)。
・【平成18年問1E(一部補正)】
設問:
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)第44条は、労働基準法の適用に関する特例が定められており、派遣先が国又は地方公共団体である場合においても、当該国又は地方公共団体に派遣されている労働者に関しては、当該特例の適用があり、したがって当該国又は地方公共団体に対して当該特例による労働基準法の適用がある。
解答:
正しいです。
本文(こちら)でご紹介しました通達(【平成11.3.11基発第168号】)の通りです。
・【令和2年問1E】
設問:
派遣労働者が派遣先の指揮命令を受けて労働する場合、その派遣中の労働に関する派遣労働者の使用者は、当該派遣労働者を送り出した派遣元の管理責任者であって、当該派遣先における指揮命令権者は使用者にはならない。
解答:
本問は、派遣労働者については、派遣先は常に使用者とならないとするものですが、誤りです。
労働者派遣について、原則としては、派遣労働者と労働契約関係にある派遣元が労基法上の使用者としての責任を負いますが、派遣労働者の法定労働条件を確保する等の観点から、労働者派遣法第44条(労働一般のパスワード)において、労働基準法等の適用について特例が定められています。
同条においては、例えば、労働時間、休憩、休日等については、派遣先が労基法上の責任を負うこととなっています(同法第44条第2項)。
以上で、労働者派遣については終わり、次に出向の場合の使用者について学習します。
〔2〕出向の場合の使用者
出向とは、出向先において新たな労働契約関係が成立する就労形態であり、在籍出向(在籍型出向ともいいます)と転籍(移籍出向ともいいます)に分類されます。
一 在籍出向
(一)在籍出向は、一般に、出向労働者が出向元及び出向先の双方との間に労働契約関係があるものをいいます。
即ち、在籍出向は、労働者派遣との区別の見地より、出向先と労働者との間にも労働契約関係が存在するものをいうものと解されています。
(二)在籍出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係がありますので、出向元及び出向先に対して、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用があるとされます。
即ち、在籍出向にあたっては、出向先での労働条件、出向元における身分の取扱い等は、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められますが、それによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負うものとされます(【昭和61.6.6基発第333号】参考)。
【過去問 平成14年問2A(こちら)】/【平成19年問1A(こちら)】
三者間の取決めが不明確なような場合は、当該事項について実質的権限と責任を有している者がいずれかが重要になるでしょう。
例えば、出向先が出向労働者の労働時間の管理を行っている場合は、通常、36協定は出向先が締結することが必要となるでしょう。
二 転籍(移籍出向)
(一)転籍(移籍(型)出向ともいいます)は、出向労働者が出向先との間でのみ労働契約関係が存在する形態であり、出向元との間の労働契約関係は終了するものです。
(二)従って、転籍における出向労働者は、出向先との間でのみ労働契約関係がありますので、出向先についてのみ労働基準法等の適用があります(前掲の【昭和61.6.6基発第333号】参考)。
※ なお、出向についての法律関係の詳細は、「労働契約の変更」の個所(こちら以下)で学習します。
〇過去問:
・【平成14年問2A】
設問:
いわゆる在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、原則として出向元及び出向先に対してはそれぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用があるが、そのうち労働契約関係の基本である賃金に関する事項については出向元のみが使用者となり、それ以外の事項については、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負うものと解されている。
解答:
誤りです。
「賃金に関する事項」についても、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて責任を負うのであり、出向元のみが使用者となるのではありません(【昭和61.6.6基発第333号】)。
・【平成19年問1A】
設問:
いわゆる在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法における使用者としての責任を負うものである。
解答:
正しいです(【昭和61.6.6基発第333号】)。前問と類問です。
最後に、労働者派遣と出向に係る各法の適用関係の横断整理をしておきます。初学者の方は、スルーして下さい。
以上で、使用者を終わります。これにて、「主体」を終わります。
次のページからは、「労働条件の決定(規制)システム」に入ります。